拝啓愛しの妹さん。顔を見なくなってから一晩が経ちました。上京してきた一年と学校行事を除き、これまでの最長記録は二晩です。このまま記録更新してほしいのですが、おそらく無理でしょう。だって、行き先伝えてないのに今から行くねって連絡来たんだもん。
おかしいんですよ。俺は今日の朝から六花にバレないように少し遠目のショッピングモールに来てるんだ。
誰にも行き先を伝えず、誰にも会わずにここまでたどり着いたはず。普通ならそう簡単に居場所がバレるわけがない。が、六花なら息を吸って吐くようにできるレベルでしょう。
かれこれお兄ちゃんをやって十数年。六花の行動パターンは嫌というほど頭にインプットされている。膨大なデータと俺の天才的な頭脳が合わされば六花から逃げおおせるなんてお茶の子さいさいよ。
いや待て、冷静になるんだ。こうやって高を括るから、俺は毎度六花に捕まるんだ。いくら俺が六花のことを理解していたとしても六花は常に俺の想像の一歩先を行っている。
ここはあえて俺からアクションを起こした方がいいのではないか。そうだそうだそうしよう。
「もしもし我が妹よ」
『あ、お兄ちゃん! あと5分ぐらいで着くから待っててね』
おいおい、嘘だろ。想像の倍以上近づいてきてやがる。なんでって聞いても、お兄ちゃんの妹だから、とでも言うんでしょう。
だからこそ、今回は俺が先に条件を提示するんです。
「そんな六花にいいお知らせがあります」
『なんですかお兄ちゃん!』
「久しぶりに二人でゲームをしようじゃないか」
提示したゲームは鬼ごっこ。誰でも知ってる、簡単で庶民的なゲームですよね。
鬼は六花で、逃げるのは俺。タイムリミットは俺が帰りの電車に乗るまで。どうせ俺がどこにいようとも六花は分かってるんだ、勝敗決定はそんなもんでいいだろ。
『じゃ、ゲーム開始だね』
「俺がいるとこ知ってるんだな」
『頑張って見つけてみせるから!』
ということで始まりました鬼ごっこ。勝者には敗者を一日自由にできる権利が与えられます。
今までのことから考えて、俺が負けるビジョンが見え見えなんだよ。だがしかし、今回の俺にはとっておきの秘策があるのだ。
「さて、これでオッケーだな」
まず手始めにスマホの電源を落とす。そして第二の作戦、服装を変える。
GPSを発する端末はスマホ以外に持ってないし、めんどくさいのに替えの服を三着ぐらい持ってきた。ここまでしたんだから、速攻見つかるなんてことは無いだろう。てか頼むから見つけないでくれ。
俺から提案したんだし、今更ルール変更なんてするわけにはいかない。頑張って、死ぬ気で逃げ切ろう。
「で、着てみたけど、回る順番変えなきゃな」
本当だったらゲーセンから回るつもりだったけど、行動を読まれるから却下。そんでもってCDショップと楽器店も同じ理由で却下。
残る場所は食品売り場か、この間壊したやつの補充をかねての食器店。逃走ルートを考えながら動くとなれば、食器店から回るのが最善手と考えた。
早速来てみたんですが、商品陳列が前と少し違ってるんです。これは思わぬタイムロス。諦める……訳にはいかないね。お気に入りの茶碗を壊した代償、今ここで支払ってやる。
「あ、蒼太」
「なんだレイヤか。買物?」
「うん。その様子だと蒼太も、だね」
幸か不幸か、知り合いのまとも枠トップランカーのレイヤとエンカウントしました。事情を説明して協力を、といきたいが嫌な予感がするから事象を説明するだけにしておこう。
「……そっか。またロックと追いかけっこしてるんだね」
「そういうこと。多分、ていうか絶対にそろそろ六花はここにくる」
「お兄ちゃんの勘、ってやつ?」
「まぁ、そんなところ」
お兄ちゃんですし、自分のことより
「私も逃げるの手伝おっか? 用事、思ったより早く終わったからさ」
「お願い、お願い、します」
「ふふっ、了解」
ここでレイヤに六花のことを待ち伏せしてもらうってことが大切だと考えた。話してて時間を使うのもよし、嘘の情報で撹乱するもよし。なにより、一緒にいたことに食いついてくれ。
囮作戦のようでレイヤには悪いが、今度埋め合わせすると言うことで。なに、これが俺の常套手段だ。そのあとで痛い目に遭うまでがセット、なんだよなぁ。
「てなことで、頼むぜレイヤ」
「うん、任せて」
よし、とりあえず撹乱作戦と目的の物は買えた。
そしたら、食品売り場で調味料と粉物と、って思ったけど荷物が多くなると逃げるときに支障が出るな。ここは一つ、今日の昼飯と夕飯を捨ててゲーセンに行くか。音ゲーは我慢して、今日はクレーンゲームだけに集中しよう。
「よっしゃやり!」
いつもなら沼に嵌まって散財するところなんだが、今日はなぜか調子がいい。お菓子やら人形やら、大きい物から小さい物までじゃんじゃん取れやがる。荷物多くならないようにって二食分を犠牲にする覚悟なのに、俺は一体何してるんだ。
「そろそろ帰りの支度を……」
「おっにいっちゃん~おっにいっちゃん~」
「うーん、さっさと逃げた方がいいなこれ」
ゲーセンに六花が来てやがる。そこら中から聞こえる爆音と人だかりですぐには見つからないだろう。このゲーセンは出入り口が複数あるし、その中の一つはエレベーターがある。
そこなら六花に出会わなければ勝ち確定演出がみられるんだけど、影でも見えた瞬間終わる。これ一世一代の博打だろ。大げさすぎか? そんなことないよな?
「賭けるか否か……今日の俺は付いてる、気がする!」
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付いてなければレイヤに会うこともなかっただろうし、六花がここまで遅くなることも無かっただろう。ここまで来たらノるしかねぇよなぁ、やるしかねぇよなぁ!
「そうだね、やるしかないね、お兄ちゃん」
「おうおう、早いじゃねぇか」
「これで一日お兄ちゃんのこと自由にしていいんだよね?」
ここで罠が炸裂。最初に言ったことを覚えてるだろうか。これは
ショッピングモールを出て、あと少しで駅に着く。隣で歩く六花は上機嫌。なにしよっかなー、なんて言いやがって、今に見てろ。その笑顔、崩してやる。
……六花の笑顔を、崩す、だと。お兄ちゃんとしてそんなことを進んでしていいのか? 毎日毎日あんなことやこんなことで迷惑掛けられてるんだから、少しの騙しぐらい、な。許す、許される、許され……
「ないっ!」
「いきなりどうしたのお兄ちゃん」
「六花、これは鬼ごっこなんだよ。で、俺はまだタッチされてないんだよ」
「あー、そういえばそうだったね」
ほら、話した瞬間目の色変えるやん。絶対に言わなくてよかったやん。後で後悔するぞ俺。それでも六花の笑顔を見られるなら、やることは決まってる。
「逃げてやる!」
「逃がさないんだから!」
接待プレイなんかいたしません。なにがなんでも逃げ切るつもりで走り抜けます。だからさ、だからさ!
「つっかまーえた!」
「やっぱ俺ってバカやな」
よーいドンで勝てるわけないやん。俺は荷物持ってるんだぞ、重いんだぞ。頭使えやボケナス。
「一日自由にか~」
「お手柔らかにね? 変なことなしね?」
「うんうん、知ってるよ。だから~、今度一緒にお出かけしようね!」
予想外にいたって普通のお願いですね。いったいなにがあったんだよ六花、どこをどうしたらそんないい子になったんだよ! 前々からとっても可愛くていい子な妹なんですけれども。
「二人っきりで朝から晩まで、ね」
「あ、はい」
そのじっとりとした笑顔やめてくれよ、怖いんだよ!
「今から楽しみだね、おにーちゃん」
なんだろう、いまから嫌な予感がしてならない。
めちゃ期間空いたのは腹切って詫びます