パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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キミと勝ちたい

 マックイーンの選抜レースが始まる時間が来た。

 ボクは早めに来て、既に前の方の席を確保済み。その後にも続々とスカウト目的のトレーナー達が集まってきて、なかなかの賑わいを見せてた。

 

「皆マックイーンに注目してるんだねぇ」

「そりゃそうだ。あのメジロ家の虎の子だぞ」

「ぴえっ」

 

 背後から聞こえてきた声に、心臓が飛び出しそうになる。それはとても待ち望んだ声で、そして待ち望んだ活力に満ちていたから。

 

「凱夏!」

「テイオー、昨日のレース凄かったな」

「やっぱり見ててくれてたんだね!!」

 

 嬉しい。あのレースが心に響いてくれたなら、何より届いていた事が嬉しい。ここに来ているという事は、トレーナーとしての意欲を取り戻してマックイーンをスカウトに来たのかな?まぁ、マックイーンはスピカに内定してるから無駄足になっちゃうだろうし、今言っといた方が良いかな?

 

「いや、マックイーンを観に来るであろうお前を見に来た」

「…え?」

 

 心臓がドキンと跳ねる。

 

「ライバルなんだろ?だったら最初のレースを見て、そこで何を掴めるかが本当に大事だ」

「えっ、えっえっ」

「だから近くでそのヒントの一つでも出せればトレーナー冥利…ってつもり」

 

 どうしよう。嬉しい。

 そりゃ昨日は「ボクだけを見ろ」って思って走ったけど、まさか本当にボクを見る為だけに、ボクの為だけに来てくれるだなんて思わなかった。信じて良かったと、これだけで報われた気持ちになっちゃう。

 

「ふ、ふんだ!マックイーンになんか負けないし、このレースでだってイメージだけで勝っちゃうもんね!残念だけど、凱夏の出番は無いよーだ」

「おk、じゃあ帰るわ」

「わぁ!冗談だって待ってよ」

「俺だって冗談だから首絞めんなグヘェ」

 

 必死で止めて隣に座らせる。そうしないと、知らない内にどこか変な場所に行っちゃいそうだ。全く、世話が焼けるトレーナーだよ。

 

「…凱夏はさ、リギルにいるんだよね」

「ああ、そうだよ」

「ボクね、リギルに入ろうと思ってるんだ」

 

 凱夏のいるリギルに、という意味を込めた。それはきっと、しっかり彼に伝わっただろう。ボクを見つめる瞳がそれを物語っている。

 

「俺の答えは三つある」

「三つ?」

「お前の選択次第、って感じだな」

「えー。ボク、君の意向を聞いてるんだけど」

「だからこそ、だ。……そら、始まるぞ」

 

 指差された方向を見れば、そこにはゲートに入ったマックイーン。その瞳が一瞬こちらを向き、そしてすぐにターフへと戻された。良かった、よく集中出来てるみたい。

 

「凱夏はさ、誰が勝つと思う?」

「お前と同じだ」

「へへん、やっぱりそうだよねー」

「今のお前とやり合っても、その娘が勝つだろう」

 

 その一言にカチンと来た。ふーん、ボクがマックイーンに負けるって?

 

「聞き捨てならないね。ボクは絶対無敵のテイオー様だぞ?前のレースみたいに走れれば…」

「その考えこそが敗因になるんだ」

「な、なにおう!?」

 

 ガルルと牙を剥いて反意を示すと、凱夏は観念したように肩を竦めた。でも意見を取り下げる気は無いみたいで、ボクにレースを見るよう促してくる。

 

「よく見とけ。それで理由は分かるだろうから」

「分かったよ。君の予想が外れたら、ハチミーを10日分奢ってね!!」

「おぅふ……」

 

 目を皿にして凝視するのは、芦毛の髪を靡かせるライバル。その一挙手一投足を逃さないよう、ボクは目蓋を開き続けた。

 

 

 

ーSide:マックイーンー

 

 

 

 私には、あのような熱意は無い。

 テイオーのような、激情を力に変える術を知らない。

 生まれた時からメジロの運命に沿って生きてきた。そこに不満は無い。そして背く意志も持たない。

 だからこそ、爆発力が無いと言われてしまえば、反論する事は出来ないでしょう。それが私の生き方、私の歩んできた道なのですから。

 

 そして、これから未来もそう。

 

 私はこの生き方に、メジロのウマ娘としての半生に誇りを持って生きている。これはすぐには変えられない、変えるつもりも無い。

 今はまだあの力の根源が分からなくとも、私は私の走りを貫く。貫いた先で必ず手に入れ、そして追い越してみせる。

 

 

 さぁ、刮目なさいテイオー。これが私、メジロマックイーンの疾走ですわ。

 “最強”は、貴女ではなくてよ。

 

 

〜Side:テイオー〜

 

 

「どうだった」

「凄かった」

 

 小学生みたいな感想。いや実際1ヶ月前までは小学生だったんだけど、他にこの感覚を表す言葉が見つからなかった。

 凄かった。本当に凄かったんだ、マックイーンは。

 

「最初から最後まで、マックイーンのレースだった」

「全てがアイツの掌の上だったな」

 

 ボクの漠然とした感想を、隣で凱夏が詳しく言語化してくれる。それを咀嚼しながら。ボクはなおも言葉を紡いだ。

 

「芝の緑が、あの娘の為だけのカーペットに見えた。決められた道を、決められたように、でも確かに踏み締めて進んでた」

「メジロの英才教育と、それを実行出来るマックイーン自身の力の賜物だ。努力で積み上げた基礎が無ければ成り立たない」

「ボクは、勝てなかった」

「……」

 

 立ち止まる。それに気付いた凱夏も数拍遅れて振り返り、ボクの顔を見つめてきた。

 

「凱夏、教えて。ボクに何が足りないの。どうすれば、マックイーンに勝てる?」

「やるべき事は沢山ある…が、その為にはまず自分を省みないとな」

「ボクを?」

「テイオーが絶対にマックイーンに勝ってると言える所。そこを突き詰めろ」

「……」

 

 一頻り黙り込んで考えるけど、正直よく分からない。ボクはまだレースの技術とかに関してはよく知らないし、そもそもマックイーンの事自体も把握できてない。

 …でも。確かな事が一つだけ、ある。

 

 

「負けたくない」

 

 

 この気持ちだけは、絶対にあの娘に負けてない。

 

 

「マックイーンに、勝ちたいっ!!」

 

 

 夕焼けの空に叫ぶ。その声を真正面から受け止めて、凱夏は頼もしげに微笑んでくれた。

 

「それだよ。その渇望が無ければ始まらない。俺がお前に希望を貰ったように、お前もマックイーンから上手い事熱を貰えたようだな」

「うん、見事に貰っちゃったよ。今すぐにでも走りたい」

「だが、その前にお前に選択肢を提示する必要がある。厳しい話もあるが、聞いてくれるな?」

「うん!」

 

 どんな話だろうか。身構えながらも、ボクに恐怖は無い。

 さぁ、どんと来い!

 

「まず、リギルがガッチガチの管理主義である事は知ってるな?そこに所属する俺も、戦法を担当ウマ娘に押し付けた経験がある」

「知ってるよ。サイレンススズカでしょ?」

「話が早くて何よりだ。だがその分、策がハマったウマ娘はとことん強い。ハナさんの最高傑作にしてお前の目標、シンボリルドルフのようにな」

 

 地面に木の枝で「リギル 厳しい 強い」と書く凱夏。それを見ながらボクは首を縦に振る。

 

「次にスピカ。ここはウマ娘本人の意向を尊重して練習メニューやレース日程を決める自由さが売りだな。代表ウマ娘はサイレンススズカにスペシャルウィーク、後続のウォッカ・ダスカも侮れない」

「マックイーンもここに入るしね」

「マジか。でも正直、お前の気質はリギルよりこっち向きだと思っている。型に収まるの苦手だろ」

「えー。でもそうすると凱夏いないじゃん」

「お前は俺抜きでも咲けると思うがなぁ…んで、ここから本題だ」

 

 地面に「スピカ 自由 テイオー向き」と書いてから、凱夏は一つ大きく息を吸う。そして、意を決したように此方を見据えて言い放った。

 

「テイオー。お前は多分、リギルだと三冠に挑ませて貰えない」

「…え゛っ」

 

 それは処刑宣告と言って良かった。それだけの衝撃をボクは受けた。

 だって、凱夏と一緒になると、ボクは会長に追いつけないって決定されてしまうって事だから。

 

「お前の足は柔らかくて強い…そして、柔らかさ故に脆いんだ。俺の見立てでは、三冠に挑む途中で、下手しその前に骨折が発生するだろう。そうなれば、ハナさんは安全を優先してお前をレースに出さない。“無事是名バ”の原則に従ってな」

「酷いよー!そんなのあんまりだよー!!」

「だがそれこそが普通で、本来の理想なんだよ。体の無理を承知でレースに臨んで、それで脚を一生失ったウマ娘が、それどころか命すら失ったウマ娘がどれだけいると思う?」

「でっ、でも!でも!!」

 

 子供のように駄々を捏ねる。だって諦められないんだ、認められないんだ。

 ボクは絶対に、会長みたいな強くてカッコ良いウマ娘になりたいんだ!!

 

「だが、スピカなら」

 

 でも、声音が変わったその一言で、ボクはみっともなく喚くのをやめた。そこに示された希望に、惹かれてしまったから。

 

「スピカは…自由」

「そうだ。西崎さんーースピカトレーナーは何よりもウマ娘本人の意思を尊重する。スピカなら、お前は三冠に挑めるし、負傷してもトレーナーが全力で支えて調整してくれるだろう」

 

 なるほど、さっき凱夏がボクに「スピカの方が合っている」と言ってくれた理由が分かった気がする。

 本当に自由なんだ。ボクの夢を、素直に押し出しても許されるんだ。

 そう言ったら、凱夏は苦笑まじりに答えてくれた。“その代わり、責任もお前に返ってくるけどな”って。

 

 ーーでも。

 

「でもさ。凱夏はリギルなんでしょ」

「テイオー」

「ボク、やっぱり凱夏と一緒に走りたいよ」

 

 これは最後の我儘だ。でも譲れない、ボクの最後の一線。

 きっと、リギルに入ったら彼の言う通りになる。怪我しない可能性も勿論あるけど……多分怪我をして、三冠を取り上げられて、会長には追いつけなくなる。でも、凱夏と一緒なら納得できる気がした。

 だけどさ、こうも思うんだ。

 

「スピカで、凱夏と一緒に」

 

 本当に、自分でも傲慢だと思った。中学生にもなって、大人の世界は子供なんて遥かに及ばないぐらい複雑な事も知ってた。その世界にいる凱夏に、ボクはとても残酷な要求をした。

 

 でも、彼は。

 

「ーー分かったよ」

 

 頭を、撫でてくれたんだよ。

 

「後は、俺に任せろ」

 

 そう言ってくれた凱夏の笑顔が、本当に、本当に頼もしくて。

 格好良くて。

 

 それが、ボクの初恋だったんだと思う。

 

 

 

 

 

 この日から、ボクと凱夏の“最初の3年間”が始まった。




 テイオーは激情。感情をそのまま力に変えて走る。だから爆発力があり、その時の加速が凄まじい。特に最終直線。不安定さが玉に瑕だが、しかし見る者に感情移入による熱狂を齎す走りと言えるだろう。
 マックイーンは理性。感情に囚われず己の走りを一貫し、故に安定して道を突き進む。何にも邪魔されずに突き進むその走りは頼もしいの一言で、実はルドルフの走りはこちらに近い。

 実は、テイオーに言った言葉は嘘だった。俺の目じゃ、今のテイオーとマックイーンのどちらが勝つかなんて分からない。マックイーンはテイオーのレースを見て屈辱を感じたかも知れないし、テイオーはマックイーンのレースを見て挫折を得た。俺はただ、本人たちの感じた事に従う他無い。
 だからこそ…その経験に、その先へ続く道に、どうか幸多かれと。そして幸を運ばんと。不幸を取り除かんと。
 俺はただ祈り、そして気張るしか無い。
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