パレードを終わらせない   作:スターク(元:はぎほぎ)

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凱夏周りの話運びがどうしても雑気味になるので、そこは今後直していきたいです。


トレーナー事情

 それはそれは見事な土下座だった。

 部室にいるのは4人。リギルトレーナーである東条ハナ、リギル所属にして生徒会長であるシンボリルドルフ。そして彼女らから背を向け首を垂れるサブトレーナーの牧路凱夏。

 そして、最後の1人。

 

「えっ、これどういう状況?」

 

 遅れて来たスピカトレーナー。現在進行形で土下座を向けられる西崎リョウを加えて、役者は揃ったのだった。

 

 

〜10分前〜

 

 

「という訳で、リギルはお暇させて頂きスピカに行きとうございます」

「良いわよ」

「えっ」

「えっ」

「あっもしかして元からクビの予定でしたか」

「いや違うけど」

 

 凱夏からの転勤嘆願を二つ返事で受諾した東条ハナは、シンボリルドルフに目配せ。それを受けて彼女は凱夏へと向き直る。

 

「凱夏君。おハナさんはね、実は君と時を同じくして、君を別のチームに移籍させるか、または独立させるべきかと考えていたんだよ」

「やっぱりクビじゃないですかヤダー」

「幾ら何でも早とちりが過ぎるわよ、いい加減にしなさい……まぁそういう所が、この判断を下した一因でもあるのだけれど」

 

 困ったように額に手を当てる東条ハナだが、しかし凱夏への悪感情は全く無い。無責任に辞めようとする事を責められると思っていた凱夏としては、正直拍子抜けで呆気にとられる程だった。

 

「牧路君、貴方は優秀なサブトレーナーよ。私の方針によく従ってくれて、私とウマ娘達の間に発生する摩擦を解消するべく積極的にクッションになってくれて。ここまで大きくなったリギルを維持出来たのは、貴方のお陰と言っても過言ではないでしょう」

「は、はぁ」

「でも、貴方と私の相性は良過ぎた。あまりにも似通い過ぎなのよ、私達は」

 

 少し寂しげな目をしながら語るハナ。後の言葉をルドルフが引き継ぐ。

 

「おハナさんと君は、固定観念にどうしても囚われがちな節がある。そこに従って冷静な判断を下せるけれど、同時にアドリブが不得手。だから、君がこのチームに留まり過ぎる事で、お互いの意見が凝り固まってしまう事態を、おハナさんは恐れたんだ」

「で、別チームという新しい環境に俺を移そうと」

「そういう事よ。貴方はサブトレーナーとして、私から学べる事は殆ど学んだんじゃないかと私は考えてる」

「いや全然ですが。照れ抜きで」

「いいや事実よ。だからこそ、貴方は寧ろ今までと逆の環境ーーそれこそスピカのような、アドリブに秀でた環境に身を揉まれるべきなんじゃないかと思ってたのよ。独立しても充分にやっていけるとは思うけどね」

 

 しかし、と言葉を紡ぐハナ。その声音にあるのは、心配の感情。

 

「スピカが良いとは思っていた、でも私達は第一候補からは真っ先に外した……貴方、そこに行く事の意味が分かってるの?」

「………」

「サイレンススズカと、顔を合わせられるのかい?」

 

 痛い所を突かれ、凱夏の口角が苦しげに歪む。明確な苦笑を浮かべ、しかし彼は引き下がらない。

 

「取り敢えず初手土下座で許しを乞おうかなって」

「やめなさい。流石にみっともないわ」

「デスヨネー」

「そもそもの話だが、君がスピカに行こうと思った理由は何なんだ?」

「テイオーだ」

 

 その一言に、ハナとルドルフの動きが止まった。彼女らにとっても、この前の選抜レースは記憶に新しい。

 

「アイツはスピカで輝く。でも、アイツは俺と一緒が良いらしくてな」

「君がチームを立ち上げるという手は?」

「俺は仕切るよか補助向きだし、メイン張る自信は無いし、何よりテイオー以外のウマ娘が集まらないよ。担当ウマ娘が1人じゃチームとして受理されない、当たり前の事だろ?」

「む……」

 

 それっきりルドルフは黙してしまう。反論を探りながらも、しかし今この件についてはその材料が無くなってしまった形である。

 それを横目に、ハナもまた嘆息を吐いた。

 

「まずはスピカのトレーナーに連絡するわ。彼に話を通さないと何も進まないでしょ」

「オナシャス」

 

 

〜10分後〜

 

「初手土下座はやめなさいと言ったでしょ…」

「サーセン、体が勝手に……」

 

〜更に5分後〜

 

 

「で、俺が呼ばれたって訳」

「真面目に聞きなさい」

「スマン」

 

 咎められて襟を正す西崎リョウ。その視線の先にいるのは、勿論渦中の人物な彼である。

 

「あー、凱夏君。本気なんだな?」

「あなたさえ良ければ、是非ってところです。今まで避けといて、都合の良い事言って申し訳ありませんが」

「いや、良いんだ。俺は全く気にしてないし、寧ろ俺の方が謝りたい部分だってある……んだが、どこから始めるべきかなぁ」

 

 口に手を当てて思慮に耽けるリョウ。彼の脳裏にあるのは、あるウマ娘の走る姿。

 

「まず前提として、俺としては君がスピカのサブトレーナーになってくれるのはありがたい。おハナさんを支えた手腕はとても頼りになるし、俺自身も君から新しい影響を受けてみたいからね」

「ありがとうございます」

「でも、問題は彼女達がどう受け取るか、だ」

 

 そう言ってリョウが突き付けたのは6本の指。言うまでもなく、彼が担当するウマ娘達の人数である。

 

「まずゴルシ。に関しちゃ、確か交友があったから大丈夫だろう」

「そうですね。今も割と懇意にしてます」

 

 一本、指が折られる。

 

「次にスペ。コイツに関しては、本人が君に対して一方的に良くない印象を抱いてた事を謝りたいと言ってた。どうやらテイオーにもその事を零しちまったらしくてな、この事に関しちゃ俺からも謝る」

「あちゃー…事実だから気にしてないって伝えといて下さい」

「ありがとな。じゃあ、スペに関しても問題無しと」

 

 二本目が折られる。

 

「そしてダイワスカーレット、ウオッカ。コイツらに関しちゃ、スズカの件に憤慨こそしたが話せば普通に分かる。だから話そう。俺も一緒に説得するから」

「ご厚意に感謝します」

 

 三本目と四本目が折られる。

 

「メジロマックイーン…には、まぁテイオーの件について説明すればそれでオーケーかな」

 

 五本目が折られた。

 残り一本。

 

「……」

「……」

 

 ここに来て2人とも口を噤んでしまった。リョウはどう切り出せば良いかで悩み、凱夏は負い目から口を開けない。

 だから、ルドルフが場を拓く。

 

「サイレンススズカ、ですね」

「…そうだ」

 

 飴を舐めているにも関わらず苦い顔をしながら、リョウは漸く口を開いた。彼が両手を上げて凱夏移入を喜べない訳の全てが、そこにあった。

 

「スズカの心の傷はまだ癒え切ってない。もちろん生活や走りに支障をきたしてはいないし最近はちょっとずつ昔の事を打ち明けてくれるようになったが、君当人と話すのは…専属トレーナーとしては、避けた方が良いんじゃないかと思っている」

「…俺が貴方でも、そう判断するでしょう」

「でも同時に、ここら辺でお互いに過去に向き合った方が良いんじゃないかとも考えていた頃合いだったんだよ。だから、君の方から動いてくれたのは渡りに船だとも言える」

 

 トレーナー個人としては歓迎。しかしスズカの事が不安点。それが、リョウの挙げた現状である。

 ここで問題になるのは、他ならぬスズカへの影響の可否だろう。

 

「…スズカの調子はどうなんですか」

「至極順調。じゃなきゃこんな事言わないって。でもまぁ、一回スズカ本人に聞いては見るけどな」

「よろしくお願いします。最悪の場合、直に会うのはテイオーだけで部室には行かないようにしますから」

「それでどうやってサブトレーナーをこなすんだよ」

「ハナさんの所でこなしてきて、これに関しては割と自信がありますね。西崎さんから情報を貰った上で、練習風景を遠目に眺めれば最低限はしっかりこなせるかと」

「…まぁ、おハナさんが育てた人だ。信じるよ」

「配慮に感謝します」

 

 前向きに検討というのが、西崎リョウの最終見解となった。その寛大な判断に、凱夏は心の底から謝意を表す。

 と、ここで一つ思い出した事が。

 

「あっ、ハナさん。自分が抜ける際に不都合が発生するのは嫌なので、このノートに引き継ぎ要項と自分なりの留意点を纏めておきました。目を通して頂ければ幸いですし、不明な点があったらまた連絡して下さい」

「あら、感謝するわ。次の子に渡しておくわね」

「次の子…あっもう後任の方がいらっしゃいましたか」

「まだ後任“候補”だけどね。貴方、会ったらきっと驚くわよ」

「…へ?」

「君も良く知る人物さ、凱夏君」

 

 したり顔で笑うハナとルドルフ。そんな2人を前に、凱夏とリョウは顔を見合わせるしか無かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…あー、そうだ。凱夏君」

「何ですか?」

「スズカの移籍時の件だが、その……」

「良いですよ。っていうか俺から頼んだ事ですし、寧ろ感謝してます。その節はありがとうございました」

「……そうか」

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