バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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第一話

 午前七時五十分。俺はいつもの通学路をのんびり歩いていた。今日は二年生になって初めての登校ということもあってか、気持ちが早歩きしていた。振り分け試験を受けてどんな人達と一緒になるのかが気になって仕方がなかったからなのかもしれない。

 しばらく歩いていると、校門の横を桜の木で彩った文月学園が見えてくる。校門前には生活指導担当の西村宗一郎先生が立っていた。

 

「西村先生。おはようございます」

「おはよう。神崎。今日は早いな」

 

 西村先生は趣味はトライアスロンで、とにかく体の筋肉がすごい。生活指導の鬼といわれていて、一部の男子からは鉄人というあだ名を付けられている。すごく頼りになる人で、他の先生や生徒からも信頼されている。

 

「結果が楽しみだったもので」

「そうか。ほら、振り分け試験の結果通知だ」

 

 西村先生が封筒を取り出し、差し出してくる。その封筒には『神崎仁』と書かれている。

 

「ありがとうございます」

 

 それを受け取り、封筒を開いて中の紙を取り出す。

 

「にしても、なんでこんなめんどうなやり方をするんですか? 掲示板とかに貼り出せばいいのに」

「普通はそうするんだがな。ここは世界が注目する試験校だからな。これもその一環というわけだ」

 

 この文月学園は試験召喚システムを発明したということで世界中から注目されている。この学校で試験的に行って世界に導入するかどうかを決定するらしい。

 

「しかし、お前はそれでよかったのか? お前の成績なら頑張れば上のクラスにも行けただろうに」

「もしかしたらそうかもしれませんね。でも、あいつらが来るかもしれないクラスで過ごしたいです。それに――」

 

 俺はその場で一泊置いて答える。

 

「――俺の情報戦略がどこまで通用するのか試してみたいんです」

 

 そう言って俺は手元の折りたたまれた紙を開く。

 

『神崎仁 Fクラス』

 

 さて、新しい学園生活の幕開けと行きますかな。

 

 

 

 

 

 

「これはすごいな……」

 

 自分の教室に向かって廊下を歩いていると、途中にAクラスと書かれたプレートがさがった教室に目がいった。システムデスクにリクライニングシートにノートパソコン、個人エアコンが備え付けられていて、まさに高級ホテルのような設備である。

 

「さて、そろそろ行くかな」

 

 少し名残惜しいと思いながらも、自分のクラスとなる教室に足を運んだ。

 

 

 

 

 

「これはすごいな……」

 

 違う意味で。

 どれくらいすごいのかというと、もはや教室と呼べないくらいすごい。畳に卓袱台に座布団、その畳と卓袱台にはカビやらキノコやらが生えていた。衛生的に問題があるだろう……。

 

「早く座れこの蛆虫野郎」

 

 そして罵倒のおまけつき。

 

「おっと、あいつじゃなかったか。すまんな」

「俺は生まれて初めて初対面の人に会って早々、罵倒をくらったよ……」

 

 教卓の前に立っているその人物は背が高く、すらっとしていて体格が良い。野性味のある顔つきで赤く短い髪がツンツンに立っている。

 

「自己紹介がまだだったな。俺は坂本雄二。このクラスの代表だ。好きなように呼んでくれ」

 

 ということは、このクラスの最高成績者か。

 

「俺は神崎仁。運動部のフリーの情報班として活動している。それじゃあ雄二と呼ばせてもらうよ。よろしく」

「そうか。こっちも仁と呼ばせてもらおう。こちらこそよろしくな……っておまえがあの!?」

 

 お互いに挨拶を交わすと雄二が驚いていた。俺のことを知っているのか。珍しいな。

 

「おまえがあの、運動部の成績をかなり上げたっていう……」

「知ってるのなら話が早い。俺はこれから起きるであろう試召戦争で情報戦略がどこまで通用するのか試してみたいんだ。そこのところはどう考えてるの?」

「俺も世の中は学力だけがすべてじゃないって証明するために試召戦争は仕掛けるつもりだ。Aクラスに勝つための作戦も考えている。そのときは、おまえの情報戦略も使わせてもらうからな?」

 

 雄二は不敵な笑みを浮かべながら提案してくる。

 

「もちろん。俺もそのつもりだったからね。全力で協力させてもらうよ」

 

 それに対して俺も同じように笑みを浮かべて手を差し出す。その手を雄二は握り返す。これは面白くなりそうだ。

 

「そうだ雄二。俺の席ってどこなの?」

「特に決まってないぞ。好きなところに座ってくれ」

 

 席すら決まってないのかよ。どんだけ扱いがひどいんだよ、このクラス。

 

「雄二の席はどこなの?」

「俺は一番後ろの真ん中だ」

「それじゃあ俺はその隣にしようかな」

 

 黒板に向かって、雄二の席の右隣に鞄を置く。置いたときに卓袱台がぐらついたのは気にしないでおこう。

 しばらくすると、だんだん教室に人が集まってきた。学園のチャイムが鳴り、ある程度の人が集まった教室を眺めていると、

 

「すいません、ちょっと遅れちゃいました♪」

「早く座れこの蛆虫野郎」

「台無しだ!」

 

 さわやかに挨拶して入ってきた奴に素早く罵倒を言い放つ雄二。そして、その反応に驚いている男子の姿があった。驚いている男子は前髪だけが左右に分かれた薄い茶髪で、顔立ちは普通。身長はそれほど高くもなく、体格は鍛えたような体の雄二とは違ってやせて締まっている感じだ。

 

「って雄二。なにしているの?」

「先生が来てないから代わりに教壇に上がってみた」

 

 どうやら雄二の知り合いらしい。少しして教室に教師が入ってきたので、雄二は自分の席へ。茶髪の男子は窓際の一番後ろの席に座った。

 

「え~、私がFクラス担任の福原慎です。皆さん、一年間よろしくお願いします。さっそくですが、皆さんにはちゃんと座布団と卓袱台が支給されていますか? 不備があれば申し出てください」

 

 ぶっちゃけ不備だらけです。とか考えていると、さっそく不備を申し出る声が聞こえてきた。

 

「先生。俺の座布団、ほとんど綿が入ってないです」

「がまんしてください」

 

 不備を申し出たのに却下されてる!? 先生のほうから聞いてきてそれはひどくない!?

 

「先生。卓袱台の脚が折れてます」

「木工ボンドが支給されていますので自分で直してください」

 

 小学校の自由工作かよ!?

 

「先生。窓が割れてて隙間風が寒いんですけど」

「わかりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきましょう」

 

 ここは本当に教室なのか? どっかの廃屋なんじゃないの? 教室の隅のほうを見ると、クモの巣が形成されている。

 

「では、廊下側の人から自己紹介してもらいましょうか」

 

 福村先生の指名を受けて、一人の生徒が立ち上がる。

 

「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる。一年間よろしく頼むぞい」

 

 木下秀吉と名乗ったそいつは、独特な言葉使いで小柄な体格。肩にかかる程度に伸ばした髪で、パッと見は女子にしか見えないが、れっきとした男子である。確か演劇部のホープといわれている奴だな。双子の弟で姉がいたはずだ。どこのクラスかまでは分からないが。

 

「……土屋康太」

 

 口数少なく紹介する土屋康太は、小柄だが体が引き締まっていて、運動神経がよさそうな印象を持たせる。裏で商売をしているらしいが、何のことだかさっぱりだ。ただ、これが原因であだ名がついていたはずだ。確か……

 

「島田美波です。海外育ちで、日本語は会話はできるけど読み書きが苦手です」

 

 考え事をしていると女子の声が聞こえた。このクラスは男子がかなり多いので、唯一の女子と考えてもいいのかな。

 

「あ、あと英語も苦手です。育ちはドイツだったので。趣味は―」

 

 土屋康太のあだ名は何だったかな……

 

「吉井明久を殴ることです☆」

 

 なんて趣味の持ち主だ! ていうか趣味なのか、それ!? 

 考えることを中断させるほどの爆弾発言をかましたぞ、この女子。

 島田美波と名乗る女子は、女子にしては背が高く、スレンダーな体をしている。髪は赤身のかかった茶髪をポニーテールにまとめている。

 あの発言でかなりのリアクションをとった男子に笑顔で手を振っている。さっき雄二に罵倒されていたやつだ。あいつが吉井明久っていうのか。覚えておこう。次は俺の番か。

 

「神崎仁だ。なるべく下の名前で呼んでほしい。俺もみんなのことを下の名前で呼ぶ。趣味は読書とゲームだ。それじゃあ、今後ともよろしく」 

 

 自己紹介を終えて座布団に座る。そのあとも自己紹介は続いていく。

 

「須川亮です。趣味は――」

 

 次々と自己紹介していく他の人たち。それをぼんやりしながら過ごしていると、

 

「えーと、吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでくださいね」

『『ダァァーーリィーーン!!!』』

 

 野太い声で大合唱。びっくりするわ!

 

「失礼。忘れてください。とにかくよろしくお願いします」

 

 言った本人は吐きそうになってるし。無理もないな。俺も聞いてて不愉快だったし。

 明久の紹介が終わったところで、教室のドアが急に開いた。そこには息を切らした女子生徒がいた。おそらく走ってきたのだろう。

 

「すい、ません。遅く、なり、ました……」

 

 その女子生徒はピンク色の髪を背中に届くまで伸ばし、ウサギの髪留めをしていて、肌が白く、保護欲をかりたてるような可憐さに加えて、出てるところは出てて、締まるところは締まっているという女性の理想の容姿をしている。

 

「ちょうどよかった。今自己紹介をしてもらっているところなので、あなたも自己紹介をお願いします」

「あ、はい。姫路瑞希といいます。皆さんよろしくお願いします」

「はい! 質問です」

「はい! なんですか?」

「なんでここにいるんですか?」

 

 急に質問したうえにそれは失礼だぞ。

 そう考えてはいても、それについては俺も疑問だった。確か彼女は入学して最初のテストで見事学年二位になり、そのあとも上位に名をはせる成績だったはず。なのになぜ、そんな彼女がこのクラスにいるのか疑問に思わない奴はほとんどいないだろう。

 

「その……振り分け試験の時に高熱を出してしまいまして……」

 

 つまりは病欠ってわけか。まわりのみんなもなるほどなって顔をしている。

 

『そういえば、俺も熱が出たせいでFクラスに』

『ああ、化学だろ。あれは難しかったな』

『俺は弟が事故にあったと聞いてそれどころではなくてな』

『黙れ、一人っ子』

『前の番に彼女が寝かせてくれなくってな』

『今年一番の大嘘をありがとう』

 

 なんかそれぞれの言い訳が聞こえるけど気にしないでおこう。

 

「では、一年間よろしくお願いします!」

 

 姫路は照れくさいのか、足早に開いている席へと向かっていった。席は明久と雄二の間のため、結構近かったりする。後で個別に自己紹介しに行くかな。

 左隣では明久と雄二と姫路さんが三人で話をしている。明久がさめざめと泣いていて、姫路さんがほっとしている。なにがあったんだ?

 

「はいはい。そこ。静かにしてくださいね」

 

 福原先生が教卓を叩きながら注意する。

 

 バキッ バラバラ

 

 教卓が壊れた。脆いな、おい!?

 

「代わりの教卓を持ってきますので、皆さんは待っていてください」

 

 福原先生が教室を出ていった。少しして明久と雄二も教室から出ていった。このまま待っているのも暇なので、姫路さんに声をかけることにする。

 

「姫路さんだよね? 俺は神崎仁。一年間よろしく」

「あ、姫路瑞希です。よろしくお願いします」

「さっそくなんだけど、今度から下の名前で呼んでもいいかな? 名字だと、なんだか堅い感じがしてさ」

「はい。いいですよ。それじゃあ私も仁君って呼んでもいいですか?」

「もちろん。改めて、これからよろしくね。瑞希」

「よろしくお願いしますね。仁君」

 

 それからしばらく趣味などの話をして時間をつぶしていると、雄二達が戻ってきた。そのあとすぐに福原先生が教卓を持って戻ってくる。また壊れなきゃいいけどな……。

 

「最後に坂本君。君は確かクラス代表でしたね。自己紹介をお願いします」

 

 そう言われると雄二は立ち上がり、教壇に立ってクラス全員に話す。

 

「クラス代表の坂本雄二だ。代表でも坂本でも好きなように呼んでくれ。さて、皆に一つ聞きたい」

 

 雄二は教室全体を見渡すように視線を送る。それにつられてみんなも目線を動かす。

 

「Aクラスは冷暖房完備の上に、座席はリクライニングシートらしいが……」

 

 少し間をあけて告げる。

 

「不満はないか?」

『『大ありだぁーー!!』』

 

 クラス内の不満が爆発した。そりゃそうだ。

 

「だろ? 俺だってこの現状には大いに不満だ。代表として問題意識を抱いている。そこで代表としての提案だが――」

 

 雄二はクラス全体に視線を送り、、

 

「FクラスはAクラスに対して、試験召喚戦争を仕掛けようと思う!」

 

 戦争の引き金になる一言を、はっきりと言い放ったのだ。

 

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