パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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全部英語で行くつもりだったけど断念した


空振った愛の中で

 凱夏ちゃんとグラスちゃんについて?

 んーと、どこから話せば良いかしら…あっ、エルちゃんから選抜レース直前辺りまでは聞いてる?じゃあそこからで良いわね。

 当時ね、グラスちゃんの事はリギルの中でも結構話題になってたのよ。スズカちゃんの脱退からずっと落ち込んでた凱夏ちゃんが、入部前から随分と入れ込んでるってんだから私達としても喜ばしかったし?新人に対する期待半分、凱夏ちゃんのメンタル回復への期待半分って感じだったわ。

 実際凄かったのよ、グラスちゃん。選抜レースで勝って入部した時には「こんな大人しい娘が他人とマトモに競えるのかしら」って思ったものだけどねぇ。瞬く間に「怪物二世」だなんて二つ名まで付けられて、先代怪物として誇らしいやら腹立たしいやらよ!それ以上に可愛いけど!!何より凱夏ちゃんがゾッコンってのもジェラシーだったし?

 

 でも、ね。

 なんで、終わっちゃったのかしらね……。

 

 

 

〜〜

 

 

 

「…勝った」

 

 全てを抜き去った感慨。それを背に、私は外ラチへと歩み寄る。

 そこで待つ、彼の元へと。

 

「牧路さん」

「改めて声を掛けに来たよ」

「……ええ。お待ちしておりました」

 

一拍置いた後、頭を下げる。これが新しい始まり。

 

「改めまして、グラスワンダーと申します。ご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします、()()さん」

「こちらこそ宜しくな、グラス」

 

 選抜レースに勝って、リギルに入って、そして今日のデビュー戦。満面の笑みを送り合う私達の前に、暗雲なんて無いと思っていた。道の果て、頂点まで一緒に行けると疑いもしなかった。

 デビュー戦だって、そうだった。

 

「凄いデスよグラァス!他をまるで歯牙にも掛けないなんて、私達以外じゃ相手にもなりマセンね!!」

「エルぅ〜?私を持ち上げるのはともかく、他の方を下げる必要はありますかぁ?」

「ヒグウッ」

「まぁまぁグラスちゃんもエルちゃんも落ち着いて。ほら、ここは凱夏ちゃんがバッチシ締めてあげなきゃ!」

「ここで俺かぁ!?……や、その通りだな。圧巻だったぜ、グラス」

「……はい!」

 

 エルを窘めて、マルゼン先輩に窘められて。そして凱夏さんに褒められるのが嬉しくて。

 …でも。

 

 

 

 

「凱夏さん?」

「あ…?グラスか、スマンな。スルーしてくれ」

 

 デビュー戦の次の日の凱夏さんの有り様は、到底見過ごせるものじゃなかった。たった1日で落ち込んだ目蓋と隈が、彼の精神状態の危うさを物語っていたから。

 原因は、神戸新聞杯。その2着ウマ娘にして、私たちの世代と入れ替わるようにリギルから抜けたというサイレンススズカ先輩。

 それが私、グラスワンダーの前に立ち塞がる強大な壁の名だと。その時になってようやく知ったのだ。

 

「私の責任なんだ」

 

 本人に聞くに聞けず、代わりに尋ねられた東條トレーナーはそう言った。

 

「私が押し付けて、彼はそれに従った。その結果、2人とも壊れかけた」

「おハナさん」

「何も出来なかった。彼が独断でスズカを西崎君に託した時、とうとう見限られたのかとすら考えたわ。にも関わらず今もサブトレーナーとして支えてくれるのは……」

 

 本人にも分からない、と言った表情で彼女は目を伏せる。己の罪を再度、忘れる事の無いよう咀嚼して。

 

 

 スズカ先輩の成績はパッとしないものだった。

 もちろんダービーで驚異的な潜在能力を見せつけたのは知っている。けれどそれ故に警戒され、秋天でもマイルチャンピオンシップでも沈んだ。その中でも光り輝く物は確かに見て取れたが、結果が出てない以上はそこまで執着する程の事でも無いと思っていた。

 

 ……いや、正直に言おう。私は彼女に嫉妬していたのだ。

 彼女のレースが近づく度に、彼はソワソワしていった。

 彼女が沈む度に、彼は強く深く、それに負けないくらい沈み込んだ。

 練習場でその栗毛が靡くのを見かける度、彼の視線がそれを追っては地に落ちるのを見た。

 

 その悉くが。

 醸し出される負の感情の悉くが、私の走りで彼が発する喜びを、明らかに上回っていたから。

 デビュー2戦目で勝っても。

 模擬戦で他を圧倒しても。

 自己ベストを更新しても。

 

「流石だ。蔓の王冠、似合ってるよ」

「撫で斬りかよ!ホント、見上げた勝利への執念だこと」

「見ろよグラス。また自分に勝ったな」

 

 いつしか、褒められると同時に頭を撫でてもらえるくらい距離が近くなっても。

 

 

「……スズカ」

 

 

 たったその3文字で、私たちの喜びが無に還されるから。

 

 

 

 なんで、私じゃないんですか。

 私じゃダメなんですか。

 私を見て欲しい。

 貴方のお陰で勝てたのだから、喜んで欲しい。

 もっと。もっと、もっと。

 なのに、なんで。

 

 

 

 

「君は、もしかすると希望なのかも知れない」

 

 そんな折、そう言ってきたのはルドルフ先輩だった。

 

「希望…ですか?」

「ああ。凱夏君が落ち込んでいる事は君にも分かっているだろう」

「……はい」

 

 要領を得なかった。そんな彼に対し、何も出来ない私が希望?そう考えるのは烏滸がましいのではないのだろうか。

 でも、ルドルフ先輩は違う捉え方をしていたようで。

 

「彼は己の才と努力を卑下し、意欲を失っている。だが考えてみて欲しい、そんな人が他者をスカウトするか?」

「えっ……」

「スカウトは己を、己の目を信じていなければ本来出来ない行動だ。それを鬱手前の彼が行ったという事は、それを上回る可能性の煌めきを君に見たからなんじゃないだろうか」

 

 肩に手を置かれ、その紫色の瞳に射抜かれる。そこに預けられた期待が、私の背を押した。

 

「君が彼を救うんだ、グラスワンダー。自縄自縛、己を苛む地獄から」

 

 

 

 それから、走った。

 走り続けた。

 朝も昼も夜も、校則を破るギリギリの時間帯まで切り詰めて。制止を受けないよう、知られる事の無いよう学園外で走り込んで。初めての重賞の感慨すら、それでも得られない彼の心からの笑顔を求めて投げ捨てた。

 それでもどこで知ったのか、彼は止めに来る。苦悶に顔を歪めて、スズカ先輩を見る時と同じくらい辛そうな表情で。

 

「グラス、なんで」

 

 貴方の為です、だなんて口が裂けても言えなかった。言ってしまえば、個人的なエゴに過ぎないと自覚してしまう気がしたから。

 ズキズキ痛む足が、彼の手で忘れた筈の疲労を思い出して悲鳴を上げていたから。その悲鳴を抑えるのに必死だったから。

 

 

 それでも、凱夏さん。

 私は、貴方に見て欲しかったんですよ。

 私を。

 私の走りを。

 貴方の光に、なりたかったんですよ。

 

 

 

 

 

 

 そんな自分勝手な私が朝日杯を勝てたのは、神様の最後の慈悲だったのでしょうか。

 そして、罰も。

 

 

 

 

 

「ごめんな、グラス」

 

 彼が右足を撫でる。車椅子に座った私の、ギプスに包まれたその足を撫でる。

 

「ごめんなぁ、グラスワンダー」

 

 壊れた宝物が、無事だった頃の思い出を仕舞い込むように。

 その瞳からは、最後に残っていた光も消えていた。

 

 

 声が出なかった。出す権利なんて無かった。謝り返す権利すら無かった。

 私はただ、無様に涙を流す事でしか応えられなかった。




 どちらかが途中で「No」を言えてれば、こうはならなかった。ならなかったんだよロック
 それが空振ったから、彼らの物語(コンビ)はここでお終いなんだ

そろそろ

  • リギル過去話を見てみたい
  • 本筋はよ進めろや
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