「あっっっっついんだけど!」
「たっだいまー!」
8月の暑い日。今日は新幹線と電車を乗り継ぎはるばる故郷の岐阜まで帰ってきた。
そう、2泊3日の帰省である。
去年は俺も1人でバイトも忙しかったし、帰れなかったんだけど、今年は六花も一緒だから何とか帰ってこれた。
まぁ、六花が新幹線乗り場で迷子になったのは想定外だったけど。
「で、これからどうするんよ。一旦家帰ってからベリーちゃん達に逢いに行く?」
「んー、それでもいいんだけどね、もうそろそろ着くって連絡きたの」
「着くって誰が……」
「ロックー!」
「ほら、ベリーだよ!」
駅に降りてどうするか考えていたら六花の元バンドメンバー、ベリーが来た。そして後ろからトリコ、パトの2人も着いてきた。
そうなるともう1人、めんどくさいのが来る気がする。
「そーうーたっ!」
「お前の飛び蹴りは喰らわねぇってんの!」
「ったく、てめぇのその危機察知能力と瞬発力は1年経っても消えねぇんだな」
「お前の出会い頭に飛び蹴りする癖もな、
パトの兄貴で俺の同級生、龍吾の飛び蹴りを交わすことが出来た。こいつは俺に会うと、出会い頭に飛び蹴りをかましてくる。
「そんでどうなん? 東京の可愛い女子の彼女さんは」
「できてねぇし、それを六花がいる前ですんな」
「あちゃー、まだロックちゃんのブラコンは直ってないのか」
「直ってないどころかヤンデレにまでなってるわ。そのせいで危機察知能力は衰えるどころか強化されてるんだよ」
「乙!」
なんやかんや言ってるけど、こいつは小学生からつるんでるの腐れ縁なんだ。バカにされても悪い気はしねぇが、ムカつくからぶちのめしたくなる。
「蒼太先輩ってやっぱり彼女いるんですか?」
「い、いるわけねぇだろ」
「トリコちゃん、こいつみたいなヘタレでアホなスカポンタンに彼女のひとりも出来るわけねぇんだよ。多分女子と話せてすらねぇで?」
「龍吾先輩、それ取り消して貰えます?」
「あ、はい、すいませんでした」
龍吾は六花に勝てないらしい。
そうなるとパトちゃんの尻に敷かれてる気がするんだよな。最終的には将来の嫁さんにも尻に敷かれそう。
「安心しろ、おいは尻に敷かれてねぇよ」
「だってよ、パトちゃん」
「安心してくださいよ、兄ちゃんは私が尻に敷いておきますから」
「それでよし」
ダルい龍吾をその場に放っておいて、俺と六花は家に向かった。
やっべ、1年ぶりだからめちゃくちゃ懐かしいわ。
「ただいま、じっちゃん、ばあちゃん」
「おかえり、蒼太、六花」
「でさ、父さんいる? 飛び蹴りかましたい」
「あぁ、奥にいるよ」
まず荷物を置いて考えるか。
父さんにあったらまず飛び蹴りかますか。いや、猫騙しでビビらせてからでもいい。六花に合鍵渡した怨みと妬みは重いぞ。
「帰ってたのか」
「うん、帰ってたんだけどさ、なんで六花に合鍵渡したん?」
「母さんに頼まれてたんだ。六花も蒼太も年頃なんだから渡しておけってな」
「いやそれ逆に渡しちゃいけんやつやん!」
父さんがそうなことするわけないとは思ってたけど、首謀者はやっぱり母さんだったのか。
あの人、昔から俺を誰かとくっつけようとしてたもんな。ある時はパトちゃん、ある時はベリーちゃん、そして今度は六花だ。
とりあえず、俺の中で六花はまだ妹判定だから恋愛対象に入ってません。
「そんで、その首謀者の母さんは?」
「お前たちが帰ってくるからって買い出しに行ったよ。夕飯は豪華だぞ」
「わーってるよ。俺、そこら辺歩いてくるわ」
家から出ると、東京では見れない田んぼと森と林、走りながら遊ぶ小学生が見える。えー、はい、帰ってきました。岐阜に帰ってきました。
「いつ帰ってきても結構好きなんやよね」
「ういういそうちゃん、さっきぶりじゃん。久しぶりにカチコミ行くかい?」
「なんで高校にもなって中学にカチコミ行くんねん。俺は行かんぞ?」
「ちゃうって。うちらが中学卒業してからここら辺のアホどもがまた騒ぎ出したって話しよ」
俺らが中学卒業して2年。
たった2年しか経ってないけど、俺らっていうアタマがいなくなったからアホどもが騒ぎ出したってことか。
「それどこ情報よ」
「パトとうちらの後輩よ。明日の夏祭りでまたアホやるって話も聞いたで。さて、どうするよ。可愛い妹ちゃんたちにかっこええとこ見せようじゃねぇの」
「ったく、しゃーなし。一夜限りの龍蒼コンビの復活だ」
「ノったノった! その話ええで!」
とは言ってみたものの、こっちの夏祭りはちゃんと楽しく回りたい。
六花はパトちゃん達と回ると思う。だったらしょうがないから龍吾と回ってやろうって話だ。こいつと回れば退屈しないからな。
「ひっさしぶりやな。龍蒼コンビとかなっつかしいわ」
「俺としてはその呼び方は不服なんだけどな」
「なんでや、かっこええやろ?」
「なんでお前の”龍”が上なんだよ。普通、俺の”蒼”が上だろ」
中学のアタマは俺だ、龍吾じゃねぇ。だったら龍蒼じゃなくて蒼龍だろ。
「そんなことかいな」
「そんなことじゃねぇよ、俺にとっちゃ死活問題だ」
「ま、龍蒼じゃなくて蒼龍でええで。帰ってきた幼馴染のためや。今日だけな、今日だけ」
「いやそのまま一生続けろよ!」
「おーおー、にっげろ〜」
いつになってもこのくだりはなくならない。
でも、このくだりをするとちゃんと帰ってきたんだなって感じがして好きなんだよ。
グダグダ言ってるけど、結局のところ、俺も田舎好きなアホの一員だってことだな。
「あ、お兄ちゃ〜ん、ご飯できたってお母さん呼んでるよ〜!」
「だとよ。おいも飯食いに帰ろうかな〜」
「龍吾先輩も一緒にどうですか? パトちゃんもうちで食べていく〜って言ってくれてるんです!」
「ほいじゃおいもご馳走になるとしようか」
なんでそうなるんだよ。家でまで龍吾と一緒なのかよ。
でもそのおかげで六花が闇堕ちしなくて済みそうだからな、その点は評価しよう。
「ただいま」
「おっじゃましま〜す」
「おかえり蒼太。龍吾君とも会えたのね」
「いや〜、蒼太のやつ、帰ってくるのにおいに連絡くれなかったんですよ」
「あらやだ、かわいそうじゃない」
なんか井戸端会議みたいなのが始まったよ。これいつも恒例行事なんだよな。止めようにも止められないのがこの現状。
「ま、そんな話は置いておいて夕飯にしましょ。多めに買っておいてよかったわね。お刺身もお肉も沢山あるわよ!」
「ご馳走や!」
「今日の主役は俺と六花だ」
「いいのよいいのよ、龍吾君とパトちゃんにもお世話になってるしね。それに蒼太と六花の結婚の前祝いなんだから♪」
あー、忘れてた。六花が鍵もってた元凶はこの人だったんだわ。
「え、六花と蒼太が結婚するんすか!?」
「そーなよ。実はね、六花と蒼太は血は繋がってないの。それでも六花は昔からずーっと『お兄ちゃんのお嫁さんになる!』って言ってからそろそろと思ってね♪」
「蒼太、おいはダチのことなら祝福するぜ」
「まだ決まってねぇよ」
「まだ決まってないんだ……お兄ちゃん」
母さんの後ろからギシギシと床が軋む音と一緒に六花、いや、今はもう堕天使六花となって歩いてくる。
ドス黒いオーラを身にまとい、暑い日にはちょうどいい冷たい風を連れてくる。
「おいは知らんからな。さ、さきあがっちょるで」
「お、おい龍吾!」
「ちゃんとお話しようね、お兄ちゃん。まずは正座だよ」
「あの、六花s『正座、だよ?』yes」
玄関先で堕天使六花を目の前にして正座している。
なんで実家に帰ってきてまでこうならなきゃならんのだ。
「お兄ちゃん、お母さんも言ってたけどさ、昔の約束は覚えてくれてる?」
「覚えていますとも、六花お嬢様」
「変な呼び方。っていうのはおいておいて、それ破ったらどうなるかわかるんだよね?」
「想像つきませんね。ていうか出来れば想像しなくないですね」
「もしお兄ちゃんが私以外の女の子と付き合ったらね、その相手の女の子をギッタンギッタンにして二度とお兄ちゃんに会えないようにしてあげる。あ、お兄ちゃんは無事だよ。働かなくていいから、ずーっと私と子供とお家の中で過ごそうね♡」
ヤンデレ? メンヘラ? もう何が何だか分からないけど、これだけは言える。
今の六花は過去最大に怒ってる。
その理由はなんとなくわかるけど、俺は悪くないと思う。ていうか悪気はないんです。
「もし、もしもの話だけどさ。いや本当に砂漠から米粒見付け出すような確率の話だけどさ……俺に六花以外の好きな人が出来たらどうする……?」
「もちろん祝福するよ。その後に力尽くでお兄ちゃんを奪っちゃうけど♡それが例え明日香ちゃんでも香澄先輩でもパトちゃんでも……」
「お、おう。分かったよ」
これはもうアレですね、僕終了のお知らせ!
「でもね、もしお兄ちゃんがその人のことどーしても大好きって言って、その人もお兄ちゃんのことが大好きっていうならちょっとだけ考えてあげるかな。ほんのちょ──っとだけだけどね」
「そ、そうでござんすか」
「ま、お兄ちゃんはロリコンだし、私しか眼中に無いけどね♪」
「半分当たってて半分外れてるけど、その笑顔のオマケで100点満点!」
「それじゃ〜、夕飯食べちゃおっか!」
妹に甘すぎる兄貴も悪いと思う。だけどな、兄貴って言うのは妹の笑顔には勝てない生き物なんだよ。
だとしても、こうなるまで甘やかしすぎたのはさすがに悪いと思ってる。だけど後悔はしてま……す!なんなら後悔しまくりです!
次回
蒼龍コンビで荒れるぜ、止めてみな!
そのうち蒼太と友希那さんの絡みを出してみたい。あと、沙綾の家の手伝いするとかもいいかも。
あ、でもちゃんとRASは絡ませますよ。主にチュチュ様とパレオですけど。俺の推しメンですけど!