バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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第二十二話

「ただいま~」

 

 二回戦が終わってFクラス。早く仕事を手伝わなければと考えていたのだが……。

 

「……客がいないな」

「あ、仁。おかえり」

 

 俺が入ってきたことに気づいた明久が出迎えてくれる。それを見た秀吉や女子二人が同様な対応をしてくれた。

 

「そういや雄二は?」

「トイレに行ってくるってさ」

「そうか。それで、これはどういうことなんだ?」

「それがわからないんだよ」

「あれ以来、妙な客は来ておらんぞ?」

 

 あれとは喫茶店主催のプロレスのことだろう。あれは客もそうだが、その光景も妙だったな。

 

「となると、外で何かしてる可能性が高いな」

 

 営業妨害に適している場所は……。

 

『お兄さん、すいませんです』

『気にするな、チビッ子』

『チビッ子じゃなくて葉月ですっ!』

 

 なんてことを考えていると雄二の声が聞こえてきた。女の子がもう一人いるみたいだけど……。

 

「それで、探しているのはどんなやつだ?」

『お、坂本。妹か?』

『可愛いね~。五年後くらいにお兄さんと付き合わない?』

『俺は今だからこそ付き合いたい』

 

 おいこらロリコンども。モテないからって見た目小学生くらいの女の子をナンパするんじゃない。

 

「あの、葉月はおにいちゃんを探しているのです」

「お兄ちゃん? 名前は?」

「あう……わからないです」

「家族の兄じゃないのか? それなら、なにか特徴は?」

 

 家族じゃないと聞いても探そうとする辺り、雄二って面倒見がいいんだな。

 

「えっと……バカなお兄ちゃんです!」

「そうか……沢山いるんだが?」

 

 辺りを見渡して言う雄二。そこは俺も否定できない。ここはバカの集まりだからな。

 

「えっと、そうじゃなくて……」

「ん? 他に特徴があるのか?」

 

 雄二が女の子の目線の高さまで屈みこむ。もしかしたら雄二は子供好きなのかもしれない。これは新しい発見だ。

「その……すっごくバカなお兄ちゃんですっ!」

『『『吉井だな』』』

 

 クラスメイトに対してそれは酷くないか? お前ら。明久が泣いてしまったぞ。

 

「失礼な! 絶対に人違い――」

「あっ! バカなお兄ちゃんですっ!」

 

 そう言って明久に飛びつく女の子。身長の差もあってか、ピンポイントに鳩尾に頭突きしていたが、大丈夫なのだろうか。

 

「……人違いがなんだって?」

「人違いだといいな……」

 

 明久が何か言っていたが、それは願望に過ぎなかった。

 

「ところで、君は誰? 見たところ小学生の様だけど」

「え? バカなお兄ちゃん、ひどい……」

 

 女の子の表情が涙で歪みだした。明久、お前なぁ……。

 

「バカなお兄ちゃんのバカー!! 葉月はバカなお兄ちゃんに会いたくて、一生懸命『バカなお兄ちゃんのいるお店はどこですか?』って聞きながら来たのにっ!」

 

 廊下を歩くいろんな人に道を聞く女の子――葉月ちゃんが容易に想像できた。葉月ちゃんは明久に会うために頑張ったんだな。それなのにこいつは……。

 俺は葉月ちゃんに近づき、あやすように頭を撫でながら明久に少し軽蔑を込めた視線を送る。

 

「明久お前、こんなに小さい女の子を泣かせるなんてどんな神経しているんだ?」

「仁! これは、その……」

 

 明久が慌てた反応を示す。どうやら本気で葉月ちゃんのことを知らないらしい。けど葉月ちゃんは明久のことを知っているみたいだし……。

 

「でもでも、バカなお兄ちゃん。葉月と結婚の約束もしたのに――」

 

 明久と葉月ちゃんとの間に何があったんだ!? 結婚の約束ってだいぶ先の話だよな!?

 

「明久、お前はロリコ――」

『瑞希!』

『美波ちゃん!』

『『殺るわよっ!』』

「ぐふぉっ!?」

 

 ロリコンと言おうとしたら後ろから瑞希と美波が揃って明久に殴りかかった。美波はいつものことだけど、瑞希までやるとは……。

 

「姫路に島田か。どうやら勝ったみたいだな」

 

 雄二は落ち着いてるな~。俺もだけど。Fクラスの空気に慣れたのかな。

 

「瑞希は上半身をお願い。ウチはこっちをやるから」

「こ、こうですか?」

 

 慣れない手つきで首を真後ろに捻じっている瑞希と、膝を逆方向に曲げようとしている美波。女の子の嫉妬ってこんなに過激なものだったっけ?

 

「ちょっと待って! 僕は結婚の約束なんて―」

「ひどいですっ! ファーストキスもあげたのにーっ!」

「坂本は包丁を持ってきて。五本あれば足りると思う」

「あのね、美波。包丁って一本でも刺さったら致命傷なんだよ?」

「あー二人とも。それはまずいからやめとこうか」

 

 さすがにここを殺人現場にするのだけは避けたい。

 

「仁……君は僕の味方なんだね!」

「やるなら傷が残らない程度の殴打にしておけ」

「僕の味方はどこにもいなかったよっ!」

 

 俺もお前の味方になったつもりはない。俺は葉月ちゃん側だからな。

 

「あっ! あのぬいぐるみの子か!」

「ぬいぐるみの子じゃないですっ! 葉月ですっ!」

 

 明久が何かを思い出し、葉月ちゃんが可愛らしく頬を膨らませている。反応を見る限り、二人に関係することなのかな。

 

「そっか、葉月ちゃんか。元気だった?」

「はいですっ!」

 

 葉月ちゃんが嬉しそうに明久に近づいていった。この子には天真爛漫という言葉が似合うな。けど葉月ちゃん、誰かに似てるような気がするんだよな~。髪の色とか。

 

「あれ? 二人って知り合いだったの?」

「うん。ちょっといろいろあってね。美波こそ葉月ちゃんのこと知ってるの?」

「知ってるも何も、ウチの妹だもの」

 

 言われてから美波と葉月ちゃんを見比べる。確かにそっくりだ。髪の色もそうだし、目つきなんかもそっくりだ。

 

「ところで、これはどういうことなんだ?」

 

 今まで話に加わっていなかった雄二がここで口を開く。これとはお客さんがいないことについてだろう。

 

「たぶん、外で悪い噂でも流されてるんじゃないか?」

「常夏コンビか。可能性は高いな」

「そういえば葉月。ここに来る途中でいろんな話を聞いたよ?」

 

 常夏コンビはよくわからないが、おそらく雄二に技を掛けられた坊主と連れて行ったモヒカンの人のことだと思う。それより葉月ちゃんの言ったことが気になった。

 

「それはどういう話だ?」

 

 雄二が葉月ちゃんの身長に合わせて屈む。なんか雄二がお兄さんみたいだ。

 

「んーとね……あそこのお店は汚らしいから近寄らない方がいいって」

「えっ!?」

「掃除はしっかりしてるし、綺麗に飾り付けもしたのよ!」

「テーブルを変えてからは、お客からの不満もなかったしのう」

「二人を除いてな」

「どうやら俺の予想は当たったみたいだ」

 

 お客さんがいないのは、常夏コンビが外で召喚喫茶の悪い噂を流しているということが確信に変わった。雄二も俺と一緒でそこに行き着いたみたいだ。

 

「葉月ちゃん。その話はどこで聞いたの?」

「えっと……短いスカートを穿いた綺麗なお姉さんがいっぱいいるお店――」

「「なにっ!!」」

 

 葉月ちゃんが答えようとした途中で明久と雄二が大きく反応した。

 

「雄二! 今すぐに向かわないと!」

「そうだな! 我がFクラスの成功のためにも綿密に調査しないとな!」

 

 そう言うと二人は俺の方を振り向き、

 

「「(もちろん仁も一緒に行くよね(な)?)」」

 

 アイコンタクトを飛ばしてくる。聞かれなくても俺の答えはもう決まっている。

 

「(当たり前だろ)」

 

 男としてこれを逃すわけにはいかない。それに短いスカートということはメイドか何かだろうから、目的地はAクラスのはずだ。召喚大会までの間あそこで時間をつぶすのも悪くないだろう。これは瑞希の転校を阻止するために必要なことなんだ! 決してやましい気持ちはない!

 

「(仁よ。堂々と嘘を吐くでない)」

「(考えを読まないでくれるか、秀吉)」

 

 もしかしたら俺にとって一番の天敵は秀吉かもしれない。

 明久と雄二は先に走って行ってしまったので、俺は追いつくために廊下を全力疾走する。

 

「アキ、最低……」

「吉井君、酷いです……」

「お兄ちゃんのバカ!」

 

 後ろにいる女性陣から不満の声が上がっている。三人とも明久に対して言っているのだろうから俺に被害はないが……。

 

「あいつ……女子三人を敵に回したな……」

 

 葉月ちゃん騒動のときの明久の姿が頭をよぎる。俺は明久の無事を祈りながらAクラスへと向かった。

 




「神崎兄弟の」
「「ほのぼの談義~!!」」
「わるいな、二人とも。前回は任せっきりにして」
「気にしなくていいよ、仁兄!」
「私たちもあとから本当のことを聞いたら、兄さんは部活に貢献していただけだったものね」
「誤解を生むような言い方をするもんな……まあ、それが愛子らしいけど」
「ねえ。そろそろ始めない?」
「お、そうだな。それじゃあ美香。よろしく」
「わかったよ兄さん。今回のゲストは木下優子さんです」
「久しぶりね、二人とも」
「久しぶり! 優子姉!」
「さっそくなんですが、優子さんの趣味は何ですか?」
「趣味は読書ね。本を読んでると気持ちが楽になるのよ」
「あ、仁兄と同じようなこと言ってる!」
「中学の頃に兄さんになんで本ばかり読んでいるのか聞いたら『その間は落ち着くし、自分の世界に入れるから』って言ってたよね」
「お前らも何か読んでみろよ。本を読むことはいいことだぞ」
「そうね。二人は本は読まないの?」
「私は……体を動かす方が好きだから」
「俺はそういう柄じゃないし……」
「嘘つけ。読みたくないだけだろ」
「「うっ……」」
「はあ……読みたくなくても、好きなジャンルはあるだろ?」
「私は恋愛ものとか好きかな。ドラマとか見るし」
「俺はスポーツ系かな」
「よし。そのうち本屋に行ってみるか。お前らが好きそうなやつを探すために」
「「えっ?」」
「それはいいわね。そのときはアタシも行っていいかしら?」
「もちろんだ。趣味の共有も大事だからな」
「いや、あの~」
「それはちょっと……」
「言っておくけど、お前らに拒否権はないからな?」
「そうね。本は大事よ、二人とも」
「「いやぁぁーー!!」」
「さて、二人がいい感じに取り乱したから俺は満足だ」
「でも、どうしてこんなことを?」
「あいつら俺が優子と出かけた日の晩にしつこく尋問してきたからな。そのときの些細な仕返しだ」
「あの二人を見てたらとても些細とは思えないわね……」
「ま、兄として本を読まないのはどうかと思って言ったことでもあるんだがな」
「仁君は本当に家族想いね」
「それほどでも」
「く、空気が甘い……」
「なにか、苦いものを……」
「ブラックコーヒーでいいなら」
「「それは嫌だ」」
「それじゃあ青汁は?」
「「もっと嫌だ!!」」
「仲がいいわね、三人とも。あ、仁君。そろそろ時間よ」
「あいよ。それじゃあ終わるか」
「そうだね」
「読んでくださる全ての人に感謝を込めて……」
「「「またね~!!」」」






「優子。このあと時間あるか?」
「大丈夫だけど、どうして?」
「いや、さっそくこいつらの本を探しに行こうと思ってな」

 ダッ! ガシッ!

「……逃がすと思ったか? 二人とも?」
「「お願い許してーー!!」」
「……仁君が悪人に見えてきたわね」
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