モンスターハンターイグルー 兵器たちの記録   作:5978

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ヘカトンケイル 全長260m全高40m 主な武装は リオレウスクラスのモンスターに大きなダメージを与えることが可能な対飛竜353mm単装砲を左右両側面底面そして甲板面にそれぞれ10門累計設置されており、接近するモンスターを牽制するための対空迎撃機関砲を左右両側面に20門ずつ搭載 投下用に使用変更を施した対巨龍爆弾 45発大タル爆弾g90発を搭載 、超高倍率スコープにより、正確に投下できる。
装甲は軽量かつ強度の高いヤオザミ、ガミザミに換算すると千匹単位となる。
浮遊ガスタンクには最新鋭の耐熱性加工を施したコストと強度の両立を実現した。
その火力をもって特に陸上の大型モンスターを確実に殲滅することを期待して建造された空中を航行する戦艦がこの兵器だった。しかしながら艦艇であるが故に、獣竜種をはじめとする陸上にのみ行動をするモンスターは圧倒できるが、空中機動性に優れる飛竜種相手にはどうしても分が悪く、飛竜種特に空戦を得意とするリオレウスなどの相手には不向きと言わざるを得なかった。


だが、皮肉なことに、ヘカトンケイルが初めてにして最後の実践投入はリオレウスそれも多数の数を一度に相手することを強いられたのだ。

それでもこの艦は、ヘカトンケイルは滅龍砲の使用により遠近問わずに呼び寄せられた果てにお互いに合い争いながら街と周囲の村や街を破壊し尽くさんとする空の王者リオレウスの群集に立ち向かった。 様々な形でモンスターたちと対峙してきたものたちと彼らがこの巨人に抱いた思いを背負って。



空をかける巨人が背負ったもの

 

 

私がヘカトンケイルの運用試験に携わることをはじめた日は大都市マンテで滅龍砲の使用よりも数年前のことだ。私個人としてもヘカトンケイルは滅龍砲に代わる対飛竜兵器として期待していた。この兵器が建造し評価されるようになれば危険かつ生態系を破壊しかねない滅龍砲を使わなくてすみそうだと信じていた。 しかし、調査開始より少し前日に判明したことだが、この兵器は試験運用すらされずに解体される予定だったものだ。この兵器の運用試験は各種搭載兵装はあくまでも試験飛行のみにとどまっていた。ヘカトンケイルをいきなり実戦投入することになった原因は皮肉なことに建造完了から約一週間ほど後に使用された滅龍砲によるものだった。現地のハンターたちの尽力により、マンテ町の滅亡という最悪の事態は回避できたが、集まったリオレウスはほとんどがもとのいた縄張りに戻ろうとしていた。だが、

マンテ町に押し寄せたリオレウスのには多くの市民がいる市街地を通りすぎる個体も十数匹ほどいると予測された。 

 

リオレウスの大群を迎撃するためにハンターが迎撃に向かうなか、艦長をはじめとする乗組員たちはヘカトンケイルともに先制迎撃に出向くことになった。だが、ヘカトンケイルは古龍を迎撃するための要塞に匹敵する火力を持ちながらも、リオレウスの機敏な動きに対しては不利と言わざるを得なかった。それ故、非常に素早いリオレウスに挑むことは無謀の極みとも言えた。それでも、ヘカトンケイルは、戦い抜いたのだ。男たちの思いを背負って。男たちと共に居続けていたのだ。

 

 

二年前の、季節は厳しい冬も峠を越えて温かい春命も活力を取り戻していく初春の晴れたある日に私は造船業都市aを訪れ、ヘカトンケイルの運用試験に携わるべく宿泊の手続きなどの用意を進めていた。 

 

 

今回の調査対象にして史上最強最大の飛行船それがこのヘカトンケイルだった。

 

これからは、ヘカトンケイルの実践報告

 

調査の開始から1年と4ヶ月が経過した頃だった。ヘカトンケイルはついに完成され

 

本日から私はこのヘカトンケイルの戦闘力、実用性、機能性を多角的に評価し、今後の開発に役立てたいと思っている。   

 

まずは艤装を調べるため、宿を出た私はヘカトンケイルが格納されている格納庫を訪れた。格納庫のなかにはヘカトンケイルの主砲として搭載される予定の353mm砲の徹甲榴弾が運搬されてヘカトンケイルに積み込まれている。 

 

「慎重に運べよ!信管はまだ込めていないが少しの損傷が命取りだ!」

 

乗組員が部下たちに大きな声で年押しした。聞いているだけでと緊迫感がわいてくる。

 

他の場所では飛竜種の甲殻を複数種類組み合わせて作り上げた甲殻を溶接によって接合することで、複数の飛竜種の甲殻の短所をカバーしあっている。

「よく来たな。俺がこのヘカトンケイルの艦長だ。」

壮年で筋骨隆々とした男性が声をかけたこの戦艦ヘカトンケイルの艦長だ。

私はピシッと姿勢を引き締め直し挨拶をした。

「はい!よろしくお願いいたします!」

それじゃあまずは といくか。

 

本日の調査は新鮮な体験がたくさんあった。

 

私は宿で一息ついてから今回のレポートをかきはじめた。宿の従業員が呼び鈴を鳴らし私を呼んだ。どうやら私を呼んでいる人がこの宿を訪れたようだ。訪れた方は三十代ほどの女性で艦長の妻であるようだ。

「はじめまして。私はあの艦、ヘカトンケイルの艦長の妻だったものです。」

「妻だったもの... ですか?」

「はい。私の夫は私をいつも思いやってくれる人でした。」 

 

「それでは、艦長の方から...」

「いえ、私自身が切り出したのです。たしかに、寂しくはありますが、あの人には、夢を追い続けてほしいのです。私のために夢を諦めたとなると、やはり... 」

 

私は手紙の封筒を切り、伝達に目を通した。その直後、自らの目を疑った。あるいは嘘であってほしいと思っただろう。 内容は飛行演習のみだったはずのヘカトンケイルを戦闘に参加させるというものだった。

ギルドもハンターを募っているが、一頭だけでも十分すぎるほどの驚異であるリオレウスを一度に数えきれないほど 相手にしなくてはならないため 大勢のハンターは二の足を踏み、断ったものは少ないとは言えなかった。無理もない話だと私は思う。ただでさえ強力なリオレウスが気が立っている上で数えきれないほどに集結しているのだから。もちろん協力を打診してくれたハンターもすくなからずいたのだが、現地にすぐたどり着けるハンターは限られていた。戦力は圧倒的に不足していたためか、少しでも戦力の足しとするためにヘカトンケイルもいきなり実戦に駆り出されることになった。しかしながら、砲撃に巻き込む危険性がある以上ハンターたちと連携して行動することはまず不可能であった。そのため、ヘカトンケイルのみで、先攻兼陽動あるいはその輸送能力をいかして人員及び資材の輸送のいずれかを行うよう提案された。艦長の決断によりヘカトンケイル陽動と先攻を同時に行う任務につくことでこの作戦に参加することとなったが、私は反対だった。

単艦でリオレウスの大群と戦うことは無謀の極みとも言えた。 それでもヘカトンケイルの出航を推進した者たちの真意はわからない。

「艦長。私はこれから、ヘカトンケイルの運用を物資と人員の輸送を中心の後方支援にするよう本部へと 進言していきます。ヘカトンケイルによる陽動作戦に懐疑的な者もいますから、作戦の変更は難しくはないはずです。」

艦長の目はいっそう鋭くなった。

「それは死ににいく俺たちを死なせないようにしてやりたいという同情からかい?ヘカトンケイルの火力は複数の飛竜種にだって十分だってお墨付きをもらったはずだぞ。」

私は反論した。

「砲火力は十分だったとしても、正直素早く飛び回るリオレウスに挑むことは得策ではないかと... なにより空中戦艦は本来陸上モンスターあるいは水上ないし水中のモンスターを攻撃するために開発されたため、本来はこの任務には不向きです... 」

「俺たちがどれだけリオレウスと対峙してきたと思ってやがる。どうってことはねえ。」

彼らは投げやりで戦いに赴いているわけではない。明確な信念のもとに戦っているのである。それはわかっている。だが、

乗組員たちの帰りを願う人々もいるはずだ。彼らの顔がより強く鮮明に思い浮かんできてついには私は耐えられなくて叫んだ。 

 

 

 

「いくらなんでも無謀すぎます!充分な護衛もないのに、お互いに争い合うほどに極端に興奮している無数のリオレウスと戦うなんて!死ににいくようなものだ!」

 

叫んだあとに、我にかえった私は荒くなった気分を落ち着かせゆっくりと呼吸した。

艦長は怒号をあげるわけでもなく私を殴り付けるわけでもなく、どこか武骨な雰囲気ながらも静かに、だが明確な信念がこもった

「なあ、技術屋の兄さん。俺たちは死ぬことが目的でこいつの錨を抜くわけじゃねぇ。本当に生き抜くためになんだよ。」

 

「どういうことですか?」

 

「あんただってここを訪れていて気づいていただろ。右を向いても左を向いても、俺と同じく腕やら足やらをなくなっている奴ばっかりだと。そいつらは元々は正真正銘の狩人だったんだ。」

艦長は続ける。

「このヘカトンケイルはな、希望だったんだよ。俺達のように狩人失格の烙印を押されても、あるいはそもそも狩人にすらなれなかったのに狩人を諦めきれねえで狩人根性を煮えたぎらせている、狩人以外の生き方をまともに考えられねえバカどものな。」

 

「希望... ですか。」

「そうさ。俺たちは死んでるようにこれから何十年もだらだらと生き続けるより悔いが残らねえように最後まで夢の炎を燃え上がらせてぇんだ。例えばその炎がすぐに燃え付きちまうもんでもな。」

艦長は葉巻に火を着けて一服したあとに続ける。

 

「それに、こいつには俺たちに夢を叶える希望をみせてくれたんだ。その借りをかえしてえ。」

「夢を叶える希望... ですか... 」

「ああ。こいつが完成すれば世界のどこからどこまでいくかも自由だとか、こいつが完成すれば再び狩場に戻れるだとかそれぞれにいろんな夢を持っていたよ。そして、建造は不可能として設計段階で中止になったこいつが技術の進歩で本当に建造できるようになったことでもしかしたら俺たちの夢もまだ叶えられるかも知れねえっておもえるようになったよ。」

 

相槌すら打てない私の心境を悟っていたからか、艦長は続ける。

 

「世間ではこいつで、このヘカトンケイルがモンスターを倒すなんて叶わない夢と抜かしやがる。だからこそ挑むんだよ。世間のやつらを見返してやりたいという気持ちよりも世間のやつらが無理と決めつけた夢を叶えてや

りたい。」

 

「それは... 他のクルーも同じことなのでしょうか?」

 

「そうじゃなかったらヘカトンケイルにのっちゃいねぇさ。全員おんなじことを考えていることを確認済みだ。それに... 」

艦長は今では義足となっている右足に目をやる

「足や腕を失った連中が空を飛ぶ船でモンスターを薙ぎ倒すなんて物語があれば、きっとたくさんの夢を燻らせているばかどもの希望になれるかもしれない。」

「希望... ですか... 」

語気からひしひしと思い入れがつたわってくる。

「ああ、そうさ。さっきも話した通り、この船の乗組員はみんな一度は狩人としての生き方を失いかけた。そこにヘカトンケイルが狩人として再び生きるチャンスをくれたんだよ。」

 

正直まだ理解できないところも多い。

私も艦長が抱いている思いの果てにあるものを見てみたいと感じた。

「僕も乗せていってください。」

 

艦長は眼を細めた。

 

「これは見せもんじゃねぇぞ。野次馬根性で乗り込むってんならお断りだ。おもりをする暇なやつなんていやしねぇ。」

 

艦長はつき放つようにいってのけたが、

 

「足手まといにはならないように、努めます。僕は見届けるために派遣せれたのですから。」

 

「明日の午前八時にここに来い。」

 

艦長は少しため息を着きながらもそれ以上はなにも言わなかった。 艦長は乗船を許可してくれた。艦長に報いるために足手まといにはなってはいけない。何よりこれから先待ち受ける事実がなんであれ、必ず後世に受け継がれていくようにする。 使命感や義務感ではない。ましてやヘカトンケイルに乗り込むことを決めた男達への憐れみでもない。ただ、うまくは言い表せられないが、この戦いを最後まで見届けたい。少しでも彼らの思いを理解できるようになりたい。そして誰かに伝えたい。彼らの戦いを。ヘカトンケイルの戦いとヘカトンケイルに詰められた思いを。そう思った私はまずは彼らの話を聞いてみようと思い、この宴を楽しむことにした。

ガヤガヤと喧騒があちこちから聞こえてくるが、話題は

やはり明日の戦いだった。ハンターたちは命のやり取りをする度に終えたあとにはこうやって飲みあかし、大笑いをするようだ。

 

「いよう!のんでるかあ?技術屋だっけ?記者だっけ?

機嫌よく乗組員の一人が問いかけた。

「はい。おかげさまで。私はヘカトンケイルの性能を調査し、今後の技術開発に役立てることを目的にギルドから派遣されてきました。」

私は質問に答え、小さい樽のジョッキにビールをついでもらった。

 

艦長とのといかけの部分に以下の文をうつ

 

 

その日の夜宴は幕を閉じた。通常の宴に比べてお酒の量は少なかった。建前上は二日酔いにならないようにするためだったが、おそらくはほかにも理由があるからだろう。それを問いただす勇気も、仮に返答がかえってきてもその問いに対する返答が事実であると確信できるすべも私は持ち合わせていなかった。

 

決戦の朝。天気は晴れており、雨や風といったアクシデントの原因となりそうな要素はなかった。まるで天がこのヘカトンケイルのために用意したかのように思えた。

がやがやとした声があちらこちらで聞こえる。

 

乗組員にも家族はいるとは思うが、見送る者は見られなかった。艦長にその事を問おうと思ったが出来なかった。訪ねることは、何かを侮辱するような気がしたからだ。察するに乗組員の方々の戦意を削ぎたくないからなのだろう。もちろんこの推測は私の憶測でしかない。

 

朝の日差しを浴びながらヘカトンケイルは錨をあげた。

燃石炭などを点火の起点とする焼き玉式のエンジンがかかり、ヘカトンケイルに備わるあちこちの回転翼がだんだんと加速を着けて回転しはじめて、まもないうちに十分なほどの速度にまで達した。

「浮揚用の回転翼、必要な回転速度に到達しました!離陸できます!」

 

「錘を切り離せ!いよいよヘカトンケイル抜錨だ!総員気を引き締めて作業に当たれ!」 

 

 

艦長の号令と共に固定用のロープと碇が切り離されてついに離陸が開始される。ヤマツカミの浮遊方法を参考にして備えられた浮遊用ガスによりもたらされる浮力がロープと碇から解放されたことで宙へとうかびあがり、回転翼によってヘカトンケイルは全速前進を開始した。

あちこちで乗組員達の鬨の声が響き渡る。艦長の言葉を借りるなら、これまでにくすぶっていた感情が爆発したという様を表現していた。 エレベーターで上昇するように体が浮くような感覚によって私でもこの船が空へと飛び立つというついに男達の思いが集まったこの船が動きだし、戦場へと駆け出したのだ。 

好奇心にかられてヘカトンケイルの窓から景色を見下ろしてみるとまさしく絶景とも言える光景が私の目に映った。子供じみた気分に浸るのも悪くはない。そう思っていたが、他の乗組員は絶景に感動し他と言うところは同じだったが、警戒は一切緩めていなかった。

ヘカトンケイルが離陸してから大分時間がたち、ようやくヘカトンケイルは戦場に到達した。 

青空が炎上しているかのごとく炎が飛び交っていた。リオレウスがお互いに争っているところを望遠鏡から確認して、対応戦術を構築し、主砲の照準をリオレウスに絞った。

「主砲発射用意!」

 

そこには多数のリオレウスが空を飛び交っていた。リオレウスたちは群れを足しているのではなく、滅龍砲の砲撃により、大量の火竜の骨髄が拡散して、皆それぞれの

テリトリーに侵入者が現れたのだと誤解して外敵排除を目的としてここに訪れたようだ。

「主砲発射!撃て!」

ヘカトンケイルの主砲対飛竜353mm砲が火を吹いた。爆炎に押し出された対飛竜徹甲榴弾が一匹のリオレウスの翼の根本に突き刺さり、直後に普及型の大砲の数倍の威力の爆発がおこった。

リオレウスは 着弾点から煙を引きながらみるみる墜落していった。

「やったぜ!これがヘカトンケイルのちからだ!」  

「そうだ!こいつならいける!」

 

「てめえらいつまでも調子にのっているんじゃねえ!対空警戒をいそげ!」

艦長は乗組員に対し怒号をあげた。乗組員たちも気を引き締め直し再び空をにらむ。 同士討ちも起きているとは言っても相手は空中戦においては屈指の戦闘力をもつ飛竜だ。気など抜いていられない。主砲もあくまでも撃墜であり、一撃で息の根を止めるということは不可能であった。一時的に叩き落としてもすぐに上昇してくる。その直後だった。

まるで地鳴りのような振動を私たちは感じ取った。間もなくして、下層部から声がした。

「火炎弾、右舷下層部直撃!同部位装甲板破損!」

 

「消火をいそげ!機関部への延焼だけは防げ!」

大きな打撃を受けたにも関わらず艦長の声は冷静だった。それもそのはずだろう。私は出撃前の指揮官の言葉を思い出した。「俺たちは死ぬために本当に生き抜くために戦うんだ。」ヘカトンケイルに乗り込むことを決めた者たちは最初から死さえも恐れていない。かといって自ら死ににいくというわけでもない。彼らの判断基準は死ぬかどうかではなく悔いが残らないか否かである。そして、艦長は設計から進空までの建造作業に間を挟むことなく立ち会っていたためヘカトンケイルの特徴は隅々まで熟知している。

その意識の賜物か、艦底部乗組員は砲撃からダメージコントロールへの切り替えを迅速に行っていた。全員非常に連携がとれており、彼らと出会って間もない私でも彼らは長い間互いに背中を預け合い続けてきたのだということを実感させられた。

 

だが、リオレウスたちにとってはこのヘカトンケイルは排除するべき外敵のひとつでしかない。ヘカトンケイルのダメージコントロールを許しはしなかった。攻撃は以前として苛烈なままだ。しかしながら、乗組員たちはリオレウスたちの猛攻撃など想定しきっており、狩猟船などでの経験をこの戦場にうまく織り込んでいることが目に見えるほどに上手く対応している。例をあげてみると操舵士の巧みな舵取りで火炎弾を回避し、肉弾戦を仕掛けてくる個体を対空機関砲で牽制することでリオレウスを近づけさせないようにしている。弾の再装填により、弾幕が薄れても、多用途ランチャーからリオレウスに有効とされる閃光弾で対応し、リオレウスの接近を許さない。戦況はヘカトンケイルの優勢に思えた。だがリオレウスの機動性はヘカトンケイルに対して圧倒的なアドバンテージを持っていた。主砲装填までの空白に確実に攻撃を刻み込むことによってどうしても捌ききれない損傷を与えていく。 正直に言うと私は不安で一杯だった。

 

ヘカトンケイルの右舷部分に攻撃が集中してきた。高い威力を誇りかつ猛毒を纏った爪や火炎弾は確実にヘカトンケイルを傷つけていき、大きなダメージを受ける度にこの指令室まで伝わる振動が発生している。士気が高い乗組員たちに少しずつだが、確実に不安を植え付けていく。不安を植え付けないはずがないと私は思っていた。だが、 

「怯むんじゃねえ!ここで逃げたら一生後悔するっ

てことは全員わかってるだろう!」

「おうともさ、艦長!狩りってのはこうこなくっちゃならねぇ!」

不安からに逃げるために張り子の虎になっているのではなく、本心からこの戦いに生き甲斐をたぎらせているのだと私は悟った。正直にいって彼らがなぜここまで戦い続けられるのか、そもそもなぜ戦いに出向くのかさえも十分に理解できていないのだと思う。だが、狩りというのは、恐らくはこういうものだろう。常に命を奪いかねない、本来人の力では抗うことさえままならないほどの力を持つモンスター。人の力では抗うことのできないモンスターを自分自身と共に作り上げてきた武器と今日までに培ってきた経験や技術で制する。それこそがモンスターのハンターのやりがい、ハンターとしての生き甲斐なのだろう。だから彼らは今なお戦っている。

それでもリオレウスの大群は依然として確実にかつ激しくヘカトンケイルにダメージを与えていく。正直ダメージコントロールは追い付かない。

 

そしてついに、大きな爆音と共にヘカトンケイルが激しく揺れた。右舷部分の一部主砲がリオレウスの攻撃を受けて誘爆したからだ。 艦長室のドアを乱暴に息を荒げながら、右舷部の砲術員のひとりがいった。「艦長... !リックのやつが、爆発に巻き込まれて...」

ついにこの艦に殉職者が出た。 

「あの... ばか野郎が...今すぐ破損箇所応急修復だ! ここで挫けて、やつに顔向けできるとおもうな!」

私は一瞬この船にいる人物たちの戦意が低下することを懸念した。やはり、長年背中を預けあった戦友を喪うことが悲しくないはずがない。

それでも、彼らの表情は険しくも、決して戦意を失ってはいない。恐らく彼らの中には、この瞬間のように狩場という極限空間の中で共に命を預けあった戦友の喪失と立ち会ったものも決して少なくはないだろう。それでもなお、なぜ彼らは狩人を続けられたのか続けようとするのかを今でなら理解できる気がする。この空間に溢れる熱情。それが彼らを突き動かしているのだ。

 

戦意を失うことなくリオレウスを睨み付け主砲と対空砲の巧みな連携で砲撃でリオレウスを撃墜していく。 残り数匹となった健在のリオレウスはついには戦意を喪失し一目散に逃げていく。 その様子をしっかりと確認した艦長をはじめとする乗組員たちだったが、一人たりとも警戒を解いてはいなかった。

 

望遠鏡による索敵を行っていた乗組員の大きな声が響いた。 

「右舷よりリオレウス多数きやがった!艦長どうする?」

「このまま戦っても、勝ち目は薄い。一度船を安全圏まで離れて、船を降下させて応急修復をする。」

 

「もしも、ここを離れたくないって思ってるんならあんたにも手伝ってもらいたいが、構わねえな?」

 

「出来ることは限られているかもしれませんが... 手伝わせていただきます!」

 

私は技術屋もかねていたためヘカトンケイルの設計図を読んだこともある。

 

応急修復もおおよそ完了し、エンジンに再び火をいれはじめたそのときだった。艦長は私に信号銃を手渡して言った。

 

 

「手伝ってもらいたいといっておいてなんだが、おれ自身は、修復が終わり次第、あんたがここから離脱してもらっても構わねぇと思っている。ここから八時の方角に5キロメートルくらいはなれてから、その信号弾を撃てば救助の連中が出迎えてくれるとのことだ。

いいか、これが最後のチャンスだ。ここで離脱するかそれとも、俺たちの無茶に付き合うか好きに決めな。」

 

私は迷いなく答えた。

 

「はい!もちろん手伝わせていただきます!」 エンジン部や外部装甲など修復するべき部位は数えきれないほどにあったが、艦長を含めて乗組員一人一人が適度な休息をとっていたとはいえ、途中で音をあげる者は誰一人としていなかった。それどころか、乗組員は皆相変わらず生き生きとした表情で作業を行っていた。

 

一時的な戦線離脱を行ったとはいえリオレウスの攻撃を捌ききりながら何とか応急修復を終えたヘカトンケイルは再び回転翼を作動させ離陸した。向かう先はリオレウスの大群による第二の狂乱の宴が行われる空域だった。

 

 

ヘカトンケイルに乗り込んだ男たちの決意と志を見た私はもはやなにも語ることなく応急修復と離陸のため協力した。専門の知識や技術がないためやれることの種類こそ限られていたが、時間との勝負ゆえに、じっとしていることなど考えられもしなかった。

 

数時間の格闘のはてに、ようやくヘカトンケイルは修復が完了して離陸のためにエンジンの点火を試みた。

修復は万全のはずだ。

再び回転翼を作動させはじめた。

 

やはり、消耗は否めず、安定して飛ぶことだけでも奇跡と言えた。

 

ヘカトンケイル本体の整備と同時平行に砲台の整備が行われたため、戦闘力は低下していても戦闘そのものはすぐに再開できた。

 

「これが最後だ!全砲門撃ちまくれ!」

ヘカトンケイルの主砲が再び火を吹きリオレウスの群れに攻撃を加えていく。すでにいくつかの数の砲門が破壊されて目に見えるほどに戦闘力は低下しているが、それでも群がるリオレウスに互角以上に立ち回っている。

しかしながら、元々気が立っている上にヘカトンケイルという得たいの知れない存在に攻撃を受け続けたせいで、リオレウスたちの怒りは燃え上がっている。

 

突貫してくるリオレウスにたいして、機関砲を撃ち込み牽制しながら主砲の砲撃を叩き込み、遠くにいるリオレウスが接近しないようにマルチプルランチャーから閃光弾を発射、まばゆい閃光でリオレウスを叩き落とし、半分ほど残された下層部の主砲でとどめをさす。という戦術で先程は戦ってきたが、現在では稼働できる主砲の数が減少し、先程のような戦術は採用できない。だが、艦長は少しも焦りや不安を見せない。至って冷静に状況を把握し、特に積極的に攻撃してくるリオレウスにたいし、残存する主砲火力を集中させ確実に撃破することで、目下の敵であるリオレウスの大群を捌いていく。だが、リオレウスも一方的に攻撃を受け続けるのみではなく、あちこちでヘカトンケイルの砲撃を掻い潜ったリオレウスたちの火炎弾や爪の一撃はヘカトンケイルに確実にダメージを与えていた。

 

あちこちで装甲が破損していく音が響き、船内の激しい揺れは続いていく。現状は芳しいとは口が避けても言えない。それどころか、外壁のみならず内壁も衝撃で破損が発生しはじめた。私はとうとう悟った。ヘカトンケイルが限界を迎えているということを。

指揮官は一切の焦りを見せずに乗組員に指示を出し、着実に敵の数を減らしていく。今まで、戦意を喪失している人は一人もいない。逃亡しようとするそぶりを見せるどころか、皆積極的に行動に移している。

やはり、彼らは苦境にたたされるほどに闘志を燃やすことができるようだ。私の胸のなかにもうまく言い表せないが非常に強い高揚感が燃え盛っている。これが狩りの醍醐味なのだろう。

 

「全門一斉射用意!撃て!」

艦長が最後の力を振り絞り一斉射の砲撃を放った。

 

その一撃はヘカトンケイルが放った最後の一撃だった。主砲、機関砲問わず、可能な限りの砲撃をはなった。

最後のリオレウスもついに撃墜し、脅威は完全に消え去った。あの数えきれないほどのリオレウスの群れに私たちは勝利したのだ。だが、ヘカトンケイルもあちこちに火災が発生してもはやこれまでという状態であった。 総員退艦を艦長は指示しおり、ある程度の乗組員は脱出に成功したが、艦長をはじめとする古参の乗組員は艦と運命を共にする覚悟を決めていた。

 

私は固唾をのみ、見守っていこう。最後の最後まで、あのときの私はもはやそれしかないと思っていた。

 

私がいる指令室にも炎が上がっている。消火剤も底をつきており、艦長は血にまみれながらも乗組員に指示を与え続けていた。

「脱出用のパラシュートがいくつか残っているな。まずはあんたからだ。」

「え?」

「当然だろう。俺たちはもう完全燃焼できた。やりたいこともやらなければならねぇこともやった。だがあんたにはまだやらなけりゃならねぇことがあるだろう。」 

 

「だが私は、できる限りの乗組員を救助する義務がある!それを放棄して逃げるわけには行かない!」

 

すると満身創痍のはずの艦長は私に詰め寄りそして。拳を握り大きく振りかぶった。その瞬間を目に焼き付けた直後に、私は気を失った。

血まみれの紙で殴り書きだが遺言を書きのべた一枚の紙を懐にねじ込んだ。

 

「安心しろ。俺たちの夢はかなった。最後の最後でハンターとして返り咲けた。どいつもこいつも悔いはのこしちゃいねえ。生き抜けよ。そして伝えていけよ。人の技術ってもんが夢を実現させる希望になるってことをよ。」 

そう綴られた手紙を...

艦長によってパラシュートによって私が強制的に脱出させられた。 

・・・・・・・・

 

直後に、機関部や燃料貯蔵区、弾薬庫が誘爆をはじめて、大爆発を起こした。 

ヘカトンケイルのキールは完全に破壊されて船体そのものもまっぷたつになった上で墜落した。それがヘカトンケイルの最後だった。

・・・・・・

 

気がついたら私は病室のベッドの上にいた。身体中に耐え難い痛みが走り回るが、それ以上に頭を占めるのは艦長たちはどうなったかだった。

 

あとから、残骸回収あるいは負傷者を救助するためギルドから救助隊や専門家達が駆けつけて、さらにはお見舞いまできてくれた人々から聞いた話によると私一人が脱出に成功し生き延びたようだ。よって私以外の乗組員の大半は... 殉職してしまったようだ。

私の目頭から涙が込み上げた。その涙は嬉しさとは違い、 背中を見ていたいと思っていた艦長をはじめ、共に戦ったものたちを失った悲しみとなにも出来なかった無力感そして自分だけが生き延びたという罪悪感からどった。

 

多くの人達がヘカトンケイルの乗組員の帰りを待っていたはずなのに。なぜあの人たちは生きて帰ってくることがなかったのか。が頭のなかから離れずにいた。

「なぜ僕だけが... なぜあの人たちは帰って来なかったんだ... 」

ベッドの上で自問自答を繰り返しているうちになにもかも投げ出したくなる気持ちに何度もいだいていた。しかしながら、それでは私を信じてくれた人達を裏切ってしまう。

私は無力感や後ろめたさを押し殺した。 だが、病院の看護師が私に一通の手紙を届けた。手紙の封を切るとなかに、艦長の婦人からの手紙だった。

「私の夫のことは聞いています。確かに悲しみで胸が張り裂けそうになってはいますが、あなたのせいではありません。どうかあなたが命を失わなかったということを責めないで。あの人は悔いを残さずに戦い抜くことができたはずだから。

あなたが書いていくであろう人々の思いの記録がいつしか実を結び、この世界をより良くしていくことを願っています。」

私は涙をこらえきれずに泣き叫んだ。艦長たちは生還しなかったという事実から来る感情がより強く盛り上がってきた。

泣き叫んでいる途中にあの言葉を思い出した。

 

艦長が最後に残したあの言葉を。いつしか私は泣き叫ぶことを止めていた。 あの言葉を思い出してから考えはじめた。あのときの戦いで生き残った者として、あのときの戦いを見届けたものとして何ができるのかを、何をするべきなのかを。

 

やがて、怪我は治り、病院を退院した。鞄の中から艦長の婦人から送られた手紙を取り出して、手に取りながら誓った。私は今回の出来事、ここで起きた戦いを、戦いに参加したものたちの思いを後の世に語り継いでいくためにやれることをやりつくしていくつもりだ。これから先 ヘカトンケイルのように込められた思いを背負い、多くの希望を、夢を失った人達に再び夢と希望を抱かせる第2第3の空を翔ける巨人が現れるために。 

 

 

 

 

 





空中戦艦ヘカトンケイル
火力評価

上位下位あるいはg及の個体問わず概算15頭の火竜リオレウスを撃退。

底面部の主砲10門の一斉射撃は一撃で地に叩き落とされたリオレウスを完全に沈黙させることができた。


交戦の際に充分な戦績を出したと言える。

防御
多用途ランチャーより発射された閃光弾は空中の飛竜による近接攻撃への対応において絶大な効果を発揮した。無論、フルフルのように視力を持たないモンスターに対する効果は期待は不可能であるため、別途の弾頭を用意をする必要があるだろう。
装甲防御においてはリオレウスやそれ以上の攻撃力を持つモンスターと戦闘する場合においては懸念材料となりうる。改良を求む。


装甲の防御力については火竜のブレスを防ぐものの、同一部位への集中的な着弾にたいしては累計3発が限界とされていた。耐熱性と対衝性能の向上を希望する。

攻撃回避性能ひいては

ダメージコントロールにおいては戦闘中特に空中でのダメージコントロールは非常に困難な作業であった。しかしながら、乗組員たちは巧みな連携でこれを克服しており、乗組員たちの技量と結束力を評価するとともに、ダメージコントロールをより円滑なものにできるようヘカトンケイルの構造あるいは人員配置に改善策を請願したい。



運用性

整備点検に広大なドックを必要としているが、現地修復のための設備及び設計は非常に優秀である。

総合的な評価


誠に遺憾ながら、建造に膨大な資金と希少な資源が必要とされるこの兵器そのものが新たに建造の予定はまだたっていない。だが、戦闘専用のものではなくとも飛行船は今も新たに建造、改良されており、誰かのための手となり足になっている。そして、何かしらの思いを背負って空をかけあがっている。

私はこの兵器の再研究を希望する。



※1特に浮遊ガスタンク関連の問題は設計段階でも指摘されている問題であった。

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