バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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第十二話

「両者、準備はよろしいですか?」

「……はい」

「もちろん」

 

 午前十時。俺達は今Aクラス教室にいる。Fクラスの代表選手に選んだ五人は一歩二歩と前に出る。秀吉や美波、その他のクラスメイトは俺達の後方で待機してもらっている。

 

「では、一人目の方は前に出てください」

「それじゃあ皆、行ってくる」

「頼んだぞ、仁」

『いけー、神崎!』

『勝ってくれー!』 

 

 仲間たちの声援を受けながら、前に出る。さて、俺の相手は誰なのかな?

 

「アタシが行くわ」

 

 Aクラスからは優子が出てきた。おそらく相手は成績トップ5を出してくるだろう。ここで勝って勢いをつけておかないと厳しいな。

 

「教科は何にしますか?」

「仁君、選んでいいわよ」

「それじゃあ、お言葉に甘えて。古典でお願いします」

「わかりました。古典承認します!」

「「試獣召喚!!」」

 

 自分の足元に幾何学模様が出てきて、俺の召喚獣が姿を現す。対する優子は西洋鎧にランスだ。俺の武器は片手剣で向こうはランスだ。しかも相手は一番成績のいいAクラス。ミス一つでもすれば確実に負けるだろう。少し遅れて二人の点数が表示される。

 

 古典

 Aクラス 木下優子  372点

          VS

 Fクラス 神崎仁   423点

 

『えっ!? なにあの点数!』

『どうしてFクラスにあんなやつが!?』

『もしかしてあいつ、黒服の支配者か?』

『間違いないわ! 神崎君だもの!』

 

 Aクラスの方からいろんな声が聞こえてきた。黒服の支配者ってAクラスまで広まっているのか。どうやらこの短い間に有名人になっていたみたいだ。

 

「すごいわね……400点超えなんて」

「この教科とあと一つ以外はFクラス並みだよ」

 

 ちなみに酷いときは50点以下である。

 

「それじゃあ、いきますか!」

 

 俺の召喚獣が優子の召喚獣に斬りかかる。優子はそれを避けてランスで横に薙ぎ払ってくるのを俺はしゃがんで避ける。体勢を立て直した優子の召喚獣が突きで追撃してきたのを剣で受け流す。剣とランスではリーチの長さで俺の方が不利だ。その証拠に、優子の攻撃が徐々に当たり、俺の点数が少しずつ削られていく。なんとかこの状況を打破するには……

 

「チェンジ!」

 

 装備を変更するしかない。俺は腕輪を発動して装備の変更をする。今回俺が選んだ装備は――

 

「あれは、もしかして」

「わしの召喚獣の装備じゃ!」

 

――秀吉の召喚獣装備だ。

 

 秀吉の召喚獣の装備はBクラス戦の時に見たのでバッチリ覚えている。もちろん明久と康太のも同じだ。

 

「秀吉! お前の装備借りるよ!」

 

 秀吉の装備は薙刀。これならリーチの長いランスにも対抗できる! 

 

「仁君の腕輪って召喚獣の装備を変更できるの!?」

「見たことあるやつ限定だけどね」

 

 俺の腕輪は何にでも変えられるわけじゃない。実際に装備を見て、記憶していないと出来ないのだ。

 

「さあ、反撃開始だ!」

 

 薙刀を右に構えて召喚獣を突撃させる。優子の召喚獣がランスを横に構えて防御態勢に入っているところを下から斬り上げる。ランスを弾いてがら空きになった懐を薙刀で一閃し、優子の召喚獣を吹き飛ばす。

 

 古典

 Aクラス 木下優子  183点

          VS

 Fクラス 神崎仁   204点

 

 今現在のお互いの点数が表示される。今の一撃で優子の点数が大幅に減ったが、俺のも最初の攻撃で消費されていて、点数に差がなくなっていた。

 

「次の一撃にかけるか……」

 

 遠くで体勢を立て直そうとしているが、なにやらもたついている優子の召喚獣との距離を詰める。目の前まで迫った俺の召喚獣は薙刀を引き絞り、一気に突きをくり出す。これはもらった――

 

「かかったわね!」

 

 優子の召喚獣は少しだけ体を右にずらして回避し、薙刀の刃の付け根辺りを右手で掴んできた。もしかして、もたついていたのは演技か!? そして――

 

「やぁーっ!!」

 

――左手に持っていたランスで俺の召喚獣の心臓を貫いた

 

 古典

 Aクラス 木下優子  183点

          VS

 Fクラス 神崎仁     0点

 

「勝者、Aクラス。木下優子」

 

 Aクラス側からは歓声が上がり、Fクラスからは落胆の声が上がる。得意科目で負けたのは悔しいなぁ~。

 

「完敗だよ。あれで止めだと思ってたのに、逆に刺されちゃった」

「仁君こそすごいじゃない。あんな点数を取れるなんて。今度教えてほしいくらいよ」

「俺でよければ、喜んで教えるよ。代わりと言っちゃなんだけど、俺に理数系を教えてくれない?」

「いいわよ」

 

 勉強を教え合う約束をした後、それぞれのクラスのもとへ戻る。後ろからは優子の勝利を祝う声が聞こえてくる。そして俺の前方からは……

 

「仁、ずいぶん木下さんと仲がいいんだねぇ?」

「……殺したいほど妬ましい!」

『『『異端者には死の鉄槌を!!』』』

 

 嫉妬の念がこもった男子たちの野太い声が響いていた。

 

「お主ら、落ち着くのじゃ」

「そうだぞ、お前ら。ここで仁を処刑したら女子にモテなくなるどころか、恨みを買うことになるぞ」

 

 秀吉と雄二のひと言でさっきの騒動が嘘のように静まりかえる。

 

「助かったよ、二人とも。それと秀吉、ごめんな。お前の装備で負けちまった」

「気にするでない。わしは、お主と一緒に戦っているようで嬉しかったのじゃ」

「そうだぞ。結果はどうあれ、Aクラス相手にいい試合したんだ。それにこの試合、木下姉のおかげで、世の中は学力がすべてじゃないって証明できたからな」

 

 優子の点数は俺より下で、点数が上だった俺に勝ったことで、雄二の目的が達成できた。そういう意味ではよかったのかもしれない。

 

「それじゃあ、後はよろしく」

「ああ、任せろ」

 

 俺は秀吉と一緒に後ろの方へと下がる。

 

「では、二人目の方は前に出てください」

 

 高橋先生が次の人を出すように促す。雄二は誰を出すのかな。

 

「明久、頼んだぞ」

「えっ、僕? ここで負けたら後がないよ?」

「大丈夫だ。俺はお前を信じてる」

 

 そう言った雄二の目には信頼がこもっていない。

 

「それは僕に本気を出せってこと?」

「ああ、もう隠さなくてもいいだろ? みんなにお前の力を見せてやれ」

 

 晒されるのは明久の底知れないバカさだろう。

 

「明久は簡単に騙されとるのう……」

 

 隣では秀吉が額に手を当ててため息をついていた。

 雄二に乗せられて前に出た明久の相手は……眼鏡をかけたボブカットの女子だった。

 

「吉井君でしたか。あなた、まさか……」

「ああ、今までの僕は全然本気を出しちゃいない」

 

 嘘つけ。本気しか出していないの間違いだろう。

 

「それじゃあ、あなたは……!」

「そうさ。今まで隠していたけど、実は僕――」

 

 一拍置いて明久が告げる。

 

「――左利きなんだ」

 

 物理

 Aクラス 佐藤美穂  389点

          VS

 Fクラス 吉井明久  62点

 

 周りが沈黙に包まれる中で点数が表示され、そのあと明久の召喚獣は瞬殺された。

 

「勝者、Aクラス。佐藤美穂」

「「テストの点数に、利き腕は関係ないだろうがー!(でしょうがー!)」」

「み、美波! フィードバックで痛んでるのに、殴るのは勘弁して! それと仁! 頭をぐりぐりするのもやめて! 僕がバカになっちゃう!」

「お前は元からバカだろうが!」

「酷い!」

 

 雄二は信じていなかっただろうが、少なくとも俺はお前に期待していた。なのに、なんか裏切られた気分だよ!

 

「よし、勝負はここからだ!」

「雄二、貴様! 僕を全然信頼していなかっただろ!」

「信頼? なにそれ、食えんの?」

 

 ほらな。明久、お前は雄二に乗せられてたんだよ。

 

「では、三人目の方は前に出てください」

「……(スクッ)」

 

 高橋先生の号令とともに、康太が立ち上がり、前に出る。康太は保健体育なら高得点をたたき出せるから、勝率は高い。そんな康太の対戦相手は……愛子か?

 

「教科は何にしますか?」

「……保健体育」

 

 康太が得意科目を選択する。けど、愛子は動じずに康太に話しかける。

 

「土屋君だっけ? 随分と保健体育が得意みたいだね?」

 

 愛子からすごい余裕を感じる。そういえば、愛子も保健体育が得意って去年言ってたな。

 

「でも、僕もかなり得意なんだよ? それも君と違って――」

 

 待て愛子。その先は――!

 

「――実技でね」

「……実技(ブシャー)」

 

 愛子の問題発言に康太が鼻血を噴出して倒れた。明久は康太のもとに駆け寄っていく。それを見た愛子は明久に矛先を変えた。

 

「そっちの君、吉井君だっけ? 勉強苦手そうだし、保健体育でよかったら、僕が教えてあげるよ? もちろん実技で」

「フッ。望むところ――」

「アキには永遠にそんな機会ないから保健体育の勉強はいらないわよ!」

「そうです! 永遠に必要ありません!」

 

 左右の腕にしがみついた二人の発言によって、明久が死ぬほど悲しい顔をしている。大丈夫だよ、明久。いつか経験する時がくるさ……たぶん。

 心の中で明久を励ましていると、愛子がこっちを向いていた。まさか……

 

「仁君にも教えてあげようか? 実技で、ね?」

 

 やっぱり矛先が俺にも向いてきたか。しかもウインクのおまけ付きで。

 去年、俺が大島先生と一緒に水泳部に顔を出した時の自己紹介もこんな感じだったな。もちろん、みんなの前でではなく、個人での自己紹介をした時だが。

 

「あ、愛子! そんなのだめよ!」

 

 遠くで優子が愛子に注意している。ナイスだ優子。これで注意が逸れる。

 

「……そろそろ召喚を開始してください」

 

 高橋先生が溜め息をつきながら召喚を促す。俺と愛子のやりとりの間にムッツリーニの鼻血処理も終わったようだ。

 

「はいはい。試獣召喚っと」

「……試獣召喚」

 

 二人が召喚を開始する。愛子の召喚獣はセーラー服を着ていて、手にはとても大きい斧を装備している。

 

 保健体育

 Aクラス 工藤愛子  446点

          VS

 Fクラス 土屋康太  ---点

 

 二人の点数が表示される。愛子の点数は400点を超えていた。康太の点数はシステムが追いついていないのか、点数が分からない。

 

「実践派と理論派、どっちが強いか見せてあげるよ」

 

 召喚獣バトルにそれは関係あるのだろうか。

 愛子の召喚獣は斧に電撃を纏わせて、ものすごいスピードで康太の召喚獣に詰め寄っていく。斧に纏っている電撃は腕輪の効果だろう。

 

「それじゃあ、バイバイ。ムッツリーニ君!」

「……加速」

 

 康太の召喚獣の左腕が光り、召喚獣がブレる。そして――

 

「……加速終了」

 

 愛子の召喚獣の後方に康太の召喚獣がいて、小太刀を鞘に納めると同時に、愛子の召喚獣が倒れた。

 

 保健体育

 Aクラス 工藤愛子    0点

          VS

 Fクラス 土屋康太  572点

 

 ようやく康太の点数が表示される。点数高いな~。500点越えってすごいと思う。

 

「勝者、Fクラス。土屋康太」

「すごい! 保健体育だけで、僕の総合科目並みの点数だよ!」

 

 高橋先生の声と共に、明久のカミングアウトが始まった。明久、お前ってやつは……。

 

「……負けちゃったよ。ボクの今までの努力は、無駄だったのかな……」

「……それは違うぞ、工藤愛子」

 

 負けてその場に崩れ落ちた愛子に康太が近づいていく。

 

「……お前は必死に勉強してAクラスに入った。それに比べて俺はこの教科だけで、他はFクラスでも下の方。そんなお前の努力が無駄なわけがない」

「ムッツリーニ君……」

 

 そう言って手を差し出した康太を、目に涙をためた愛子が見上げる。そしてその手を取って立ち上がる。

 

「……ありがとね、ムッツリーニ君」

「……(クルッ)」

 

 未だ目に涙をためている愛子だが、その顔はいつもの笑顔だった。康太は何も言わずに引き返してきたが、その顔は少し赤かった。

 

「どうした、康太。愛子に惚れたか?」

「……そんなわけない」

 

 顔を真っ赤にして言っても説得力がないぞ? まあ、俺はそんな二人を応援するけどね。

 

「四人目の方は前に出てください」

「では、僕が相手をしよう」

 

 高橋先生の号令で前に出てきたのは学年次席の座にいる男子、久保利光だ。

 

「では、行ってきますね」

「姫路さん、頑張って」

「はいっ!」

 

 明久に見送られて瑞希が前に出る。現在は一勝二敗。ここで負ければ勝負は決してしまう。

 

「教科は何にしますか?」

「総合科目でお願いします」

 

 久保利光がすぐに答える。総合科目か……こちらにしたら好都合かもしれない。教科を指定されて、それがもし瑞希の苦手科目だったら勝ち目はないが、総合科目は不得意科目を得意科目でカバーできるので、純粋な点数勝負となる。

 

「「試獣召喚!!」」

 

 総合科目

 Aクラス 久保利光  3997点

          VS

 Fクラス 姫路瑞希  4409点

 

 ……なにこの点数。もはや学年主席に匹敵するほどの点数じゃないですか。

 

「いつの間にこんな実力を。どうして……」

「私、Fクラスが好きなんです。人のために一生懸命になれる人たちがいるFクラスが」

「Fクラスが……好き?」

「はいっ。だから頑張れるんです」

 

 その言葉を最後に瑞希の召喚獣が手に持っている大剣を大きく振りかぶる。久保利光はそれを武器である大きな鎌で防ごうとするが間に合わず、真っ二つされた。

 

 総合科目

 Aクラス 久保利光     0点

          VS

 Fクラス 姫路瑞希  4409点

 

「勝者、Fクラス。姫路瑞希」

 

 Fクラスから歓声が上がる。これで二勝二敗、次で勝負が決まる。

 

「雄二、最後は締めてくれよ」

「ああ、任せろ」

 

 俺と雄二は拳をぶつけ合う。そして雄二は前に出る。最後の代表である翔子はすでに待機していた。

 

「教科は何にしますか?」

「勝負は、日本史の限定テストでお願いします。内容は小学生レベル。公式は百点満点の上限ありで」

 

 それを聞いたAクラスがざわついていた。召喚獣でのバトルではなく純粋なテスト勝負。それも内容は小学レベルだ。騒がしくなるのも無理はない。

 

「わかりました。では試験を用意しますので、お二人は教室で待機していてください」

 

 しばらくして、高橋先生が問題を作り終わり、二人を連れてAクラス教室を出ていった。さらに少しして、Aクラスの大きなモニターに映像が映った。そこには、視聴覚教室の離れた場所に座っている二人と、窓際に立っている高橋先生の姿があった。

 

『では、始めてください』

 

 号令がかかって始まった代表同士の対決。泣いても笑ってもこれが最後だ。

 

「もしあの問題が出なかったら……」

「注意力と集中力が劣っている以上、雄二が負けるかもしれないな」

「でも、もしその問題が出たら」

 

 隣にいる明久と瑞希とそんな会話をしながらモニターを見る。

 しばらく映像を見ていると、

 

「あっ、あった!」

「これで私たちの設備が……」

 

 明久と瑞希が問題を見つけたようだ。モニターに目を凝らして見てみると、確かにその問題はあった。

 だが、俺は一つ気がかりがあった。それは雄二のことだ。確かに、あの問題が出れば確実に勝てると言っていた。だがそれは、雄二が満点を取ればの話だ。雄二は過去に神童と呼ばれていたらしいが、それはあくまで過去の話。聞いた話だと、雄二は中学の頃は悪鬼羅刹と呼ばれるほど腕を鳴らしていたらしい。そんなやつが勉強をしていたのか。答えは――

 

 日本史限定テスト <100点満点>

 Aクラス 霧島翔子  97点

         VS

 Fクラス 坂本雄二  53点

 

 

 

 

 

 

 

 

――否だ。

 

 あっ、Fクラス勢が教室から出ていった。これは暴動が起きるな。確実に。

 

「はぁ……みんな行こうか」

「そうじゃのう」

「そうね」

「そうですね」

「アタシ達も行こうか」

「そうだね~」

 

 教室に残っているFクラス四人とAクラスの全員で代表二人のいる視聴覚室へと向かった。

 

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