バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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第十九話

『すいません。注文をお願いします!』

『こっちもお願いします!』

「はい。ただいま!」

 

 清涼祭当日。Fクラスの出し物である喫茶店『サモン』は開店してすぐに店内がいっぱいになった。俺を含むウエイター達はあっちに行ったりこっちに行ったりと大忙しである。こんなにもお客さんが来てくれる理由はおそらく二つ。

 

「「いらっしゃいませー!」」

 

 一つ目はウエイトレスの瑞希と美波。お客さんを笑顔で魅了していく。今出迎えられた男子生徒は少しの間ぼーっとして、我に返っては足早に空いている席へと向かっていった。今のやつ、間違いなく照れてたな。

 

「三番テーブル。カルボナーラとナポリタン出来たぞ!」

「あいよ!」

 

 亮の呼び声に俺はこの店最初の注文の品を取りに行く。本当なら二つとも俺が持っていくんだが……

 

「西村先生、召喚許可を」

「わかった。承認する!」

「試獣召喚!」

 

 これが二つ目の理由である召喚獣との共同作業である。召喚獣は剣を背中の鞘に納めたままナポリタンを、カルボナーラは俺が持ち、三番テーブルで待っているお客さんのもとへ向かう。

 

「お待たせしました。カルボナーラとナポリタンになります」

「わー! ママ見て。この子可愛いー!」

「本当ね~。この子たちはいったい?」

「こちらは文月学園で扱っている召喚システムによって召喚された召喚獣でございます。この子は私の召喚獣でございます」

「ほんと。よく見たらあなたとそっくりね」

 

 幼い娘と一緒に来た若い女性が召喚獣の頭を撫でる。観察処分者仕様になっているため、俺自身の頭も撫でられている感覚があってこそばゆい。

 言い忘れていたけど、観察処分者仕様になるのは喫茶店の召喚フィールド内だけだ。だから召喚大会には影響しない。

 

「もしよろしければ、一枚百円で写真撮影も出来ますよ?」

 

 手を差し出した方向では、康太がカメラを構えて待機していいた。この都合で康太には厨房班を抜けてもらい、代わりの男子を追加している。

 

「この子と写真撮りたーい! いいでしょママ?」

「そうね。せっかくだし、撮ってもらおうかしら」

「かしこまりました。それでは帰る前にこの番号札を持ってあちらに向かってください。そこに顔写真付きの名簿がございますので一緒に写真を撮りたいと思う人を指名してください。すぐそちらに向かいますので。それでは仕事があるので失礼します」

「またねーおにいちゃん!」

 

 無邪気な笑顔で手を振ってくる女の子に軽く手を振って仕事に戻る。あの親子が写真を撮るお客さんの第一号だ。

 こうしている間にもお客さんは増えているんだ。迅速に捌かないといけない。

 

「明久。そろそろ時間だ」

「うん。わかったよ」

「あれ? アキたちも召喚大会に出るの?」

 

 このことを知らなかった美波がそんなことを聞いている。

 

「あ、うん」

「もしかして、賞品が目当て?」

「まあ、そういうことになるかな」

 

 本当のことは言えないからな。明久は言葉を濁してそう返す。

 

「……誰と、行くつもり?」

「吉井君。私も知りたいです。誰と行くつもりなんですか?」

 

 美波のその一言に瑞希も反応する。気のせいだろうか。二人から攻撃色の気配がする。

 

「明久は俺と行くつもりなんだ」

 

 そこで雄二のフォローが入る。

 

「まさか……坂本と『幸せになりに』行くの……?」

 

 ん? 話がおかしい方向に進んでないか? 明久も同じことを思ったのか小声で雄二に抗議している。それを雄二が上手く言いくるめたのだろうか、明久はひとまず落ち着く。

 

「俺は何度も断ってるんだがな」

 

 この言葉が予想外だったのか、明久は心底驚いたような顔をしていた。

 状況を整理すると、どうやら美波たちは賞品である如月ハイランドのプレミアムチケットで誰と行くかの話をしているようだ。それを明久は召喚大会を誰と出るのかという質問と勘違いしている。それによって、

 

「アキ、アンタやっぱり木下より坂本のほうが……」

「ちょっと待って! そのやっぱりっていうのすごく気になる! それと秀吉! 少しでも寂しそうな顔をしないでよ!」

 

 このような会話が生じるというわけだ。てか秀吉。なぜそこで寂しそうな顔をする。

 

「よ、吉井君。男の子なんですから、女の子に興味を持ったほうが……」

「それが出来れば明久も苦労してないさ」

 

 雄二、わかってて話をしていたな。その証拠に顔がにやけている。

 

「とにかく、誤解だからね!」

 

 そう言った明久とにやけたままの雄二は教室を出ていった。

 

「……仁。写真の指名。1番札のお客さん」

「ん。了解」

 

 いつの間にか近くにいた康太が写真の指名があったことを知らせに来た。俺はすぐに向かうと、そこには先ほどの親子が待機していた。

 

「お待たせしました。ご指名ありがとうございます」

「ふふ。そんなにかしこまらなくてもいいのに」

「すいません。ですがこれも仕事なので」

「……それではこちらに」

 

 康太が用意されている椅子に座るように促す。それに従って俺の召喚獣を挟んで座る親子。

それを見て俺はセットから離れる。

 

「あら、あなたは一緒じゃないのかしら?」

「はい。あくまで召喚獣との記念撮影なので」

「えー! おにいちゃんも一緒に写ろうよー!」

 

 俺は康太にアイコンタクトでどうするかを聞く。康太はかまわないといった感じで頷いた。

 

「わかりました。それでは、私もご一緒させていただきます」

「やったー!」

 

 女の子がすごく喜んでいる。その笑顔から純粋さがにじみ出ていて、俺はその純粋さを忘れないでほしいと思った。

 召喚獣を抱きかかえて座る女の子の隣に母親。その後ろに俺が立つ形で写真を取ることになった。気に入ってくれたのはとても嬉しんだけど、あまり強く抱きしめると俺にも影響が出るわけで……もうちょっと緩めてくれると嬉しいな~、なんて。

 

「……それでは一枚」

 

 康太がシャッターを切る。フラッシュが眩しくて思わず目を閉じそうになるが、何とかこらえる。

 

「……これを」

 

 撮った写真をプリントして康太が持ってくる。それを受け取った母親が二百円を康太に渡す。ん? 二百円? 写真は一枚百円のはずなんだけど……

 

「はい。これはあなたの分」

 

 そう言って母親が渡してきたのは俺と親子が一緒に写った写真だった。

 

「どうして俺に?」

「あなたも一緒に写っているのに、あなたが持っていないのはおかしいでしょ?」

 

 予想外の行動に俺は敬語を使うのを忘れたが、その様子を見た母親が優しく微笑んだ。

 

「なんというか……ありがとうございます」

 

 写真を受け取って眺める。そこには召喚獣を抱いて満面の笑みを浮かべている女の子と隣で微笑んでいる母親、その後ろに俺が立っている。俺の隣で写真をのぞき込んでいた母親がふふっと笑ってから、

 

「こうして一緒に写真を撮ると、まるで夫婦みたいね」

「なっ!」

 

 母親がいたずらっぽい笑みを浮かべて言ったその一言でFクラスの男子から殺気が漏れはじめる。他のお客さんは気づいていないが、その気配は語っていた。

 

『神崎あとで殺す……!!』

 

 俺は背中に冷や汗を感じずにはいられなかった。

 

「じょ、冗談ですよね……? 子供もいますし、あなたは既婚者ですよね?」

「もちろん冗談よ。私には夫がいるもの」

 

 微笑みながら言う母親に俺は内心ほっとする(いろんな意味で)。冗談だとわかったからか、クラスの男子から放たれている殺気も落ち着いてきている。いやー、よかったよかった――

 

「でも今の夫と出会っていなかったら、もしかしたら、ね?」

 

――と思っていた瞬間が俺にもありました。

 今のでFクラス男子から放たれている殺気は濃度を上昇させ、同時に俺の心拍数を上昇させる。緊張しているのだろうか。それとも肌に感じる殺気に恐怖しているのだろうか。今の俺にはさっぱりわからない。

 

「あ、そうだ。まだ名前を言ってなかったわね」

 

 微笑んだまま俺と向き合い、ぺこりと一礼してから、

 

「私は白井春海といいます。よろしくね」

「わたしは白井麻美。小学五年生! よろしくね、おにいちゃん!」

「俺は神崎仁です。よろしくお願いします」

 

 足元に駆け寄ってきた麻美ちゃんの頭を撫でながら春海さんに一礼する。

 

「神崎君ね。これからも会ったときにはよろしくね」

「はい。そのときはぜひ」

「それじゃあ私たちはそろそろ行くわね。ごちそうさまでした」

「またねーおにいちゃん!」

「またのご来店を心からお待ちしております」

 

 受付に向かっていく白井親子を見送る。なんというか……娘想いの優しい人だったな。

 

「仁よ。お主もそろそろ時間じゃぞ」

 

 秀吉にそう言われて時計を見る。俺の召喚大会の初戦の時間が迫っていた。

 

「それじゃあ、店は任せたよ」

「了解じゃ」

 

 俺はウエイターの服装のままFクラスを出る。まずは召喚大会のパートナーである優子を迎えに急ぎ足でAクラスへ向かう。確かAクラスはメイド喫茶だったよな、とか考えながら歩を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 Aクラス前に到着。相変わらず豪勢な教室だな~と思いながら教室のドアをくぐる。そこには、

 

『おかえりなさいませ、ご主人様!』

 

 メイド服を着て満面の笑みを浮かべたAクラス女子がいた。それを見た瞬間、俺は思った。

 

 ここは天国かと。

 

 そのなかにいる何人かの女子は俺を見るなり顔を赤くしていた。だが、それも心をくすぐるものがある。おっと、目的を忘れるところだった。

 俺は辺りをキョロキョロと見渡し、こちらに向かってくるメイドを見つけ、声をかける。

 

「おっす、優子」

「あ、仁君。迎えに来てくれたの?」

「そろそろ時間だったしね」

「そうね。それじゃあ行きましょうか」

「あいよ」

 

 ひと言入れてから俺と優子はAクラス教室を出て、召喚大会に向かったのだった。

 




「神崎兄弟の」
「「ほのぼの談義~!!」」
「今回のゲストは霧島翔子さんです」
「……よろしく」
「よろしくね、翔子姉!」
「翔子さんって綺麗ですよね。どうしたら綺麗になれるんですか?」
「……好きな人のことを想うこと」
「なんか翔子が言うと説得力が違うな」
「好きな人か……今のところいないかな」
「俺もいないな~。気になっている子もいないし」
「次は俺からいいか? 翔子は頭がいいよな。なんか勉強のコツとかってあるのか?」
「……予習復習は欠かさずやっている」
「やっぱりそこに行きつくのか……」
「……仁も現国と古典の点数が高い。コツを教えてほしい」
「なんで現国の点数が高いことを知っているのかは置いといて、俺のは参考にならないと思うぞ? 現国は小説を読んでいたら文章を読み解けるようになって、漢字も読んでいくうちに覚えてったんだ。古典は文法と教科書に出てくる古字を覚えて、あとは小説感覚で読んで文の内容を理解してってところかな」
「……ありがとう。参考になった」
「お役に立てたなら何よりだ」
「でもさ仁兄。小説感覚で文章問題が解けるなら、なんで英語は出来ないの?」
「それもそうだね。どうして?」
「俺は生粋の日本人だからだ!」
「さて、そろそろ時間だし、終わろうか」
「そうだね」
「あれ? お前ら、聞いておきながらスルー?」
「読んでくださる全ての人に感謝を込めて……」
「「「またね~!!」」」





「俺、なにかしたか……?」
「……どんまい」
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