バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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第十七話

 廊下を一人寂しく歩いている俺は、携帯を見ながらあることを考えていた。

 

「今更だけど、女子の連絡先が増えたな~」

 

 女の子とは縁がないと思っていた俺だが、電話帳に登録されている女子の名前を順に読み上げていく。

 

「優子に翔子に美波、愛子に瑞希……一気に五人か」

 

 Aクラスの人達と知り合ったのはDクラス戦の頃。部活のことで職員室に呼び出されて、そこで大量の自習用プリントを持った優子と会ったんだっけ。……あの出来事を思い出したら顔が熱くなってきた。今は置いておこう。

 そのあとはプリントを持っていくのを手伝って、その途中でDクラスの生徒に勝負を挑まれたけど勝利して、Aクラスに行って、そこで代表である翔子と去年から面識のある愛子に出会ったんだ。

 あれから季節が変わっただけなのに、かなりの時間が経ったかのように感じる。それは俺がこの生活に満足している証拠だと思う。

 

「……あいつらにだけは、ばれないようにしなきゃな」

 

 ふとFFF団の姿が頭をよぎる。Bクラス戦の時は俺のことを総督と慕ってくれたあいつらも、女子の話になると嫉妬で狂って話を聞かずに襲ってくるだろうから。

 そんなことをのんびり考えながら歩いていると、後ろの方から二人の男子の声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だったので振り向くと、そこには明久と雄二がこちらに歩いてきていた。

 

「おっ明久。雄二を捕まえられたみたいだな」

「俺は脱走した動物か!?」

「本当に苦労したよ……」

 

 歩きながら明久にどうやって雄二を見つけたのかを聞いてみると、

 

「どうしてお前は女子更衣室に逃げ込めるんだ……?」

「相手はあの翔子だぞ!? 普通の場所に隠れてやり過ごせるわけがねえ!」

 

 告白しただけあって雄二のことは何でもお見通しってことなのかな。乙女の行動力ってすごい。

 雄二達も学園長に用があるということで、一緒に向かうことにした俺達。

 

「そういえば、雄二達は学園長に何の用が?」

「姫路の転校についてはお前も知ってるだろ?」

 

 雄二の質問に俺は頷いて返す。

 

「その理由はわかるか?」

「たぶんだけど……教室の設備、教室の衛生環境、あとはレベルの低いクラスメイト……かな?」

「正解。まさにその通りだ」

 

 雄二達がここに来た理由は、Fクラス教室の問題を学園長に直訴するためだと言う。

 

「お前こそ、なんで学園長室に行くんだ?」

「あ、そうか。雄二は寝てたから知らないんだ」

 

 俺は決まった出し物のことについて雄二に説明する。

 

「なるほど。召喚許可を得るために学園長と交渉するってわけか」

「そういうこと」

 

 そうこう話してると学園長室前に到着。ノックをして入ろうとすると中から声が聞こえてきた。

 

『商品の……として隠し……』

『そっちこそ……如月ハイランドに……』

 

 どうやら言い争っているご様子。あまり穏やかではなさそうだ。

 

 コンコンッ

 

『入りな』

「失礼しまーす」

 

 大きめの音をたててノックする。扉の向こうから了解の声が聞こえたので開けて一礼する。それに続いて明久と雄二も入る。二人とも一礼くらいはしようよ……。

 

「このタイミングで来客とは……貴女の差し金ですか?」

「馬鹿言うんじゃないよ。竹原」

 

 学園長と話しているこの人は……確か教頭先生だったかな? なんか女子から人気があるって話を聞くけど……

 

「それじゃあ、私は失礼させていただきますよ」

 

 そう言って竹原教頭は植木鉢の方をチラッと見てから退室していった。なんだ、植木鉢に何かあるのか?

 

「それで、アンタらは何の用だい?」

「学園長、ストップです」

「なにさね、神崎」

 

 俺は口元で人差し指を立て、声に出さず口パクで伝える。

 

「(しゃべらないでください。もしかしたら盗聴器が仕掛けられているかもしれません)」

「「「!!」」」

 

 それを聞いた学園長と明久達は驚いた顔をしていた。

 

「(今専門職のやつを呼び出しますので、そのまましゃべらないでください)」

 

 口パクでそう伝えると、三人は静かに頷いた。俺はそれを確認してある人物にメールを送る。その人物とは……おっと、返信が来た。

 

 from 康太

『……しばし待て』

 

 俺らのクラスメイトの土屋康太だ。あいつは盗聴盗撮をしてムッツリ商会で商売をしている。だからそういったことは康太に聞いた方が解決が早いのだ。

 しばらくすると携帯が振動し、俺は取り出して中身を確認する。康太からだ。

 

 from 康太

『……見つけた。植木鉢の中』

 

 ……お前本当に何者?

 言われたとおりに植木鉢を調べると土に埋もれた黒い物体を見つける。土を払い落としてから床に置き、それを踏みつぶす。あったことを康太に報告しなくちゃ。

 

『見つかったよ。約束の物は明日にでも』

 

 メールを送ってすぐに短い文章で返信が来た。

 

 from 康太

『……毎度あり』

 

 今時どこの商売でも聞かない言葉で締めくくった。古いよ、康太……。

 

「もう大丈夫ですよ」

「竹原のやつ、なんで盗聴器なんか」

「まだわかりません。今後も油断しないでくださいね」

「そうするさね。それより、今日は何の用だい?」

 

 学園長が話を戻す。おお、そうだった。

 

「俺は清涼祭中の召喚獣の使用許可をもらいに来ました」

「どうしてだい?」

「Fクラスの出し物が召喚喫茶といって、召喚獣と一緒に経営する喫茶店に決まりました。それを実現させるのに学園長の許可が必要だと思い、ここに来ました」

「う~ん、そうさねぇ~」

「一般の人にも召喚獣を間近に見てもらえるので、学園側としてもいいかと」

「……わかったよ。許可しようじゃないか」

「ありがとうございます」

 

 召喚獣の使用許可が下りた。よし、もうひと押しだ。

 

「それでお手数ですが、Fクラス全員の召喚獣を観察処分者仕様にしてほしいんです。ウエイターをさせたり、一般客とのふれあいも考えているので」

 

 俺の提案に学園長は少し考える素振りを見せる。そして顔を上げると、

 

「……神崎には部活の件で世話になってるからねぇ。いいさね。やっておこうじゃないか。その代わり、フィールドの展開は西村先生にお願いするよ。監視も兼ねてね」

「構いません。ありがとうございます」

 

 これで俺の交渉は終了。次は明久達だ。

 

「それで、そっちのガキ共は何の用だい?」

「今日は学園長に話があって来ました」

「それはわかってるさね。それと、まず先に名前を名乗るのが礼儀ってもんだよ」

 

 さっきの俺との交渉のときとは打って変わって少々厳しい学園長。

 

「失礼しました。俺は二年Fクラス代表の坂本雄二。そしてこいつが――」

 

 明久の方を示して、告げる。

 

「――二年を代表するバカです」

 

 雄二、その紹介は酷いと思う。

 

「ほう。アンタらがFクラスの坂本と吉井かい」

「ちょっと待ってください学園長! 僕まだ名前を言ってませんよ!?」

 

 二年を代表するバカで話が通じている。なんなの、この光景。

 

「気が変わったよ。話を聞こうじゃないか」

 

 学園長が口の端を吊り上げる。これは何かあるな。

 

「ありがとうございます」

「礼を言う暇があったらさっさと喋りな」

「わかりました」

 

 口悪く言われているのに雄二が動じない様子で話を進める。こういうところは大人だなと思う。

 

「Fクラス教室の設備について改善を要求しに来ました」

 

 雄二が本題を口にする。衛生的に問題のある教室の状態を何とかしようとしている。さすが代表だ。クラスメイトのことを考えている。

 

「Fクラスの教室は、まるで学園長の脳みそのように穴だらけで隙間風が吹き込んでくるような酷い状態です」

 

 ……はい?

 

「学園長のように戦国時代から生きている老いぼれならともかく、普通の高校生には危険な状態です」

 

 雄二も言葉づかいも危険な状態です。

 

「要するに、体調を崩す生徒が出てくるからさっさと直せクソババァ、というわけです」

 

 真面目な顔してなんというフィニッシュを決めるんだ、こいつは。学園長も思案顔になっていらっしゃる。チラッと学園長の方を見てみる。

 

「ふむ……ちょうどいい機会さね」

 

 学園長が小さく呟いていた。なにがちょうどいいんだろうか。

 

「言いたいことはわかった」

「それじゃあ――」

「却下だね」

「――コンクリに詰めて捨ててこようか」

「明久、態度には気を遣え」

 

 お前が言えることじゃないぞ、雄二。

 

「だが、こちらの条件を呑んでくれれば、相談に乗ってやろうじゃないか」

 

 交換条件か。そんなに甘くはないってことか。

 

「その条件とはなんですか?」

「召喚大会の優勝賞品は知ってるかい?」

 

 優勝賞品? そんなのあるんだ。

 

「それがどうかしましたか?」

「如月ハイランドのプレミアムチケットと腕輪なんだけどね、前者で悪い噂を聞いてね。出来れば回収したいのさ」

 

 続けて学園長がその噂の内容を話す。どうやら如月ハイランドに訪れたカップルは必ず幸せになるというジンクスを立てたいみたいで、多少強引な手段を使って結婚式までのコーディネイトを行うというものらしい。隣では雄二が頭を抱えていたが、何があったんだ? あ、明久が雄二に何か言ってる。ここは明久に任せて俺は話に集中しよう。

 

「教室の改善はそのプレミアムチケットの回収を条件で、ということですか?」

「いいや、『召喚大会の賞品』との交換さね。それが出来るなら、教室の改修くらいはしてやろうじゃないか」

 

 俺が学園長と話をしている傍らで雄二が何か考え込んでいる。そしてすぐに学園長と向き合う。

 

「学園長。一ついいですか?」

「なんだい、クソガキ」

「召喚大会は二対二のタッグマッチ。トーナメント形式で一回戦は数学、二回戦は化学といった感じに進むと聞いています」

「それがどうかしたのかい?」

「対戦表が決まったら、科目の指定を俺にやらせてもらえませんか?」

 

 科目の指定なんてしたらこっちが有利になるからそれはそれで嬉しいけど、学園長がそんなことを了承してくれるわけがない。雄二はなにを考えているんだ。

 

「……点数の水増しだったら一蹴してたけど、それくらいなら協力しようじゃないか」

 

 だが学園長はそれを了承した。いいのか、これ。そこまでしてプレミアムチケットを回収したいのか? それに回収だけなら何も俺らFクラスじゃなくてAクラスに頼めばいいのに。他にもいろいろあるが……あとで個人で聞いてみよう。

 

「ここまでさせるんだ。優勝できるんだろうね?」

「無論だ。俺らを誰だと思っている」

 

 雄二が強い意志をもって返答する。この時の雄二は本当に頼りになる。

 

「そうかい。それじゃあ頼んだよ」

「いくぞ、二人とも」

「あ、ごめん雄二。先に行ってて。俺個人で学園長と話があるから」

「わかった。なるべく早く戻ってきてくれよ」

 

 そう言って雄二達は学園長室から出ていく。さて……

 

「学園長。さっきの話なんですが、本当のところはどうお考えで?」

「何を言ってるさね」

「おかしいんですよ。なにも回収だけならAクラスに頼めばいいじゃないですか。 それにプレミアムチケットだけならまだしも、どうして腕輪まで回収を?」

 

 学園長は黙ったままだ。それでも俺は続ける。

 

「AクラスはダメでFクラスなら大丈夫……点数の関係ですかね。チケットは点数関係ないから、腕輪の方ですよね」

「はぁ……アンタは本当に頭が回るやつだね」

 

 観念したかのようにため息をつく学園長。

 

「そうさ。本命はチケットではなく腕輪の方さね。欠陥があって回収したいのさ。点数が高すぎると暴走する恐れがあるからね」

 

 どうやら学園長は腕輪の不具合が公表されるのを恐れて、『召喚大会の賞品』を交換の条件にしたらしい。

 

「そうだったんですか……盗聴器の件は俺個人でも調べてみます」

「そうかい。それならお願いしようかね。その代わり、神崎の要望を可能な限り答えようじゃないか」

 

 えっ、まじで? これはラッキーだ。

 

「なら、召喚獣の装備を変えてほしいんですが……」

「どうしたいのさね?」

「一刀流から二刀流にしてほしいんです」

「それくらいならやってやろうじゃないか。観察処分者仕様にするときに一緒にやっておくよ」

 

 二刀流をデフォルト装備にすることが出来た。これならいつでも一刀と二刀を使い分けることが出来る。

 

「ありがとうございます。ちなみに武器のデザインはこんな感じで」

 

 そう言って携帯の画像を見せようとするが、

 

「わかっているさね。Bクラス戦のときに使ってた水色の剣だろ」

「それです」

 

 そのときのデータが残っていたのかな。

 

「やっておくよ。その代わり、頼んだよ」

「わかってます。それじゃあ失礼します」

 

 一礼して学園長室を出ていく。そのままFクラスに向かおうと歩き出す。

 

「あ、召喚大会のパートナー探さなきゃ」

 

 なるべく点数の高い人と組みたいなぁ~。そう考えながらAクラスへと進路を変更した。

 

 

 

 

 

 Aクラスに到着。中を覗いてみると、綺麗な教室をさらに綺麗に装飾されていた。あちらこちらにはクロスが敷かれたテーブルが配置されていて、カウンター席まで用意されていた。どこまで豪華なんですか、この教室は。

 

「あ、仁君だ。やっほー!」

 

 声が聞こえた方を振り向くと、そこには愛子と翔子と優子がいた。それもメイド服姿で。

 

「……」

 

 なんだ、この光景。正直に言おう、眼福です。

 

「あれぇ、仁君もしかして、メイド服姿の優子に見惚れちゃったのかな~?」

「何を言ってるの、愛子!?」

 

 優子がなにやら慌てている様子。だが、脳の処理が追いついていない俺にはどうして慌てているのか分からなかった。あ、そうだ。

 

「お主ら、召喚大会に出る予定はあるでござるか?」

「なぜにござる? ボクは代表と出るよ」

「……(コクリ)」

「アタシはないわね」

 

 よし、交渉開始だ。

 

「優子、俺と召喚大会に出てくれないか?」

「もちろんいいわよ」

 

 交渉前に許可をもらえた。用意していた交渉材料が無駄になってしまった。また今度使うことにしよう。

 

「それじゃあ、受付いこうか」

「そうね」

「いってらっしゃ~い!」

 

 こうして俺は優子とペアで召喚大会に出ることになった。当日が楽しみだ。

 




「神崎兄弟の」
「「ほのぼの談義~!!」」
「今回のゲストは土屋康太さんです」
「……よろしく」
「相変わらずだな~康兄は」
「さっそくだが一ついいか? ムッツリ商会の売り上げは?」
「……企業秘密」
「ですよね~」
「「ムッツリ商会?」」
「……気にするな」
「「??」」
「お前らからは何かあるか?」
「それじゃあ私から。康太さんは好きな人はいるんですか?」
「最近の美香はお年頃だな」
「……そんな人はいない」
「佐藤は?」
「……(ふるふる)」
「翔子は?」
「……霧島は雄二の嫁」
「……愛子は?」
「……!!(ブンブンッ)」
「あれ、明らかに反応が違う。もしかして……」
「そういうことだ」
「……断じて違う!」
「あ、そうだ兄さん! 優子さんとの関係について聞かせて!」
「やべっ! 墓穴掘った! 逃げるぞ、康太!」
「……了解!」
「あ、待って。二人とも!」

 ダダダッ……

「……みんないなくなっちゃった。今日は仁兄の代わりに俺が締めくくろう。読んでくださる全ての人に感謝を込めて……またね~!!」

 


 シーン……






「……一人は寂しいな~」
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