第十六話
季節は夏。文月学園では清涼祭という催し物がある。各クラスが当日に向けての準備でにぎわいながら作業を進めている。
その頃、俺の所属するFクラスは――
「プレイボール!」
――野球をしていた。
俺はその光景を窓から見ていた。
「神崎、アンタも混ざりたいんでしょ?」
「どうしてそう思う?」
トレードマークのポニーテールを揺らしながら美波が近づいてきた。
「そんなにうずうずさせてたら誰でもそう思うわよ……」
その証拠に俺の体は小刻みに震えていた。だってしょうがないじゃん! 俺以外の男子が外で俺の好きな野球やってるんだもん!
「どうして仁君は参加しなかったんですか?」
後ろから質問してきた瑞希に、俺は振り向きながら答える。
「だって一緒になって野球してたら……ほら」
再び外に視線を移した俺につられて二人も窓から顔を出す。その先には、西村先生に追いかけられているFクラス男子一同がいた。
「なるほどね。こうなることを見越して一緒に行かなかったんだ」
「すごいですね、仁君」
二人から称賛されていると、教室にさっきまで外で野球していたメンバーが流れてきた。西村先生、お疲れ様です。
「さて、学園祭の出し物を決めなきゃならないんだが……」
前に出ている雄二がだるそうに話を進める。
「実行委員を決めて、そいつに全権を委ねる」
こいつ、めんどくさいからって丸投げしようとしてるな?
「頼めるか? 島田」
「えっ、ウチ?」
なるほど、美波ならはっきり意見を決めてくれるだろうと考えて雄二は指名したんだな。
「うーん、ウチは召喚大会に出るからちょっと困るな」
召喚大会とは、二人一組でタッグを組んで戦う大会だ。俺も出てみたいとは思っているが、パートナーが決まってないのでどうしようか迷っている。
「雄二、実行委員なら姫路さんの方が適任なんじゃないの?」
「私ですか?」
確かに瑞希なら全員の意見を尊重するだろう。だが、
「姫路はダメだ。全員に意見を聞いているうちにタイムアップだ」
今のFクラスには時間がない。性格上、少数意見を切り捨てられないだろう瑞希にはこの状況を任せられない。
「それにねアキ、瑞希も召喚大会に出るのよ。なんかね、お父さんを見返したいんだって」
「私のお父さん、皆のことを何もわかっていないくせに、Fクラスだからってバカにするんですよ? 許せません!」
瑞希、それは君のお父さんの言うとおりだ。バカだから俺らはFクラスなんだ。
「だからFクラスであるウチと組んで、お父さんの鼻をあかそうって」
確かにFクラスの生徒と組んで大会に優勝したら、Fクラスの生徒の認識も変わるだろう。
「なら島田、副実行委員としてもう一人やらせる。どうだ?」
「そうね、その人によっては考えてもいいけど……」
そう言いながら明久の方をチラチラと見ている。ああ、なるほど。明久となら実行委員をやってもいいという事か。当の本人は首をかしげているがな。
「なら候補を二人上げてくれ。その二人からもう一人を選出しよう」
「わかったわ」
美波が前に出て黒板に候補を書いていく。
候補1 吉井
候補2 明久
……ちょっと待て。これはさすがにおかしいだろう。
「雄二、美波の候補の選び方は明らかにおかしいよね?」
「お前ら、この候補から選んでくれ」
明久の疑問を無視して話を進める雄二。
『どうする……?』
『どちらもクズには変わりないからな……』
「真面目に悩んでいるふりしてクラスメイトをクズ呼ばわりするお前らは人間のクズだ!」
「ほらアキ。選ばれたんだから前に出てきなさい」
明久がしぶしぶ前に出る。入れ替わりで雄二が自分の席に戻って睡眠に入る。これでいいのか疑問に思うがおとなしくしていることにする。話が進まないから。
「それじゃあ、やりたいものがある人は挙手してくれる?」
「……(スッ)」
真っ先に手を上げたのは康太だった。
「はい、土屋」
「……写真館」
康太の言う写真館ってなんか危ない気がする。主に性的意味で。
「一応意見だから黒板に書いて。他には? はい横溝」
明久が黒板に板書している間に美波が他の人に意見を求める。効率のいい話の進め方だ。雄二が美波を押すのも納得がいった。
「メイド喫茶……は普通だから、俺はウエディング喫茶を提案する」
これまた斬新な意見だ。いいとは思うがコストが高すぎるんじゃないか?
「アキ、今の意見も黒板に書いて」
「ほ~い」
どんどん話が進んでいく。この調子ならすぐに決まるだろうな。
「他には? はい須川」
「俺は中華喫茶を提案する」
「……チャイナ服でも着せるつもりなの?」
「いや、俺は純粋に食で勝負しようと思っている。そもそも中華とは――」
なんか亮が中華について熱く語り始めた。俺はあんまり興味がないので聞き流す。
「アキ、今のも書いて」
明久が黒板に意見を書いていく。なんだかんだで真面目にやってるなぁ~と思いながら黒板に視線を移す。
1.写真館『秘密の覗き部屋』
2.ウエディング喫茶『人生の墓場』
3.中華喫茶『ヨーロピアン』
……どうしてこうなった。
「お前ら、学園祭の出し物は決まったか?」
そう言って教室に入ってきたのはFクラス担当教師の西村先生だ。
「今の候補は黒板にある三つです」
黒板の方を見た西村先生は、
「……補習の時間を倍にした方がいいな」
顔に手を当ててため息をつく。西村先生、それは勘弁してください。俺も何か案を……あっ。
「ほい美波」
「はい神崎」
俺は頭に浮かんだことを提案する。
「せっかくなんだしさ、召喚喫茶なんてどうかな」
『『『召喚喫茶?』』』
「具体的にはどんなことするの?」
クラス中が疑問に包まれる中、美波が質問してくる。
「召喚獣にも店を手伝わせるんだ。ウエイターとかね。見た目が可愛いし、文月学園ならではの出し物だと思うんだ」
『確かにそうだな』
『これは面白そうじゃないか?』
俺の提案にクラス中が感心したような声を出す。
「神崎。面白い提案だが、吉井以外の召喚獣は物体には触れないぞ?」
西村先生がもっともなことを言う。明久は観察処分者だから物体に触れるのだが、それ以外の人は触ることはできない。
「そこは学園長と交渉します。一般の人への宣伝にもなるので学園側としてもよろしいかと」
「……お前は本当に頭のまわるやつだな」
西村先生が感心も込めて呆れている。これくらい考えてなきゃ提案しませんよ。
「それじゃあこの中から多数決をとるわよ」
美波が候補を順番に読み上げていく。その結果、召喚喫茶に決まった。もしかしたら交渉が上手くいかないかもしれないので、保険としてもう一つを決めることにした。結果は中華喫茶だ。
「というわけで、決まりました」
「……わかった。俺からも学園長に頼んでみよう」
「ありがとうございます」
西村先生が教室から出ていった後、細かいところを決めるために話を続ける。
「それじゃあホール班と厨房班に分かれてもらうわ」
「あ、美波。それなんだけど、女子二人にはホールにまわってほしいんだ」
「え、どうして?」
「どうしてですか?」
美波と一緒に瑞希も聞いてくる。
「この学園の女子は美人揃いだから厨房に隠すのはもったいないと思うんだ。だから二人にはホールでお客さんに笑顔で応対してほしいんだ」
そう言いながら俺は二人の耳元まで顔を近づけて小声で囁く。
「……明久にもアピールできるぞ」
「「!!」」
二人は顔を赤くして固まってしまった。しかしすぐに回復して、小さい声で答える。
「そ、そういうことでしたら……」
「やっても……いいわよ」
「ありがとう、二人とも」
顔を赤くした二人からの了承も得たことだし、残りは厨房だな。
「この中で料理できるやつは?」
手を上げたのは男子のほとんどだった。家庭的ですな。
「そんなに人数いらないから、亮と康太と……あとお前らだな。他はホール班な」
役割は大体決まった。あとは召喚獣の使用許可だな。
放課後にでも学園長室へ行こうと考えたあと、それまでの時間を喫茶店のメニューや店の名前を決めるために使ったのだった。
放課後になり、学園長室に行こうと立ち上がると、
「あ、神崎もちょっといい?」
「どうしたの?」
美波に呼び止められた。何かあったんだろうか。
「いいからちょっと来て」
俺は疑問に思いながらも美波についていく。そこには明久と秀吉もいた。
「で、どうしたの? 集まっているってことは相当なことなのか?」
「かなり深刻よ。本人には言わないでほしいって言われてるけど……」
いつも活発な印象を持たせる彼女がここまで落ち込むということは、真面目に深刻のようだ。
「瑞希のことなんだけど……あの子、転校するかもしれないのよ」
瑞希が転校?
「もしかして、教室の設備か?」
「そのとおりよ」
瑞希の体調を気遣ってのことだろう。確かにこの教室は衛生的によろしくない。
「おい、明久が処理落ちしてるぞ」
「このバカは不測の事態に弱いんだから!」
「明久、明久!」
秀吉が明久の肩を揺らす。目を覚ました明久が言ったセリフが、
「秀吉……僕がモヒカンになっても、好きでいてくれるかい?」
「……どういう思考回路をしたらこういう結論にたどりつくのじゃ?」
「まったくだ」
瑞希の転校からどうしてモヒカンなんて言葉が出てくるんだ。
正気に戻った明久に改めて状況を説明する。すると明久は、
「それならなんとしても雄二を呼び出してやる!」
「うむ。友人の転校と聞いたら黙ってはおれん」
友人の転校を阻止するために雄二を説得しようと携帯を取り出す。
「もしもし雄二。今どこに――」
『明久か? すまないが俺の鞄を玄関まで――げっ、翔子!』
「雄二?」
『すまないが、鞄を頼んだぞ!』
雄二との電話は切れたらしく明久が携帯をポケットにしまう。
「なんだって?」
「なんか、鞄を頼むとか言ってたけど……」
「大方霧島から逃げておるのじゃろう。あやつは異性にはめっぽう弱いからのう」
雄二は翔子から逃げているのか。何で逃げるんだろうか。翔子みたいな美人に迫られたら普通の男子なら喜ぶのに。
「いや、これはチャンスかもしれない」
明久が何かを閃いたかのように声を出す。
「どうするんだ?」
「なにも行動を読めるのはあいつだけじゃない」
そして秀吉と美波に何かを話している。これなら任せてもいいだろう。
「それじゃあそっちは任せたよ。俺は学園長と交渉してくる」
「あ、うん。いってらっしゃい」
俺は教室を出て、交渉する内容を整理しながら学園長室へと向かうのだった。
「神崎兄弟の」
「「ほのぼの談義~!!」」
「今回のゲストは坂本雄二さんです」
「よろしくな」
「雄兄、よろしく!」
「そういえば、家に遊びに来たときに翔子さんが『坂本翔子』と言っていたのを思い出したんですけど……翔子さんとは付き合ってるんですか?」
「そんなわけないだろっ!」
「でも、翔子姉が冗談で言ってるようには聞こえなかったよ?」
「今日も仲良く鬼ごっこしてたみたいだしな」
「なんでお前がそれを!?」
「明久に電話が掛かってきたときに俺も近くにいたから」
「マジか!」
「マジだ」
「それで、雄二さんと翔子さんは付き合ってるんですか?」
「教えてよ、雄兄!」
「だから違うと言ってるだろー!」
「さて、雄二は二人に尋問されてるし、そろそろ終わるか」
「仁! この二人を何とかしてくれー!」
「読んでくださる全ての人に感謝を込めて……」
「「「またね~!!」」」
「……って無視するなぁー!!」
「お前ら締めの挨拶には反応するんだな……」