バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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仁の過去編です。


第九話

 Bクラスで怒りを爆発させ、勢いで教室を出てしまった俺は、冷静さを取り戻そうと、一人屋上に来ていた。あんなに人に怒鳴ったのはいつぶりだろう。

 根本の悪巧みを知ったとき、俺の中で昔の記憶が掘り起こされた。あのときの……中学のときの記憶が。

 今回の件と、中学のときの出来事が似ていたからなのだろう。あまり怒ることをしない俺が人の目も気にせず、勢いに任せて怒鳴り散らしたのは。

 網によしかかり、そんなことを考えていると、屋上のドアが急に開く。そこにいたのは、Fクラス代表にして俺の友人の坂本雄二だった。雄二はそのまま俺の隣までやってくる。

 

「ここにいたのか」

「……戦後対談は?」

「ついさっき終わった。ったく、あの空気の中で戦後対談させるとか、かなり苦労したんだからな」

 

 雄二の話によると、Bクラスとの設備交換はせずに、Aクラスに試召戦争の準備が出来ていると伝えるのを条件に和平交渉を結んだらしい。

 

「……悪いな」

 

 申し訳なく思い、俯きながら雄二にそう返す。そんな俺の様子を見てか、雄二は顔に手を当ててため息をついていた。

 

「なあ、仁。一つ聞きたいことがある」

「……なに?」

「お前の過去になにがあった?」

 

 過去。その言葉に強く反応してしまう。そのまま雄二は言葉を続ける。

 

「お前とは一週間も過ごしていないが、お人好しなほどに優しいお前が他人に激怒するなんてのは考えられない」

 

 さすがとしか言いようがなかった。まだ知り合ったばかりなのにそこまでお見通しなのか。ただ単に俺の性格がわかりやすいだけなのかもしれないが。

 

「無理に話せとは言わない。だがな、これだけは言っておくぞ」

 

 雄二が俺の方に向き直ると、

 

「俺は――俺らは友人としてお前を探し、そして見つけた俺がここに来ている」

 

 その言葉を聞いて、俺は確信した。雄二は、いや、こいつらみんな、本当に信用できるやつだと。その証拠に、雄二の目には強い意志を感じる。嘘を言っているようには見えない。

 

「……はは。俺は恵まれてるなぁ……」

 

 俺は思わず笑ってしまう。こいつや、今も俺のことを探してくれているあいつらになら、話してもいいかもしれない。

 

「……それじゃあ聞いてくれるか。俺があそこまでキレた理由。そして、今の俺でいられるようになった理由でもある……過去の話を」

 

 俺はすべてを話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 中学の頃、俺は人と話すのが苦手で、いつも小説を読んでいた。そのせいでまわりからも孤立し、友達と呼べる人も出来ないでいた。

 ある日の朝、いつものように一人で登校していた俺に、一人の男子が近づいてきた。

「なあ、神崎」

 

 そいつの名前は石井博樹。茶髪のくせ毛で運動神経がよく、男子の中心であり、クラスの中心人物だ。そんなやつが、なんで俺なんかに関わるんだと思った。

 

「お前、いつも一人でいるよな」

 

 だからどうした。俺はそれでいいと思っているからなんともない。だがそう思っている俺が、次の石井の言葉に不意を突かれてしまった。

 

「ならさ、俺たちと一緒に過ごそうぜ!」

 

 俺は最初、こいつが何を言っているのか理解出来なかった。なんでクラスの中心にいるやつが、こんな俺みたいなやつを誘うのか。そんな考えが、頭の中をぐるぐる回っていた。

 

「……なんで」

「ん?」

「なんで俺なんかを誘うんだ? 俺なんかよりも、もっといい奴がいるだろうに」

 

 動揺しているせいか、それとも恐れているのかは分からないが、距離をおこうとしている俺がいる。いつも一人でいる俺が他の人と一緒に過ごしている光景なんて想像出来ない。

 

「なんでって……そりゃ神崎のことをもっとよく知りたいからだよ。それに、友達になりたいとも思ってる」

 

 友達。

 その言葉に強く反応する。今までなかったものが、目の前にある。

 

「……こんな俺でいいなら、よろしく」

「おう! それなら、今度から名前で呼びあおうぜ! 俺は石井博樹だ」

「……知ってるよ。クラスの有名人だしな。俺は神崎仁」

「知ってるぞ。いつも本読んでるやつだろ」

「……そうだな。ははっ」

「おっ、初めて笑ったとこ見た」

 

 言われてから気づく。俺が対人関係で笑ったのはいつぶりだろうか。こいつなら……博樹となら大丈夫かもしれないと思った瞬間でもあった。

 それからというもの、最初の方は博樹と一緒にいるメンバーと馴染めていなかったが、博樹のおかげもあってすぐに打ち解けた。学校ではいつも一緒にいて、ときには博樹の家にも呼ばれたりした。そんな日が毎日のように続いてほしいと心の底から思った。だが、そんな考えはある日を境に幻想に変わった。

 今日もいつものように学校に向かい、いつものように博樹たちと一緒にバカやって過ごそうと考えていた。学校に着いて、自分のロッカーに向かうと、なにやら鞄の中身をごそごそしている女子がいた。名前は確か……白井雅美さんだったかな。

 

「おはよう、白井さん」

「え? あ。お、おはよう! 神崎君!」

 

 なぜかすごい慌ててるけど、どうしたんだろうか?

 

「どうしたの? なにか探し物?」

「あ、あの、その……じ、実はね、私の、私にとって大事なものがなくなったの……」

 

 大事なものがなくなったのか。確かにそれは困る。俺も経験しているからその気持ちは十分に理解できる。

 

「どういうやつなの? 探すの手伝うよ」

「えっ、でも……それだと神崎君に手間とらせるし」

「気にしなくていいよ。俺が好きでやってるんだから」

「……ありがと」

 

 白井さんが顔を赤らめながらお礼を言ってくる。

 

「それで、どういうやつなの? 何か特徴はある?」

「えっとね、ピンクの封筒なんだけど……」

「ピンクの封筒ね。わかったよ。見つかったら教えるね」

 

 そこで白井さんとは一度別れる。さて、頑張って探さないとな。

 

 

 

 

 あれから数日が経ったが、白井さんの探しているピンクの封筒は見つかっていない。辺りをくまなく探してはいるんだが、それっぽいものすら見つからない始末だ。少し休憩しようと自分の教室に戻る。教室に着いて入ろうとしたら、中から声が聞こえてきた。何か言い争っている様子だったので、俺はドアに耳を傾けて中の様子を探ることにした。

 

『な、なんでそれをあなたが……』

『さあな? なんで持ってると思う? 白井さん』

 

 ん? 白井さん? 白井さんが中にいるのか? けど、一緒にいるのは誰なんだ? 

 

『とにかく、それを返して!』

『ずいぶん必死だな? これには何が書いてあるんだろうなぁ~?』

 

 そう言ってなにかが破れる音が聞こえてきた。他にも人がいるのだろうか。複数の笑い声が聞こえてくる。

 

『あれぇ? これってもしかしてラブレターってやつか? 今時書く人なんているんだなぁ。なになに……へぇー、白井さんってあいつのことが好きだったんだぁ』

 

 そいつは何かを見て一人で納得していた。その内容はどうやら好きな人に渡す手紙、いわゆるラブレターのようだ。ってあれ? もしかして白井さんが探していた大事な物って……

 

『……やめて』

 

 中で白井さんのしおらしい声が聞こえてくる。

 

『……やめてよ、石井君!』

 

 俺は教室のドアを勢いよく開いた。

 

「なにやってるんだよ、博樹!」

「あれ、仁じゃん。どうしたの?」

「どうしたのじゃねぇよ! お前、白井さんになにしてるんだよ!」

「なにって……ただ話をしてるだけだぞ?」

 

 あくまでしらを切ろうとしている博樹。その反応に俺は腹が立ってきていた。

 

「じゃあなんで白井さんが泣いてるんだよ!」

 

 ただ話をしているだけなら、白井さんが泣くはずがない。俺がそこを指摘すると、博樹は化けの皮が剥がれたように笑い始めた。

 

「ふふふ……はははっ! なんでって? それじゃあ教えてやるよ。俺が白井さんのラブレターを目の前で破って、手紙の内容を見たからだよ!」

 

 博樹が手に持っているピンクの封筒をヒラヒラと見せびらかしている。間違いない。あれは白井さんが探していたものだ。

 今目の前にいる博樹は、今まで一緒に過ごしてきたクラスの中心人物ではなく、テレビに出ている悪役そのものだった。

 

「……おい」

「んん?」

 

 俺の怒りがピークに達した。

 

「……お前ら、よくそんなことが出来るな」

「なになに? ほめてくれてるの? 嬉しいな~」

「ちげーよ! よくそんな酷いことできるなって言ってるんだよ! そんなことして、なんとも思わないのかよ!」

「なんとも思わないわけないじゃん? とても――」

 

 博樹がさらに下種な笑みを浮かべる。

 

「――とても、楽しいに決まってるじゃん」

 

 俺は博樹を殴り飛ばした。その拍子に教室に並んでいる机や椅子が大きな音をたてて崩れる。

 

「痛ってーな……なにすんだ!」

 

 博樹が俺に怒鳴ってくる。その周りにはいつも一緒にいるメンバーが博樹をかばうように立ちはだかる。

 

「……その腐った性根を叩き直してやるよ」

 

 今の俺の中は白井さんを酷い目にあわせている怒りと、博樹達に裏切られた喪失感が支配していた。

 

「……やってみろよ。みんな、いくぞ!」

 

 博樹の周りにいるメンバーが俺に向かって突撃してきた。集団の中に潜り込み、一人の鳩尾に一発入れる。怯んだそいつを蹴りで退かす。左右から二人が挟み撃ちで迫ってくるが、それを屈んでかわす。そのあと足をバネにして勢いをつけ、顎にアッパーを決める。そのときに後ろから殴られ、鈍い痛みがあったが、そんなのは屁でもなかった。こんなの……白井さんの痛みに比べたら……!

 

「そんなもんか……よっ!」

 

 後ろから殴ってきた奴に回し蹴りを入れる。そいつは派手にぶっ飛び、机に体を強打する。これで残っているのは博樹のみだ。

 

「意外だ。仁って喧嘩強かったんだな。集団相手に勝つなんて」

 

 博樹が一人感心したようにこっちを見ていた。

 

「……残ってるのはお前だけだぞ、博樹」

「ああ、そうだな」

 

 余裕な笑みを崩さずに淡々と話す博樹。

 

「……俺はお前を信じてついていったのに、こんな結末はあんまりだよ」

「そんなのは俺の知ったことじゃない。勝手に信じて、勝手についてきたお前の責任だ」

 

 そのときの博樹の目はいつものとは違って冷たい、他人を見下すような目をしていた。

 

「……そうかもな。俺の見る目がなかったんだな。……だからよ」

 

 俺は鋭く博樹を睨みつける。

 

「……ここで決別といこうよ、石井」

「残念だ。お前とは上手くやっていけると思ってたのにな。神崎」

 

 俺と石井は同時に足に力を入れ、突撃した。先手を打ってきた石井の右ストレートを首を左にずらしてかわし、左腕に力を入れて鋭くパンチを放つ。腹に食い込み、石井が呻くが、すぐに膝を鳩尾に入れてくる。まともにくらった俺は痛烈な吐き気に襲われる。

 

「ぐっ……」

 

 俺はそれを堪えて石井の顔にストレートを叩きこむ。鈍い音がして、石井がふらつく。お互いに一度距離を置いて息を整える。

 

「はぁ……はぁ……」

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 これは、そろそろ決めないとまずいかもな。

 

「……次で決める」

「……やってみろよ、神崎!!」

 

 再び激突する俺と石井。この右腕にすべてを込める!

 

「うらぁーーーー!!」

「おらぁーーーー!!」

 

 二人の雄叫びが教室内に響いて、そのあとすぐに鈍い音がした。

 しばらく静かな時間が続き、そして――

 

「……お前、強いな」

 

 石井がその場で崩れた。

 

 倒れた石井の足元には、白井さんの物であるピンクの封筒が落ちていた。俺はそれを拾い上げ、白井さんのもとに向かう。

 

「はい。白井さん」

「……なんで?」

「え?」

「なんで、そこまでしてくれるの? そんなに怪我までして……どうして」

 

 白井さんがそんなことを聞いてきた。なんで……か。

 

「助けたかったから……それじゃあダメかな?」

 

 白井さんがポカンとしていたが、そのあとすぐに小さく笑った。

 

「……神崎君らしい」

「俺らしい?」

 

 訳が分からずに聞き返してしまう。

 

「……うん。神崎君らしい、優しい理由だよ」

 

 優しいという言葉が俺の胸に深く刺さった。それはいつも聞いていたものとは違い、静かに響いて、それでいてどこか重みのある言葉だった。

 

「白井さんのように笑顔になる人がいるのなら、俺は優しい人になるよ!」

 

 満面の笑みで伝えると、白井さんはほんのり赤くした顔で、

 

「うん! 神崎君なら絶対、優しい人になれるよ!」

 

 同じく満面の笑みで返してくれた。

 

 その日からは、また元の学校生活に逆戻り。変わったことといえば、ときどき白井さんが俺のところに来て話をするようになったことだろうか。あとは俺と白井さんが話しているのを見て、何人かが近づいてくるのだが、それを受け入れて一緒に話すようになったことぐらいか。

 白井さんが優しさを教えてくれたおかげで、俺は本当に信頼できる友達が出来た。卒業してからは白井さんがどこの高校に行ったのかはわからないままだが、きっとどこかで楽しくやっているだろう。

 俺が人に優しくなれたのは、白井さんのおかげだ。彼女に会わなければ、誰とも関わろうとしなかっただろう。彼女のおかげで前を向いていられる。感謝してもしきれないくらいだ。

 

 これが、本気で怒った理由と今の俺のようになった理由である。

 

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「これが、キレた理由と、今の俺のようになった理由だ」

「……」

 

 仁が過去を語り終えた。話しているときの仁の顔はどこか辛そうな表情だった。話を聞いていて、俺は言葉が出なかった。こいつは人に裏切られても、一人の女子の言葉を胸に、中学時代を過ごしてきた。その女子は仁のことを信じ、仁はその女子を信じて、お互い辛い出来事を乗り越えた。今回語られた過去があるからこそ、今の仁の人間性があり、良いことは良いと、悪いことは悪いと素直に言葉にすることが出来る度胸がある。

 

「……悪いな、雄二。聞いてもらって」

「ああ……」

 

 それに比べて俺はどうだったのだろうか。小学校のあの日、俺は自分に言い訳をして逃げ出そうとしていた。けど、あいつは上級生を前にしても逃げなかった。

 仁は過去を二人で乗り越えて現実と向き合った。それに比べて俺は荒れに荒れて、喧嘩に明け暮れていた。俺に比べて仁はとても強い。喧嘩がという意味ではなく、器がでかいという意味でだ。

 

「……なんかさ、今の雄二からは昔の俺と同じ雰囲気が漂っている気がするんだが?」

「……!!」

 

 仁のその一言に俺は驚く。こいつは人の感情を正確に読み取ることが出来るのだろうか。

 

「そんな雄二に俺からひと言」

 

 仁が人差し指をピンと立てる。

 

「雄二はたぶん、あんまり人に相談とかしないで、一人で何でも抱えるでしょ。それはダメだよ。人間、一人じゃいつか潰れるから。雄二はもっとまわりを使って、自分の負担を減らさなきゃ。それくらいしても、罰は当たらないよ」

 

 仁がはっきりと言い放つ。こいつ……この短い間に俺のことをよく理解していやがる。

 

「だからさ、もしなんかあったら、遠慮なく言ってくれや。こんな俺でよかったら、いつでも聞くからさ」

「ああ、そのときは頼むぞ。そのかわり、お前もだからな」

「わかったよ。そのときはよろしく!」

 

 仁がニヤリと笑みを浮かべる。俺も同じように笑みを浮かべる。

 

「おっと、忘れるところだった」

 

 俺はポケットの中から一枚の写真を取り出す。

 

「ほら、お前にプレゼントだ」

「ん? なにこれ……ブッ!」

 仁が写真を受け取り、それを見る。その瞬間、仁が吹き出した。俺が見せた写真、それは――根本の女装写真だ

 

「なんでこんなものがあるんだよ!」

「怒りに満ちたお前を鎮めようと思ってな」

「しかし……これは酷い……だめだ、気持ち悪い」

 

 たしかにこんなもんを見たら気分も悪くなるだろう。

 

「さて、そろそろ帰るか。もう日も暮れてるしな」

「明日みんなに謝っておかないとな~」

「そうしてやれ。それじゃ、教室に荷物を取りに行こうぜ」

「了解」

 

 俺は仁と一緒に教室に戻ることにした。その道中で明久達にメールを送ることを忘れない。仁と二人で通りを歩き、途中で別れて自分の家へと向かう。

 

「(一人で抱え込むな……か)」

 

 その道中で俺は、仁に言われたことを心の中で反芻していたのだった。

 




書いていくうちに内容が増えてきてしまった……。ごちゃ混ぜになってなきゃいいんですけど……。
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