「これは一大事ですよ、宇田川中将」
「ああ、その通りだ。朝日軍曹」
「2人で何やってるの。巴まで蒼太のバカに侵された?」
「バカとはなんだバカとは! これは由々しき事態なんだぞ!」
文化祭当日である本日未明、とてつもない事実が発覚しました。それ何かと言いますと、六花達がメイド服着るんだそうです。妹が文化祭でメイド服着るとか何言いよるん? そんなのお兄ちゃんに許可無しでさせるわけないやん。
「で、2人ともサボろうとしてる訳?」
「サボるなんて滅相もない。ただメイド服着てる六花にバカが手を出さないように見守るだけですよ。一日中」
「あたしも蒼太と同じだな。あこに手を出そうとしてるやつがいたらぶっ飛ばしてやる!」
「それをサボりっていうの」
「ついに巴までシスコンになっちゃいましたか〜」
ちょっと待とうか。「ついに巴まで」ってなんなんですかね。元々俺がシスコンだったって言うんですか?
いやさ、妹が嫌いな兄貴がいるわけないじゃない。あんなに健気に努力して守りたくなるほどドジっ子な六花ですよ。確かに闇六花降臨した時は怖いですけど、基本的にはお兄ちゃん大好きーって言ってくる可愛い妹なんだよ。
要するに言いたいことは俺が六花大好きのシスコンじゃなくて、六花がお兄ちゃん大好きのブラコンなの。
「別にメイド服着たっていいじゃん。どうせみんな来てるんだし」
「お前にわかるように話すなら、猫耳つけた猫先輩を野放しにしておくか?」
「なんであたしが湊さんのこと見てなきゃならないの」
「だって好きじゃん」
「うっさい!」
久々に蘭のストレートくらったけど、以前より威力倍増してるやん。これもう蒼太くんダメです。今日は1歩も動けません。
「まったく、そんなに言うなら午前中だけならいいけど」
「え、マジ?」
「その代わり、午後はしっかり働いてもらうから。巴もね」
「よっしゃ! ありがとな、蘭!」
なんだろう、蘭が女神に見えてきた。ここは何も言わずに心の中で土下座しながら行ってきましょう。
というわけで六花の教室に来ました。よしよし、落ち着こう。どんな格好でも六花は六花だ。少なくとも気絶するぐらい可愛いけど頑張ろう。
「いらっしゃいませ〜……っておねーちゃん! そう兄もいる!」
「あ、あこ……」
「巴が……死んだっ!」
「お兄ちゃんー!」
「ゴフッ」
妹のメイド服を見て吐血しない兄貴がいるわけがない。姉も同じくだ。
「六花も他の人に……うん、頑張れよ」
「やだな、変なこと言わないでよ。私はお兄ちゃん専属のメイドだよ♡」
「これ以上俺のライフを削らないでくれ!」
もうなんなんでしょう。俺の妹はもう確信犯だよね、俺のこと大好きってことでいいんですよね。
そりゃ毎日毎日大好き大好き言われてますけど、メイド服で言われると威力が半端なくなるんですよ。
いつもの威力が100とするなら、メイド服着てれば100億ぐらいなんだよ。計算的には俺が10億人吹っ飛びます。あきらかなオーバーキルです。
「見れただけで十分だ。これ以上ここにいたら心臓に悪い」
「そ、そうだな。あたしたちは帰るな」
「なんかあったらすぐに言えよ。すぐ飛んでくるから」
「うん! 私も後でお兄ちゃんのとこ行くね♪」
六花達の教室を出て胸をなでおろした。あんな空間いたら命が何個あっても足りないよ。明日香がいたらもっとやばかったんでしょうね。
「私がいたら何か問題あるんですか?」
「口閉じてなかった?」
「閉じてなかったです」
お兄ちゃんもうダメだよ。もっと我慢すること覚えなきゃ。
「てか、明日香はなんでここにいるん?」
「飲み物買いに行ってたんです。めんどくさいから着替えなかったんですよ」
「まんま香澄やな」
「へぇ〜、そんなこと言っちゃっていいんですかね〜」
なんか地雷踏んだらしい。だって香澄じゃん。違うところと言えば猫耳がないところと声が違うところぐらいだよ。氷川姉妹も驚くぐらいの完成度ですよ!
「地雷踏んだなら謝るよ?」
「別に? 六花に言いつけるだけですから。先輩にセクハラ発言されたって」
「ねぇ許して? それだけは許して?」
「冗談ですって」
余計なこと言わずにそそくさ逃げた方がいいみたいですね。とっとと退散しましょう。
「お、蒼太じゃん」
「なんだ金髪ロリコン製造機」
「ふんっ!」
「今日2発目!」
言った途端にこうですよ。俺の口の硬さはどこに行った。六花に毒されて消えたのか。
「お前、出会い頭によくそんなセリフが出てくるよな」
「申し訳ございません。どうかお許しください」
「そんな綺麗な土下座決められたってなぁ」
だって有咲がそうなのが悪いんだもん。もし有咲が俺の妹だったらとことん甘やかすよ。懐いてくれなくても構いません。だって可愛いから!
「さっき蘭ちゃんのとこ行ってきたけどさ、お前がいないからって怒ってたぞ」
「俺今日で消えるみたい」
「まぁせいぜい頑張れ。あたしらのライブは来てくれよ。期待はしないけど」
「いや期待してもろて。頑張るから。頑張って見に行くから」
とにかく教室に行ったら土下座しましょう。蘭も土下座すれば許してくれるよね。だって日本人がみんな持ってる最終奥義のアルティメット土下座ストームだもん。許してくれないわけがないじゃない。
「蒼太」
「この度は誠に申し訳ございませんでした」
「鉄拳制裁」
「なんで!?」
本日三回目ですはい。俺ってストレス発散に使われてるんですかね。金髪ロリコン製造機と言い、ツンデレ赤メッシュと言い、俺の扱いぞんざいすぎるんじゃないですか?
「あたしたち、これからライブだから」
「代わりに頑張ってお仕事しようと思います」
「じゃなくて」
「なんでございましょうか」
「来て……くれてもいいんだけど」
なんか蘭のデレの部分が出てるんだけど。そりゃそんな顔で言われたら行くしかないよね。どうせ六花も来るんだし、ちょうどいいよ。何はともあれ面白いものを見れたから万々歳。蘭のデレなんてツンデレの99%を占めるからいつでも見れるんですけど!
「いい加減にして!」
「
「もう来なくていい!」
蘭を怒らせて渋々お仕事を頑張りましたよ。そのおかげでポピパのライブは行けるんですよ。これで金髪ロリコン製造機に殴られなくて済むね!
「うーい」
「あ、蒼太! ちょうど良かった、頼まれてくれ!」
「え、なになに、うちの六花がなにかやらかしましたか?」
「そんな冗談はいい! 緊急事態だ!」
どうせ六花もいるだろうからと思って舞台袖に行ったら有咲から緊急クエストが発生してることを言い渡されました。なんかおたえが行方不明になったらしい。そして香澄もおたえを探しに外に飛び出して行ったらしい。
わかってる情報としては最近様子がおかしくて、仕切りにライブの時間を確認してたこと。あとどっかのバンドのサポーターをやってるらしい。
IQ5億の天才である俺が考えるにして、サポーターに入ってるバンドのライブに行ったんだろう。おたえのことだ、きっと大丈夫って思ってるんだろうな。
「おい蒼太、聞いてんのか!」
「安心しろ、ちゃんと聞いてるしちゃんと考えてる」
「今はRoseliaが繋いでくれてるけど、そう長くは持たないからな」
「いざとなったら……最終奥義を使うしかないな」
さて、そのバンドはどこか考えてみよう。
おたえの担当はギターであり、俺はちょうどギター不在のバンドを知っている。名前は知らんけど、ますきがドラムやってるとこなんだよ。ついでに今日はライブだから来れないって言ってたんだよなあいつ。
要するに、俺はますきのバンドのライブにおたえがいってるんじゃねってことを言いたいんです。
ということで直電GO!
「あーテステス、聞こえてますかー?」
「聞こえてるってんの。なんだよ、あたしらもうすぐ出番なんだよ」
「単刀直入に言わせてもらおう。お前のバンドのギターは誰だ」
「誰だって……ハナ、花園たえだぞ」
「ビンゴ」
さすが天才の蒼太君。僕にかかっちゃおちゃのこさいさいですよってほざきたいです。今はそんな状態じゃないんだよアホ。
「とても言いずらいのですが、おたえは文化祭でライブがあるんです」
「はぁ!? いつからだよ!」
「あと10分……いや、20分は伸ばせると思う」
「ギリギリか。こっちはあたしに任せとけ」
「すまん。今度なんか埋め合わせするよ」
内容をそのまま伝えたんですが、香澄はなんかそのライブ会場まで走ってくらしいです。バカかと思うけどこの際どうでもいい。問題はどうやって時間を伸ばすかだ。
Roseliaの皆々様に頑張っていただいてあと2曲はお願いしたい。そしたら大体あと10分程度だろ? そしたらもう最終奥義使うしかないんだよな。
「先輩先輩、ギターソロお願いします」
「え、やだよ」
今日何度目か分からない土下座をして先輩にお願いしてます。部長ならそれぐらい簡単だよね。俺より上手いからね!
「そこをなんとかお願いしますよ先輩」
「今から彼女と回るんだバカ」
「うせやろ、こんなギターバカの先輩に彼女ができるなんて……この裏切り者!」
「誰が裏切り者だ。まぁなんだ、部室の鍵は貸してやるから、お前がやれ」
「悪意に染まりそう」
もうこの際だよな、やるしかないよな。ここでやらなきゃ男が廃る。朝日蒼太、頑張って汚名挽回しようと思います。もう二度と殴ったり脅せないぐらいにかっこよく決めてやろうじゃねぇか!
「へぇ〜、お兄ちゃんを殴ったり脅したりする人がいるんだ〜」
「なんなんですか!」
「なんなんですかと聞かれたら、答えてあげるが妹です! お兄ちゃんのハートを射止める可愛い妹、六花だよ♡」
「うーん、100万点あげる!」
なんて冗談言ってる場合じゃないんよ。でもそんな言われ方したら言うしかないじゃない。
「で、なんでいるの?」
「なんでって……私もギター取りに来たんだよ?」
「あ、それじゃよろしく!」
「なんで? 一緒に弾くんでしょ?」
なんなんだろう、いきなり悪魔ノ六花にならないでくれますかね。わかった、わかったから。そんな恐ろしい形相して睨まないでくれ。ちゃんと一緒に弾きますから。
「有咲、おたえと香澄はあと何分だって?」
「あと10分ぐらいだって」
「よし、その10分は俺らが貰った」
舞台袖に戻ると沙綾とりみもそうなんだけど、有咲がいちばんソワソワしてた。いつもはあんなんだけど、なんやかんや1番ポピパが大好きなの有咲だからな。この間の借りもあるし、ちょっとだけ頑張ってしんぜよう。
「任せてください、有咲先輩」
「だ、大丈夫なのかよ。六花はともかく蒼太は弾けんのか?」
「へっ、好きなだけ言っておけ。その口も今だけだかんな、あとから謝っても許さねぇからな!」
「頼んだぞ……」
「おう、任せとけ」
カッコつけて舞台に上がったものの、予想以上に人が多かった件について。だがしかし、やると言ったからにはやりますよ。
「行けるか、六花」
「もちろん。お兄ちゃんは?」
「いけいけどんどん。やるっきゃねぇ」
六花も眼鏡を外して準備万端。俺も髪わしゃわしゃして準備万端。
「朝日蒼太!」
「朝日六花!」
「「ギター弾きます!」」
目の前を見る代わりに、弦を弾く自分の指と楽しそうに弾く六花の顔だけを見る。じゃないと緊張で心臓吐き出すよ。
六花はバンド経験してるのに、俺は経験してない。まぁ言い訳をさせてもらえば、やろうと思えばやれたんですけどね。眼鏡を掛けたシュシュが良く似合う妹が僕の邪魔をしなければやれたんですけどね。でも俺の代わりにバンドをやってくれたからそんなのチャラですよ。
「最後はジャーンって飛ぶよ!」
「いやいや、飛べるわけないし!?」
「せーのっ!」
「ああもう!」
六花に合わせてジャーンって飛んでカッコよく決めました。できたよね? できたよね? 夏休みの時みたいに魅せプ失敗して今世紀最大の黒歴史を創造なんてしてないよね?
拍手が聞こえてきたってことはあれか、成功したのか。良かった良かった。
「お兄ちゃん、ポピパさん揃ったみたいだよ」
「んじゃ、俺らは退散だな」
香澄の合図を確認してそそくさと舞台袖に逃げ帰ります。
「あ”ー! 緊張しすぎて死ぬところやで」
「ロックー! ありがとー!」
「か、香澄先輩!?」
「そ、蒼太もありがとな。ちょっとだけかっこよかったぞ。ちょ、ちょっとだけだかんな!」
「はいはい、俺がかっこ悪いのはいつもだから気にすんな。お前こそ頑張れよ」
本日の文化祭は終了しました。明日は休みです。なのに僕はバイトです。なんて不幸なんでしょう!
「おにーちゃん、一緒に帰ろ♡」
「旭湯までな」
「むぅー、ケチー」
「頑張ったから泊まることを許可します。勝手に俺のベッドを使ってください」
「やったー! お兄ちゃん大好き♡」
頑張んなくてもそんな顔されたら断れるわけないじゃん。お兄ちゃんの扱いを完璧に覚えた妹は恐ろしいです。
「あ、蒼太にロック」
「おーいおたえ〜?」
「今日はごめんね、あとありがと」
「うんうん、そういうことから今度六花とギター弾いてあげて?」
「うん、いいよ」
ここら辺で妹の好きな事させてあげるってお兄ちゃんポイント上がるよね。しかも泊まらせてあげるってお兄ちゃんポイント爆上がりするよね。でも逆に考えたら襲われるかもしれないんだよ。だって六花だから!
「あ、お兄ちゃんが着てって言うならメイド服着るよ?」
「着て……くれなくていいです!」
「え〜、着たらお兄ちゃんのこと絶対落とせるのに。ご主人様?」
「ダメなものはダメです!」
どうやら俺の妹は本格的に俺を攻略しに来たらしい。攻略できるもんならしてみなさいよ。俺は難攻不落の牙城だぞ。妹以外ですけど!
ことよろです。がんばります