突撃用の武装として先端部にモンスターを攻撃するためのドリルを備え、側面には推進機能搭載爆雷射出装置を搭載した、海上船の護衛を主用途とする水中戦専用の兵器である。 正式採用回転機械槍の回転機構を応用することで小型の電動水中推進ユニットと水流ブレスの原理を応用したウォータージェットユニットを搭載させたことにより推進力及び機動性の獲得、並びに防水性に優れかつ、軽量な素材を表面装甲に採用していることで魚竜種や海龍種にも遜色のない機動性を発揮できる。
無論この類いの兵器には飛竜種クラスの魚竜種や海竜種を狩猟できる攻撃力が必要である。そこで、先述したドリルの他に、飛竜種の牙とバクレツアロワナを主原料とした爆薬を先端部に取り付けた銛を射出するハープーンランチャー四門そしてボウガンは規格が合わないが水中ではより高い性能を発揮する水中弾と各種通常弾を発射できる水中用機関砲を二門搭載している。補助装備として水中用閃光弾及び信号弾そして水中用超小型爆弾を発射できるマルチプルランチャーも搭載している。これらの火力により、水中では普及している武器を凌駕する火力と機動性を誇っている。水中内でも弾薬の調合が出きるように調合キットもセットされている。
この兵器は運用が限定的である上に、水中のモンスターとの戦闘は既存の武器で十分とされ、この兵器の量産は見送られた。しかしながら、今から1カ月ほど前に海上護衛において既存の武器以上の扱いやすさと性能を両立させるよう改良を施したとの報告が入ったことで、今回の試験運用が実施されるようになった。結果次第では狩猟船護衛用として生産するとのことだ。
ここはタンジアの港。世界に名を連ねる大都市の一角で世界最高峰といっても過言ではないほどの繁栄している港町である。今回の兵器運用試験はこのタンジア付近の海域で実施される。
「あんたかい?今回の試験監督さんは。」
20代前半ごろの年頃の男性が出迎えた。
「はい。私はゲオルグと申します。」
「そうかい。まあ、よろしくな。」
「見せてえものがある。ついてきな。」
そういって彼は倉庫に向かった。私も彼について行った。
その倉庫に今回運用試験を実施する 水中戦闘艇マーライオンが格納されていた。
「こいつを設計したのは俺の爺さんだ。けれども爺さんも親父ももういねえ。親父は黒いラギアクルスにやられたらしくてな。」
彼は布を取り除き、マーライオンの全貌を見せた。
祖父が開発・建造したといっているが、外見はまるでつい最近建造されたかのようだった。動力部等も見せてもらった。そのなかには最新技術が織り込まれていることが動力部などからわかった。いかに近代化改修を行っていたかが理解できる。
「これは...すごいですね...」
「決まってんだろ。こいつは特別な存在なんだ。少なくとも俺にとってはな。」
今回の試験運用は安全な海路を確保するために、海路内にはびこっているG級ガノトトスの排除をかねて行われる。
彼自身ガノトトス狩猟の経験は無数にあるらしく、自信と余裕を見せていた。
「口や紙ではこいつをはかれはしない。今からそれを証明してやるよ。」
不適な笑みを浮かべてそう告げた。
彼は父の形見とされる傷の補修あとが残るラギアx防具を身に付け、 マーライオンに搭乗する。スクリューを起動させて彼は海へと潜る。
その一方で私は水中用望遠鏡を乗せた潜水艇に搭乗し、戦闘を観測する。今回でも私は傍観者でしかない。できることと言えば撤退要請の信号弾と水中用閃光弾を発射することくらいだった。やはり、傍観者でしかないが故の歯がゆさを押し殺しながら私は任務に当たる。
母船に乗り込み出航してから数時間後、海藻が生い茂っているにも関わらずエピオスが全く見られない海域に到達した。それは危険なモンスターがいるという証拠だ。推測通り、ガノトトスが発見された。まだこちらに気がついていないうちに私は母船に搭載されている観測用潜水艇に乗り換え、彼はマーライオンにまたがった。ガノトトスがいる海域に到達してまもなく、ガノトトスに遭遇した。彼はガノトトスめがけて全速前進し、火器の照準をガノトトスに合わせた。
そこから戦闘が開始された。
彼は牽制をかねた先制攻撃としてボウガンよりも射程距離の長い通常弾を発射した。ボウガンとは比べ物にならないほどの速度で速射された専用通常弾はガノトトスの弱点を正確に穿ち、ガノトトスの鱗や皮膚に傷をつけた。いきなり傷をつけられたガノトトスも黙っているはずもなく当然彼に向かって反撃を仕掛ける。
水中は文字通りガノトトスのホームグラウンド同然だ。陸上戦闘と同じ感覚で戦い、敗北するハンターは数知れない。海竜種を凌駕する水中でのガノトトスの敏捷性はガノトトスに海の王者という異名を与えていた。
しかし、彼は水中戦を幾度となくくぐってきた。ガノトトスも何度も仕留めて見せたそうだ。現に、戦況は彼の優勢となっている。手慣れた手付きで推進ユニットを動かしてガノトトスの攻撃を回避して攻撃を当てていく。ガノトトスが怒りだしても全く動揺せずに攻撃するタイミングと反撃を回避する必要があるタイミングの両方を見極めている。海中の岩石の塊も粉々に砕く突進も、多くのハンターを苦しめたあのタックルも、岩盤も金属の塊も簡単に切断する水流ブレスもそのハンドル捌きで見事なほどに回避している。よくみると、あえて攻撃が当たる寸前まで動かず、その上でなんなく回避することでマーライオンの機動性をこちらにアピールしている。彼の自信がうかがえる。慢心はあってはならない行為だが、彼の意志の強さは眼に焼き付けることができた。
多くのモンスターは戦いを続ければ疲弊し、動きが鈍る。ガノトトスも例外ではなく、背鰭垂れるようになっていることからガノトトスが疲弊していることが目に見えた。彼はそこに畳み掛ける。その反撃として肉薄している彼めがけて叩きつけるように尻尾を振り下ろすガノトトスだが彼は回避し、ガノトトスめがけてハープンランチャーを撃ち込む。ハープンランチャーは対大型モンスター用にスケールアップした巨大な銛を射出する射撃兵装で敵モンスターの鱗や甲殻を貫通し内部から爆破するマーライオン独自の武装だ。
その武装を用いてガノトトスに大きなダメージを与えるのだ。
ハープーンランチャーはガノトトスの鱗と皮膚を突き刺さった上で爆発しガノトトスの体を抉った。
えぐれた部分めがけて弾速が鈍いがハープーンランチャー以上の威力を持つ超小型魚雷を発射した。
ガノトトスが動く位置と速度をを見極め、魚雷を撃ったことにより大きな打撃を与えた。
疲弊して動きが鈍っているとはいえ弾速の遅い魚雷は命中させることそのものすら困難だというのに、ハープンランチャーでできた傷に正確に当てた。彼の腕前のみならず機敏に照準を変えることが出来るマーライオンの機動性があってこそできる芸当だ。
魚雷によって止めを指したことによりガノトトスをついに討伐することに成功した。
ガノトトスとの戦いが終わって剥ぎ取りを行おうとしたそのときに思いもよらないことが起きた。白海竜ラギアクルス亜種が現れたのである。
魚雷と銛はすでに撃ち尽くし、通常弾ものこりわずか。それでも彼は退却する意志を見せない。
私は心拍数をあげながら彼とラギアクルス亜種を見ていた。
ラギアクルスの放電攻撃を回避しきれず左サブエンジンが破損した。しかし、マーライオンはデッドウェイトとなりうる破損部位を切り離すことが出来るよう設計されている。左サブエンジンを切り離した。当然ながら重量バランスも変化するはずだが、彼は苦もなく対応している。ラギアクルスは攻撃を当てられずに、攻撃ばかりを受けるこの状況に苛立ちを増していく。そして怒りの咆哮をあげた。モンスターは怒りの感情を露にするときに攻撃力と敏捷性が高いが冷静さは失う。この時こそ判断力が試される。彼は十分に距離をとり、敵が肉薄してきた際にはすれ違いざまに機関砲で通常弾を当てながら反撃の隙間を潜り抜けて背後に回り込んだ。一歩間違えばラギアクルスに激突しマーライオンは破壊され彼自身も死んでいただろう。それを恐れずに行った。
戦闘が長引けば必然的に弾薬や推進材も遅かれ早かれ底をつく。マーライオンも例外ではない。通常の狩りでは制限時間が近づくであろうタイミングでマーライオンの推進材が底をついたため、さすがに今度こそは退却することとなった。予備の推進材タンクに交換して退却する。こちらもラギアクルスに気付かれないように退却した。陸にあがった彼は手当てを受けたあとなにも言わずに、マーライオンを引き揚げて、身だしなみを整え直して、工房を兼ねた自宅へと戻っていった。
彼が自宅に戻る前に私は問いかける。
「今回はラギアクルスの狩猟はできませんでしたが本来の目的であるガノトトスの狩猟には成功しました。したがって試験は成功したと報告し、あのラギアクルスの対処についてはギルドに任せることを提案しま...」
私がいいきる前だった。
「おそらくあのラギアクルスは親父の敵だ。親父は海で奴に殺された。ケリは俺がつけるさ。」
「別個体という可能性もあるのではないのでしょうか?」
「奴の右肩にある傷跡は親父がつけたものだ。それにこれをみな。」
懐からラギアクルス亜種の鱗をとりだした。
「これは親父が残したラギアクルスの鱗だ。」
「これと今日俺が手にした鱗を比べれば年輪から奴が親父を殺ったラギアクルスだと証明できる。」
「奴を仕留めれば親父の手向けになるかもしれねえ。奴は必ず俺が仕留める。」
彼の決意は固い。それでも私は説得を試みる。
「お気持ちは察しますが、今回の戦闘によるダメージは相当のはずです。明日も戦いにいくなんて無茶です。機体の修理だって」
「機体の修理は間に合う。身体のほうも傷は塞いだんだ。一眠りすればどうってことねえよ。ギルドからもすでに話は通してある。他に文句はあるか?」
「お身体のダメージはとても明日に回復できるものではありません。どうかご自愛なさってください。命あっての物種です。あのラギアクルスは通常のラギアクルスを遥かに上回る戦闘力を持っています。」
一瞬沈黙が走る。
「...俺の爺さんが言ってたことばなんだがな。今日がどんな1日であっても体が行けるなら明日も海に潜りに行きたいと思えるやつこそ海にもぐりがいを見つけられるんだよ。だから俺はあの海に何がいようが明日も海に潜りにいく。そして奴に挑む。明日もダメだったら明後日も潜りに行く。あんたがなんと言おうとな。」
「挑み続けたいということですね...だけれど...」
「だけれどなんだよ?」
「挑み続けた結果!死んでしまった人たちを私は何人も目にしてきました!どんなに技術が進歩しても失われた命は帰ってこないんですよ!?」
私は声を荒げていった。
彼は感情的になることなく冷静に切り返す。
「その人たちに悔いはあったか?」
「それは...」
彼は私以上に彼等を理解していたのだろう。そう思い自分自身の未熟さがあまりにもふがいなく感じた。
「少なくとも俺は後悔したまま長生きするより、例えどれだけ短くても悔いを残さず生き抜きてえ。もっとも、あんたのその気持ちはまんざら捨てたもんじゃないと俺はおもうけどな。」
「...ありがとうございます。...健闘を祈っています。」
それしか言えなかった。これ以上の干渉はしてはいけないと思った。
「余計なこと考えるな。こちとら死ぬ場所は海の上じゃないと決めているからな。船乗りは死ぬときは陸の上にしろ。これは親父の言葉だがな...だから俺はあの海で死ぬつもりはねえよ。とにかく俺は奴を仕留めるまで終われねえ。」
「わかりました...」
なにも言えず立ち去ろうとしたときだった。
「ところであんたはどうなんだい?少し不都合があるだけで直ぐに投げ出すのかい?」
「...わかりません...」
「そうだろうな。そんなに早く答えは出せねえ。だけど退くことと投げ出すことは違う。狩りってものは引き際が肝心だが簡単に投げ出すのはいけねえ。これだけは覚えておきな。」
「ありがとうございます。」
「いつの日かその問いの意味と答えを必ず見いだします。この試験、明日で完遂させましょう!」
「ああ。」
彼はマーライオンの修復と調整に向かった。
私も機械いじりには心得がある。マーライオンの修理に手を貸す。
「私にも手伝わせてください。」
「そうかい。助かるよ。」
私は持ってきた工具で修理を手伝った。
「予想よりも早く終わったよ。ありがとよ。」
「こちらこそ、マーライオンのすごさを改めて感じることが出来ました。」
「ちょうどいい。気に入っている店があるからそこでめしを食いにいこう。」
彼は好物のコダイオウイカのリング揚げと女帝エビのフリットそしてコールスローサラダを注文した。
私も同じコダイオウイカのリング揚げと女帝エビのフリットとコールスローサラダを注文した。
カリカリに揚がったリング揚げに特性のソースをつけて頂く。
「モンスターを仕留めるあるいは捕獲するこことができれば漁師が帰ってくる確率は大きく上がる。」
「ですが、私がいう資格はないと思いますが、海は人間だけのものではありません。例え大型モンスターであっても安易に滅ぼす権利は誰にもないと思います。」
「まあな。その塩梅が難しいってもんだろうさ。」
「それでも私は考えることをやめるつもりはありませんよ。」
「それでこそだな。それじゃあ乾杯といこうか!」
私達はビールをあおった。
そのつぎの日の早朝私達は集まった。当然のことだが二日酔いなど兆候もなかった。
今回で四回目の出撃だ。やはり、ラギアクルス希少種はこの海域に留まっている。
ラギアクルス亜種に向けてマーライオンの主武装ハープーンランチャーから貫通弾以上の威力を誇る銛が発射された。今回はハープーンランチャーを増設し火力を向上させている。銛はガノトトスの時のようにラギアクルス希少種に突き刺さり、内蔵された炸薬により内部から爆破した。しかし、相手はガノトトスよりも遥かに強力なモンスターだ。ガノトトスはこれでトドメをさせたがラギアクルス亜種は倒しきれなかった。そのため次弾装填をした。予備の弾倉は可能な限り持ち込んでいる。さらに、海域の可能な限り付近のいくつかあるポイントに追加の弾倉を設置しているとのことだ。曰くこれらがあればG級のラギアクルスも三匹は狩猟できるようだ。
多くのハンターの脅威となっている放電攻撃も、ウォータージェットを用いた緊急回避で難なく回避した。時間の経過により酸素が不足してきたため、彼はイキツギ藻を齧り、酸素を補給した。退却することなく戦闘を継続するようだ。「俺は何度だって海に潜り、獲物を何度だって仕留めてきた。今回だって絶対に仕留めて見せるさ。」
慢心のように聞こえるこの言葉も私自身うまくは言えず恐縮だが確かな芯がある言葉に聞こえた。
ハープンランチャーの直撃を見届けた後、ラギアクルス亜種の反撃を受けた。その鋭い爪と豪腕で急所ではないものの彼の身体を防具越しに切り裂いた。
最後のハープンランチャーがパージされた。水中用超小型爆弾も使い果たした今、有用な攻撃手段はもはや通常弾のみだろう。マーライオンにはモンスターの甲殻を簡単に穿つドリルが搭載されているが、今の状況で使うのは危険すぎる。
一持ち込んだハープーンランチャーをうち尽くしたことで弾薬補給を行うため第一設置海域へと向かう。
彼自身も海面に上がり新鮮な空気を思いきり吸った。
ハープンランチャーもうち尽くした状態で戦うことができるのか?そんな危惧が私の頭に渦巻いていた。
彼自身も満身創痍でもはや弾薬は残されていないはずだ。撤退するしかないだろう。撤退要請の信号弾を発射した 。しかし、彼が応じる様子は見られない。
ラギアクルスの放電を間一髪でかわす。その後、急旋回し、推進機関の力を最大限にしてラギアクルスめがけてドリルを回転させながら突撃を仕掛けた。
ドリルを切り離した後はありったけの武装の一斉砲火を浴びせた。ありったけの攻撃を受けてラギアクルス亜種が断末魔をあげてついに力尽きたことを私はみとどけた。私はそれを確認し、すぐに救助に向かった。ラギアクルスの処理はその後でいい。誰もがそう思ったはずだ。
彼を陸にあげて、すぐに救助隊が処置を行った。その後に、処理班がラギアクルスの亡骸を回収した。
しかし、もうすでに彼は手遅れだった。だが、ラギアxヘルムから除く口元には会心の笑みが浮かんでいた。
「今日はいい獲物がとれただろ?...試験監督さんよ...」
涙にあふれながら私は言った。
「勿論です。」
「最後にいわせてくれや。あんたがこれからどう生きるかはしらねえがどんな結果になったとしてもあんた自身の挑戦を否定するな...そこからなにかを拾いだせれば勝ちなんだからよ...」
「悔いはありませんか?」
「聞くまでもねえだろ...悔いなんてこれっぽっちもねえよ。あんたも悔いの無いように生きろよ。」
彼は...動かなくなった。
彼の生涯は壮絶な海での戦いの果てに陸の上で幕を閉じた。
私は彼から教わった。どんな不都合が起きても失敗に一喜一憂することなく何度だって挑み続ければ報われるのだと。何度も挑み続けられることこそが本当の強さなのだと。
今一度思い知った。人類の進歩は技術に限らず、文化や芸術などあらゆることにおいて挑戦による失敗から学び、成功を産み出してきたのだと。
確かにこの兵器は水中専用という極めて局所的となっており、活躍できる機会も必然的に恵まれなかった。それでも、この兵器は水中においては非常に高い戦闘能力を発揮していた。今後、狩猟船の戦力増強や漁船あるいは輸送船、行商船の護衛など海路の維持では優れた性能を発揮することだろう。
結論として、この兵器マーライオンは漁船護衛・狩猟船補助において非常に優れた兵器であり、生産する価値は十分にあると判断した。したがって私はこの兵器の生産を希望する。