パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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 やっとミークの話終了
 次話から隔日投稿に戻ります

 ところでだけど、やたら閲覧数伸びるなぁと思ってたら日刊ランキング入ってたんすね昨日。皆さんあざます!
 しかし最高順位は何位だったのか…俺が見た時には15位だったけど


修羅道、参じ轍を喰らう【後編】

 ミークは芝の感触に手応えを感じていた。

 全て桐生院葵の想定通り。抜かるんだ足場に、出走ウマ娘はパワーを必要とした走りを要求される。追い討ちをかけるように再び降ってきた雨も追い風になるだろう。

 

(皆の注目もだいたい外れてる…これも作戦成功)

 

 パドックでも、無表情を利用して無気力を装った。次のレース以降は効果は見込めないが、とにかく鮮烈な印象のある勝利をしたい今回に関してはこれ以上無く有効だ。

 

(…1人だけ、見通してきてる娘もいるけど)

 

 ゲートの隣のその向こう。パドックで唯一自分から視線を外してこなかった赤毛のウマ娘が、今も自分に視線を飛ばしている。隣だったら、意識を散らされてしまったかも知れない。

 

(何にせよ、全部上々。後はーーー)

 

 ()()()()だけ。

 

 ガチャン、という音。それを前に。

 

 

 

 ミークは()()()()

 

 

 

「「えっ!?」」

 

 観客席で叫んだのはテイオーとマックイーンである。至極当然、応援している相手がまるで呆けていたかのようなスタート失敗を露呈したのだから。

 

『今スタートです!ハッピーミーク大きく出遅れたが大丈夫か?現在先頭はアウタープロメテ、その後ろは団子となっている』

「うわぁ、ネイチャも囲まれちゃってるよ。抜け出せるかなぁ」

 

 進むレース展開にテイオーは渋い顔。その一方で、トレーナー2人はただ冷静に状況を俯瞰する。

 

「ハナさん。ましr…ハッピーミークの育成にはどの程度関わってるんですか?」

「8割がた桐生院さん主導、残り2割を私が担って微調整している形よ」

「俺にスズカを割り当てた時とは結構違いますね。やり方変えたんですか?」

「明らかに特化型だった彼女と違って、ミークの伸び代は全方位に等しく向いてるみたいから方針を決め辛いのよ。だから、当人達がまず興味の湧いた走法から試す形にしたの」

「なるほど…という事は」

 

 再び視線を向けると、ミークは今もなお最後方。息を潜め、その白毛が前方集団の影に紛れてしまうかのように存在感を鎮めていた。

 

「…アレも把握してましたか」

「……他言無用でお願いね。差しって聞いてたわ」

「えぇ…(呆れ)」

 

 差しだとしても遅れ過ぎている、最早追い込みだ。これでは先頭に追いつけるかどうか…

 …だが。

 

「少なくともマークで潰される事は無いでしょう」

「そうですね」

 

 最後方のウマ娘をマーク出来るような酔狂なウマ娘など、熟達したシニアでもほぼいない。最後方の更に後ろなど、元から追い込み作戦のウマ娘でもない限り、勝負を捨てるのとほぼ同義であるが故に。

 それをデビュー戦で出来るウマ娘?皆無に決まっている。

 

「葵の読みとしては、負け筋は多対一によるマーク潰しだけって訳か。大きく出たな」

 

 慣れない初レース、それも不良バ馬。それに喘ぎ苦しむ前方集団を眺めながら、ミークは走る。

 前方から跳ねた泥が、純白の髪を汚す。しかし、その瞳に依然一切の揺らぎは無い。

 

「む…むり〜!」

 

 1人の喘ぎが叫びに変わった。心より先に体、肺より足が先に参った合図。

 集団が縦に伸びていく。垂れていくウマ娘とそれでも足掻き続けるウマ娘で、バ群が分解し始める。

 それによって、出来てしまった。

 

 ミークの()が。

 

 

「ーーー来た」

 

 

 白無垢が翻った。

 ドン!と踏み締めた大地が、揺れた。

 少なくとも、後方2番手のウマ娘はそう感じた。

 

(…なに)

 

 何かが来る。来ている。

 急に膨れ上がった存在感が、重厚な音と共に自分を飲み込もうとしている!

 

(なに、なに、なに!?)

 

 逃げなければ。でももう足は無い。抜かるんだ芝に絡まれて回らない。

 そのまま少女は呑まれる。この時の事を、後に彼女はこう語った。

 ホワイトアウトした(何も見えなくなった)、と。

 

 

 

「…次」

 

 

 

(負けるもんか!負けるもんか!)

 

 中段で粘っていた娘は2戦目だった。デビュー戦を落とし、未勝利ウマ娘として挑んだ今回のレース。絶対に勝ちたい、次に進みたいという意欲に満ちて臨んでいた。

 だから、周りが垂れ始めていた中盤後半においても諦めない。絶対に先頭集団に食らいつく、その執念が彼女の体を支えている。

 だが。

 

「ーーーあれ?」

 

 おかしい。

 さっきまで隣で競っていた娘がいない。気迫に関してはほぼ互角で、スタミナに関しては自分よりも余裕がありそうだったのに。

 前じゃない。抜かれてたならもっと前に気付いてる。

 ならば、と後ろを見た。確かに後ろにいた。何かに疲れ果てたようにヘロヘロだった。

 

 

 気配が強まった瞬間と、足音が鳴り響いた瞬間と、振り向いた瞬間が重なってしまったのが彼女の不幸だった。

 

 

「ヒッーー!!」

 

 恐怖に縺れる足。立て直そうと減速した瞬間、白い顎門は牙を剥く。

 少女は争う事も出来ずに喰らい付かれ、そして引き裂かれたのだった。

 

 

 

「次…」

 

 

 

 赤毛のウマ娘は機敏だった。

 集団が分解されて活路が見えた瞬間、それを目敏く見極めた彼女は上手いこと抜け出し好位置を取った。ようやく差しの待機位置からスパートへの準備が整えられたのである。

 だからだろうか、異常にいち早く気付けたのは。

 

「…嘘ぉ」

 

 漏れたのは戦慄の呻き。

 一つ、また一つと消えていく視線。闘志。先ほどまで火花を散らし合っていたそれらが一つずつ、段階を踏むように消えていく。

 そしてそれと反比例するように、そして同様に段階的に増してくる存在感。威圧感。

 加えて、轟音。

 

 予め言っておくと、このウマ娘はなんとなく察していた。こうなるんじゃないか、という薄らとした予感を得てはいた。だからこそ、攪乱が得意なのにそれをせず、自分が動く時を見極め研ぎ澄ます事に徹していた。

 だが、それでも。

 

「これは予想の外ですって…ーーー!!」

 

 来る。来た。ウマ娘を1人ずつ喰らい、その意気の一つ一つを糧として肥大した獣の牙が。

 まるで塵芥のように他者を巻き上げ押し潰す。その白い姿は最早吹雪。

 不味い、不味い、不味い。

 避けなければ飲み込まれる。そして避けられない。

 飲み込まれれば磨り潰される。“白”に前途を埋め尽くされる。

 

 避けられないのならば。

 

 

 覚悟を決めた赤毛の少女は、甘んじてその風の中に身を投げた。

 

 

 

「次!!」

 

 

 

「何だありゃあ!?」

 

 どよめきが上がる観客席でなお、その喧騒すら吹き飛ばしかねない怒号が凱夏の口から飛び出した。無論、ハッピーミークのとんでもない差し足についての物だ。

 

「無茶苦茶だよぉ!何これ!?」

「ゴールドシップさんの追い込みは見た事ありますが、アレとは何か違いますわ!」

「グッイブニーング。呼んだ?」

「「出たァ!?」」

 

 理解不能な状況を前に悲鳴じみた声を上げる新入生2人の隣に、突如として出現したゴルシ。自らの顎を撫でながら、呑気に白毛の髪が靡く様を眺めている。

 

「途中から見てたけどヤベェな。アタシの走りが“南極の氷海を渡る砕氷船”だとしたら、アイツの走りは“タイタニックに扮した軍艦が逐一氷山にブチ当たってはフルバーストで粉砕していく”ようなモンだぜ。綺麗な顔してエゲツない奴」

「意味分かんないよー!」

「分かるのかゴールドシップ!?」

「今ので通じたのぉ!?」

 

 トレーナーとしての経験から、ゴルシ語を読み取れた東条がいち早く反応する。次いで口を発したのは凱夏。

 

「アイツ、追い込みじゃねえ。おハナさんが聞いた通りに差し作戦を遂行してるだけだ!」

「でもミークさんが誰かをマークしてるようには見えませんでしたわ」

「誰かじゃねぇ!()()マークしてたんだよ!」

 

 

 最後方から。

 一番レースの流れを見れる最後方から。

 《全ての相手を視界に捉えられる》最後方から。

 

 

「全員の作戦は既にシミュレート済みでした」

 

 バ道に佇んで、桐生院葵はウマ娘達が駆けてきた第四コーナーを見る。一番最初に貫いてきた教え子に微笑んで。

 

「どう動くか、万一に備えて第二・第三案まで考慮して筋を立てました。ミークもスムーズに覚えてくれたのは幸いでしたね」

 

 後は、不良バ場で伸びた集団を後ろから辿()()()()()。一人一人、予想した動きで予想した位置にいるウマ娘に対し、一つずつ差していけば良い。

 1人差したらそれを足場にその次。また次、足場にして更に次と。例えるとするなら、義経の八艘飛びか。

 それが道。ミークが駆け抜ける勝利への街道だ。

 

「貫いてください、ミーク…!」

 

 あとは、ナリタブライアンから学んだ差し足を用いてそこを辿るだけ。

 相棒への信頼と勝利への確信。それを胸に、桐生院は瞳にギラついた光を晒した。

 

 

 

『ハッピーミーク、ハッピーミークだ!最後方からのスタートから一転、全てを食い破り最終コーナーで先頭に躍り出たァ!!』

 

 あまりに凄絶な食い破りに、観客席はもうどよめきの渦。パドックでの元気の無い姿から彼女に投票しなかった者達に至っては、この時点で人気投票券を投げ出す者までいる始末。

 後方集団は追いつけない。白吹雪に等しく飲み込まれ、その中に身体も気力も生き埋めにされてしまっている。

 

 だがミークは油断しない。出来ない。その内心に、勝利への確証も安心も無い。

 

(1人、手応えが緩かった)

 

 追い越す時、食い切れなかった。牙を躱された。そんな感触があった。1人だけ。

 もしかしたら、という予感がミークの足を突き動かす。流すという選択肢は、彼女の中から消えていた。

 食べ切れてないかも知れない。トドメを刺せてないかも知れない。ならば、来るかも知れない。

 

(だったら…!)

 

 思い出したのはエルコンドルパサーの走り。ダービー前の併走で学んだ先頭の走りで、悠々と空を舞う鳥のように後続を突き放す。

 

 

 ゴールまで100m。まだ大丈夫。

 

 ゴールまで50m。まだ大丈夫。

 

 ゴールまで10m。流石に大丈夫か?

 

 

 いや。

 来た。

 

 

 そう思った瞬間には、ミークは既にゴールを割っていた。紛う事無き圧勝だった。

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

 

「1着ですよ、ミーク!!」

 

 バ道に待っていた葵に抱きつかれた。嬉しいけど胸が硬くて少し痛い。どうしたものか。

 それに、今の自分はズブ濡れの泥だらけだ。そんな想いがミークを躊躇わせる。

 

「トレーナーさん、服が汚れちゃう」

「全ッ然気になりません!その姿は勲章ですよ、恥入る所なんてある訳無いです!寧ろ私にも是非分けてください!」

「ウザい…」

「ぇ」

「でも嫌いじゃないです」

「ミ〜クぅ〜!!」

 

 泣きながら頬擦りしてくる自らのトレーナーに、嬉しいやら困ったやら複雑な笑みで応じるミーク。こういう熱情のある所が大好きなのだが、しかしそろそろウザさが上回り始める頃合いだった。

 だから、彼が来たのは丁度良かったと言えた。

 

真白(ましろ)

 

 呼び掛ける声。懐かしいその音に、ミークは耳を向ける。

 

「…久し振り。凱にぃ」

 

 ミークにとっては7年ぶり。特に何か事件があったわけでもなく、ただ唐突に会えなくなった人が、己の仮専属ウマ娘(トウカイテイオー)を連れてそこにいた。

 彼女にとってこの7年は、彼を探す為の7年だったと言って良い。

 

「凱にぃを探すために、有名になるつもりだった」

「その為にトレセン学園に来たのか」

「うん。なんで急にいなくなったの」

「俺なりの人生設計としか言えん。ただ、お前を厭った訳じゃねぇ、それだけはあり得ねぇ」

 

 問い詰めるような姿勢のミークと、懺悔するように言葉を吐く凱夏。そんな空気に気圧されてか、桐生院は目を白黒させながらミークから離れる。

 

「えっ、お二人はどういう関係なんですか?」

「私、児童養護施設出身」

「俺、その隣住み」

「「…えぇ〜!?!!?」」

 

 要は、幼馴染みという事。今更判明した事実に、葵とテイオーは素っ頓狂な叫び声。

 

「もしかしてボクにライバル宣言したのって!」

「凱夏のウマ娘だからだよ」

「やっぱりー!」

「でもそれはただの“きっかけ”。テイオーは強いウマ娘だし、私は同じウマ娘としてあなたに勝ちたいと思ってる。そこに凱夏は関係無い」

「…ほんとぉ?」

「ホント。前のデビュー戦、凄かったよ」

「……ありがと。今日のミークも本当に強かった…でも最後に勝つのはボクだからね!」

「それでこそ。絶対に吠え面掻かせてみせるから」

 

 拗れたと思いきや即和解し、その上でバチバチ火花を散らすテイオーとミーク。一方でウマ娘じゃない普通の人間2人は気まずい表情のままだった。

 

「…先輩」

「何か言いたげだな」

「先輩って、別れ際の対応下手過ぎって言われません?」

「……今自覚した。どうやらド下手らしい」

「ミークが可哀想ですよ。何年寂しい思いさせたんですか」

「そもそも寂しい思いをしてると思わなかった…ってのは言い訳にしかならんな」

 

 自分と同じく、置いて行かれた境遇であるミークを想って頬を膨らませる葵。それを受けて、凱夏も流石に深刻に自らの所業を反省する。

 

(もしやグラスも俺との別れ惜しんでたりしたのか?いやそんなまさか。でもマジだったら……オイオイ死ぬわ俺。ごめんグラス)

「凱にぃ」

「アッハイ」

 

 思考を中断させたのはミークの声。透き通るような鋭さを秘めた声音に、凱夏の背筋は思わずピンと張り詰めた。

 

「私、怒ってるの。昔、私と一緒に天下取ろうって約束したのに、他のウマ娘にうつつを抜かして」

「待て!諸々に関しては謝るがその件だけは別だ!当時ちゃんとその時に否定しただろ無理だって!!」

「黙って」

「おぅふ……」

 

 一喝。もはや反論の余地は無い。

 

「でも、感謝してる。お陰で桐生院トレーナーと会えたから」

「ミーク…!」

「…つまり!」

 

 突きつけられた指。伸ばされたその先に標的(凱夏)を捉えて、ミークは叫んだ。

 

「凱にぃは、私という才能を、機会(チャンス)を逃したんだ!ザマー見ろっ!」

 

 その言葉に乗せられたのはどれほどの感情か。

 

 

「…って言ってやれって、施設長が教えてくれました」

「「施設長さんの言葉かーい!」」

「の割には堂に入った物言いだったけどな」

 

 ズコーッとずっこけるテイオーと葵を他所に、凱夏は真剣に見つめ返す。正面から言葉を叩きつけられた彼は、ミークが本気でそう思っている事を確信していたから。

 

「うん。私の嘘偽りない感情だから」

「…そっか。で、スッキリしたか?」

「凱にぃが悔しがったらスッキリする」

「じゃあまだまだお預けだぜ」

 

 フッ、と嘲るように笑みを漏らす。それが好意に基づいた挑発である事を把握した上で、ミークも口角を上げて応じた。

 

「勝って見せろよ、ミーク。俺がお前を選ばなかった事を、信じられなかった事を、俺を踏み躙る事で悔しがらせてみせろ」

「当然!」

「なーんか勝手に新しいライバル関係作っちゃってるけどさ、良いの?ボクと凱夏のコンビは無敵だからね?」

「それを言うなら私とミークのコンビだって最強ですから!」

 

 四者四様の(てい)で視線を交わす彼らの間に悪意は無い。またここに、再び交わった道が新たな青春を紡ぎ始めたのだった。

 

 

 

 

「…ところでだけど、マックイーンは?来てるんでしょ」

「メジロ家の秘蔵っ娘さんも呼んでたんですか!?いつの間にそんな交友関係を……って、そういえば東条先輩も見当たりませんが」

「あー、マックイーンとおハナさんはねぇ」

「ミークの追い込み戦法に触発されたゴルシに火が着いちまって追い回されて、疲れ果てて眠っちまったよ。おハナさんが面倒見てくれてる」

「「えぇ……」」




 追い込ミーク(言ってみたかっただけ)


 暴走したゴルシは、凱夏がどこからともなく取り出したピコハンで顎を揺らした30秒後に漸く止まりました。今おハナさんが西崎トレーナーを呼び出して回収を要請しています
 あとなんで凱夏がマックイーンの面倒見ずにバ道でマークを出迎えたかというと、おハナさんが「桐生院とミークは凱夏に感情をぶつけたがっている」と見抜いて彼を遣わしたからです……と、後書きで言い訳
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