バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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第十話

 雄二と別れた後、到着した家のソファーで一人横たわっていた。いつまでそうしていただろうか。外は薄暗くなっていて、気が付けば時刻は七時をまわっていた。

 

「おっと、もうこんな時間か」

 

 俺は急いで夕飯の支度をしようと立ち上がる。二人には悪いが、今日は簡単なもので済ませよう。肉を適当に切り分けて、もやしと一緒に炒める。それが終わって、次は適当な野菜を盛り付けてサラダにする。あとは美香と隼人が帰ってくるのを待つのみだ。

 俺は今年買ったばかりの携帯を手に持って画面を表示する。すると、メールが五件来ていた。受信トレイを開いて中を確認すると、雄二以外のいつものメンバーからだった。

 

 from 明久

『仁、大丈夫? あんなに怒っている仁は初めて見たよ。まあ僕も根本君のやったことは許せなかったから、仁が根本君に怒ってくれたことには感謝しているよ。ありがとう!』

 

 from 秀吉

『今日のお主はすごかったのう。召喚獣もそうじゃが、根本に怒ったときのお主を見たときは震えが止まらなかったぞい。けど、お主のやったことは人として素晴らしいことだと、わしは思うぞい。わしはお主の友人として誇りに思っておる。お主になにがあったかはわからぬが、なにかあったら話してくれ。待っとるからな』

 

 from 康太

『……お前は強いな。あそこで自分の気持ちを伝えられるんだから。俺も思ってはいたが口に出すことはできなかった。俺の、いや、俺達の代わりに怒鳴ってくれて、ありがとう』

 

 from 瑞希

『手紙を取り戻してくれてありがとうございます。坂本君から聞きましたが、私のために怒ってくれたみたいですね。私も仁君のために何かしたいです。だから、仁君に何かあったときは言ってくださいね。今度は私が仁君を助けますから!』

 

 from 美波

『今日は瑞希のためにありがとね! ウチも試召戦争のあとに話を聞いたんだけど、やっぱり許せなかった。けど、神崎があいつらに怒鳴ったって聞いたらウチもすっきりしたわ。それと、あんたも一人で突っ走らないで、もっとまわりを頼りなさいよ? そのための友達なんだからね!』

 

 どれも今回の件について書かれているものだった。その文面に俺は心を打たれた。

 

「本当に……いい奴らだよ……」

 

 気が付けば、俺の頬に一筋の涙が流れていた。その涙は嬉しさが込み上げて出ているからか、とても暖かった。

 俺はこいつらを失いたくない。絶対手放したくない。それはとてもわがままなのかもしれないが、そう思えるほどに俺は嬉しかった。

 

『『ただいま~』』

 

 美香と隼人が帰ってきた。俺は急いで涙を拭い、なにもなかったかのように二人に返事をする。

 

「おかえり、二人とも。さて、それじゃあ飯にするか」

 

 俺は立ち上がり、キッチンに向かおうとすると、

 

「兄さんどうしたの? 目が赤いよ?」

 

 美香がそんなことを言ってきた。よく見ているじゃないか、妹よ。

 

「ちょっと目が痒くてな」

「大丈夫なの? 目薬持ってこようか?」

「大丈夫だよ。それより、早く着替えといで」

 

 美香と隼人に早く着替えるように促す。二人の姿が見えなくなったところで、溜まっていた息を吐き出す。

 

「ふう……危なかった」

 

 美香の観察力がまた上がっている。昔からそういうところに気づくのが上手かったからな。

 二人が降りてくる前に夕飯を並べてしまおうと、急いで作業に取り掛かった。

 

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 兄さんは何もないように振る舞っていたけど、頬に涙の跡がついているのを私は見逃さなかった。何かあったんだろうか。けど、兄さんの顔はどこか嬉しそうだったし……もしかして嬉し泣きかな? 

 

「気になるけど、聞くのはダメだよね……」

 

 兄さんは優しいから、聞いたら教えてくれるかもしれないけど……。

 

「……言いたくないことだってあるよね」

 

 私は着替えを手早く済まし、部屋を出た。

 

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 今日の仁兄はどこかおかしかったような気がする。なんていうか……雰囲気? どこか悲しそうで、それでいて嬉しそうな感じだった。それが、頬に残っていた涙の跡の正体だろう。たぶん美香姉も気づいているはずだ。

 

「なんかあったのは明白だけど、割って入ることじゃないな……」

 

 兄弟としてここは話を聞くべきなんだろうが、聞いていい事と悪い事がある。仁兄が話したくないことを俺らが聞くわけにはいかない。

 

「さて、飯食いに行きますかな」

 

 仁兄の作った飯が冷める前に、俺はリビングへと降りていく。

 

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 美香と隼人の二人が降りてきて、三人で夕飯を食べた後、風呂に入り、部屋に戻ってゲームをしていた。テイルズシリーズの中で最も好きで、赤い服を着た双剣士が主人公のソフトだ。今は精霊と契約するために各地を旅していた。

 

 コンコンッ

 

「入っていいぞ」

 

 ノックされたドアの方を向くと、そこには隼人がいた。

 

「どうした、隼人。なんか用か?」

「いや、暇だったから来ただけ。お、テイルズじゃん。俺も入っていい?」

「おお、いいぞ。それじゃあ、コントローラーを……」

 

 俺はテレビの下の棚からもう一つのコントローラーを取り出してつなぎ、隼人に渡す。

 

「それじゃあ、キャラはご自由に」

「んじゃ、いつもので」

 

 そう言って隼人が選んだのは、さっきまで俺が使っていた赤い服の双剣士だった。隼人の設定が終わった後、俺は後方支援タイプの女教師を選び、術をセットする。

 

「仁兄は協力プレイになるといつもその人だよね」

「いいだろ。画面も見やすくなるし」

「確かにね」

 

 俺の設定も終わり、ダンジョンを進んでいくこと数分。火の精霊のところに到達する。

 

「毎回思うんだけど、かなり熱そうだよね」

「戦ってる最中汗だくだろうな」

 

 そんなことを話している間にも会話を進めていく。そして戦闘に入るときに、

 

「あっ、言い忘れてたけど」

「なに?」

「難易度、一番強くしてるから」

「……えっ?」

 

 ゲームをする上で結構大事な事を伝えていなかった。それを聞いた隼人も驚いて言葉を失っていた。

 

「それを早く言ってよ!」

「わるいわるい。けど、勝てば一緒だろ?」

「くそー。わかったよ、やってやるよ!」

「その意気だ、弟よ!」

 

 変なテンションになりながら、俺と隼人はゲームに没頭していった。

 

 

 

 

 

 

「あ~、疲れた~……」

「お疲れ、隼人」

 

 ゲームすること数十分、やっとの思いで火の精霊を倒し、隼人がだるそうにその場に寝転んだ。

 

「なんで仁兄は平気なんだよ……」

「だって俺、後ろに下がって術唱えてただけだし」

 

 支援効果が切れたら掛けなおし、体力が減ったら回復する。死んだら蘇生し、あとは攻撃魔法とアイテム支援してただけだもんな。それに比べて隼人はひたすら攻撃していないといけないから、疲労感が違うだろう。さすがに俺も前線が全員死んだときは焦ったけど。

 

「仁兄、俺寝るわ……」

「おう。お疲れ、隼人」

 

 時刻は午後十一時を示していた。隼人が少しフラフラしながら部屋を出ていく。俺もゲームの会話が終わり次第、寝るとするかな。

 会話イベントが終了してセーブをしてから電源を切る。コントローラーを片付けてからベットに潜り込む。すぐに眠気が襲ってきて、俺は深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 午前五時半。セットしているアラームで目が覚める。名残惜しい布団の温もりを手放し、下に降りていく。洗面所で顔を洗った後キッチンに向かい、今日の弁当と朝食を作る。弁当を作り終え、朝食に取り掛かる。午前六時半頃に作り終え、それと同時に美香と隼人が起きてきた。

 

「おはよう、兄さん」

「仁兄、おはよう」

「おはよう、二人とも。先食べてて。俺は着替えてくるから」

 

 美香と隼人は着替えてから降りてきたので二人とも制服だ。唯一寝る時の服のままの俺は着替えるために一度部屋に戻る。階段を上って部屋に入り、ハンガーにかかっている制服に着替える。着替え終わり、リビングに降りていく。

 

「なんだ。食べててよかったのに」

「いや、なんかわるいと思って……ね?」

「いつも兄さんが作ってくれてるから……」

「お前らって変なところで遠慮するのな」

 

 兄弟の気づかいに感謝しつつ、三人一緒に朝食を食べた。食べ終わって食器を片付ける。俺が皿を洗っている間に美香と隼人は顔を洗い終わり、荷物を持って先に学校へと向かった。最後になった俺は戸締りを確認してから、少し遅めの時間に学校を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 学校に着いて靴を履き替え、Fクラスに向かって廊下を歩いていると、

 

『おい、あいつって……』

『ああ、間違いねぇ。黒服の支配者だ』

『あれが噂の……?』

『あの人、結構かっこよくない?』

『私タイプかも……』

 

 あちこちからそんな声が聞こえてくる。女子がなんか嬉しいこと言ってくれてるけど、俺が気になったのはそこじゃない。

 

「……黒服の支配者ってなんだ?」

 

 なんか二つ名みたいな感じだったけど……あとでみんなに聞いてみよう。

 目的地であるFクラスに到着した俺は、相変わらず酷い教室だなぁとか思いつつドアを開ける。

 

「おはよう、みんな」

「あ、仁おはよう!」

「うーす」

「おはようじゃ、仁」

「……おはよう」

「おはようございます、仁君」

「おはよ、神崎!」

 

 いつものメンバーが集まっていたので、俺もその輪に入り話をする。

 

「昨日はごめんな。心配させたみたいで……」

「気にすることはないよ。悪いのは根本君なんだし」

「そうだぞ。今回はあいつの自業自得だ」

「お主は人として素晴らしいことをしたのじゃ。むしろ誇ってよい」

「……気にするな」

「神崎のおかげでウチもすっきりしたしね」

 

 みんなが昨日のことについて、俺は悪くないと言ってくれる。俺は本当にいい友達を持ったなぁ。

 

「あの、仁君」

「どうしたの? 瑞希」

「昨日はありがとうございました。それで、これ……」

 

 瑞希が差し出してきたのは袋に包まれたクッキーだった。それを見た男子四人がガクガク震えていた。

 

「ありがとう瑞希! それじゃあさっそく……」

 

 一つをつまんで口に放り込む。傍らでは合掌を開始した男子四人。俺は食べながらアイコンタクトを送る。

 

「(弁当の時に俺から言っといたから大丈夫だぞ)」

 

 それを理解した四人がほっとした顔をしている。ふむ、サクサクしてて甘さ控えめな生地にチョコチップの甘さが加わって……

 

「とても美味しいよ。瑞希」

「ホントですか! よかったです~」

 

 心の底から嬉しそうに笑う瑞希。なるほど、明久が惚れるのも分かる。おっと、忘れるとこだった。

 

「あのさ、みんな」

 

 みんなが一斉にこちらを向く。俺は今思っていることを口にする。

 

「さっき廊下で聞いたんだけど……黒服の支配者ってなに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなから聞いたことをまとめると、Bクラス戦後についた俺の二つ名みたいだ。黒服は召喚獣から、支配者はFFF団を従わせているということで黒服の支配者という名前が付いたらしい。

 

「まず礼を言いたい。ここまで来れたのもみんなのおかげだ」

 

 今現在、雄二が教卓の前に立ってミーティングをしている。今日はいよいよAクラスに試召戦争を仕掛けるのだ。

 

「今回は一騎打ちで勝負しようと思う。やるのは当然、俺と翔子だ」

 

 どうやらこれが雄二がAクラスに勝つために考えていた作戦のようだ。

 

「バカな雄二が勝てるわけがなあぁぁっ!」

 

 明久の頬をカッターが掠めていった。てか、どうやってやったらあそこまでまっすぐ投げれるんだ?

 

「確かにそう思うのも無理はないだろう。だからフィールドも日本史で限定する。内容は小学生レベルの百点満点上限ありだ。それに翔子は、ある問題が出れば確実に間違える。その問題は――『大化の改新』だ」

 

 なら投げるなよ。明久が可哀想だろ。

 

「誰が何をしたか説明しろ、とか?」

「いや、小学レベルの問題だ。シンプルに年号とかだろう」

「ビンゴだ、仁。年号の問題が出たら俺達の勝ちだ」

 

 雄二が指をさしながら言ってくる。ん? 雄二と翔子って仲がいいのか? さっきから翔子とかあいつとか言ってるけど。

 

「あの……坂本君。霧島さんとは仲がいいんですか?」

 

 瑞希も気になったのだろう。雄二に質問をしていた。

 

「ああ、あいつとは幼馴染だ」

「総員狙えーー!!」

 

 幼馴染宣言した瞬間に明久の号令でクラス男子全員が上履きを構える。しょうがない。話が進まないから止めるとするか。

 

「お前ら、そんなことしたら女子にモテなくなるぞ~」

 

 この一言で一気に静まり返る。嫉妬で狂うほど女子に飢えてるこいつらには女子関連で黙らせるのが一番だ。

 

「助かった、仁」

「いいってことよ。話を続けてくれ」

「そうだな。とにかく俺と翔子は幼馴染で、小さい頃に間違って嘘を教えてたんだ。今回はそれを利用して勝つ。そうしたら俺達の机は――」

『システムデスクだ!』

 

 本当に雄二は勢いを乗せるのが上手いな。クラス中の士気が確実に上昇している。

 

「今からAクラスに宣戦布告に向かう! 仁、明久、秀吉、ムッツリーニ、姫路、島田は一緒に来てくれ!」

 

 同行を頼まれたいつものメンバー。俺はついに勝負を挑むんだなと思いながら、俺達はAクラスへと向かった。

 

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