パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

27 / 65
 一括でやれる所はやっちゃいたいので連日投稿
 前話は短かったですしおすし


私がダービーを獲るまで

 仕掛けたのはセイウンスカイだった。

 

(どうせ後ろから一気に来るんだから、仕掛けは早めにっ!)

「なッ、スカイさん…!」

『おおっと、4コーナーを回ってセイウンスカイがここで仕掛けた!キングヘイローを捉えられるか!?』

 

 競り合っていたキングの消耗と、控えているライバルの強襲を鑑みてのスパート。セイウンスカイにとって完璧なタイミングで、故にキングヘイローは追随出来ない。

 

「あぁぁぁああああっ!!!」

(そんなっ、これ程までに…)

 

 追い付かれる、追い越される、離される。

 逃げ戦法への適性が、ここで浮き彫りになった形だった。キングヘイローの足はもう機能しない。

 

(そ、れ…で、もっ……!)

 

 口を突いて出そうになる弱音を、しかしキングヘイローは噛み砕いた。下を向かなかった。

 出してしまえば、下を向いてしまえば、もう立ち直れないと思ったから。

 

(キング、私は先に向かうよ…!)

 

 待ってるから、という言葉をすんでで飲み込む。そんな事を言わずとも、思わずとも彼女は来るだろうから。

 代わりに渾身の雄叫びを上げて、セイウンスカイは聳え立つ坂へと向かう。ただ1人、先頭を独占して。

 

 

 何度でも言おう。それは最適なタイミングだった。

 セイウンスカイにとって最高の時勢でのスパートだった。

 

 だが、それは彼女()()の最高のタイミング()()()()()()のだ。

 

 

 激しい悪寒が、セイウンスカイの背筋を貫いた。

 

 

「…っ、ーー!」

 

 声にならない呻きを上げて後ろを見る。

 いた。

 

「フッーーーー!!」

 

 紫色の流星が、駆けてきた!

 

(やっぱり来た……のは分かってたけど、それでも速過ぎるよ!)

 

 焦りも隠さないまま、足に全神経を注ぐセイウンスカイ。

 彼女とスペシャルウィークのスパートタイミングはほぼ同じだった。そう、本当に同じだった。

 スペシャルウィークはセイウンスカイを基準にしていた。先頭でペースを握る2人の内、彼女が終盤で来ると予想していたから。

 当たった予想。そしてスパートを逃せば捕らえられないという経験則。

 だから合わせた。そして成功した。

 

 弥生賞でスペシャルウィークに負けたセイウンスカイが、皐月賞では彼女に対抗して勝ったように。

 皐月賞で負けたスペが、今度は日本ダービーでセイウンスカイを喰らわんと迫る!

 

(私は、前とは違うよ!)

(でも、坂は苦手でしょ!?)

 

 交錯した視線で送り合う言葉。前の意趣返しなスペシャルウィークに対し、セイウンスカイは虚勢を自覚した。

 そう。虚勢でしかないのだ。()()()()のだから。

 坂に入る。セイウンスカイはそのまま駆ける。最後まで物に出来なかったピッチ走法を諦めて。

 スペは、物にしていた。

 

「やああああああ!!!」

 

 駆け上がる星の光に、青雲が飲み込まれる。

 小刻みの明滅(ステップ)が、敗北へのカウントダウンとなって空を穿つ。

 

『スペシャルウィークがセイウンスカイにーーー並ばない!並ばないっ!!』

 

(嫌だ……)

 

 セイウンスカイは拒絶した。

 

(嫌だ…っ)

 

 同門のキングヘイローを打ちのめしてここに来たんだ。彼女の敗北を、せめて自分の勝利に繋げたかった。

 でも、背中が遠い。

 だけど、認められない。

 

(嫌だッ!!)

 

 一気呵成、吠えようとしたその瞬間。

 

 

「右から失礼しマース」

 

 

 青雲は、羽ばたきに蹴散らされた。

 

 

 

 

(エルちゃん!)

 

 スペは機敏に感じ取った。怪鳥が来たのだと。

 赤いローブを靡かせて、その翼を広げたのだと。

 

「逃しませんッッ!!!」

 

 星を追う怪鳥、その差し足は尋常でなく鋭い。海を割るモーセの如く、風に波立つ芝を斬り裂いて進撃する。

 

(ミークちゃん演じるスペちゃんムーヴは完璧でシタ!お陰でこの通り、彼女のスパートタイミングへの合わせもOKデェス!)

『やはり来た、やはり来た!飛ぶように走る怪鳥、その名は!!』

「エルコンドルパサー…!」

 

 凱夏の呻きは、観客のどよめきに消える。しかし思いを同じくする西崎にとって、そんな騒音など些事だった。

 

「どう見る凱夏君!」

「スパートの出鼻は互角、そしてこの詰め方を見るに能力としてはエルの方が上です!勝負は…」

「ああ、リードキープの顛末に依る!」

 

 先に稼いだ分の距離が無くなってしまえば、後はエルの独断場だ。残り200mを千切られておしまい。

 スペシャルウィークがこのまま、なら。

 

(そこで限界を、超えろ……!)

 

 限界とは、無意識に掛けているリミッター。

 “ここまで”として制限してしまう余力の底。

 それを突き破り、全てを振り絞る根性が必要だ。その為の特訓はしてきた。西崎はその努力を信じる。

 スペ自身も、信じている。

 

「ぐぅぅぅ…!!」

(いける!スペちゃんはもう伸びまセン!)

 

 だが、そう簡単に限界を超えられるのなら、世界陸上が開かれる度に世界記録が更新されるだろう。話はそう甘くない。限界は容易くは破れない。

 とことんまで自分を絞らんと足掻くスペシャルウィークに、エルコンドルパサーは悠々自適とばかりに迫った。残り半バ身。

 そして並ぶ。いや、追い抜かれる。

 

(そんなっ…)

 

 お母ちゃんに語った夢が潰えてしまう。

 スズカ先輩達の想いを無碍にしてしまう。

 

 ああっ、と言ったのは凱夏だったか。それとも懸命な応援をしていたスピカメンバーか。

 

(やった!やりました!見てマスかグラス、ミークちゃん!スペちゃんを、スピカのウマ娘を差しました!!)

 

 怪鳥がターフを舞う。先頭で風を裂く。

 

(このままエルの、勝ちデース!!!)

 

 己を誇る猛き翼が、東京競バ場に翻った。

 歓声が、ゴールに向かう勝者に向けて一段と大きくなった。観客席の殆ど誰もが、怪鳥の勝利を確信した。

 

「…ん?」

「…あっ」

 

 

 1人を除いて。

 

 

「スペちゃーんッ!!!」

 

 

 サイレンススズカの声が響いた。

 スペシャルウィークの中で、爆発が起きた。

 

(ーーーそうだ)

 

(ゴールで、皆が待ってるんだ!!)

 

 

「うああああああーーッ!!!」

 

 

 全身全霊の末脚。尽きたと思われた底力が、底無しとなって舞い戻る。

 流星が怪鳥の翼を追う、迫る、突き破る!

 

「なッーー!?」

 

 瞬く間に差し返されたエルは動揺を隠せない。開いた瞳孔が揺れ、隣を駆け抜けんとする星の光を目で追うしか無い。

 駄目だ。それだけは駄目だとエルの本能が叫ぶ。

 

(まだ、まだデス!まだエルの足は残っ…

 

…あれ?)

 

 しかし、エルの足は主の思いに応えなかった。

 

「エルの気持ちが切れた!」

(エルちゃんの気持ちが切れてる!!)

 

 凱夏の叫びとセイウンスカイの内心が一致する。

 

「1回差した時点で満足したんだ!その隙を食い破れェ!!!」

(牽制に気を割き過ぎて自分の消耗に気付けてなかったんだ!まだ諦める時じゃない!!)

「「「「「「「いけぇー!」」」」」」」

「ダァァ…ビィィイィ!!!」

 

 それぞれのエールと思惑を背に受けながら、スペは駆け抜ける。その背に伸ばされたエルの手はしかし、空を切って喘ぐのみ。

 

「私は…」

 

『スペちゃんに、スピカに負けたくないからデス!』

 

「私、は……」

 

『お互い絶対にモノにしましょう!』

『うん…えい、えい、おー……!』

 

「私、は…っ」

 

『お前はレースセンスがある。努力の成果が出せれば、負ける筈が無い』

『エルコンドルパサー。“絶対”を見せろ』

 

 

『エル、私は彼をーーー』

 

 

「私はァ…!!」

「左から失礼ッ!」

 

 指先が、散らした筈の暗雲に包まれた。ここで、エルの気持ちは完全に潰えたのだった。

 

 

 

 2回目の大舞台だった。

 前は、私の気の緩みで負けました。完敗でした。

 でも、皆がいたから。

 皆がゴールで待っててくれたから、私はここに来れました。

 

 ずっと見ててくれたトレーナーさん。

 

 走る目標を教えてくれた凱夏さん。

 

 辛い時に励ましてくれたゴールドシップさん。

 

 ダイエットで心を鬼にしてくれたウオッカちゃん、スカーレットちゃん。

 

 幸運なウマ娘が勝つダービーの為に、四葉のクローバーを見つけてくれたマックイーンちゃん。

 

 一緒に走って、ピッチ走法を練り上げてくれたテイオーちゃん。

 

 そして、スズカさん。憧れでいてくれたスズカさん。

 

 ありがとうございます。

 

 

 お母ちゃん。コレが、私の恩返しの一つ目だよ。

 

 

 

 

『夢を掴んだスペシャルウィーク!遂に、夢を掴みましたっ!!!』




 これは英国ダービーの話ですが、「ダービー馬のオーナーになるのは一国の宰相になるより難しい」という逸話がありますね。これ、あながち間違いでもないと思います
 武豊ですら日本ダービーを中々獲れなかったんですから

エル

  • 落ち込んドルパサー
  • 立て込んドルパサー
  • 道混んドルパサー
  • 打ち込んドルパサー
  • 掻き込んドルパサー
  • めり込んドルパサー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。