キャラ違ったらごめんね!
「かんぱーい!!」
「か、かんぱーい!」
「「……」」
「あら、どうしたのかしら?フラワーさんを除いて、皆さんこのキングの杯を受け取れないっていうの?」
少女が張り上げた声に、他の者達はどうしたものかと顔を見合わせるのみ。この場の主役たる者ですらそうだった。
「あの〜、キング」
「何よスカイさん。貴女のダービー2着への祝励会なのですから、もっと胸を張って欲しいものね」
「いやぁ、そう言われてもですねぇ」
今回のレースは、セイウンスカイにとってかなり苦い結果だった。狙っていた三冠は二冠目を前に潰え、本来の実力的にもスペとエルの2人に完敗。漸く滑り込んだ2着だって、エルの奇跡的な逆噴射を前に希望を見出せなければ危うかっただろう。
何より、トレーナーさんに栄光を贈る為に、目の前の友人を踏み台にしてまで臨んだレースでこのザマでは、喜べという方が無理だ。少なくともセイウンスカイはそう感じていた。
だが、踏み台にされた当の本人はそうでもなかったようで。
「甘えた事を言わないの。私に気兼ねしてるんだったら、それこそ私への侮辱よ」
「!」
「後ろから見た貴女の背中は素晴らしかったわ。それに追いつけないのは私の責任、エルさんを追い抜いたのは貴女の努力の成果。その事実に何か偽りがあって?」
「キング……」
「だから!貴女がそんなしょぼくれた顔をしてると!追いかける甲斐が無くなってしまうのよ!!」
バン!と叩かれた肩が痛い。でもその痛みは心地いい熱となって、心に染み渡っていく。
「悔しいんだったら次、菊花賞でスペさんを置き去りにしてみなさい!スペシャルウィークさんが3着、貴女が2着、そして私が貴女達の目の前で今度こそ1着を掻っ攫ってあげるわ!オーッホッホッホッ!!」
「そうですよスカイさん!今回悔しいならやり返せば良いんです、キングさんは励ましてくれてるんですよ!」
「んなっ!フラワーさん、ちょっとステイ!一旦お黙りなさい!!」
「えっ、もしかして違いました?すみません!」
「いや違うというか、謝って欲しい訳じゃないというか……」
目の前で始まった漫才に、意図しない笑みが漏れる。ああキング、やっぱり君は私のーーー
「…どうやら、俺も歳とって日和っちまってたらしい」
そんな私の肩に手を掛けたのはトレーナーさん。皺が増えたその顔、でもその瞳には先程までは消えかけていた筈の闘志が満ちている。
多分きっと、それは私も同じだろう。
「年齢の所為、時期の所為、運の所為…それらで言い訳しそうになっていた。そうじゃねぇんだ。俺は俺の散り際をお前らの花道で飾るって決めてんだ」
「トレーナーさん」
「勝つぞセイ、キング!俺は俺の為に、お前はお前の為に、お嬢はお嬢の為に。映えある三冠目に輝くのはリョウん
「当然よ」
「…そうだね〜」
スピカの祝勝会と同時に行われていた祝励会は、いよいよ盛り上がっていく。目指すは菊花、“最も強いウマ娘”の称号!
〜Side:ブライアン〜
会長に併走を頼まれた。喜んで引き受けた。
…いや、喜んでというのは少しだけ語弊がある。アイツは俺に“副会長”としての責務の一つを求めていた。私はそれに応じただけの事。
会長は強いウマ娘だった。私の渇きを癒してくれ得るだろうウマ娘だった。
だが、アイツは私と戦ってくれない。自分が決めた責務に縛られて、生徒会長の座に
下らないと思う。そう思いながらも私が副会長への誘いを断らなかったのは、彼女のその志が正しく、そして尊い物だと分かってしまっていたから。
全てのウマ娘に幸福を。荒唐無稽だ。無謀だ。傲慢だ。だが、アイツはやり遂げるだろう。理想論を現実になった時、多くの人に幸せをもたらすだろう。
そしてその理想論に、アイツ自身が呪われる事を是とした。
だから、これはその代償。
私は、アイツが“皇帝”シンボリルドルフで在る為の楔になった。
「ブライアン先輩」
そんなアイツと入れ違いで来た後輩。黒混じりの鹿毛とは正反対の白毛が風に揺れているのが見える。
「…併せウマ、見てました」
それがどうした。
「最後、なんで流したんですか」
「……目的は果たしたからだ」
流したくなかったさ。流すまでは全力だったし、その後だって全力でやりたかったさ。
例えただの併走でも、アイツと本気で競えれば乾きを癒せるんだ。その絶好のチャンスを何故みすみす逃さなきゃならない。
だが、それはルドルフもまた
アイツは、“諦めなければいけないウマ娘”なのだから。
「ルドルフは、本気で走らない」
走れないのではない。走ってはいけないのだ。
本気をぶつけると、周りの才能が死ぬからだ。
本気を曝け出すと、“理想”ではいられないからだ。
「アイツは“与える”為に、“求めちゃいけない”んだ」
だから、諦める為に私と併走した。エルコンドルパサーが“絶対”を逃した事への隠し切れない落胆を、諦念で押し流す為に。
この道を進むのは自分だけであるという事実を再確認する為に。
併走ではルドルフが先行した。私はそれを差そうとした。
最終コーナーで差した。その瞬間に膨れ上がった存在感。来る、と身構えた。
だが、来なかった。振り返った時、既に奴はその気迫を自ら鎮めていた。その瞳に、絶望にも似た慈しみを秘めて。
それが、いつもの併走。私とアイツが交わす茶番の、恒例の閉幕。
アイツは私と向かい合う事で、自らの責務を思い出す。
不躾な私と相対する事で、清廉な自分を思い出す。
強い私と競り合う事で、強い自分の立場を思い出す。
そして、己の身勝手を捨てる。
偶像になる。なってしまう。
アイツは一つ礼を言って、頭を下げて、私をターフに置き去りにした。
ああ。こんな事になるんなら否定してやれば良かった。その使命を下らないと吐き捨てて、真っ向から喧嘩を売れば良かった。
でも無理だった。数多の夢の火を消してきてしまった私は、その火を守ろうとするアイツの想いを尊い物だと捉えてしまった。守りたいと願ってしまった。
この願いがある限り、どれ程の後悔があろうと、私は何度だってアイツの道を肯定してしまうだろう。アイツの呪いを黙認してしまうだろう。
だからせめて、私も一緒に堕ちてやる。
その渇きを共にしてやる。
満たされない嘆きを、諸共に干からびるまで慰め合ってやる。
それが私の、副会長としての責務だった。
「……難しい顔してます」
「子供には縁の無い話だからな」
そうだ、一生縁の無いままでいろ。踏み込んでくれるな。これはアイツだけの戦いで、だからこそアイツだけの悲劇であるべきだ。それが他ならないアイツ自身の願いなんだから。
……だというのに、白毛の後輩はその場から離れようとしなかった。何だコイツ。
「私、エル先輩の力になれませんでした」
「自惚れるな。デビュー前の身でクラシック級のトレーニングに着いて行けた事をまず誇れ、合わせて貰えた事を感謝しろ。アイツの敗北はアイツの物だ」
「でも、私にとっての敗北でもあります」
変わった声色に思わず目を剥く。コイツ……
「勝ちたいウマ娘がいるんです」
「…話の流れで想像はつく」
ルドルフと重なる相手だ。同じ白束を鹿毛に煌めかせ、無敗三冠を目指す幼い影。
「私、あなたを超えたい。あの娘が夢に辿り着いたとしても、相見える度に全力を出さなきゃいけない相手に」
「当て付けか?ルドルフの全力を封じる為の、足枷への一助となっている私への」
「違います。あなたが私の目標に一番近いから言ってる」
「……っ」
「会長があなたを頼るのは、あなたがあの人に匹敵する程強いから。でしょ?」
分からない。そうだろうと思っているし、そうであって欲しいとも願っている。
だが、確かめる機会は無かった。あってはならなかった。
「…もう話す事は無い。帰れ」
下手に聡い奴と話すのは嫌いだ。好き勝手に、一方的にこっちを掘り返して分かった気になってくる。
せめて姉さんぐらい言葉を選べるようになってから出直して来て欲しい。
「嫌。帰らないし、帰さないです」
「……はぁ」
顔を背けたその先に回り込まれてしまった。本当に面倒臭い。1人で腐る時間すらくれないのか。
「一回、一緒に走って欲しい。それが終わったら帰ります」
「併走か?」
「ううん。潰す気で」
……は?
「正気か?」
「私という才能を、磨り潰す気で来て欲しい」
聞き返す私に、これでもかという闘気を込めて返される。それはつまり、私がこれまで数々の才能を潰してきた経歴を知った上で言い出したという事で。
「……後悔するぞ」
「もうした。エル先輩と一緒に負けました。次は勝ちたい」
「…フン」
仕方ない。コイツはもう梃子でも折れちゃくれないだろう。
ならば、お望み通り力尽くでやるしか無い。
「来い」
「はい」
きっと私は頭が回っていなかった。ルドルフの事で鬱憤が溜まっていて、何でも良いからそれを発散したかったのかも知れない。
だから私は、後にこの日の事を少しだけ後悔する事になる。
「……私、折れないから」
この才能に、私の
前にも言いましたが、マジで執筆が滞っちまっています
流石にストック尽きるまでには供給を再開できそうですが、保証できる状況ではない事だけ把握して頂けるとありがたいっす