パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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新参「黒い真ゲッター!何アレ!?」
古参「何アレ…知らん……怖…」
原作者「何アレ…知らん……怖…」

ってなったゲッターアーク最新話。もしかしてもしかすると、分岐の果てに「虚無エンドのその先」が見れたりするんですかね…?



あと昨日の件ですが、誤投稿してすみませんでした。


静寂の星、停滞を切り裂いて

 最初に声を掛けてくれたのはエアグルーヴだった。

 

「スズカ。お前、まだチーム決めてないのか」

 

 選抜レースが終わって、ただ好きに走った私を相手に代わる代わる話しかけてくる人、人、人。そこからどんな風に見極めれば、何を基準に選べば良いのか、そもそも選んで良い立場なのかすら分からなくて、結局誰の元にも行けずにいた私。

 一方エアグルーヴはといえば、新入生の頃から素晴らしい記録・成績とカリスマで同学年を率いる立場で、それを見込まれて既にチームに入っていた。あまりにも優秀な彼女を相手に、こんな私が友人として釣り合うのか疑問に思った事もあった。

 そんな彼女は、私を心配してかこんな提案をしてくれたのだ。

 

「ならスズカ。リギルに来ないか」

「えっ…」

 

 リギル。それがエアグルーヴが所属したチームの名前。かの無敗三冠ウマ娘、シンボリルドルフを輩出した東条ハナさん率いる名門。

 ただでさえ入部希望者がいっぱいいるのに、私が入れるのだろうか。入って良いのだろうか?

 そんな不安を抱えた私に、彼女はこう言ってくれた。

 

「同年代で私の道を阻むとするなら、それはお前だろうと私は思っている」

「…えっと、つまり?」

「言わせるな。その…ライバルという事だ」

 

 ライバル。()()を求めてこの学園に来る娘もいるぐらい、私達ウマ娘が走る上で大事な存在。

 あのエアグルーヴが、私なんかの事をそんな風に思っててくれていたなんて。

 

「お前は私の夢を阻むかも知れない、だがお前のような強敵のいない成功を掴んだ所で意味が無い。そんな事ではお母様に並ぶなど程遠い」

「…私で、良いの?」

「お前だからこそ、だよ」

 

 ああ。眩しい。

 あなたがいなければ、私は最初の一歩で躓いていた。

 あなたが照らしてくれたから、私は走る道を歩み出せた。

 

「どうか私の“壁”になってくれ、スズカ。お前の背を追わせてくれ。その度に何度でも、追い抜かし置き去りにしてみせる」

 

 あなたが私の、最初の走る理由になってくれたから…

 

 

 

 

 

 

 

「スズカ」

 

 私の、今がある。

 7月12日、阪神レース場。そこで私は今、ライバルと再び相見えた。

 鮮やかな黄を迸らせたような蒼炎、それを意匠に組み込まれた勝負服。その煌びやかさすら霞ませるような、鮮烈な輝きを宿す彼女が私の前に立っている。

 

「調子は良さそうだな。何よりだ」

「レースで競うのは260日ぶり、になるのかしら。エアグルーヴ」

「…数えていたのか」

「楽しみにしてたから」

「……!」

 

 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をするエアグルーヴ。私、何か変な事言ったかしら?

 

「私と走るのは、その…嫌じゃないのか」

「どうして?ライバルじゃない」

「だが、私はお前を……」

 

 …ああ、そういう事か。

 

 

「ライバルなら、見くびらないで」

「!」

 

 その言葉に、エアグルーヴの目が見開かれる。

 私は、あなたに守られてきただけの私じゃない。

 

「エアグルーヴにはたくさん助けて貰ったわ。ボーッとしがちだった私を導いてくれたし、その事に感謝もしてる。リギルにだって入って良かった…でもターフの上での私は、あなたの夢を阻む壁よ」

「スズカ…」

「だからお願い。申し訳ないだなんて思わないで」

 

 そう言って笑ってみせる。心からの感謝と敬意を込めて。

 

「追いかけてきて。そして追い越してみせて。あなたが昔、そう言ったように」

 

 それを皮切りに背を向け、先にゲートに入る。背後で気配が大きくなったのを感じて、私は安堵した。

 良かった。口下手な私だけど、彼女の助けになれたなら。

 

 私は走る。私を待ってくれている人達の為に。私を信じてくれたトレーナーさんと、そしてあなたの為に。

 

 

〜〜

 

 

 かくして、スタートは切られた。

 あるウマ娘がゲートでプレッシャーに耐え切れずに卒倒し、仕切り直されるというアクシデントこそあったものの、それでも尚集中力に揺らぎの無かったスズカが先頭に躍り出る。エアグルーヴは中段からレース運びを窺う形。

 

(宝塚記念は2200m。スズカが全力を維持出来る距離よりやや長い)

 

 ダービーでのスズカの敗因には、長距離判定ギリギリの2400mを前にスタミナが切れて伸び切らなかった、という側面がある。本来ならそれでも充分セーフティリードだったのだが、1着のウマ娘が足を犠牲にした極限の走りを行った事によってその隙を突かれて敗北に至った。

 ならば、今回においても付け入る隙はそこにある。極度に離されさえしなければ、何かを引き換えにせずとも追いつける。追い越せる筈。

 それに最近のスズカは、レースで中盤から少しだけ抑え気味の傾向が散見されていた。彼女なりに長めの距離に適応しようと模索した結果なのだろうが、ならば付いていくのも難くはない。

 

(置いて行かれるな、だが同時に足を溜めろ。最終直線で、アイツの瞳に女帝の背中を焼き付けろ!)

 

 スズカに引っ張られてハイペースの様相を呈するレース、しかしエアグルーヴに焦りは無かった。

 レースは中盤の後半、第3コーナーに差し掛かっていく。

 

 

 

 

(この位かしら)

 

 

 

 

 スズカが()()()()()()()のは、その時の事。

 

(なっ…)

 

 他のウマ娘は気付かなかったが、エアグルーヴにはすぐ分かった。分からない筈が無かった。

 何故ならその走りは……

 

(リギル時代の走りだと…!?)

 

 身に付かなかった筈の先行策、そのペースと同じ。

 理由は分からないが、スズカはこのタイミングで()()()()()逃げを辞めたのだ。

 

(その走りで苦しんだのは他ならぬお前だろう!)

 

 足を溜める走りで、逆に自らを磨り減らしていたスズカを知っていた。

 タイムが伸びるどころか下がり、焦りに身を窶していくその惨状をエアグルーヴは覚えていた。

 

(私の目を覚まさせる為か?見くびられる屈辱を覚えさせる為か?)

 

 余計なお世話だ、とエアグルーヴは(いか)る。周りのウマ娘に気付かれないよう自らもペースを落とし、距離を詰めながらも足を温存していく。

 太陽を目指すこの身は、舐めた走りで勝たれる程安くはない。

 

(この女帝を挑発した事、必ず後悔させてみせる!!)

 

 第4コーナーを越えて最終直線へ。淀み無く進んだレース運びに、会場の歓声は一際大きくなった。

 ウマ娘達も、それに応えるようにスパートを掛けていった。

 

 

 

(なんでだろう)

 

 そんな中で、スズカの内心はただただ閑か。

 

(どうしてだろう)

 

 後ろからその存在感を増してくる足音を受けて尚、疑問だけが脳裏に過ぎる。

 

(抑えて走ったのに、どうして……)

 

 ただただ、己に問いかけた。

 

 

 

 

 

(私だけの景色が見えるの?)

 

 瞬間。

 静寂が会場に鳴り響く。

 

「えっーーー!?」

 

 そう嘆いたのは、2番手に()けていたウマ娘。徹底マークはせずとも彼女なりにスズカを研究し、プレッシャーを掛けていた少女だった。

 彼女は、自分の行いが無意味であった事を悟る。

 

 

 サイレンススズカ、急加速。

 

 

(何だと…!)

 

 バカな。あの走りをしたスズカは伸びなかった筈なのに。どうして。

 そんな狼狽を置き去りにするように、いや実際に置き去りにする形で距離が開いていく。

 スズカが、エアグルーヴを超えていく。

 

(…そうか)

 

 驚愕に苛まれる思念の中で、どこか穏やかな気分でエアグルーヴは理解した。

 

(スズカ、お前は本当に強くなったんだな)

 

 私のライバルとして。いや、もう私の方が相応しくないんじゃないかと思う程に。

 先頭に見える背中は、もう出会った頃に寂しさを湛えていた弱々しい物ではない。

 

(舐めた走りなんかじゃない。お前は息入れをモノにしてたんだ。ただただこのレースに真摯に、勝つ為に向き合ってたんだ)

 

 先行の時と同じ走りをしたのは、スパートに向けて余力を残す為。逃げを捨てた訳ではなく、さらに逃げを重ねる為の布石だった訳だ。

 その為に、悪しき過去も踏み台にしてみせた。

 

(それに比べて私はどうだ)

 

 過去に囚われ、今に悔いを残し、レース直前まで引きずっていた。レース中だって、自分の走りよりもスズカの走りを気にしていた。

 情けない。おハナさんにも、会長にも、母上にも顔向け出来たモノではない。

 

「すっげぇな。今回の主役はアイツか」

 

 そんな声が前を走る黒いウマ娘から聞こえて来て、頷くように俯いた。

 嗚呼そうだ、彼女こそがーーー

 

 

 

 

 それで良いのか?

 

 

 

「良い訳無いだろォ!!!」

 

 自問自答の末に、蒼炎が炸裂した。燃え盛るような末脚が火を吹き、外から馬群を撫で切っていく。

 

(スズカの事は喜ばしいさ!だがコレは誰のレースだ?他ならない私のレースだろうが!!)

 

 腑抜けるな。約束を忘れるな。

 女帝になりたいのなら。

 スズカのライバルでありたいのなら。

 皇帝と比肩するに相応しい、そんな存在でありたいのなら。

 

「スズカァァァァッ!!!」

 

 裂帛の気合いで吠える、叫ぶ、足掻く。それに応えた足が、開くばかりだった差を詰めていく。

 ーーーだが。

 

『サイレンススズカだ!』

「くっ…!」

 

 第三者視点である実況が現実を告げた。もう間に合わない。逃亡者を異次元のその先へ放してしまった。

 だが、それでも。

 

(待っていろ、スズカ)

 

 いつか私は、必ず。

 

(“女帝”足り得る私となって、追いついてみせる…!)

 

 この悔しさを踏み抜いて、走り出してみせる。

 エアグルーヴは、そう誓ったのだった。

 

 

 

〜〜

 

 

 

 初めてのGⅠ勝利。多くのウマ娘が目指して、でも掴み取れずに涙を飲む栄光。

 でも、ゴールした私を包んでいたのはそれじゃなかった。

 

「ーーー気持ち良かった」

 

 やっと分かった。私には逃げ策が合ってるんじゃない。1番()()のが逃げ、というだけだったんだ。

 

「…エアグルーヴに、やっと勝てた」

 

 こだわる必要なんて、無かった。そのお陰で、憧れのライバルになれた。

 ……やっと、活かせた。

 

「凱夏さん…」

 

 彼が教えてくれた先行策。ずっと付きっきりでペースを教えてくれて、抑え方を教えてくれて、だからこそ応えたかった。でも応えられなかった。その事につい最近までとらわれて、未練がましくも忘れないように練習してた。

 テイオーさんとマックイーンさんとの模擬走の時だってそうだ。そろそろ身に付いていて欲しくて、だから試した。でも案の定末脚が出なくて、本当に悲しかった。結果的にテイオーさん達にも失礼をしてしまって、自己嫌悪に陥ったりもした。

 

 

 でも、トレーナーさんが。

 西崎さんが、こんな私を活かしてくれた。

 

 

『最初はいつも通り自由に走れ。それで後続から突き放せたと思ったら、先行のペースを思い出すんだ』

 

 宝塚記念の2日前。私の秘密の自主練の事を知っていた西崎さんは、そんな提案で私を青天の霹靂に陥らせた。

 

『で、でも。あの走りをすると…私は……』

『分かってる。でも、大丈夫だと思うんだ俺は』

『大丈夫、とは?』

『スズカは先頭で風を切りたいんだろ』

 

 自覚すらしていなかった心の奥底を、意図も容易く切り裂かれて暴かれた気がした。

 

『スズカ。多分お前は、厳密には逃げが合ってるんじゃない。ただひたすらに“走る”事に特化してるんだよ』

『ただ、走る……』

『あぁ。勿論“最高速で”っていう注釈が付いてる感じはあるが…先陣を切ってれば、きっと短時間の先行ペース維持なら()()()()()。その時間で整えられれば、2200m級レースの最終直線で、それこそ“最高速で風を切る”走りが出来るだろう』

 

 精密な分析眼で、隅々まであけすけに暴かれる感覚。それに瞠目する私の方に手を置いて、彼は笑いかけてくれた。

 

『凱夏君はきっと、成功させたらビビると思うぜ』

『ビビる…ですか?』

『アイツは逃げのスズカに夢を見て、逃げを奪った自分を憎んでたよ。そして、スズカの先行策を完全に諦めてる』

 

 西崎さんから告げられた彼の現況に、私はとても悲しくなった。私の事で、彼を苛みたくなかった。

 そして同時に、ふつふつと湧き上がる“見返したい”という気持ち。

 見限らないで。見くびらないで。私はそんな所で終わるウマ娘じゃない。

 

『…やります。やらせて下さい』

『そうこなくっちゃ…と言い出しといてなんだけど、コレは無理だと思ったらやめて良いからな?お前が気持ちよく走れるのを優先してくれ』

 

 ここに来て、前言を撤回するような尻込みを見せる西崎さん。でも、その真意は分かっている。

 この提案は、私と凱夏さんの2人の為を想って為された物なんだと。

 

『ありがとうございます』

 

 だから、後は私の番だ。

 

 

 

 そう思って臨んだ今日。全てがあの人の言う通りで、だからこそ嬉しい。

 

「…トレーナーさん」

 

 呟く。

 

「……西崎さん」

 

 その度に、胸の奥が熱くなる。

 感極まって観客席を見れば、最前列に見慣れた仲間達の手を振る姿が見えた。その後ろに、見慣れた黄色い袖の影と白い髪を靡かせる影。

 私のトレーナーさん達。大好きな人と、応えたかった人。どんな表情を浮かべてるのか、ここからじゃ見えない。

 思いのままに近寄ろうとして、ある声を聞いて立ち止まった。

 

 

「サイレンススズカー!!」

 

 

 あぁ、この声は。

 私を最初に追いかけてくれた、あの娘の声だ。

 観客席のどこにいるかは分からない。でも確かにここにいる。ここに来て、私の走りを見てくれている。

 なら、まず私がやるべき事は。

 

「…!」

 

 ウィナーズサークルに立ち、観客席へ手を振った。その瞬間、膨大な歓声が溢れ返って私の耳を叩いた。

 この中に、あの娘の声もあるのかしら。あると良いな。私のこの走りが、()()()()()()()あの娘の励みになっているのなら。

 

 そう願って、私は手を振り続けたのだった。

この状況でもCP迷ってる

  • このままスピカトレーナー×ススズでいけ
  • おハナさんが可哀想だからスピトレ×ハナ
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