夏休みが終わって二学期です。はい、めんどくさいです。
だけど珍しいことに、六花が家まで来なかったんだよな。今日は弁当作るって約束だったから六花の分まで作ってきたけど、どうしたものか。まぁ、学校行ったら六花に届けるか。
「あ、蒼太先輩!」
「お、明日香じゃん。そんなに慌ててどうしたん?」
「六花が変なんです! なんか朝来てからずっと暗くてぐったりしてて、先輩の声の録音聞かせても何も反応しないんですよ!?」
「俺の声の録音取ってるのは後で聞くけどそれヤバいやつやん!」
俺は大急ぎで六花のいる教室に向かった。六花がそこまで落ち込むってことは相当なことがあったんだろう。いや、半分俺のせいか。てか、俺関係のこと以外であいつが落ち込むことが考えられねぇ。
「六花! なんかあったのか!」
「あれー、おにいちゃんだー。おはよー」
「ずっとこんな感じなんですよ。なんていうかこう、生気が感じられないって言うかなんて言うか」
「俺もこんなになってる六花は初めて見たかも……ん? お前、いつも付けてるシュシュどうした?」
「え、いつもと同じシュシュじゃないですか」
ところがどっこい、全然違うんですね。普通に見ればいつも付けてる赤いシュシュやん。だけど、六花がいつも付けてるシュシュには俺が星型のアクセをつけてプレゼントしたやつです。しかし、今つけているシュシュにはそれがない。それ故に、今つけているシュシュはいつも付けているシュシュではなく、スペアのシュシュである!
「なに名推理してるんですか」
「あれ、声に出てた?」
「バッチリと。しかもちゃんと決めポーズも決めてましたよ。あ、ダサかったです」
「それに聞きたくなかった。じゃなくて、いつものシュシュどこにやったんだ?」
「なくしちゃったー」
六花が物を無くすなんて珍しい。おっちょこちょいだから壊すことは何度かあった。しかも俺があげたやつやん。まぁ、かなり昔だけどさ。
「あれぐらいもう1回作るから機嫌直せよ」
「あのシュシュじゃないとダメなの。お兄ちゃんから貰ったあのシュシュじゃなきゃ私もうダメ」
「これかなり重症じゃないですか」
特別任務発生任。六花のシュシュを探せ!
「いつ気づいたのか、昨日どこ歩いてたか、あとは……無くしそうな場所とか覚えてるか? 全然具体的じゃなくていい、簡単なものでいい。絶対俺が見つけるから」
「先輩かっこいー」
「まぁ兄貴ですから。それととりあえず棒読みやめようか」
そうは言ったものの、まだ学校なので作戦を考えましょう。
六花は昨日、朝からバイトだったみたい。夕方に終わって明日香の家に行って、帰りに山吹ベーカリーでパンを買ってから公園で猫と遊んで、帰宅。それで家に帰ったらパンの袋と一緒になくなってることに気づいたらしい。気づいてから自分が通ってきた道を辿ってみたけど、そこには何も無かったと。
「さてさてさーて、どうするか」
「六花、大変みたいだね」
「そうなんですよ蘭様。助けてくれてもいいんですよ?」
「なんかキモいんだけど。まぁ、猫のことなら湊さんに聞いてみれば」
「あー、それもそっか。ってか、サラッとキモいって言うな!」
猫といえば猫先輩の友希那先輩に聞けばいいことだよな。でもさ、猫先輩の教室行きたくないんだよ。だって忍者いるんだもん。
「誰が忍者だって〜? このこの〜」
「ちょっ!? 脇腹は反則! 半径30センチ以内に接近禁止!」
「え、ちょっとそれは酷くない?」
「酷くないっす。全部リサ先輩が悪いんすからね」
ほらこうなった。なんだろう、毎回毎回心読まれてるよね。次やろうとしてることも、何を言うかもリサ先輩は知ってる。もしかしてなくてもリサ先輩ってエスパー?
「蒼太、リサにそんな特技はないわよ。まぁ、人を見る目は確かだと思うわ」
「猫先輩がいうなら……いや、人を見る目も危ないでしょ。この人たまに俺のこと見て舌なめずりしてますからね!?」
「私は見てないから知らないわ」
「ほらでたポンコツ理論! だから俺はこんな教室来たくなかったんだよ!」
リサ先輩は苦手です。なんなら猫先輩も苦手です。この教室には俺が苦手な2人が揃ってるんだよ。しかもこの2人が揃うとコンボしてさらにめんどくさくなる。とりあえず情報量が多いから一言で言うとしよう。まぁ、めんどくさい!
「ハァハァ……」
「どうしてそんなに息切れしてるのよ」
「先輩らのせいっすからね……じゃなくて! 猫! 猫!」
「にゃ、にゃーんちゃんがどうかしたの?」
「そうじゃなくて! 猫が六花のシュシュをしてなかったか教えてください!」
猫先輩に聞いてもリサ先輩に聞いても収穫なし。あとはもう放課後自力で探すしかないな。うし、そのためにも残りの授業は寝て体力回復するべし。
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「よーし、探すか!」
「で、どこから探すの?」
「天才美少女探偵モカちゃんの推理によると山吹ベーカリーに行ってから公園に行くといいかも〜」
「それってモカちゃんが行きたいだけなんじゃないのかな」
「いんや、こういう時のモカの感って案外当たるから信じて行ってみる」
俺一人じゃ無理だと思ったので蘭様達にも土下座して頼み込んだらOKしてくれたんだよ。いや〜、いい友達を持ったよ俺。今度ご馳走するからな。
「あ、さ〜や〜、パンちょうだ〜い」
「うん、いつものね。お会計は……」
「そーくん持ちで〜」
「……は?」
「名探偵モカちゃんのお手伝い料は高いのだ〜」
変な理由でパンを大量に奢られました。でも沙綾から耳寄り情報を聞けたんですよ。なんか近所で古いシュシュ拾ったって子が自慢してるらしい。それが何でも赤いシュシュで、星型のアクセがついてるやつだとか。ワンチャンある?
「沙綾が言ってたのって公園だよな」
「
「なんて言ってるのかさっぱりわからん」
「ねぇ蒼太〜、この間みたいに手、繋ごうよ〜」
「こんな一大事にそんなこと出来ないんですね」
公園に行くまでも六花が言っていた道を通って、ありそうなところを探したけど無かった。まぁ横で手を繋ごうだとかパンを食べながら意味不なことを言ったりしてたから見落としてたかもしれないですけど。
「公園まで来たけど見つかんねぇな」
「なぁ蒼太、あそこの女の子の手首のやつってそうじゃないか?」
「ん……あれだぁぁ!」
「じゃなくて、ちゃんと優しく行きなよ。怖がらせるよ」
「お、おう。ここはクールにスタイリッシュに行こう」
深呼吸深呼吸。六花のことになると焦るのが俺の悪い癖。うし、待ってろよ六花。頑張るからな!
「な、なぁ、ちょっといいか?」
「何変人お兄ちゃん」
「いきなり言葉キッツ。というのは置いておいて、そのシュシュ、俺の妹のかもしれないから見せてもらえる?」
「いいよ。でも、これ猫さんから貰ったやつだから見たいなら猫さんをみんなヨシヨシしてから」
「よし、約束な」
目の前にはざっと見て10匹程度の野良猫。みんなこの子に懐いてるっぽいけど、俺には近寄ってこなかった。だがしかし、この俺には猫先輩直伝のネコネコモフモフ術があるのだ!
「お兄ちゃんすごい! この子達私以外に懐かないのに!」
「いんや、簡単だぜ。ねっこのこと好きならな」
「お兄ちゃんも猫さん好き?」
「ねっこもいっぬも好きだよ」
「お兄ちゃんならこのシュシュ見せてあげる。これ古いけどいい匂いで可愛いんだよ」
見せてもらうとあらまビックリ。やっぱり六花のシュシュでした。これはきっとお兄ちゃんパワーで引き寄せたんだよ。
「これ、やっぱり俺の妹のやつなんだ。返してもらってもいい?」
「また猫さんと遊んでくれるって約束してくれるならいいよ」
「モーマンタイ」
「それじゃいいよ!」
六花のシュシュ捜索任務完了。これより六花のシュシュ輸送任務に入ります。報酬は六花の笑顔です。お兄ちゃん頑張っちゃいます。
「俺走って帰るわ」
「お返し期待しとく」
「おう。ちゃんと一人一人作るからな。味とか見た目は期待すんなよ!」
「まぁ、見つかっただけで満足だな」
「私はケーキがいい! ハート型ね!」
なんか最後に変な声が聞こえたけど無視しました。今頃なんで〜って泣きわめいてることでしょう。これもこれでいつも通りってとこか?
走って走って旭湯に到着しました。どうやら明日香とあこが心配して六花と一緒にいてくれてるっぽい。妹もいい友達を持ったな。
「おーい六花〜、シュシュ見つけたぞ〜」
「匂いに見た目、全部一緒……ほ、ほんものやぁぁぁ!!!」
「もう無くすなよ。まぁ、名推理かまして探すのは1人でも楽勝だったから何回だって見つけてやるよ」
「お姉ちゃんがそー兄に土下座して頼まれたからにはやるしかないな〜って言ってたよ?」
「ちょっ、それは言わないお約束!」
何はともあれ、六花のシュシュが見つかってよかった。あ、ここでついでに渡しちゃうか。
「あとついでにほい。お守り」
「なんで中にピック? しかも蒼ってお兄ちゃんが使ってるやつじゃん」
「だからだよ。俺もお前だと思って水色の持ってるから、それを、俺だと思って大切にしてくれよな」
「うぅぅ……お兄ちゃ〜〜ん! 大好きーー!」
「うわっ!? ちょっと無理っっ!」
抱きついてきた六花を受け止めようとしたんだけど、足を滑らせて頭を打ちました。覚えてるのは六花が泣きながら笑ってたことだけ。矛盾してるけどいいじゃないですか。俺はこれで満足です。
尚、俺が気絶したのは頭を打っただけじゃなく、六花の六花を押し付けられて窒息状態に陥ったっていうのを明日香から聞いたのはまた別の話です。
こんな妹が欲しかった人生