パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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 感想に飢える日々なんだよなぁ


Do my best

「つまり、全部凱にぃが悪い….ってコト!?」

「まぁまぁ落ち着いて。ね?」

 

 先走りかけたミークを手で制し、改めて新人組2人(桐生院&ミーク)と向かい合う。これまでエルやマルゼンスキーにも事情を聞いてきた彼女達、その最後の相手がフジキセキだった。

 

「この件は誰か1人じゃなくて、皆揃って選択肢を間違えた事にこそ原因があるんだ。凱夏君とグラスちゃんだけじゃない、おハナさんもルドルフも間違えていた」

「……おハナさんはスズカさんの件を気にして、先輩にもグラスさんにも強く出られなかった。自主性をどこまで重んじるかで迷ってしまった」

「ルドルフ先輩は、勝つ事で示す希望を重んじてグラス先輩の背を押してしまった…?」

「2人とも大正解だ。ご褒美にバラを…なんて、茶化して良い話じゃなかったね」

 

 癖でマジックを披露しそうになった右手をしまい、フジは虚空を見上げた。寮長という管理者の視点では東条ハナ・牧路凱夏に、先輩としてはルドルフに、そして同じく故障で前途を失ったウマ娘としてグラスに、それぞれへの共感を彼女は持っている。

 その四者四様が絡まり拗れていく様を、見ている事しか出来なかった者として。

 

「……前年のスズカの時点で、私達が彼とスズカを支えられていれば…こうはならなかったのかもね」

「フジさん。スズカさんは、」

「大丈夫、彼女に関してはもう問題無いと分かってるから私も吹っ切れてるよ。問題はグラスちゃんだ」

「……今も、スズカ先輩の影に囚われてる」

 

 おハナさんは、グラスちゃんの故障から逆に自分の管理姿勢を取り戻した。ルドルフも危うい所こそあれど、生徒会長としての立場が彼女を持ち直させている。彼女らを支えるのは、同じくリギル古参である私たちの仕事。

 でも、凱夏君とグラスちゃん。2人の間にある因縁は複雑で、そして両方とも同時に救えるほど私達は不器用じゃない。

 

(だから…君達に託す)

 

 リギルに来た新しい風。目の前の2人の、決意を固めた表情に私は希望を重ねた。

 それに、グラスちゃんには友がいる。ライバルがいる。その事実が秘める可能性に、賭ける事にしたのだった。

 

 

 

〜〜

 

 

 

 また、やってしまった。

 あの感謝祭。そこで、スズカ先輩が海外遠征を予定しているのを聞いてからずっとこの調子だ。

 勝ちたい、勝ちたい。今度こそ、あの人(スズカ先輩)に負けたくない。そんな思いばかりが先行して、それを抑えるのに悪戦苦闘する日々だった。

 もう大丈夫。まだ大丈夫。己の足を確認し、希望的観測で過信し、同じ過ちを繰り返しかけた。

 

『それを決めるのは私だ!!』

 

 それをおハナさんに咎められたのはほんの数分前の事。故障してから10ヶ月、彼女は本当に私の事をよく見てくれている。凱夏さん、そして彼から引き継いだ桐生院さんがサポートしている事を踏まえて尚、チームを取り纏め導くべく試行錯誤と東奔西走を重ねているというのに、彼女には頭が上がらない。

 

『毎日王冠も大事だが、お前の目標はGⅠレースを獲る事だ』

 

 そう諭され、素直に受け入れる。最適解を示された以上、駄々を捏ねて心労を掛けさせる醜態など晒してはいけない。

 ……それでも、積もった患いは晴れなくて。

 

「ふ、ぅ」

 

 クールダウンを終え、まだ練習を続ける先輩達に挨拶し踵を返す。ノルマが終わった以上、私にする事は無いしあってはならない。

 だが。

 

(こんな有様で、私は)

 

 先輩と戦えるのだろうか。勝てるのだろうか。

 いや、勝敗は大事だが二の次だ。本来なら沽券を懸けてでも勝ちたいが、それ以上に必要な事がある。

 

(私の迷いに、決着をつけられるのでしょうか)

 

 しかし今、それすらも危うい。

 現状の私の力、持ち得る全てをスズカ先輩にぶつける。そうすれば、結果に関わらず心に区切りをつけられる気がしていた。スズカ先輩が海外遠征を目標にしている今、国内で戦えるのはこれが最後のチャンスなのに。

 

「……走りたい」

 

 やり切れない想いを紛らわせようと、言葉にして吐き出したその時の事。

 

 

 

「……」ドヤッ

「……」ドヤッ

「……」

 

 目の前を、見覚えのある2人が通せんぼしていた。何故か将棋盤の前に正座して。

 言っておくが屋外である。

 

「言って()()()屋外(おくがい)…そうか、これなら!」

「なぁエアグルーヴ、会長に並びたいのは分かるけどそういうのを真似する必要は無いと思うんだよ」

 

「…あの」

「賢さトレーニングです、グラスさん」

「です」

「はい?」

 

 似合わないメガネをクイッと上げて、通せんぼの犯人ーー桐生院さんはそう言った。その横で同じようにクイッとしたミークちゃんが可愛らしいのが、こちらの調子を絶妙に外してくるから困る。

 

「毎日王冠、勝ちたいんですよね?」

「っ……」

 

 でも、そんな抜けた空気感は一瞬で取り払われた。桐生院さんの視線が、私の中に渦巻いていた欲望を即座に露わにしたから。

 

「……でも。走れない今、出来る事なんて」

「足が使えないと速くなれない、なんてのは時代遅れですよ」

 

 コンコン、と己のこめかみを指で突く姿。その自信満々な様子は、いつも業務でテンヤワンヤする新人トレーナーとは思えない程頼もしくて思わず刮目してしまう。

 

「将棋は布石と仕掛けどころが肝。展開を読み、足掛かりを作り、ここぞという時に追い切り追い詰め王を差す…同じ事を言える勝負が、もう一つあるでしょう」

「レース…」

「それが、ウマ娘の賢さトレーニングに将棋が採用される理由です」

 

 パチン、という音。先手7六の歩、桐生院さんが初手を刻んだ音だ。

 次は、私。

 

「グラスさん。おハナさんの管理体制によって、貴女の足は故障休養後とは思えない程に力を保っています。ならば今、失った勝負勘を埋め合わせるには」

「賢さを伸ばす事…ですね」

 

 後手8四歩。それを経て漸く、本当の意味で私の視線と桐生院さんの視線が混じり合った。

 凱夏さんの目とは違う、爛々とした希望の光に満ちた瞳だった。その光の中に、私の姿も映っていた。

 

「勝ちに行きますよ、グラスさん」

「…!」

 

 ずっと、待っていた。

 この10ヶ月、その言葉がずっと欲しかった。

 私は勝てるのだと、誰かに言って欲しかったんです。

 

「はい!」

 

 きっと桐生院さん達は、私の過去を探ったんでしょう。けれどその事に不思議と不快感は無くて、それは恐らく彼女達が私を想って、私の為に尽くそうとしくれているからで。

 その想いに、応えたい。

 

 凱夏さん。私は貴方の(きぼう)にはなれませんでした。そして私自身も、まだ闇の中にいます。

 でも、もう少し、あと少しで抜け出せる気がします。

 だからどうか、貴方もまたそうでありますように。

 

 

 

「ところでですけど、何故ここで将棋を?」

「いやぁ、実はおハナさんには内緒なんでコレ……部室でやるとバレちゃいますから」

「大丈夫なんですかそれ!?」

「糖分補給による体力回復で埋め合わせるので大丈夫です!()って下さい私の財布、はちみー三倍増しだぁ!!」

「いやこんな屋外でやっても普通にバレるというか」

「そもそも体育館という手段を忘れてる」

「「……あっ」」

 

 

 

〜〜

 

 

 

「全く。牧路君の後輩という時点で察してはいたけれど」

 

 将棋盤を体育館へせっせと運ぶ三者の姿を、東条ハナは遠巻きに眺めていた。その瞳は優しく、咎める様子など微塵も無い。

 

「悔いの無いようにな、グラス」

 

 この10ヶ月間、ずっとグラスを見てきた。その苦悩を近くで見て、担当トレーナーとしてよく理解しているつもりだ。

 その上で、己が出来る事として管理を徹底した。二度と怪我しないよう、いつか必ず復活出来るよう。

 牧路凱夏が彼女(グラス)に残したスケジュールを元に、徹底的に。自他に甘えを許さず、綻びの無いように。

 だがそれでは、心を救えない。東条ハナのやり方は、寄り添う事に秀でない。

 

 

 その歯痒さを今、目の前で桐生院が晴らしてみせた。その事が、東条ハナは嬉しくて仕方がなかった。

 そして同時に。

 

「…悔しいな。お前はどうだ、エル」

「悔しいデスよぉそりゃ。出番無くなっちゃいましたから」

 

 拗ねてブー垂れる教え子に思わず破顔。そんな彼女にお構いなく、マスクを掻きながらエルはそっぽを向く。

 

「あーあ。あそこで桐生院サン達がいなければエルが『私を見ろ!』って文句の一つでも言ってあげたノニ。ま、グラスが立ち直れるなら何でも良いデスけどね」

「優しいな」

「友達デスから。でもそれ以上にライバルだからこそ強くなって欲しいんデス、叩き潰し甲斐があるノデ!!」

 

 もうスペちゃんにも負けません、スズカ先輩にだって!と溌剌な気炎を燃やすエル。その姿にこれ以上無い頼もしさを覚えて、東条はある方向を見定める。

 それは、スピカの部室がある方角。

 

(スズカ、牧路君。リギルはもう大丈夫よ)

 

 最後まで導けなかった、癒せなかった教え子達。彼・彼女の新天地(スピカ)での活躍と、その未来へ想いを馳せた。

 

(だから安心して待っていなさい。私達は今度こそ、貴方達の先を行ってみせるから)

 

 片やエアグルーヴを超え、GⅠ初勝利を捥ぎ取ったスズカ。片やテイオーを擁し、その才能を着々と成長させている凱夏。

 彼らとのかつての日々を胸に、リギルの女傑は力強い意志をその目に湛えたのだった。




【牧路凱夏のヒミツ①】
 実はスーパークリークの事が発作レベルで苦手。嫌いな訳ではない
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