バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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優子視点からスタートです。


第十一話

 久しぶりの授業を受けた後の休み時間、Aクラスの人たちもそれぞれの時間を過ごしていた。もちろん私もその一人だ。

「……こ」

 私はボーっとしていた。ただ一つのことを考えながら。

「……優子ってば!」

「きゃっ!」

 突然横から声をかけられてびっくりする。声のした方を向くと、そこには愛子がいた。

「もう優子~! 何度も呼んでたのに~」

「ごめんね愛子。ちょっと考え事してた」

「考え事? ふ~ん……」

 愛子がニヤニヤしながらこちらを見ていた。

「もしかして、仁君のことを考えてたのかな~?」

「なっ、なにを言って!」

「ありゃ、これはアタリっぽいね」

 こういうことに関しての愛子の勘って鋭いのよね。それともアタシが分かりやすいだけなのかしら?

「……仁ならもうすぐ来る」

「うわっ! 代表いたの!?」

 代表が後ろから声をかけてきた。いたの全然気づかなかった。

「それより代表。仁君がもうすぐ来るってどういうことなのかな?」

 愛子はさっきの代表の言葉が気になったのか、そんなことを聞いていた。

「……もうすぐ雄二がAクラスに宣戦布告しに来る。そこには仁も同席すると思う」

 代表が小さく、だけどはっきり聞こえる声で理由を説明する。だが、アタシは別のところが気になっていた。

「一つ聞いてもいいかしら? 代表と坂本君……だったかしら? どういう関係なの? 名前で呼んでいるけど」

「……私と雄二は幼馴染」

「うっそー!?」

「ほんとなの、代表!?」

 驚いているアタシたちに頷く代表。

「なるほどねぇ~。幼馴染の考えてることはお見通しってことなんだねぇ」

 隣では愛子が妙に納得していた。けどすぐに先ほどのニヤニヤ顔に戻って、

「よかったねぇ~優子。仁君が来るってさ」

「なっ! アタシは別に……!」

「……いやなの?」

「いやじゃ、ないけど……」

「素直じゃないなぁ~優子は」

 二人でアタシをからかってくる。心なしか代表も楽しそうだった。

 そのあと少ししてAクラスの扉が勢いよく開かれた。そこにいたのはFクラス代表の坂本君とFクラスのメンバーが数人。その中には仁君もいた。

「……噂をすれば」

「ほんとに来たねぇ~」

「あ、アタシ行ってくるね!」

 アタシは二人から逃げるようにFクラスの応対へと向かったのだった。

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 宣戦布告をしにAクラスにやってきたのだが、いつ来てもすごいと思う。初めて入ったであろう他の人たちは辺りを見渡している。Dクラス戦の日に一度来たことのある俺だが、いまだに入るのを躊躇ってしまう。ん? 向こうから誰か来たな。あれは……優子か? 心なしか、顔が赤い気がする。さっきから俺のことをチラチラ見てるし。

「Fクラス代表の坂本雄二だ。我々FクラスはAクラス代表に一騎打ちを申し込む」

「一騎打ち? なにが狙いなの?」

 優子が訝しむのも無理はない。最底辺クラスである俺らが学年トップの成績を誇るAクラス代表に勝負を挑んでいるのだ。向こうからしたらすごく不自然だ。

「もちろんFクラスの勝利が狙いだ」

「試召戦争の手間が省けるのはいいけど、わざわざリスクを冒す必要もないわね」

「懸命だな」

 雄二と優子が話をしているところを見ていると、横から制服を引っ張られる。振り向くと、そこには愛子がいた。

「ねぇねぇ仁君。一つ聞いてもいいかな?」

「ん?」

「なんで坂本君はボク達Aクラスに挑んできたのかな?」

 愛子も気になったのか、FクラスがAクラスに挑んだ理由を聞いてきた。これくらいなら話してもいいだろう。

「世の中、学力がすべてじゃないって証明したいんだってさ」

「そうなんだぁ~」

 愛子と話をしている間に向こうもだいぶ話が進んだようだった。

「……いいわ。その提案、受けてあげる」

 どうやら優子は提案を呑んだようだ。

「だって、あんな格好した代表のいるクラスと戦争なんて嫌だもん……」

 ……雄二、いったいどんな交渉をしたんだ? 優子がすごい震えてるんだが。

 優子はさっきあんな格好をした代表のいるクラスと言っていた。あんな格好をした代表……あっ。

「なんか申し訳ねぇ……」

 俺は思わず呟く。だって女装した根本だよ? そんなのが目の前に来てみろ。気持ち悪くてたまらないわ。

「それならこっちからも提案。一騎打ちじゃなくて、お互い五人ずつ代表を選んで、三回勝った方の勝ちっていうのなら受けてもいいわよ」

「なるほど。こっちから姫路が出るのを警戒してるんだな? 安心してくれ。うちからは俺が出る」

「無理よ。その言葉を鵜呑みには出来ない」

 それはそうだろう。優子はクラスを代表して雄二と交渉しているんだ。素直に受けてAクラスが負けたとなると責任は大きい。そこで俺は一つの提案を持ちかける。

「なら優子。こういうのはどうだ? お互い五人ずつ出して三回勝った方の勝ち。ただし、科目の選択権はこっちが三つ、そっちが二つだ」

「えっ? うーん、そうねぇ……」

 優子が顎に手を当てて考えている。まあ、慎重にもなるわな。

「……受けてもいい」

 優子の後ろから翔子が静かに近づいてきた。提案を受けると言っていたが……

「代表。いいの?」

「……うん。そのかわり条件がある」

 なるほど、条件ときたか。確かに、こっちが有利な提案をそう簡単に受けてもらえるわけがない。

「……負けた方は、何でも一つ言うことを聞く」

「それは、代表する五人に適用されるのか?」

 翔子は小さく頷く。これは代表に選ばれた五人にもリスクが追加されたな。

「代表がいいって言うなら、その提案を受けるわ」

「交渉成立だな」

「……開戦時刻は?」

「そうだな……十時からでいいか?」

「……わかった」

「よし、一旦教室に戻るぞ。代表を決めなきゃならないからな」

 雄二の号令でFクラスメンバーが教室から出ていく。俺もそれに続いてAクラスを後にした。

「なあ、仁」

 Fクラスに向かっている途中、俺は雄二と二人並んで歩いていた。他のメンバーは先に教室に戻っていった。

「なに? 雄二」

「なんであんな提案をしたんだ?」

 あんな提案とは、俺が優子に提案したやつだろう。俺はその時考えていたことを話す。

「あまりこっちが有利になる条件だけを突きつけても、なかなか承諾してくれないだろ? なら、向こうの提案を呑みつつ、こっちが有利になる条件を提案した方が、すんなり要求を呑んでくれると思ったんだ」

 これは前から使っていた交渉術で、相手の要求と自分の要求を同時に叶えることによって、自分の有利な条件を呑ませることが出来るというものだ。

「なるほどな。けど、自ら提案したんだ。まさか何も考えてない、なんてことはないよな?」

「もちろん、ちゃんと考えてるよ」

 俺はポケットから一枚の折りたたまれた紙を取り出して雄二に渡す。雄二はそれを受け取って開き、書かれている内容に目を通していた。

「代表五人と……これは科目選択権を使うタイミングか?」

「その通り」

 ちなみに紙に書かれているメンバーは俺、明久、康太、瑞希、雄二の五人。科目選択権は俺、康太、雄二が使うことになっている。

「美波の数学と明久の操作性で悩んだけど、明久の操作性を取ったよ」

「俺も明久を選んだことには賛成だ。だが、なぜ姫路に選択権を使わせない? Fクラスで勝率が高い人材だぞ?」

「だからこそだよ。瑞希は全教科高得点を取れる頭脳を持っている。だからどの教科がきても問題ない。だけど俺は現代国語と古典、康太は保健体育だけしか高得点を取れない。それに雄二は、翔子に小学レベルの日本史限定テストで勝負して勝たないといけないでしょ?」

「明久のことは?」

「正直に言うと、明久の頭脳には期待してない。明久には操作性のみで勝負してもらう」

「明久の操作性は充分なアドバンテージだから、科目選択は必要ないってことか……」

 雄二は何かを考える素振りを見せる。だがすぐに顔を上げてこっちを向きながら答える。

「わかった。その案でいこう。情報戦略班であるお前の考えた事なら信用できる」

「言ったでしょ? 全力で協力させてもらうってさ」

 雄二がさっき渡した紙を俺に返す。俺も情報戦略がどこまで通用するのかを試すという目的があると言って試召戦争を仕掛けてもらったんだ。協力するのは当然じゃないか。

「それじゃあ、早く教室に戻って、Aクラス戦に備えようよ」

「そうだな。そうすっか」

 俺はいよいよ始まるAクラス戦で緊張しながら、雄二と一緒に教室に戻るのだった。

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 Fクラスとの交渉を終えたアタシは、自分の席に戻って一息つく。近くにいた愛子と代表が話しかけてくる。

「お疲れ~優子」

「……お疲れ」

「ありがと、二人とも」

 愛子と代表が労いの言葉をかけてくれる。それを聞いたアタシはやり遂げた感覚になっていた。

「それより優子。どうするの?」

「えっ、なにが?」

 何のことかわからないので、そのまま愛子に聞き返してしまう。

「仁君に何をお願いするのかだよ」

「えっ!?」

 アタシの反応を見てか、愛子はニヤニヤしていた。代表は代表で少し笑っている。

「もし優子が仁君と戦って勝ったら、仁君をデートに誘うことも出来るんだよ?」

「で、デート!?」

 今のアタシの顔はかなり赤くなっているだろう。仁君とデート……。

「……」

「ありゃ、優子がフリーズしちゃったよ」

「……ものすごく顔が赤い」

「しょうがないなぁ~。それっ!」

「……はっ!」

 突然愛子が耳元で手を叩いたのか、パンッと大きい音をたてた。その音でアタシは目を覚ました。

「で、でもアタシが仁君とデートなんて……」

「もう優子! そんなんじゃ仁君、他の子に取られちゃうよ?」

「……仁は結構モテる」

「えっ、そうなの?」

「そうだよ! 最近女子の間で仁君の話題が絶えないんだから~」

「……Aクラスでも仁の話で持ちきりだった」

 

 仁君ってモテるんだ。そうだよね。かっこいいし、それに優しいし。

 

「だから今回の勝負に勝って、仁君をデートに誘っちゃえばいいんだよ!」

「 ……勝者の特権」

「もしかして、代表が言った条件って……」

「……私のためでもあるけど、どうするのかは、優子次第」

「ありがと、代表。ここまでしてくれたのに、何もしないなんて申し訳ないよね……」

 

 代表は代表なりに協力してくれているんだ。それを無駄にはしたくない。アタシは絶対、仁君に――Fクラスに勝つんだと心に決めたのだった。

 




キリがいいので今回はここまで。
次回はついにAクラス戦です!
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