芳しくなかったら正午に戻しますし、ストックが貯まったら2日に1話ペースへ戻します
砂地に燃えろ!
夏。それは友情を育む季節である。
夏。それは努力を重ねる季節である。
夏。それは勝利へと突き進む季節である。
そんな夏の三冠をここに掴み取らんとする者達が一人……
いや、いっぱい。
「海だー!」
という訳で来たよ!夏の合宿所!!
バスに乗って1万年と2000年…長かった。
「んな訳無ぇだろじゃじゃウマ娘。ずっと騒いでたのがバスの窓から見えてたぞ」
「あっ、バレてた?」
テヘペロで応じると、凱夏も皮肉げな笑みを返してくる。そんなボク達2人と、そして一緒に来た娘達を迎えるように、潮の匂いを孕んだ風がその場を駆け抜けていった。
ここで説明だけど、ここ、中央トレセン学園では夏休みはほぼ合宿。それも余程トレーナーが独自のプランを立てない限りは合同合宿になってるんだ。専用の施設が海を臨む高台あって、そこに宿泊したウマ娘は日夜トレーニングに集中的に励んで実力を伸ばすって訳。チームに所属してないウマ娘も希望すれば来れるし、あの日なんとか課題を終わらせたターボもその一人。でもネイチャはトレーナーと一緒にハワイに行ったからいないんだよねぇ。
でもスピカの皆はもちろん来てるし、リギルや他のチームも一緒。会長だって来てるんだし、休みが重なったら一緒に海で遊ぼーっと!
「貴女、本分を忘れちゃいませんこと?」
「ワスレテナイヨ」
「嘘おっしゃい!そんな浮かれた顔して寝言を宣うのはこの口ですか、このこの」
「
このやりとりも最早定番、ボクがとぼけてマックイーンが咎めるまでがテンプレになっていた。彼女に頬を程々に抓られるの、妙に気持ち良いんだよね。
…あれ?ボク、結構ヤバイ癖付いてない?
「よーし皆集まったな…おいテイオー、マックイーン。イチャイチャしてないでこっち来い、スカーレットとウォッカじゃないんだから」
「「アタシ(俺)達はあんな関係じゃねぇよ!」」
「ヘブゥ」
「西崎さんが吹っ飛んだから俺が引き継ぐけど、全員部屋で荷物整理したら玄関前にジャージで集合な。ほな解散」
「「「はーい」」」
そのままボク達はいそいそと部屋に移動。今回、ボクとマックイーンは相部屋だったっけ?
「そうですわ。下手に騒がれて寝不足になったら元も子もないですし、ちゃんと夜は静かにしてくださいね?」
「何言ってんのさ、流石にそこは弁えてるよ。枕投げとかはするかも知れないけどねー?」
「全く…程々にするんですのよ」
りょうかーい!とボクは気安く返事をする。
でも。まだこの時、ボクは知らなかった。
この夏、夜に苦しめられるのはボクの方だという事を……!!
「ふむ、アレが牧路君が受け持ったトウカイテイオー君か。なるほどアレほどの逸材とは、ともすれば……」
ーー
「オラオラオラー!テイオー足止まってんぞ〜!?」
「ピェェエエエ!!」
何これ何これ何これ?!全然走れないし周りについてけない!砂浜ってこんなに足取られるの!?
「そういえばテイオーちゃんは夏合宿初めてだったわね」
「アタシも大変でしたよ」
「北海道じゃ砂浜なんて縁無かったですし、慣れるまで時間が掛かりました」
「でも適応しねー事には何にもならねぇぞ?頑張れ」
「……」
さ、先に走ってたのに次々に追い越されていく……ヤバイ、これはヤバイ。ボクの沽券が盛大に崩れそうになっている。
でも、砂に巻かれた足には思うように力を込められない。いや待って、本当にどうしたら良いの!?
「アドバイスとかしなかったのかい?」
「言おうとしたんですけど『ラクショー‼︎』って聞かずに走り出しちまいました」
言わないでぇぇ!現在進行形で反省してるからぁ!!調子乗ってごめんなさぁぁい!!!
と、内心で泣き叫んでも何も変わらない。一層鈍くなっていく足は、ひたすらに仲間の背から突き放されていく。
更に。
「ホラホラどうした?ゴルシちゃんに追い付かれたらペットボトルロケットに縛り付けて衛星軌道片道切符へご招待〜♡」
「誰か助けてぇぇぇ!?」
後ろから迫るゴルシ先輩が怖過ぎるんだよ!
あの目はマジだもん!やると決めたらやる目だもん!!ボク宇宙に飛ばされちゃうもん!
「クッソォォォォ!!」
なんとか他の娘の走りを見て盗もうにも、最初にイキって飛び出したから前に誰もいなかったし、抜かされる頃には誰かに注視する余裕なんて無くなってた。つまり今のボクには何も無い。自分で何かを掴み、編み出すしか無い。
それを掴もうとガムシャラに足掻いた。一歩ごとに力の込め方を変えてみて、最適解を探し始めた。
けど、答えはすぐ目の前に現れたんだ。
「…マックイーン?」
視界の隅に映り込んだ芦色の毛先。フワリフワリと舞うそれを目で追えば、次にはその足が視界に入る。
なんでわざわざペースを落としてここまで下がって来たのか、なんて疑問は浮かばなかった。そこに
…屈辱だ。でもありがとう。
目でそう伝えたら。
(では、行きましょうか)
彼女もまた、視線でそう返して来た。
砂の波を、2人で掻き分ける。
「…おっ?」
後ろのゴルシ先輩の声なんて気にしない。足の裏で砂を掴み、掘り返すように進め!それが砂地の走り方なら!!
マックイーンがそうしているなら、ボクに出来ない道理は無いんだ!
「ハッ…また学びやがった」
「マックイーンに助けられましたね」
「げっ、マジか!?」
「あそこから巻き返すの?!」
「ちょ、待ちなさ…」
「…フフッ」
「うおおおお!!」
「ふんっーーー!!」
トレーナー達の声を振り切り、スペ先輩達を追い越し、目指すは更に先を行くスズカ先輩の背中。奇しくも入部初日の再現みたいな状況に、ボクもマックイーンも思わず笑みを溢したのだった。
結果?砂浜にペットボトル担いで頭から突き刺さってるボクを見て察して。
「うーん…ゴルシたん号は要改良だな☆」
「大丈夫かテイオー?」
凱夏が心配そうな顔で引き抜いてくれたけど、ヘルメットとかの耐衝撃機構?のお陰で思ったよりダメージは無かった。ただ疲労と精神的ショックががが……
いや巻き返したのは良いんだけど、それまでの疲労と、あと所詮付け焼き刃なのが祟ってスタミナ尽きちゃってさ。スズカ先輩には突き放されてマックイーンには置いてかれて、追い抜かした筈の先輩方にも抜かし返されてとうとうゴルシ先輩に捕まっちゃった。
て、帝王の無敗伝説が…いや公式ではないけど始まる前から終わった……あ、最初にスズカ先輩に惨敗した時点で終わってるのか。この理論だと。
「テイオー」
と、そんな風に考えていたボクの眼前に差し出されるペットボトル。ライバルから齎されたそれを、引ったくるようにボクは受け取った。
「…ありがと。マックイーン」
「礼には及びません。メジロ家の矜持をこの身で示しただけの事」
…
「……負けたなぁ」
「あら、存外に素直ですのね。もう少し駄々を捏ねるかと思ってましたわ」
「悔しいけど認めざるを得ないもん。マックイーンの方がボクより強い」
「今は、でしょう」
「うん、今はn…って、え?」
あ、あれ?先を読まれた?っていうか、それって今勝ってる本人が言う事じゃなくない?
そんなボクを見下ろすようにマックイーンは立ち上がり、口を開いた。
「悔しいならここまで来なさい。私は貴女より先にいますので」
「先に……」
「ええ、先に。そこで貴女をお待ちしておりますわ」
自分への自信と、ボクへの信頼。ボクならそこまで駆け上がってくると信じてくれて、そしてその上で叩き潰して見せると豪語している。
「そこで満足されては、困るのはこちらですので」
それだけ言って、マックイーンは踵を返してトレーナーの所に向かって行った。夕陽を逆光に映えるその背は、否が応でもボクの網膜に焼き付いて離れない。
あの背。あの背を眺めたままで終われるものか。
「良いライバルを持ったな」
凱夏が隣で呟いた言葉に、首を縦に振る。僕には勿体無い、でも他の誰にも、ミークにも譲りたくない。そんな崇高で、高貴で。
綺麗で、強くて。
「誇らしいなぁ」
並び立ちたい、追い越したい。そんなライバル。目標である会長とは似て非なる、対等でありたいという願望。
「だったらやる事は分かってるよな?」
「…もちろん!」
砂塗れの頭を払ってもらうと、僕は勢いよく立ち上がった。きっと凱夏には見えている筈だ、僕の瞳と体から立ち上がる気炎が!
「よし、やるぞテイオー!この夏合宿で大幅レベルアップだ」
「オッケー!テイ、テイ、オーッッ!」
まだ追い越せない。
でも、きっといつかは、あの凛とした横顔に。
「その為にも今日は休んで明日に備えような」
「えぇーっ!?」
「なぁマックイーン。格好良くキメた所に悪いんだけどさ、ここにかき氷無料食べ放題券あるぜ。改良型ペットボトルロケットの試乗義務と引き換えな」
「引き受けますわ!」
「ウッソだろお前」
折れないマックイーンはイケメン
なおゴルシは貫通してくる