パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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アオハル杯編は主人公がテイオーだけになった頃合いに組み込もうかと思慮中

ちなみに樫本代理と梁暮先生をキャラ被りみたいに感じられた方もいるかも知れませんが、まったくの偶然ですし作者としては別種の悩みを抱えた完全な別キャラとして捉えております。樫本代理はデータに裏付けられた効率的な管理トレーニング方式で時代について行けますけど梁暮先生はおでかけ無考慮のトレーニング以外度外視な旧時代方式に囚われてますし


クソ面倒な休日

「“コレ”じゃん」

 

 話を聞いた西崎は小指を立てた。

 

「違います(即答)」

「いやいやいや、やっぱりデキてんじゃん凱夏くぅん!責任取ってあげなって、なぁぁぁ?」

「そうですよぉ!私のモノになってくだしゃいいいい!!」

「えぇいこの酔っ払いどもが!葵お前正気に戻れ!!せめて素面(シラフ)になってから考え直せ!!!」

 

 纏わり付く酒客×2を相手に凱夏は四苦八苦。そうしている間に、東条ハナは1人チビチビと酒を飲む南坂へと接触する。

 

「ねぇ南坂君。ちょっと質問なんだけど」

「アハハ、なんですかぁ」

「もしかしてだけど、葵ちゃんって牧路くん相手に何かやらかしたりした事ある?」

「自宅豪邸で開かれた自分の成人を祝う社交界に連れ込んで、無意識のまま外堀を埋めようとした事がありましたねぇ。巌氏も巻き込んで、アレは本当に面白かったですよアハハハ〜」

 

 ハナは眉間に手を当てた。なるほど、連絡網を捨てて逃げる訳である。葵の暴走時における対策も考えなくては、とハナは苦心の憂き目に陥った。

 

「ええい逃げだ!俺は逃げるぞ!全ての逃げウマよ、俺に力を貸してくれぇぇぇ!!」

「逃しませんよ、追えぇ!」

「ぉぇぇぇぇぇ」

「リョウ君んん!?」

「あーもう滅茶苦茶ですよ」

 

 思い出話もそこそこに盛り上がるトレーナー談義……談義?談義、うん。

 来る夏に向けて、彼らもまた英気を養うのだった。

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

 

 気が付くと上級国民の空間にいた。

 何を言ってるか分からない?安心しろ、俺にも分からん。

 

「えーと…?」

「安心して下さい、凱夏先輩。私が大体済ませますから」

 

 隣から葵の声。見れば、それはそれは淑やかなドレスを着飾った見目麗しい姿で、俺の手を引き高貴な人混みをかき分けていく。。

 あっそうか。コレ、()()()()()か。

 

「俺、殺されたりしてな」

「なんでですか?私を祝う会に、個人的な友人を呼んだだけですよ。市井の人達だって、自分の誕生日パーティに友達を呼ぶと聞きますし大丈夫ですよダイジョーブ」

 

 記憶をなぞるように発言すれば、帰って来たのは想定通りの言葉。うん、やはり。

 そうして辿り着いたのは、ガードマンに囲まれた初老の男性。

 

「お父様!」

「おお、葵!おかえ…ぇ?」

 

 あぁ、この反応も何もかも懐かしい。こいつとの最初の顔合わせはこうだった。

 

「ただいま戻りました。お父様も元気そうで何よりです」

「いや、うん。葵も元気そうで本当に良かったんだが、うん。そこの男って、まさか」

「はい。前に写真も併せて説明した“友人”です」

「…そうか。君が牧路凱夏君か」

 

 あーあ。絶対そうは捉えられてないぞ。戸惑いが一瞬で殺意に切り替わったぞ。死ぞ。

 

「お見知りいただき光栄です、桐生院巌様。“天馬”に翼を授けたその手腕、同じ(トレーナー)を志す若輩として、その栄光の道がこれからも続く事を僭越ながら願っております」

「…ふむ」

 

 破れかぶれに付け焼き刃の儀礼を捧げると、好感触なのか失敗なのかよく分からない反応。はてさて、即死ルートは回避かな?

 

「中々見所のある青年じゃないか。どれ、少し二人で話をしないか?地下に丁度いい牢屋があるんだが」

 

 丁度いい牢屋って何だよ(哲学)。

 

「もうお父様!それ、昔私を叱った時のご冗談でしょう?」

「ははは、そうだったかな?この歳にもなるとかつて何を言ったか思い出せんくてな。ハハハ!」

 

 騙されんな葵。今のはマジだ。成人男性の煮詰められた殺意だ。俺には分かるんだ。

 ……なんて念じた所で通じる筈が無く。俺もその場のノリに合わせて苦しげな笑みを浮かべるしか無かった。これ長居したら行方不明者リスト入り確定だわー(諦念)。

 

「失礼します、巌氏」

「……火伽(ひとぎ)の小僧か」

「あっ、火伽さん」

 

 …そういや、そうだったな。

 唐突に割り込んできた男。少なくとも、急仕立ての俺よりは高貴然とした立ち姿と面構え。コイツと出会(でくわ)したのもこの時だったわ。

 

「紹介します。こちらが牧路凱夏さん、私が養成校でお世話になっている先輩です。良い機会なので、お父様や貴方にも彼の事を知って欲しいと思い招待しました」

「どうも。牧路凱夏です、葵さんにはお世話になっています」

「……そうですか、貴方が」

 

 予め葵から存在を聞かされていた俺は素直に頭を下げた。火伽旋理(せんり)、親が一山当てて隆盛した家の2代目。桐生院の傘下に入って以降も家はのし上がり、彼自身も数多のコネを持っている事から将来有望で巌から期待されているとか。

 

 そんな火伽は、頭を下げた俺へと値踏みするような視線を投げかけ…じゃなくて、実際値踏みしてたんだろうなこの時。しかも若干敵視に近い雰囲気を感じるのは……まぁ、()()()()を知った今では至極当然として受け入れられる。そりゃ俺を警戒するわ。

 

「いやはや、葵さんを支えてくれるとは頼もしい限りだ!これからも是非、()()()()()彼女をよろしく頼むよ」

 

 一転して親しげに肩を叩いてきたが、そこに込められた牽制に気付かない程バカじゃない。この時点で、過去の俺は火伽が“葵の許嫁、またはその候補”って所までは見抜いてたっけ。

 そして同時に、奴が葵へと向ける粘っこい視線にも。当の葵はその事に気付いてないが、それがコイツにとって幸なのか不幸なのかは判断しかねる話だ。

 

 

 俺にとっては、実に“幸”だった。

 

 

「…此方こそ。貴方がいれば桐生院家も安泰でしょうな」

「!」

 

 探りの一手。葵は相変わらずアホ面を晒し、巌氏は「貴様に桐生院家の何が分かる」とばかりに怒気を向けてきた。

 そして目の前の火伽は。

 

「…くふっ」

 

 安堵と、愉悦。

 見逃さない。だがここで何かする訳ではない。取っ掛かりを得た、ただそれだけで充分だ。

 

「…巌さん。先程丸時グループの代表者からこのような話を持ちかけられまして、当家にも関わる話なので話を聞きたく」

「…ふむ、ならば私が直接向かおう。葵、良い機会だ。よく見て学びなさい」

「えっ…でも凱夏先輩が」

「俺はここから離れすぎない程度にほっつき歩いとくから行け。勉強機会を逃すな」

「……分かりました。ではお父様、火伽さん、私もご同行させていただきます」

 

 それを皮切りに3人揃って俺から離れていく。ズンズン離れていくその距離が、低級国民と上級国民の間に隔たる壁なのかなぁと思ったり思わなかったり。

 …でも去り際の巌氏の視線。まさか葵に耳打ちした事にキレてたりしないだろうな。もしそうだったら目敏過ぎる…!

 

(……ま、それ以上の成果を得られたから善し…かな)

 

 布石は打った。後の事は、後の俺に任せるのみだ。

 そう考えた瞬間、急に視界が暗くなり……

 

 

 

〜〜

 

 

 

「お客さん、着きましたよ」

「ファッ!?」

 

 気付けばタクシーの後部座席だった。右隣には熟睡する西崎さん、左隣にはボーッとする南坂の姿が。

 あーそうだったわ。完全に潰れた葵をおハナさんが、そして男性陣を俺が引き受けてバーから撤収したんだったわ。前の車窓から見えるタクシーから、見慣れた二人の影が降りるのが見える。その更に向こうには、俺たちが住まうトレーナー寮が。

 運ちゃんに支払いを済ませて、なんとか成人男性の×2を抱えて外へ。

 

「うぅ〜っ…もうやめてくれ師匠〜……」

「ネイチャさん…うまぴょい…綺麗だぁ」

 

 そういや西崎さんの地獄の訓練の話聞きそびれたなとか、お前担当ウマ娘のどんな夢見てんだとか、そんな事を寝言を聞きながら思う。だが、正直今の所の俺はそれに構っている余裕はあまり無いのだ。

 

(どーしよ、9時までにはタキオンの研究室に向かう予定だったのに既に1時間オーバーしちまってるよ。絶対変な薬飲まされるって。明日は夏合宿の最終準備で死ぬ程忙しいってのに)

 

 はぁ、とため息をつくが何か事態が変わる訳でもない。良い訳でも悪い訳でもない半端な夢を見たせいで特に体力も回復してないし、今日は総じて疲れ果てるクソ面倒な1日だったな。

 と、そんな事を思いながら、俺はおハナさんと合流して帰路に着くのだった。明後日から夏合宿、勝負に向けての天王山だ。




 「全ての逃げウマよ」の部分は、原案だと他の人が描いている架空馬を指す異名を入れてました。ヤバそうだったので流石に辞めました
 うぅ…あの架空馬好き……可愛過ぎて牡馬になったわね(特定ヒント)
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