バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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第十三話

 Fクラス少数とAクラス大勢で向かった視聴覚室。ドアが開いていたので中に入ってみると、地面に座っている雄二とその近くで立っている翔子。教卓前に立っている高橋先生に、今にも雄二に詰め寄ろうとしているFクラス男子の姿があった。少し遅れて秀吉たちとAクラスのみんなが教室に入ってきた。

 

「三対二でAクラスの勝利です」

 

 高橋先生が全員集まったのを確認し、総合結果を伝える。結果的には惜しかったけど、内容がなぁ……。

 

「……雄二、約束」

「……殺せ」

 

 傍から見たらすごく物騒な会話をしているんですが、この二人。

 

「良い覚悟だ! 歯を食いしばれ!」

「落ち着いてください。吉井君!」

 

 腕まくりをしながら雄二に近づく明久を瑞希が後ろから抱きついて止める。

 

「アキ、アンタだったら30点も取れないでしょうが!」

「それについては否定しない!」

 

 なら雄二を責める権利はないじゃないか。

 

「それなら坂本君を責めたらダメですっ!」

「ちなみにこれはお前らにも言えることだからな。絶対に満点を取れるって言えるやつはいるか?」

 

 俺のひと言でFクラス全員が顔を逸らす。お前らなぁ……。

 

「いいんだよ、仁。これは俺の実力だ。責められても文句は言えん」

 

 雄二が申し訳なさそうに答える。

 

「……雄二、約束」

「わかっている。何でも言え」

「それじゃあ、他の人達のも済ましちゃおうよ。代表だった人は前に出てきてくれ」

 

 俺の掛け声で代表だった五人が前に出てくる。

 

「それじゃあ、一人目から……って俺か」

 

 俺が前に出てくると向かい側から優子も前に出てくる。

 

「さて、優子は俺に何を命令するのかな?」

「え、えっとね。その……」

 

 優子は顔を赤くしてモジモジしながら視線を彷徨わせている。なんだろ? 俺は何を命令されるんだ?

 

「それじゃあ……仁君の予定が空いている日でいいから、買い物に付き合ってくれない? もちろん、仁君の空いてる日でいいから!」

 

 優子の口から出たのは買い物の付き合いの申し出だった。それでいいのなら……

 

「それなら、喜んで受けるよ」

「えっ? ほ、本当に?」

「もちろん」

 

 むしろこれでいいのかと考えてしまったくらいだ。これは俺が得しているような……まあ、いいか。俺も誘ってくれたことは嬉しいし。

 

「そ、それじゃあ、日にちが決まったら教えるから……連絡先を教えて」

「ん、いいよ。ちょっと待ってて……」

 

 ポケットから携帯を取り出して優子と赤外通信で連絡先を交換する。

 

「あ、仁君。ボクにも教えてくれないかな?」

「……私も」

「ああ、いいよ」

 

 優子に続き、愛子と翔子とも連絡先を交換する。前方からはAクラスが、後方ではFクラスの男子たちが恨めしそうな目で見ていたが無視する。

 

「次は二人目だな。前に出てきてくれ」

 

 こちらからは明久が、Aクラス側からは佐藤美穂が前に出てきた。明久はどんなお願いをされるのかね。

 

「あの……吉井君、でしたか? 私とお友達になってくれませんか?」

「もちろん! よろしくね、佐藤さん!」

「よかった。いつでもAクラスに遊びに来てくださいね。待ってますから」

「うんっ!」

 

 どうやら佐藤美穂は明久に友達になってくれないかとお願いしたみたいだ。それを明久は嬉しそうに承諾していた。よかったじゃないか、明久。

 

「終わったね。次は三人目だ」

「……(スッ)」

 

 康太が静かに立ち上がり、前に出る。向こうからは愛子が前に出てくる。康太は愛子に何をお願いするんだろう。

 

「……今度、俺に勉強を教えてくれ」

「うん、いいよ」

 

 おおっ! 康太が保健体育以外の勉強に手を出そうとするとは。これはすごい進歩だ。どれくらいすごいかって言われたら、康太がムッツリーニって言われなくなるくらいすごい事だと思う。

 

「その代わり、ボクはムッツリーニ君には保健体育を教えてほしいな~。もちろん、実技で」

「……!!(ブシュー)」

 

 ああ、せっかくのいい場面が鼻血で台無しに……。康太に駆け寄った秀吉と明久が鼻血処理を始めた。

 

「そ、それじゃあ四人目いこうか」

 

 瑞希と久保利光が前に出る。瑞希はどんなお願いするのかな。

 

「時間のある時でいいので、ときどきFクラスに来て皆さんに勉強を教えてあげてください」

「お安い御用だよ。共に切磋琢磨していこう。姫路さん」

「はいっ! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 瑞希は競い合える友達が出来たようだ。こんなときでもFクラスのことを考えてくれている彼女の優しさには俺も救われている。そんな風景を見ていると心が和む。

 

「最後はクラス代表だな。始めてくれ」

 

 教室内の視線がクラス代表二人に注がれる。翔子は一瞬だけ瑞希に視線を送り、すぐに雄二と向き合う。そして、翔子が口を開く。

 

「……雄二。私と付き合って」

 

 ……今なんと?

 

「お前まだ諦めてなかったのか」

「……私は諦めない。ずっと雄二のことが好き」

 

 え~と、つまり、翔子が雄二に告白しているんだよね? 人の目を気にせずに。

 

「拒否権は?」

「……ない。約束だから、今からデートに行く」

「え、あ、ちょ、ま――ガフッ」

 

 翔子が見えない速度で雄二を気絶させ、首根っこを掴んでそのまま教室を出ていった。辺りが静まりかえる。ポカンとしているのは俺だけじゃないようだ。

 

「さて、Fクラス諸君」

 

 声のした方を振り向くと、そこには西村先生が立っていた。

 

「西村先生。どうしたんですか?」

「ああ、今から我がFクラスの補習のことについて話そうと思ってな」

 

 ん? 今、我がFクラスって言わなかったか?

 

『『『なにー!』』』

「よかったなお前ら。今度からみっちり勉強が出来るぞ」

 

 Fクラス男子がすごく嫌そうな顔をしていた。なんで? 西村先生の授業すごくわかりやすいじゃん。

 

「特に吉井と坂本は念入りに監視してやる。なんせ、学園開校以来初の『観察処分者』とA級戦犯だからな」

「そうはいきませんよ! 監視を目をかいくぐって、楽しい学園生活を過ごしてみせます!」

「……お前には考えを悔い改めるという発想はないのか」

 

 西村先生、それは俺も同感です。少しおとなしくしていれば、こうして目を付けられることもなくなるだろうに。

 

「とりあえず放課後に補習の時間を二時間設けよう」

 

 あ、それは俺も嫌だ。帰る時間が遅くなるじゃないか。

 隣では明久が拳を握り、なにやらやる気を出している様子だった。その隣に美波がやってきて明久の肩を突いた。

 

「さーてアキ、約束通りクレープ食べに行こうか」

「えっ! それは週末って約束じゃ――」

「ダメですよ。吉井君は、私と映画を見に行くんですっ!」

「えっー! 姫路さん、それは話題にすらあがってないよ!?」

 

 明久の今の状態は、まさしく両手に花だった。

 

「西村先生! 補習は今日からやりましょう! 思い立ったが仏滅です!」

「「『吉日』だ、バカ」」

 

 西村先生と同じことを口にする。まったくこいつは、今の状況を自ら手放そうとするとは、どんだけ鈍感なんだよ。

 

「お前がやる気になったのは嬉しいが……今日だけは存分に遊ぶといい」

 

 そう言った西村先生の顔はニヤニヤしていた。あなたはこの状況を楽しんでおいでですか。

 そのあと明久は瑞希と美波に引きずられながら教室を出ていった。

 

「もしかしたらあいつは、本物のバカかもしれんのう……」

「……(コクンッ)」

「もしかしたらじゃなくて、間違いなくバカだよ」

 

 あいつは誰もが認めるバカだ。だが、そのバカさで救われたやつもいるはずだ。俺はその一人だ。

 

「さて、そろそろ帰るか」

「そうじゃの。ムッツリーニも行くかの?」

「……(コクッ)」

 

 俺らが荷物を取りに行こうと教室を出ようとすると、

 

「あっ、待って仁君。アタシも帰るわ」

「ボクも一緒にいいかな?」

 

 後ろから優子と愛子が鞄を持ってやってきた。それを俺は、

 

「いいよ。一緒に帰ろう。二人もいいよね?」

「無論じゃ」

「……同じく」

 

 断る理由もないので快く了承する。

 

「それじゃあ行こうか」

 

 俺達はまだ残っているメンバーに別れを告げ、Aクラス教室を出ていく。俺達Fクラス三人は鞄を取ってこなければいけないので、一度Fクラスに戻らなければならない。そのことを伝えて、二人には玄関で待っててもらうことにした。えっ? 教室までついてこさせないのかって? だってあの教室だよ? 体調崩したらどうするのさ。

 

「今回負けたから、この教室の設備のランクが下がるのか」

「次はどうなるんじゃろうか……」

「……想像できない」

 

 畳、座布団、卓袱台のランクをどうやって下げるんだろうか。もう下がる余地はないと思うんですけど。

 

「まさか、段ボールってことは……ないよな?」

 

 自分がした想像に思わず呟く。段ボールで授業とかへこむわ。(二重の意味で)

 このあとも話をしながら荷物を片付け、二人が待っている玄関へと急いだ。

 

「あ、きたわね」

「こっちこっち~」

 

 玄関で二人を捜していると愛子が手を振って教えてくれた。

 

「ごめんね。待たせちゃって」

「いいわよ。そんなに待ってないし」

「ならよかった。それじゃあ行こうか」

「そうだね~」

 

 そう言って愛子は康太の隣に並んだ。康太は一瞬戸惑っていたが、すぐにいつもの調子に戻っていた。なんだかんだ二人ともお似合いなんだよな。

 

「……(ススッ)」

 

 微笑ましい二人を見ていると、俺の左隣に優子がやってきた。その行動の理由はわからないが、断る理由もないのでそのまま歩く。心なしか優子が嬉しそうだった。

 

「なんか疎外感を感じるのじゃ……」

 

 右隣にいる秀吉がなぜそう感じるのかは理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 途中の分かれ道で康太と愛子と別れ、帰り道が一緒の二人と並んで歩く。

 

「そういえば仁君」

「ん?」

「なんでFクラスはAクラスに挑んできたの?」

 

 どうやら優子は今回の戦争のことが気になっていたようだ。そういえば愛子には言ったが優子には言ってなかったな。

 

「雄二の提案から始まったんだ。世の中、学力がすべてじゃないってことを証明したかったんだってさ」

 

 最後があんな締め方になるとは思ってなかったけど。

 

「そうなんだ」

 

 納得して頷く優子。隣にいた秀吉が口が開く。

 

「でも、お主らのことじゃ。それだけではないのじゃろう?」

 

 秀吉がそんなことを言ってきた。優子は首をかしげている。それに対して俺は正直に答えることにした。

 

「まあな。俺は情報戦略がどこまで通用するのか試してみたかったんだ」

「ねぇ。もしかして、運動部の成績が急激に上がったのって……」

「ああ。俺が作戦を提供したり、マネジメントしたからってみんな言ってるよ」

「それで愛子と面識があったのね」

 

 そんな感じで話をしていると、目の前に木下家が見えてきた。俺の家ももうすぐである。

 

「それじゃあ、仁君。またね」

「またなのじゃ」

「ああ。またな、二人とも」

 

 秀吉と優子と別れ、俺も家に向かう。といっても、すぐ近くなんだけどな。

 

「ただいま~」

 

 誰もいないリビングに向かって一人、ただいまと声を出す。部屋に荷物を置いて部屋着に着替える。そのあとすぐにキッチンに向かい、冷蔵庫の中身を確認する。

 

「今日はカレーかな……」

 

 一人呟いているとポケットに入れている携帯の着信音が鳴った。取り出すとディスプレイには『吉井明久』と表示される。ボタンを押して電話に出る。

 

「二人とのデートはどうだった?」

『今月の食費が一瞬にして消えたよ……ってそんなことより!』

 

 デートをそんなことって……もしかしてデートって自覚がないのか?

 

『明日、雄二と秀吉とムッツリーニを誘ってどこか遊びに行こうと思うんだけど、仁もどうかなって』

「おお、いいぞ。何時にどこ集合するんだ?」

『う~ん、十時に商店街近くの公園なんてどうかな?』

「公園? そんな場所があるのか?」

『あ、わからない? なら秀吉と一緒に来なよ。場所分かってるから』

「ああ、そうさせてもらうよ。それじゃあ、俺は飯作らないといけないから切るぞ」

『あ、待てよ。それじゃあ秀吉と二人きりに! 仁! 今のはなかったことに――』

 

 明久がなにか言っていたが、途中で電話を切る。またバカなことを言い出すと思ったからだ。秀吉は男だといつになったら理解するんだろうか。

 

「おっと、飯作らなきゃ」

 

 冷蔵庫から材料を取り出し、さっそく調理に取り掛かった。

 

 

 

 

 

「……よし、出来た」

 

 調理を開始してから約三十分。いつもは辛いのが苦手な美香に合わせて甘口にしているが、今回は中辛にしてみた。少しでも辛いのに慣れてほしいという兄のささやかな願いが込められている。

 

『『ただいま~』』

 

 部活を終えた二人が帰ってきた。

 

「仁兄、今日の晩御飯はなに?」

「おかえり二人とも。今日はカレーだぞ」

「「よっしゃー!(やったー!)」」

 

 カレーは三兄弟共通で好きな料理で、三人一緒に作ることがたまにあった。まあ、二人は部活があるので、機会は全然ないが。でもまたいつか三人で何か作りたいと思っている。

 

「二人はとりあえず着替えといで。カレーはそれからだ」

「「はーい!」」

 

 二人は上機嫌で階段を上がっていく。こういうところはまだ子供っぽいなとか思ってしまう。

 そのあと二人は降りてきて、すぐにカレーを盛り付けに行く。俺は二人が着替えに行っている間に盛っているため、食べる準備は万端だ。

 

「「「いただきまーす!」」」

 

 三人一緒にカレーを食べる。俺と隼人はどんどん口に運んでいくが、美香は手が止まっていた。

 

「……兄さん、今日のカレーの辛さは?」

「ん? 中辛だぞ」

「……」

 

 美香が黙り込んでしまった。もしかして、いまだにダメなのか?

 

「……辛くない」

「「おおっ!」」

 

 その言葉に俺と隼人は感動していた。ついに……ついに美香の味覚が大人になった!

 

「なによ、二人して。私はもう子供じゃないんだよ!」

「いや、中学二年まで甘口しか食べれなかった人がなにを言ってるんだ」

 

 俺のツッコミに隼人が隣で頷く。美香も反論できないのか、息を詰まらせていた。

 そんな他愛のない会話をしながら晩御飯を平らげ、皿を片付ける。隼人がテーブルを拭き、俺は皿を洗い、美香がそれを拭いていくといった感じで役割を分担する。そのおかげで片付けがすぐに終わった。先に終わってソファーに座っていた隼人が背伸びをしながら言葉を漏らす

 

「んー。明日はゆっくりできるぞー!」

「部活ないのか?」

「明日は私もないよ」

 

 二人が同時に部活休みになることは珍しい。

 

「もしかしたら明日、俺の友達を呼ぶかもしれないけど、大丈夫か?」

「俺は大丈夫だよ」

「私もよ。それに、兄さんの友達に会ってみたいし」

 

 二人からも了承を得たことだし、公園に集合した後にあいつらを家に招待しよう。明日が楽しみだ。

 俺は部屋に戻り、明日を楽しみに待ちながらベットに潜り込んだ。

 




これでVS Aクラス戦はおしまいです。
次は番外編を書こうと思ってます。
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