夏休み最後の日曜日、俺はまたショッピングモールに来ていた。
学校に必要なものを買いに来たって言うのもあるけど、そんなのは二の次。もう少し別の用事で来た。
「よぉ、待ったか?」
「めっちゃ待ったよ」
「あ、あぁ、悪ぃな」
「嘘ですけど」
俺が風邪引いた時にますきにバイト代わってもらったから、その埋め合わせでショッピングモールに来てるわけ。
まぁどうせ、荷物持ちとかなんでしょうけどね。ていうか、それぐらいしか考えられねぇんだよ。
ますきと買い物行くとか普通ないし、遊びに行くのだって遊園地とか映画館とかだし。え、それってデートじゃんって? いやいや、俺はますきを恋愛対象としてみてません。
「で、今日はどうするよ」
「どうするったってな、なんも考えてきてねぇんだよ」
「とりあえず中入ろうぜ。結構暑いしさ」
「そうだな」
そういって2人揃ってショッピングモールの中に入るのだが、何もすることがない。
やりたい事はあるにはある。そりゃ夏休み最後ですもの。だけど、今日はますきファーストの精神で行くつもりだから、ちょっとめんどくさい。
「買い物ったって何買うんだ?」
「あたし、バンド始めてさ。それに合わせてスティックとか新しくしようと思ってな」
「どうせなら服も新調するか?」
「お前が選んでくれるならな。いちいち選ぶのめんどくさいんだよ」
「俺も服を選ぶのは嫌いだわ」
もちろん今来ている服も俺が選んだわけではございません。え、誰かって? 六花たちと海行った後に服買いに来たらひまりとリサ先輩に捕まったんだよ。そんときに選んで貰ったんだけど、これがバッチリ似合ってると。あの二人のファッションセンス恐るべし。
「そういえば、お前ってギター弾けるよな?」
「もちろん。現役バリバリ軽音部、伝説のサボり副部長なめんなよ」
「なんかいろいろ混ざってるぞ」
「まぁ、それほど俺の肩書きが多いってことよ」
伝説のサボり副部長というあだ名がついた理由はちゃんと説明しておきたい。
ご想像通り、原因は六花です。
だって当たり前じゃん! 部活に行く時も部活帰りも一緒だし、部活中だってずっっっっとくっついてるんだからな!?
練習もままならない、ってことは無いんだけど、単純に周りからの視線が痛いんですよ。妬みの視線がね。
「で、俺がギター弾けるからどしたん?」
「いや、ギター弾けるやつ知らないかなって。うちのバンド、ギターだけサポート入ってもらってるんだよ」
「なーるほどね」
六花はバンドやるために上京してきたんだし、推してもいい気がする。でも、ちょっと兄として不安なんです。可愛い可愛い俺の妹がますきと同じバンドでやって行けるのかがさ。ますきを信用してないわけじゃねぇし、むしろ信頼できますよ。でも思い浮かぶのがヘビメタバンドだから、六花が悲鳴あげる気がしてならない。
「俺は知らんかな」
「おまえの妹は弾けねぇのか?」
「バンドやるために上京してきたんだけど、ちょっと今忙しいらしいからさ。わりぃな」
「わかった。せっかく来たんだし、さっさと買い物終わらせてゲーセンでも行って遊ぼうぜ」
「合点承知之助」
とは言ったけど、案の定ますきの買い物に時間がかかってる。女子の買い物って考えてる3倍ぐらい時間かかるよな。
「スティックは買ったし、スナッピーはまだ家にあるし……」
「まーだでーすかー?」
「もう少しだから待っててくれ」
「あいよ」
結局、その後30分近く待たされてたから、俺も蒼と水色のピックを2つずつ買った。
なんで2色2つずつ買ったかと言いますと、それは秘密です。
「悪いな。やっぱ、ドラムのことってなると悩んじまうんだよ」
「分かるよ。俺もギターのことってなると悩むからな」
「そう言ってる割に、ピック選ぶの早くなかったか?」
「あ、これは前から決めてたやつ」
なにも考えてないって言ってたけど、ますきはどんどん店を回って行った。お菓子屋さんにも行ったし、雑貨屋さんにも、アクセサリーショップにも行った。
「これ、可愛いな」
「黄色のスペードのイヤリングとか似合いそうだな。片耳につけるだけでも全然違うだろ」
「お、お前がそう言うなら買ってみるか」
「俺も六花に新しいシュシュ買っていくか」
ますきは俺が似合うって言ったイヤリングを買って、俺は六花のプレゼント用に新しいシュシュを買った。
六花以外に服とか真面目に見繕うのって中々ないからちょっと新鮮な感じがする。
「そういや、お前のところって文化祭あるのか?」
「あんじゃね? 知らんけど」
「いや知っとけよ」
「めんどくせ」
そう言われれば確かにそうですよね。
去年の文化祭はアホみたからな。クラスの出し物は縁日で、ほとんど全てサボりました。ダンス部の発表も全てサボりました。そんな俺は何をやったのか。それはもちろんギターだけです。
去年の部長にいきなり「暇ならつなぎのソロギターよろしく」って言われるから、断るに断れなかったんだよ。
「暇だったら行くから、日程分かったら連絡くれよ」
「わーったよ。店長は呼ばないからな。夫婦漫才だかなんだかって言われるのはごめんだ」
「だな」
さて、ここからどうしようと思っていたところで、スマホに着信がありました。
誰なんでしょうね。こんな時にタイミングよく邪魔するようにかけてくるのは誰なんでしょうね!
「電話、鳴ってるぞ」
「知ってる。あえて出ないんだよ」
「急用かもしれないだろ?」
「ますきがそこまで言うなら出るか。ってか、静かにしてろよ。相手が相手ならお前と一緒にいるってことが知れた瞬間やばい事になるからな!」
「お、おう」
そして画面を見ると、予想通り六花だった。何故か知らないけど、六花の名前のところが「愛しの恋しい妹」って変えられててビビったんです。犯人は絶対六花だろ。
「も、もしもし、六花……?」
『あ、お兄ちゃん、今どこにいるの? 家に来たのにいないから心配したよ』
「ちょっとショッピングモールに来ててさ。明日、学校始まるだろ? だから必要なもの買いに来てるんだよ」
『そういうことなら安心したよ。また誰がとデートしてるのかと思ってた』
「し、しねぇよ」
ひまりが泊まった次の日、俺は六花に手錠かけられたんだよ。
本人曰く「既成事実作ってもいいけど、それだとお兄ちゃんが大変になっちゃうからやめてあげる」だそうです。
『今日は私が夜ご飯作っておくね。炒飯でいい?』
「任せるよ。今日も泊まるのか?」
『明日から1回家に帰ろうかなって思ってるよ。ちょっとやらなきゃ行けないこともあるから。お兄ちゃんと離れるのは寂しいけど。とーっても寂しいけど!』
「うんうん、俺も寂しいよ。じゃ、一旦電話切るわ」
『うん! 気をつけてね!』
ますきといることがバレてないようで何より。
今度バレたら手錠に加えて猿轡とかされそうで怖いんだよ。
「まぁ、今日は解散しようぜ。お前の方も大変そうだからな」
「そうするか。じゃ、またバイトの時な」
「ちょ、ちょっと待ってろ」
「ん?」
解散することにしたんだけど、ますきは今日買ったものを漁り、ひとつのものを取りだした。
「これ、片方お前に渡しておく」
「なんでイヤリングを片方だけなんですかね」
「今日の礼だ。あと、日頃のお礼」
「なんだ、気が利くじゃん。ありがとよ。バイトの時、ちゃんとつけてくよ」
「ああ、じゃあな」
ますきはバイクに乗って、俺は歩いてそれぞれ帰った。なんかますきの顔が赤かった気がしたけど、暑かったからだろうな。今度遊ぶ時はそこら辺もちゃんと考えるか。
あ、六花のプレゼントいつ渡そうかな。
家に帰ってからか、明日の朝か。それとも学校行く途中とか、学校ついてから?
ま、とりあえず今は帰るか!