パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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 スランプ中にやっとの思いで書き上げた1話。正直クオリティを保証出来ない
 許してくれ……代わりにストックは割と増えたから…(現状5話分)


悪い人ですね

「なぁなぁ葵ちゃん。ちょっと話あんだけどさ」

 

 快復して、登校して、4限目を受けて。そして同級生3人に呼び出されて、連れられたのは屋上。

 

「何で、しょうか」

「いやさ、頼んでた課題だけどさ。いつ出来んの?」

 

 しまった、という表情が顔に出たのだろう。目の前の()()は顔を顰めてしまう。

 

「提出明日でしょ?葵ちゃんだけが頼りなんだよ、分かるでしょ」

「…はい」

 

 私のその返答に満足して()()()のか、3人は柔らかく微笑んでくれた。笑みを掛けられたなら返さなくちゃ。今私は、上手に口角を上げられているだろうか。

 

「なら良かった!」

「じゃあよろしくね〜」

「サンキュー桐生院ちゃん!!」

 

 それだけ言って、後は3人で談笑しながら去っていく皆さん。その内容は聞き取れず、私は目で追うしか無い。

 この生活を続ければ、いつか私もあの輪に入れるのだろうか?

 

「…はあ」

 

 何にせよ、やる事は山積みだ。昨日書き損ねた、私自身の分を含む4人分のレポートを書き上げた上でプレゼン資料まで完成させなきゃいけない。今日中に。

 昨日倒れなければ、少なく見積もっても7割方は終わっていた算段だったのに……

 

「……はぁ」

 

 駄目だ。溜息が止まらない。本当ならこの時間も内容を考えなきゃいけないのに、空腹で頭が回ってくれない。

 そして、同時に食欲が湧かないのも難題だった。

 

「………」

 

 座り込み、持ち寄ってきた自分のPCを開く。昼食を取らないのなら、その時間もせめて有効活用したい。

 だからだろうか。課題に集中していたからこそ、私は彼の接近に気付けなかった。

 

「あっ先客いたか」

 

 どこかで聞いた声。それに目を開けば、階段の所から出てきた見覚えのある顔。

 あぁそうだ、この人は…

 

「昨日の人……」

「覚えてたのか?いや、邪魔したならすまなんだな」

「いえ…こちらこそ、昨日はありがとうございました」

 

 こんな状況でなんだが、まずは礼儀を弁えなければ。立ち眩みを起こしそうなので立ち上がれないが、座ったままで礼をする。

 しかし、彼は私のそんな所作がどうにも気に入らなかったようで。

 

「…ふぅん」

「あっ、すみません。座りながらは失礼でしたね」

「いや待て待て。別に他人の動作に一々ケチつけねぇよマナー講師じゃあるまいし」

 

 と思ったら違ったようだった。何やら時計と私を見比べ、そしてどこか納得したように手を打つ彼。

 

「昼飯は良いのか?」

「…ちょっと、食欲が無いので」

「じゃ、俺も同じだ」

「え?」

 

 そのまま、私から人2人分程スペースを空けて座り込む。

 

「いや、本当にそのままの意味で俺も昼飯サボったんだよ。仮眠すっから気にせず自分の事続けて」

「気にするなって言われましても」

「んじゃ同じくおやすみ」

「ちょっ」

 

 そのまま目を閉じてしまい、私はひたすらに狼狽するばかり。しかし今更立つ気力も湧かず、仕方なくそのまま作業を続行した。

 

 

 

 

 そして、10分が経過。

 レポートが進む。思ったより滞る事も無く、集中力も乱れぬまま。

 

(もっと気が散っちゃうかと思った)

 

 いや、実際そう考えている時点で散っているのかも知れないが、それを込みにしても殆ど気にならないまま作業を行えている。このレポートだって、もうノルマの4人分の内3人目だ。

 なんというか、隣から気配というか存在感が感じられない。チラリと一瞬目をやれば、そこには確かに目を閉じた彼が座しているというのに。

 

 そのまま、手を止めずに続けて更に後。

 

「おーい」

「ひゃいっ!?」

 

 沈黙したままだった筈の彼から発せられた声に体が過剰反応。名家の令嬢にあるまじき失態を晒して顔が熱くなる。

 

「な、なんでしょうか…」

「いや、もう昼休み終わる頃合いだからさ。俺は次の講義あるから戻るけど、お前はどうすんのかなって」

 

 その言葉に腕時計を見れば、もうすぐ予鈴がなる頃合い。驚いた、もうそんなに時間が経っていたなんて。

 

「教えてくれてありがとうございます。私も次の講義があるのでもう行きます」

「ん、それじゃお先に失礼。あと…」

 

 立ち上がっての去り際に、彼は何かを言おうと立ち止まる。が、そこから続く言葉は無い。

 

「…何でしょうか?」

「……まぁ、なんだ。良い友達見つけろよな」

 

 何か窮した様子で、彼はそう言い残して屋上を去っていったのだった。

 

 

 

 その日の放課後も、彼にまた会った。

 場所は太陽も沈んだ頃の空き教室。つまり最初に出会った場所で、最初に出会った時と同じように居残り同士。

 然りとて特に会話は無く、後から来た彼が私の又隣の席に座って黙々と勉強。お互いに邪魔をする事も干渉する事も無いまま、下校時間になって漸く

 

「鍵閉めるぞ」

「ありがとうございます」

 

と言葉を交わしただけ。

 その日、私はなんの邪魔も入らなかった事でレポートを完遂。友達3人に渡して事なきを得た。良かった、これで見捨てられずに済む。また任された次の課題についても頑張らなきゃ。

 

 彼とはその次の日、また昼に会ったらしい。また前と同じように昼休憩の屋上で。ここ数日の疲れを癒す仮眠の場所にそこを選ぶ辺り、私も無意識に彼と会う事を望んでいたのかも知れない。

 ちなみに“らしい”と付け加えたのは、予鈴で目覚めた私の膝に被った覚えの無い毛布が掛けられていたから。その上にあった置き手紙に「次の休みに取りに来るから置いといて」と、なんとなく彼の雰囲気がする文調で書いてあったから。同日の放課後にお礼を告げて、その後はまたお互い黙って自主勉強。

 そんな風に、昼休みと放課後に会うのが通例になって1ヶ月。学期末が控え、それに応じた最終課題を友人達から任された季節。

 彼と過ごす時間に対する心地よさを自覚し始め、そして恐らく「近くにいても問題無い」から「近くにいてもらった方が調子が良い」に感覚が変わってきた頃合いの事だった。

 

 

「なんでお前、他の奴の課題までやってんの?」

「へ?」

 

 踏み込んで来たのは、彼から。

 

「いやだって、お前成績良いだろ。居残りする必要なんて無い筈だし、自分以外の奴の分までこなしてるとしか思えん。さっきから同じ内容のプリント何枚も取り出しては(めく)ってるしさ」

「いや、だって…友達ですし」

「……友達、ねぇ」

 

 思った事を素直に口にすると、また彼は顔を顰める。何か不味い事を言ってしまっただろうか…と思案したその時、

 

「多分舐められてるんだぞ、それ」

「…え?」

 

 飛んできた思いもよらない言葉に、私の頭は真っ白になった。

 

「俺みたいな落ちこぼれならともかく、お前みたいな噂になるレベルの優等生がてんてこ舞いになるレベルの課題なんて出てねぇ。なのに明らかにオーバーワークになってるのは他の奴の分まで押し付けられてるからだ、違うか?」

「いや…だって、友達ですし」

 

 おかしい。友達は困った友達を助けるというものじゃないのか。そう聞いていた筈だ。

 

「複数人掛かりで仕事押し付ける友達とか聞いた事無ぇわ。パシリって言うんだぞそれ」

「で、でもいつか助け返してくれる……」

「いつかって、いつの話だ?いずれにせよ“今”対等じゃない以上はな」

「違う…違う……!」

 

 違うんです。あの人達はここに来て初めて話しかけてくれた人達なんです。外の世界を知らなかった私に、初めて外から近寄って来てくれた人達なんです。

 だから、恩を返さなきゃ。私が頑張って初めて対等なんだ。

 

「初めての友達なんです…!」

 

 嫌だ。初めて得た繋がりを壊したくない。都合の良い駒で良いから離さないで欲しい。

 その一心で私は耳を塞ぎ、机に突っ伏した。それで何が解決する訳でもないと、分かっておきながら。

 

 そんな私の醜態を見て、彼は。

 

 

「しょうがねぇなぁ」

 

 私と向かい合うように、前の席に座り直してきたのだった。

 

「…何ですか」

「手伝ってやるっつってんだよ。この部分は去年やったとこだし、俺程度の頭脳でも足しにはなるだろう」

 

 意図が分からない、と困惑する私。それに対して彼は呆れるように苦笑して嘯く。

 

「結局俺も、お前の友達と一緒って事さね。手伝う代わりに、俺の勉学にも一役買ってもらうぜ」

「でも私、まだ貴方が学んでる分野の域に進んでないかと…」

「一緒に問題文見てくれるだけで良いよ。ま、来年以降に向けての軽い予習だと考えてくれや」

 

 そう言うや否や、私の手元から引ったくるように資料を取って読み込んでいく彼。流されるまま私も作業を続けたのは、きっと課題進行に行き詰まって助けを求めていたから……だけでは、多分ない。

 きっと、1人で何かをする孤独に耐えきれなかったのだ。

 

「ここ、ちょっと仮定の詰め方が甘い。あの教授厳しいから穿り返されるぜ?」

「成る程。では三国志演義における呂布と赤兎の関係を引用して根拠を裏付けるという形で」

「すぐにそれが出てくるあたり流石というかなんというか。えーと、確かこの参考書に載ってたかな赤兎」

「ありがとうございます、お借りします」

 

 彼の的確なサポートのお陰で、一層スムーズにこなされていくレポート。その日の目標はすぐに達成され、久しぶりに早く帰って眠れた。快眠と胸を張って言えるのは、何ヶ月ぶりだろうか?

 その次の日も昼に屋上で彼と出会い、打ち合わせの後に放課後で合流し課題。丁寧な事に彼は自分のPCまで持参してくれて、その助力もあって本当に快適に事を為せた。昨日のお礼も兼ねて実家から送られていた茶菓子を渡したが、「高過ぎて草」と渋い表情で返されたのが少し心残りだった。

 この2日で予想以上に課題が進んだので、その次の日には今度は彼の勉強の手伝い。1年進んだ範囲で彼は躓いていたようだったが、私が入学前に家で学んでいた知識の応用で充分対応出来た。それを基に説明すれば、彼もまたすぐに理解してくれたので此方も滞りなく。

 期末テスト期間中までお互いを助け合い、迎えた課題締め切りの金曜日。私は、机に突っ伏した状態で目を覚ました。

 

「ぁぇ…?」

「おはようさん。久しぶりに睡眠不足らしい挙動をしたな」

 

 朦朧とする視界で声の出所を見上げると、そこには此方を見下ろす彼のニヤケ顔。その右手には十数枚の紙束が握られている。

 ああ、そうだ。確か私達はレポートを書き上げて、その安心感で私は……

 

「お疲れのようだったから、レポート印刷してきたよ。チェックしたけどミスも印刷漏れも無し、これを提出すれば(しま)いだ」

「えっ…あ、すすすみません!」

「良いよ別に。こっちだって助けてもらったお陰で留年免れたしな」

 

 朗らかに微笑みかけてくる彼へと、随分と助けてもらった恩を胸に、せめてもの思いで私は頭を下げる。確かに私もある程度は返せたつもりだが、受けた物に比べれば大した事はない。

 ずっと寂しかった。でも、この1ヶ月はそうじゃなかった。久しぶりに勉学へのモチベーションが上がり、快く机に臨めた。それもこれも彼のおかげだ。

 

「じゃあ、後はこのレポートを提出箱にブチ込んで終了だな。今学期もお疲れ様だぁ」

「えぇ、本当にありがとうございました」

「おう。それじゃまた月曜日にな」

「…えっ…」

 

 ふと彼の口から出た言葉に、一瞬呆気にとられてしまった。

 そうだ、彼との交流は別にこの学期までとかそういう縛りは無い。これからも続いていくんだ。

 その事を知覚すると、何故か無性に嬉しくなって笑みが溢れた。そんな私の有様は、彼の目にはどう映っていただろうか。

 

「……どした?」

「…あ、いえ!ではまた今度!」

 

 それでも、別れ際のこの笑いは心からの物だった筈だ。彼にも伝わっていると信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、待ちわびた月曜日に問題は起こる。

 

 

「葵ちゃんさ、何してんの?」

 

 いつかの日と同じように、屋上のフェンスを背に友人達に囲まれる。彼らの顔は、皆一様に顰められていて恐ろしい。

 

「何、って」

「俺らの分のレポート提出してないでしょ」

 

 そんな筈はない。確かにこの手で提出ボックスに入れたのを覚えている。

 にも関わらず、彼らに突きつけられたスマホの画面ーーー先生から彼らに送られたメール画面には。

 

「『君達のグループでは桐生院さん以外のメンバーからの提出がありません。未提出者は理由の説明を求めると同時に各自明日までに再提出をお願いします』だってさ」

「なに自分だけ課題済ませてんの?俺達、書いてって頼んだよね?」

「う、そ……」

 

 訳が分からない。考えられるとしたら先生が何かを取り違えた可能性しか無い。レポートにはちゃんとそれぞれのメンバーの名前を入力した覚えがあるし、他の可能性なんて……

 

 

 

 いや。

 まさか。

 

 

 

ピコンッ

 

 

 そんな微かな音に、私たち4人は音源に目を向けた。

 彼が、スマホを手に立っていた。

 

 

「撮っちゃっ…たぁ!」

『俺らの分のレポート提出してないでしょ』

『なに自分だけ課題済ませてんの?俺達、書いてって頼んだよね?』

 

 

 心底愉快そうに笑うその顔は、前に見せた優しい微笑みなんて欠片も思わせない好戦性に満ちていて。

 そして流された音声に、友人だった人が怒り狂う。

 

「てめっ…!」

「っと。暴力沙汰起こしたらそれこそ詰みだぜ?」

「るせぇ、携帯よこせ!!」

「データ消すんだよ!早く!」

「そうもいかんさ」

 

 3人掛かりで掴みかかってきた手を躱し、軽やかな身のこなしでするりとフェンスの上によじ登る彼。一歩間違えたら地面まで真っ逆さま、でも焦りは全く見えない。

 

「何も告発しようって訳じゃないんだ。そうカッカなさるなよ閣下一同」

「やかましいわ!そうか、お前が葵ちゃんとグルだな!?唆して裏切ったんだ!」

「ま、そんな所だ」

 

 違う、と叫びたかった。私は貴方達を裏切ってなんかない。

 でも声が出ない。あまりの衝撃に、体の至る所から力が抜けてへたり込む事しか出来ない。

 

 彼からスマホを奪おうとして、でもフェンスの上には手が届かず。かと言って登る勇気も無く、下で騒ぐ友人達は次第にその活力を無くしていく。それを見計らって、ようやく彼は議題を切り出したのだった。

 

「なんにせよ、お前らに時間なんてあるまい。こんな所で油売ってて、明日の再提出に間に合うのか?」

「だったらデータ消せ!早く!!」

「そのための取引だよ」

 

 そう言って彼が口にしたのは、私が最も嫌がる事。

 

「桐生院に二度と擦り寄んな。それを守ってる内はこのデータは表にゃ打さん」

 

 やめて、と言いたかった。私の居場所を奪わないで、と。

 でもまだ、力は喉に灯らない。

 

 その後も、彼と友人達の口論は続いたが……結局、友人達は彼を説き伏せる事は叶わなかったようだった。苦し紛れに柵を蹴って、渋々とばかりの姿勢で階段へ向かう。

 その背中越しに、振り向いた顔と視線があった。

 

「ぁ…」

「上級国民が偉そうに」

「っ!!」

 

 最後に聞こえたその声が、私を根底から揺るがす。絶望の底へと突き落とし、全身の力という力を失わせる。

 分かってしまった。今この瞬間に、私と友人達を繋ぐ物は瓦解したのだ。

 

「最初から友達なんかじゃなかったんだよ、お前ら」

 

 そんな私の最後の逃げ道すら断つように、いつの間にかフェンスから降りていた彼は言い放った。

 

「最初に俺とお前がここで会った時からそうだ。あの時アイツらと俺は階段ですれ違ったんだけど、その時もお前を見下す発言ばっかしてたぞ?『都合の良いお嬢様』ってな」

「…うそ」

「ホントさ。誠に残念な事に」

 

 信じたくない、と願う度に先程の言葉が脳内を木霊する。あの捨て去るように吐かれた怨嗟には、無視出来ない蔑みが込められていた。それが頭に焼き付いて、離れてくれない。

 でも。

 

「先輩」

 

 それ以前に、確かめなきゃいけない事がある。

 

「ん、どした?」

「先輩」

 

 えずきそうになる腹を抑えてでも、問わなきゃいけない事がある。

 

 

「レポートの記名欄、は……」

「ああ。全部お前の名前に書き直しといたよ」

 

 ああ、やっぱり。

 信じていた。彼なら変な事はしないと信じていた。だから、最後のチェックを疎かにした。

 いや。もしかすると、チェックをしないように誘導されてもいたのか?もうそれすらも分からない。心労からぶり返した寝不足も相まって、ボヤける思考が纏まってくれない。

 

「当たり前だろ。4種類全部、お前が書いたお前の功績(レポート)なんだから」

「でも、その所為で…!」

 

 私は。

 私はまた。

 

「一人ぼっちです……!!」

 

 居場所が消えた。

 家の外で、初めて“葵”が作った場所だったのに。

 作れた()()()で居られた、初めての関係だったのに。

 実際はどうだったかなんて、この際はもう関係無かった。友人達が私の桐生院としての威光を目的に集っていたとしても、私はそれを(私個人)の物だと信じていたかった。

 そうじゃないなんて、気付かされたくなかったのに。

 

「もう、友達はいない…っ」

 

 滲む視界を、幾ら手で拭っても水が溢れてくる。

 “葵”は無価値だと証明されてしまった今、私に出来る事なんてもう無いんだ。

 吐き捨てるように嘆いて、私は這いつくばる。そんな惨めな姿を見下ろして、彼は。

 

 

「じゃ、俺が今からお前の“友達”な」

「!」

 

 丁寧にも私のそばでしゃがみ込んで、そう言い放った。

 

「貴方、が…?」

「あーそうだ。傍にいても気分を害さない、お互いの役に立つ、今の所助け合えてる。うん、お前の友達条件にも適合してるだろ」

「でも、私なんて…」

「でももディモクラシーも無ぇよ。なんなら新しい友達が見つかるまでの間に合わせで良いさ」

 

 もっと言うと、と一言置いて彼はさらに言の葉を紡いだ。私を誘い引き摺り込む、麻薬のような甘い優しさで。

 

「もうそこそこ長い付き合いなんだ。既に俺たちは友達同士なんだと思うぜ、お前が勝手に設けてる条件なんて関係無く自然にな」

 

 だからさ、と彼は此方に手を差し出した。その手に対し、私は。

 

「……悪い人、ですね」

 

 苦し紛れな呟き。彼の目が、こちらを窺うように苦笑で歪む。

 

「私を孤立させて…その上で自分だけ寄ってきて。拒絶する選択肢なんて実質無いじゃないですか」

「何言ってんだ、成人もしてないクセに他の道全部絶たれたつもりか?そういうのはせめて三十路過ぎてから言え」

「だったらその“他の道”とやらを示して下さいよ、今ここで」

「まず俺の手を振り払って教員室に駆け込む。そこであった聞いた事を全部ブチ撒けて、天下の桐生院の娘を陥れようとした俺たち不埒者を全員退学にする。お前は周りから同情を買うだろうから、その中から気に入った奴に声をかけて親交を深める。簡単だろ?」

「…はぁ」

 

 それが出来たら苦労はしない、という言葉の代わりにため息が出た。それもこれも、私がコミュニケーション下手である事が発端だから何も反論する権利が無い。

 

 そして何より、私に彼を陥れ返す意思なんて最初から無いのだ。

 

「先輩、そういえばお名前は?」

 

 こんなに助けてもらっておいて、情が湧かない訳が無かったのに。

 

「牧路凱夏、だ」

 

 手を取り、立ち上がる。

 

「ではよろしくお願いします、牧路先輩」

「おう、楽しくやろうぜ。桐生院」

 

 

 

 

 疲れた頭で孤独を拒絶し、考え無しに結んだ絆。

 これが、私にとってかけがえの無い大切な物になるだなんて、この時は思ってもみなかった。




 この章が終わったら更新頻度を3日に1回、時刻を12:00から20:00頃に一回変えようと思います
 まだ厳密には決めてないし変わらないままで行く場合もあるけど
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