文化祭が終わって初めて通常登校日。片付けもないからのんべんだらりと過ごそうと思うじゃん。だがしかし、そうさせてくれないのが学校っていうところなんですよ。
「なんなん、この課題の量」
目の前にあるのは山積みにされた課題。それに加えて連日の重労働で疲労困憊とおまけに筋肉痛。文化祭でお祭り騒ぎだったのに、いきなりこのざまよ。学校って無慈悲だよね。
「そーくん生きてるー?」
「モカ、やめときな。蒼太の魂はもうここにはないよ」
「また蒼太に手伝ってもらいたいな~。ロックと一緒じゃなくて私と蒼太の二人きりで」
燃え尽きたぜ、真っ白になぁ。
「わかった、水かけて色塗ってあげるね」
「ねぇ、そろそろお兄ちゃん怖くなってきたよ! なんでそんなに存在感消して忍び寄ってくるの!? 将来の夢が忍者とかいっちゃう!?」
「私の将来の夢はお兄ちゃんのお嫁さんになることだよ?」
「真顔でそれ言っちゃアカンで。解決させちゃいけなんですけど解決していいよ!」
文化祭が終わったあともかわいいかわいい妹を甘やかし続けるだめ兄貴です。こんなにかわいい妹を甘やかさない兄貴がどこにいるって言うんだ。甘やかさなかったらそれはそれで社会的な存在位置が奪われちゃいますから!
「あ、蒼太、今日は部活来るのか?」
「遠慮していい? 遠慮させて?」
「まぁ、しばらくはそうだよな。がんばれよ」
ほら、文化祭の時にギター弾いたじゃん。あれが大好評だったんだよ。クラスラインじゃあのときの動画が保存してあるし、校内を歩くといつの間にか周りに人が集まってくるんです。特に女子が多いから六花が闇六花になって飛んでくるから怖いよね。
「もうやだ、助けてもろて」
「あ、先輩」
「天使明日香様、何卒この迷える子羊にお導きを」
休み時間に校舎裏にいたら明日香が来たんだよね。そりゃ助けを求めるでしょうよ。俺が知っててこの校内にいて1番頼りやすい明日香様ですもの。土下座するのは当たり前だよなぁ?
「話し始めてそうそう土下座とかプライドないんですか。ほら、先輩としての威厳とか」
「そんなもの家に置いてきた」
「はぁ……とりあえず頭あげてくださいよ。まぁ、今この状況で頭上げたら問答無用で張っ倒しますけどね」
「それは明日香様の立ち位置が悪いのでは?」
簡潔に一言でまとめると俺が言われた通りに頭を上げたらスカートの中見えるってことなんだよね。たしかに俺は火の中水の中草の中森の中でも気合いで進みますよ。でもスカートの中を進む度胸は持ち合わせてねぇんだなこれ。
「場所どいたんで頭上げていいですよ」
「信じていい?」
「もちろん」
頭をあげると明日香は何故か満面の笑みを浮かべていました。あれか、俺の弱みを握ったから今後なんでもお願い聞いてくれますよねってやつか。聞かなかったら六花に言いつけるとかセクハラされたとか、明日香はやらないと思うけど社会的立場が抹消されるぐらいやばいことを強要されるんでしょう。
「くっ、もういっその事苦しませずにやってくれ!」
「何言ってるんですか。助ける代わりにご飯奢ってもらうだけですよ」
「あらおやさしい」
「先輩の命ひとつより豪華ケーキバイキング付きランチの方が価値的に高いの知らないんですか?」
「なかなかに理不尽な言い方だぞ後輩ちゃんよ」
ひとまず代償はどうであれ、非常時には六花を止めてくれるということなので助かりました。それにしても明日香よ、豪華ケーキバイキング付きランチとは大きく出たな。知っている、俺は知っているぞ。駅前のおしゃれなカフェで定期的にやるやつで、女子同士でいくかカップルで行くのがセオリーなんだ。なに、六花に嫉妬させたいんですか?
あほみたいに忙しい1日ももう終わる。放課後になれば俺は部活をサボってバイトに行きます。でも今日のシフト最後までだし、ますきと一緒なんだよな。何もなければいいとは思うが、何もないわけがないという状況なんですねこれが。
「ねぇ~蒼太~、またデート行こうよ~」
「デートは行かねぇし、俺はおまえとデートした覚えはねぇよ」
「泊めてくれたことはなんて言い訳するの? 雨に濡れたから風引かないようにって一緒のベッドで寝てくれたじゃん」
「いらん誤解生むような言い方すんなよ」
帰りの準備をしている時に話す会話じゃないだろ。やっぱこいつあほだよ。今からアホピンクって呼ぶわ。
「そーくんそーくん、ひーちゃんと惚気てるところ悪いんだけどさぁ」
「だれもアホピンクとなんか惚気てねぇよ。せめてつぐか巴にしといてくれよ。俺の体がもたねぇよ」
「どーでもいーんだけどさぁ、ロックが追いかけられてるよ~」
「は?」
モカが指さす方向を見てみると六花と明日香が猫耳ヘッドホンをつけたちびっ子とパステルカラーのツインテに追いかけられていた。これはちょっとあれですね、お兄ちゃん出動案件です。
「よし、走るか」
「筋肉痛だって言ってたのによくそんなこと言えるね」
「お兄ちゃんは妹のためならいくらでも無理ができる生物なんです。こんな痛みへっちゃらだい」
荷物を蘭に渡して教室を出る。向かうは六花のもとへ、全力ダッシュです。廊下を走り抜け階段は数段飛ばしで飛び降りる。教室から校舎外に出る校内記録が最近更新されてなかったけど、この勢いなら更新できそうです。
「六花!」
「あ、お兄ちゃん!」
「お兄ちゃんが来たからもうだいじょうぶぐっ!?」
「お、お兄ちゃん!?」
突如後頭部に衝撃を受けその場に倒れ込みました。これかなり痛いです。何かと思って顔を上げると目の前には俺のカバンがある。もう犯人決まってるじゃん。
「おい蘭てめぇ! かっこよく決めゼリフ行ってる最中だろ! 邪魔すんな!」
「はぁ? 荷物渡しただけなんですけど。頭に当たったのなんて偶然でしょ」
「ぐぬぬ……今はそういうことにしておいてやる。だけど恨むからな! 覚えておけ!」
まったく、調子狂うぜ。これじゃめっちゃかっこよく登場した正義の味方感がなくなっちまうじゃねぇか。
「ってそんなこといってる場合じゃねぇだろ。六花、大丈夫か!」
「さっきからなんか追っかけられて怖いよお兄ちゃん」
「よしよし、俺が来たら大丈夫だからな」
「あれ、先輩がいつもより1ミクロンだけ頼もしく見える」
明日香の一言で俺のガラスのハートにヒビが入ったけど六花がいるから即座に接着されました。さてさて、こいつらなんなん?
「はぁはぁ、まったく、手こずらせるわね」
「うちの六花になんのようですかガキンチョ」
「だ、誰がガキンチョよ! これでも私は高校生よ!」
「身長ちっさいからガキンチョ認定」
「言わせておけばねぇ!」
ガキンチョ相手は煽るに限る。喧嘩の時だって煽れば適当に殴ってくるからそれに合わせてカウンターズドンで終わるんだもん。あ、さすがに女は殴らねぇよ?
「まぁチュチュ様、言われているのはご最もですし、本題に入りませんか?」
「ふんっ! しょうがないわね。簡潔に話すわ。ロッカ・アサヒ、私のバンドに入る気は無い?」
「うちが……バンドにぃぃ!?」
なんか話し始めたよこのガキンチョ。六花がバンドに入るのは万々歳だが、お兄ちゃんとしてこんな物騒なやつに任せておけねぇな。
「あなたのギターは聞かせてもらったわ。私のバンドでその最っ強のギターを弾く気は無い?」
「うちが、バンドに。うちが、バンドに……」
「ありゃ、こりゃフリーズしてるやん。まぁ六花が入るかはさておき、あんたさん誰よ」
「そうね、名前を覚えなさい。私はチュチュ、バンドのプロデューサーよ。ガキンチョじゃないから!」
いやいや、どっからどう見てもガキンチョですやん。横に立ってる子の方がよっぽど大人に見えるよ。身長的にも精神年齢的にも。
「あんたも名乗りなさいよ。私だけに名乗らせるつもり?」
「忘れてた。俺は朝日蒼太。今フリーズしてる六花の兄貴」
「ソウタ・アサヒね。あなたのギターもなかなかだったわよ」
「お褒めに預かり光栄ですガキンチョ様」
「だから私らガキンチョじゃない!」
六花はフリーズしたままだし、少し走っただけで体は痛むし、やばいです。どうしましょうこの状況。お兄ちゃんパワー全力全開で頑張るしかないじゃないですか。
「まぁいいわ。また日を改めるから、その時までに考えておいてって伝えてちょうだい」
「お兄ちゃんとしてガキンチョがプロデューサーを務めるバンドに入らせるのは少々気が乗りませんね」
「うるさいシスコン!」
「俺はシスコンじゃねぇ! 六花が俺のことを好きすぎるだけだ!」
「って言うことがあったんだよ」
「おまえ、やっぱ妹好きすぎだろ。シスコンだな」
「妹を嫌うお兄ちゃんがどこにいる。そして俺は断じてシスコンじゃない。六花が俺のことを好きすぎるだけだ」
バイト先でますきとだべってたるとまたシスコン認定されました。まったく、何度も言ってるじゃないか。僕がシスコンなんじゃなくて、六花が重度のブラコンなの。そこら辺はっきりさせておかないと気が済まないんです。
「にしても、うちのバカがそんなことやるとはね。いや、あのバカだからやるのか」
「だれだよ、そのうちのバカって」
「まだ知らなくていいよ。今度教えてやる」
「あいあいさー」
とにかくまずは体を休めましょう。そして六花がバンドに入ろうが入らまいが、お兄ちゃんとして全力全開で応援して行けるようにしましょう。
「なんだ、また夫婦喧嘩か?」
「だから、俺とますきは夫婦じゃないですから。誰がこんなヤンキーなんか嫁にしたがるんですか」
「あたしからも願い下げだよ。こんなシスコン、妹以外に好かれないっすよ」
「でもおまえら頻繁にデート行ってるよな。常連さんから遊園地とか映画館とかで一緒にいるの見たって話聞くぞ」
「「あれはデートじゃない!」」
なんなんだろう、遊びに行くのをデートって言うのやめて貰えます?
女子と二人きりで映画館とか遊園地行くのはデートです(確信)