パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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拙作におけるあの人はこの時点で子持ちだったりする
じゃないと最初のエピローグに繋がらないからね、仕方ないね♂


新しい風を受けて

〜Side:乙名史〜

 

「素晴らしいですっ!」

 

 チームスピカの部室で、私は心からの称賛を叫んだ。ああ駄目だ、一度こうなったらもう抑えられない。

 

「1番の持ち味を封じて臨む余裕、しかしその自信を支えるのは絶え間ない努力と模索、そして仲間との絆!これこそがトゥインクルシリーズの醍醐味、ウマ娘の華と言えるでしょう!しかもそれをデビュー戦の結果で証明してみせるという剛気は、書き記そうものならもはや辞書一冊にも収まりません!」

「長過ぎて誰も読めないでしょうけどね」

 

 言いましたね牧路さん?そこでこそ記者である私の本領発揮、読者が一日中読んでも飽きない分に仕立て上げて見せましょう!

 

「それは良いんですけど、いい加減落ち着いてくれません?テイオーと西崎さんがドン引きして喋れなくなってるんで」

 

 …おっと失礼。またもや悪い癖が出てしまいました。

 

 今日は校内選抜レースで素晴らしい成績を残し、そしてデビュー戦では切り札であるテイオーステップ無しという余裕の貫禄で勝ってみせたトウカイテイオーさんへのインタビュー。スピカの部室で設けさせてもらったその機会に、私は渾身の力を込めて臨まさせてもらっていたのです。

 テイオーさんの走りは、かの皇帝シンボリルドルフを彷彿とさせる物。それで更にこの前の圧勝ときているので、有識者の間では「皇帝再来」「2人目の無敗三冠候補」と早くも噂されています。勿論、それをいち早く掴んだベテラン記者達はテイオーさんに、そして同時期に同様に輝きを放ったマックイーンさんやミークさんにも取材を試みるわけで、水面下では既にその席の争奪戦が行われていました。

 そしてここで、リギル時代からシンボリルドルフさんと東条トレーナー、そして牧路トレーナーと縁のあった私が真っ先にテイオーさんへの取材許可を貰えたという訳で。

 

「ではテイオーさん!あなたの夢とはズバリ?」

「聞くまでもないでしょ、会長と同じ無敗三冠!皇帝に続く帝王、それがボクの夢なんだ!!」

「ふむふむ、夢は大きくそして強く!何よりあなたなら達成し得るその勢い、深く感動しました!」

「むふふー。もっと褒め称えるが良いぞよ〜」

 

 そう言ってちっちゃな胸を張るテイオーさんを微笑ましく思い、そしてその前途に輝きを幻視しながら、私は視線を隣の西崎トレーナーに向けた。

 

「次に西崎トレーナー。テイオーさんの今後の展望に関して一言!」

「え?ああ、えぇと、テイオーについてはですね……」

「西崎さん、ちょっと」

「ん?」

 

 おや、牧路さん耳打ちですか。はてさてどのような思惑があるのやら?

 

うん、それなら何も嘘は無いが…これが良いのか?まぁ君が言うなら……“帝王に菊花の栄冠を”、って所ですかね」

 

 ほう。菊花の栄冠。

 つまり……

 

「素晴らしいですっ!!」

「今度は何がですか!?」

「三冠を狙う身で、言及したのは菊花のみ。つまり皐月賞とダービーの勝利は揺るがないと!」

「えっ」

「テイオーさん勝利への確信と他陣営への挑発、確と承りました!その覇気にあらん限りの敬意を表し、一言一句違わず記載させて頂きます!!」

「えぇ!?!!?」

 

 いやぁ惚れ惚れするような宣言でした!実に簡潔、しかしそこに込められた意味の深さよ…!

 皐月とダービーを通過点扱いするトレーナーなんて前代未聞ですもの!

 

「なーんだ、トレーナーも中々煽るじゃん!いつもボクを“調子乗り過ぎ”って嗜めるクセにさー?」

「違っ…凱夏君、話が違うぞ!?経験則で、これが一番誇張されにくいって言ってたじゃないか!

「現実問題として、テイオーはダービーまでならほぼ確実に取れるポテンシャルがあります。ちゃんと嘘と誇張の無い返答に結果的になるのでご安心を」

「ぐぬぬ…こりゃ責任重大だ」

「安心して下さい。責任取って骨は拾いますし、何なら隣で一緒に骨になりますから」

「不安要素しか無いんだが?!」

「なに2人だけでコソコソしてるのさー?ボクも混ぜてよー!」

「お呼びじゃないんだよなぁ」

「何だとー!?」

 

 何やらゴチャゴチャしていますが、残念ながら今の私の耳にその騒ぎは届きません。今、どのような記事にするかで頭がいっぱいなので。

 よし!見出しは「帝王、早くも最速最運宣言!」にしましょうか!!

 

「では最後に牧路さん。あなt」

「あっ、俺に関する言及は“ステップ封印の発案者”の部分だけで頼みます。そうすればもしもの時の責任は俺に来ますし。あと3行以内で」

「そりゃ無いですよ〜」

「もしもなんて無い!ボクは会長と同じ“絶対”に至るんだから」

「至るまでの話をしてるんだよなぁ」

「も〜っ、ああ言えばこう言ってぇ!」

「痛っ!脛蹴るな!!また折れっ!!!」

 

 はい、予想出来てましたよその先手必勝牽制。引っ込み思案っぷりはリギルのサブトレーナーだった時から変わりませんね。

 

「西崎トレーナーが表に立つのなら、それを支えるのがサブトレーナーの役目では?」

「支える人が表に出しゃばったらイカンでしょう」

「いや、俺だけ矢面に立たせて自分は隠れようだなんて卑怯だぞ凱夏君!栄光も叱責も分け合うのがメインとサブの理想の関係じゃないか!」

「大丈夫です西崎さん、俺には隠れる事で手に入る栄光がありますし責めを受ける時はしっかり前に出るので!」

「言い訳は男らしくないよ凱夏!ボクが選んだトレーナーなんだから堂々としろー!!」

「頼むからおまいは一旦引っ込んでくれや!」

 

 ふっふっふ、良い感じに拗れて小馴れてきました。ここであと一押しすれば……

 

「牧路さん、インタビューに答えてくれれば5行に収めます」

「…答えなかったら?」

「憶測で7行プラスします」

「チクショォォォォ!!!」

 

 勝ちました!第4章完!!

 なんて冗談は置いときまして、やっと同じテーブルについてくれた凱夏さんに向き合いましょう。さて、最後の本題に移りましょうか。

 

「凱夏さん、単刀直入に聞きます。テイオーさんがスピカに入った理由はあなたですね?」

「…アンタ相手じゃ大体筒抜けかぁ」

 

 何の事は無い推察ですけどね。情報が漏れたとかスパイだとか、そういうのではありません。

 ただ、リギルから凱夏さんが抜けた事。ルドルフに憧れるウマ娘がルドルフのいるリギルに入らなかった事。2人が同じタイミングでスピカに入った事。

 この要素からの推察は、リギルに精通した私だからこそ行えるモノでした。他の記者はサブトレーナーの動向なんてほぼ気にしてませんからね。

 そんな風潮から、彼が影に徹しようとするのも分からなくはないんですけど、それでもやり過ぎなんじゃないかと勘繰っちゃうんです。記者ですから。

 

「ではそれを踏まえて。あなたがテイオーを見染めた理由、それは何ですか?」

 

 だからこそ、彼にしては大それた行動(チーム移籍)が気に留まったのです。

 同じ才能という点なら、グラスワンダーという前例があった筈。だが彼は、彼女をリギルに入る前から面倒を見ていたにも関わらず選ばなかった。

 怪我で愛想を尽かした?いや、それだけは無いでしょう。リギル時代、彼はウマ娘の故障に対し本当に真摯に向き合っていたのを知ってます。マルゼンスキーの膝関節の問題に対し、医者を巻き込み矯正プランを徹夜1週間掛けて練っていたのを追った事もあります。

 そんな彼なら、グラスワンダーに関しても綿密に復帰プランの草案を練って東条トレーナーに提出しているでしょう。その先にある栄光も見えていた筈。

 だから、テイオーを選んだ理由は他にある。

 

「…なんて言えば良いかなぁ」

 

 言葉を選び兼ねたような彼の物言いに、私は待ちの姿勢を選びました。彼自身の言葉を、彼自身が納得出来る形で聞きたかったから。それはテイオーさんと西崎トレーナーも同様に。

 そうして待って10秒ほどで、答えは出た。

 

 

「伝説、ですかね」

 

 

 栄光と何が違うのか、とは聞きませんでした。なんとなくですけど、その意味が分かったから。

 記憶が記録を凌駕する形で歴史に残るウマ娘。彼はテイオーを、そう評したんだと。

 

「テイオーは、主人公なんですよ。時代の中心になる器がある」

「それに惹かれた、という事ですか」

「そんな綺麗な物じゃないです」

 

 隣から視線の視線に苦笑しながら、彼は自嘲するように嘯いた。

 

 

「俺も伝説の一部になりたい、一枚でいいから噛ませて欲しい。そんな我欲に塗れた自己顕示なんですよ、要は」

 

 

 

〜Side:メジロ家〜

 

 

 

「マックイーン。デビュー戦、ご苦労でした」

「お褒めに預かり光栄です、御婆様」

 

 メジロ家の邸宅に呼ばれたマックイーンは、静謐な部屋の奥に座る影に丁寧にお辞儀をする。その正体は、メジロ家を興した始まりのウマ娘、アサマ。

 

「基本に忠実に、更に貴女の長所である持久力を伸ばし活かした圧巻の走り。正にメジロの名に相応しい見事な物でした」

 

 そんな偉大な祖母からの称賛を受けて、マックイーンは表にこそ出さないが内心は小躍りしてしまう。昔からこの人に褒められるのが嬉しくて、そしてもっと褒めてもらいたくて走ってきたからだ。

 

「しかし」

 

 だが次の瞬間には鋭い声。背筋に通る冷たい予感に、マックイーンはその表情を強張らせる。

 

「最終直線のスパート、アレは些か頂けません。そこまで力を入れずとも、既に勝利は決定的でした」

「…」

「メジロ家足る者、常に余裕と優雅を兼ね備えた走りを。これは気品の問題だけでなく、貴女の足の為でもある筈です。常に全力である事がベストとは限りません」

 

 教え諭すその言葉を聞き通したマックイーンは、一つ間を挟んで目を開く。意を決したその瞳に、アサマは目の色を変えて応じた。

 

「御婆様。あの走りは、私がただのメジロのウマ娘でいるだけでは知らなかった、得られなかった走りです」

「…我らが血統の訓示よりも価値がある、と?」

「いえ。メジロの訓示が無ければそもそも私はここにいません」

 

 しかし、と前置きしてマックイーンは更に続ける。

 

「ただ同じ事を繰り返しても、煮詰まるだけで時間の流れに取り残されてしまうでしょう。少なくとも私は、私が得た好敵手達の走りを見てそう思いました」

「…だから、新しい物を取り込むと」

「未だ若輩の身、メジロの使命を果たすに未熟である事は自覚の上です。訓示の全てを遂行出来ている、などという慢心をしているつもりもありません。ですが」

 

 

「古き使命と新たな風を両立した時。私はこの家に、春の盾を持ち帰ると約束しましょう」

 

 

「…良いでしょう」

 

 覚悟を宿した宣言を受けて、アサマの瞳はその鋭さを増した。マックイーンの心意気を試すように、そして同時に期待を託すように。

 

「メジロの当主にそこまでの大口を叩いたのです。示してみせなさい、その意志に懸けて」

「…はい!」

 

 

 

 

 

 マックイーンを帰し、アサマは独り庭を見る。庭園では帰っていく彼女より更に下の世代、小学校に通い始めたばかりのメジロのウマ娘が共に戯れている。

 

「新しい風…ですか」

 

 温故知新。そう宣うのは容易いが、実際に行うとそれがどれ程難しい事か。

 

「しかしマックイーンなら…と、そう思ってしまうのは私にもヤキが回ってきた証左かしらね。じいや」

「ご冗談を。アサマ様の威光は年を経るごとに輝きを増しております」

「気休めを聞きたいのではないのよ」

 

 口調が乱れる。そこに顕になったのは、どうしようも無い程の()()

 

「私はもう還暦をとうの昔に超えてしまったわ。その分走った、それで力を手に入れた、この地位を手に入れた。なのに、私はあの娘達を“私が生きている間”しか()()()()()()()()()

「アサマ様」

「この世界に憤った少女は頑張りました、力を付けて自らの血族を守りました。それで終わり?全然よ」

「卑下なさらないで下さい。貴女のお陰で救われた命の為にも」

「私が守りたかったのは“全てのウマ娘”です!」

 

 血を吐くような叫びが部屋に響いた。それを唯一聞き届けたじいやは、ただ黙し瞑目する事でしかアサマを慰められなかった。

 

「……私の理想は、私だけではどう足掻いても為せない。だが、こんな重い使命を、可愛い我が子達に押し付けるのなんて愚の骨頂。そんな事をすれば()()以下になる」

「……」

「ただ走り続けて欲しい。いつまでも幸せに風を感じて欲しい、それだけなのに……」

 

 もはや独白と化した嘆きに応えられる者は、この部屋にはいない。その苦悩を間近で見てきたじいやですら、いや見てきたからこそ彼は口を噤む。

 

 

 

 その沈黙を破ったのは、じいやにのみ届くよう抑えられた微かなノック音だった。

 

 

「…どうした」

「桐生院家当主の名義で、アサマ様との面会の申し出が内密に届いております」

「…桐生院巌から、だと?」

 

 桐生院家。名ウマ娘を輩出してきたメジロ家とは対照的に、名トレーナーを輩出する事でこの国の歴史にその名を刻んだ家だ。仲は悪いという訳ではないが特段親交が深い訳でもなく、事業によっては強力なライバルですらある。

 そんな桐生院家が、なぜ唐突に?それもこのように従者が緊急で伝える判断をしたという事は……。

 

「申し訳ありません執事長、緊急性はございません。にも関わらずこのような形で伝えたのは、私の独断にございます」

「その判断が正しいかどうかは私が判断する。早く言え」

 

 剣呑で緊張した雰囲気を感じ取ったのか、謝罪を含んだ言葉。それを一刀両断して、じいやは続きを促した。

 次の瞬間、彼の思考は一瞬停止する事となる。

 

 

 

 

「面会代表者の名が、チームスピカのサブトレーナーとなっておりました」




 こんな思わせぶりなラストですが、次回に直接的な続きのシーンはありません
 ちな巌さんは葵ちゃんのパパです。凱夏の事が大嫌いです
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