パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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 申し遅れましたが、この過去編はウマ娘要素が極薄となります

 あと、そこそこ執筆ペース戻りました。ここからストックを溜め直していく所存


最優新星と底辺寸前

 幼い頃から「斯くあるべし」と育てられて来ました。

 当たり前です。私は桐生院なのですから。

 

 遊ぶ間を惜しんで勉学に費やし、常に成績はトップを納めて来ました。

 当たり前です。私は桐生院なのですから。

 

 昔からウマ娘について学び、レースを見、歴史を調べ、成り立ちを調べ、ひたすらに頭に叩き込んで生きて来ました。

 当たり前です。私は桐生院なのですから。

 

 決して不幸ではありませんでした。

 やり甲斐がありました。

 結果も裏切りませんでした。

 憧れの夢への最短ルートを直進出来ている自覚がありました。

 嬉しかった。

 

 

 …嗚呼、でも。

 知らなかった。

 “桐生院”が及ばない所で。

 “葵”は、こんなにも脆かったなんて。

 

 

 

〜〜

 

 

 

「じゃあ凱夏さん、僕はここら辺で」

「おう、サンキューな」

 

 南坂はそれを最後に階段を降りていった。時刻は午後7時、既に今日の講義は終わっている。

 なのに何故凱夏が未だ校舎をうろついているのかというと、一重に彼の成績が芳しくないからだった。

 

「追加課題ダリぃ〜…」

 

 独りごちながら、いつも通り伽藍堂の教室へ。自分が1番集中できる特等席に陣取るべく、彼はその扉を開けた。

 が、彼の目論見は即頓挫する事になる。

 

「…お?」

 

 彼の特等席に先客がいた。黒の長髪を後ろに束ね、一心不乱に目の前の紙へ何かを書き込んでいる。

 少し覗き込めば、それだけで視認可能な隈。恐らく2日は寝てない。

 

(…こんな奴、同級にいたっけな)

 

 顔つきもこんな必死さも初めて見る。少なくとも自分の同学年や先輩ではあるまい。

 …と、そこまで判断した凱夏は席を一つ空けて隣に座った。相手がこちらに用が無いのならこちらも用は無い。

 お互いがお互いの相手と向かい合い、時間が過ぎ去っていく。

 

(やっべぇ、ここの禁則事項を忘れてるわ俺。復習が足りなかったか?)

 

 ここで凱夏が躓いた、その時の事だった。完全下校のチャイムが教室に鳴り響いたのは。

 電子的な鐘の音に、凱夏は渋々席を立つ。課題は明日に回さなければならなそうだ。

 

(っと、鍵どうするかな)

 

 荷物を纏めながらそう思いつき、横を見れば未だ席から離れようとしない女学生。ルールでは最後に教室を出る生徒が鍵を閉める事になっているのだが。

 

「オイ。もう下校時間だぞ」

「…」

「……おーい?」

 

 おかしい。幾ら何でも、呼びかけて返事が無いのは些か異常事態だ。そう思って、凱夏は彼女の顔を覗き込んで驚愕する事になる。

 

 

 半分気絶していた。

 “半分”と言ったのは、それでもなおペンを動かす指が止まっていなかったからだ。俯き光を映さない瞳で、しかもその半分ほどを目蓋で閉ざされながらも文字の羅列を読み取り、それを反射的に己の学識へと反映した上で指先にインプットする機械的作業。

 まるで、工場のロボットのように無機的だった。だが明らかに限界を超えた極限状態だった。

 

「はぁ」

 

 人間にあるまじき挙動を続行する目の前の存在に対し、凱夏はドン引きするでも恐れるでもなく嘆息を吐く。そうして彼は、そっと彼女の肩を叩く事にした。

 トントン、という軽い衝撃。それで漸くロボットは止まる。

 

「…あれ…私、何を……」

「下校時間だよ。鍵閉めるから早よ出ろ」

「…あぁ…ありがとうございます」

 

 チャイムすら聞こえていなかったのか、という凱夏の内心に目も向けないまま、彼女は筆箱に手を伸ばしーーー誤って机から落とす。

 

「あっ…すみませ」

 

 掴み取ろうとして、しかしまたも損ねて散らばる鉛筆。彼女の目は、もう既に焦点が合っていなかった。

 

「あ、れ、」

 

 視界がグニャリと歪む。中途半端に立ち上がっていた膝が崩れて、尻餅をつくように倒れていく。

 そのまま、桐生院葵は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めた時、網膜が映したのは医務室の天井。ベッドに寝かされた自分を自覚し、しかし起き上がる力が出ない。

 

「そっか、私倒れちゃって……」

 

 という事は、私をここに連れて来てくれたのは最後に見た白髪の彼だろうか。そんな事を考えながら、葵は再び目を瞑る。

 考える事は山積みだった。これからの勉強、恐らく間に合わない()()()()()()、運んでくれた青年への返礼。

 それらに頭を悩ませながら、しかし蓄積疲労の再襲撃によって再び彼女は気を失うのだった。

 

 

〜〜

 

 

「桐生院葵ぃ?」

「うん。知らなかったのかい?」

「名前だけは知ってたけど、まさか昨日の奴がソイツだとは毛程にも」

 

 騒がしい廊下を抜けて、凱夏と南坂が教室に入る。どの学生も同じ噂で持ちきりだった。

 “期待の新星”“桐生院の姫”“トレーナー史上最優の天才”……そんな二つ名を持つ生徒が倒れた、と。

 もちろん、それに明らかに該当する存在を凱夏は現場で目の当たりにしてる訳で、聞いた瞬間にだいたい察したのである。

 

「で、どんな風に期待の新星でどんな風に最優の天才だったんだっけか」

「五ヶ国語を自由自在、理系科目も万全で常にトップ成績。肝心のトレーナー知識だって試験でぶっちぎりのトップ成績を叩き出して満を辞して主席、一人で勉学が進み過ぎてるから飛び級予定。おまけに桐生院家の出と来た。噂の中心にならない方がおかしいし、どっちかと言うと僕は君が彼女を知らなかった事の方がビックリだよ」

「悪ぅござんしたね、他人に興味が無くて。こちとら成績を取り返すのに必死なんだ」

「……まぁ、倒れた桐生院さんを救ったのがそんな君で良かったのかもね」

 

 1時限目の支度を進めながらボヤき合う2人。やがてチャイムが鳴り、講師が教壇に上がる。

 

「さぁて、今日もチンプンカンプン座学の始まりだぁ」

「自分で言っちゃうのか……」

 

 自虐めいたその言葉に、そして平時と全く変わらない友人の態度に、南坂は呆れると同時に親しみを覚えるのだった。

 

 

 

 

 3時限目後の休憩時間に、桐生院葵が遅れて登校した。またプチ騒ぎになったが、抜き打ちテストで酷い点数を取った凱夏はそれどころじゃなかった。

 そしてその日の昼休憩に、凱夏はまた彼女と相見える事になる。




 当時、凱夏の成績は赤点寸前が常
 南坂君がいなかったら留年不可避です
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