バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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第二十六話

「不戦勝?」

「うん。なんか相手の選手が食中毒になったんだって」

 

 三回戦を辛勝で終えた俺がFクラスへ戻ると、明久からそんな話を聞いた。この暑さで食材がやられていたのだろうか。それとも……まさか、ね? 瑞希の薬品料理はあのときやめさせたから可能性はないはずだ。

 

「康太。瑞希が厨房に入ったことは?」

「……戻ってきてからずっとホールだった。入った形跡もない」

 

 それを聞いてホッとした。この店から食中毒なんか出したら評判が悪くなって売り上げも低下、それによって瑞希の転校の阻止も難しくなってしまう。

 

「……それと明久。写真の指名がきている」

「えっ? 僕に?」

「よかったじゃないか明久。早く行ってこい」

 

 明久は嬉しそうに頷いてから写真スタジオまで小走りで向かっていった。あいつは本当にわかりやすいな。康太もいつの間にかいなくなってるし。

 これといってやることがなくなった俺は店でも手伝おうかと裏方へと向かう。鏡を見て身だしなみを整えていると、今日で何度も聞いた人の声がカウンターから聞こえてくる。

 

『仁君いるかしら?』

『眼鏡のお兄さんですか? ちょっと待っててくださいです』

 

 カウンターの方からトトトと軽快な足音が近づいてきて、音が止まると裏方のカーテンが開かれた。そこに目を向けると誰もいなかった。正確には目線の先にはいなかった。視線を下げるとそこには美波の妹の葉月ちゃんがいた。

 

「眼鏡のお兄さん! メイド服のお姉さんが呼んでるですっ!」

「わかったよ。教えてくれてありがとね、葉月ちゃん」

 

 頭を撫ででやると葉月ちゃんが気持ちよさそうに目を細める。表情が豊かだな。

 葉月ちゃんの頭を撫でながら裏方を出ると、カウンターで待っているメイド――優子がこちらに気づいた。

 

「お待たせ。どうしたんだ?」

「あのね、仁君……」

 

 優子が突然しおらしい態度を取り始める。普段とのギャップもあってか、その姿はとても可愛らしく見えた。

 

「その……よかったら、一緒にお店回らない?」

「ちょっと待ってよ」

 

 俺はその場から逃げるようにして裏方へ飛び込んだ。あんな態度で誘われて冷静でいられなくなったからだ。よし、まずは落ち着け。深呼吸だ。

 三度の深呼吸をしたのち、立てかけられているタイムテーブル表に目を通す。うん、大丈夫だ問題ない。

 カウンターにいる優子のもとへ急いで向かう。あまり待たせるのも良くない。

 

「お待たせ。俺も予定は空いてるから問題ないよ」

「よかった。時間も惜しいし、早く行きましょ」

 

 俺の返事を聞いた優子は笑顔をこぼし、身を翻して先に歩いていく優子の背中を追いかける。このときもFクラス内は殺気に満ちていたが、慣れてきたので無視。もし襲い掛かってきたら返り討ちだ。

 先を歩いていた優子だが、教室を出て少ししたところで待っていてくれた。

 

「なあ優子。どうして俺を誘ってくれたんだ?」

 

 急だったからあまり気にしなかったけど、冷静になってから考えると疑問にとなって胸の内に残ってしまったのだ。今では気になってしょうがない。

 

「それは、その……ほら、二回戦が終わった後に仁君から誘ってくれたでしょ? でもアタシ断っちゃったからそのお詫びというかなんというか……」

 

 徐々に声をしぼめながら理由を話してくれる。つまりは俺のためってことになるのかな。気を遣わなくてもいいのに。

 

「お店のシフトがはいってたんだから、それは仕方がないと思うよ?」

「けどそれだとアタシの気が済まないのよ。だから……」

「まあ、誘ってくれたのは俺も嬉しかったからさ。ありがとね、優子」

 

 笑顔をつくってそう言うと、優子は顔を朱に染めて俯いてしまった。それも見ていた周りの男の人達からは妬みの視線を送られ、女の人達からはひそひそと話し声が聞こえてきた。なんか居心地が悪くなってきたので近くに何かないかを探す。ここは……お化け屋敷か。気分転換に覗いてみるかな。

 

「優子。お化けは大丈夫か?」

「本物じゃないんでしょ? なら、大丈夫よ」

 

 俺が少しニヤついた笑みを浮かべながら言うと、優子は当然といったように肯定してくる。だが、その声は少し震えている。

 了承を得たところでさっそく黒カーテンをくぐると、そこにはフランケンが受付として座っていた。入場前からインパクト大である。

 

「いらっしゃい。二名でいいかな?」

 

 すごくフランクな感じで話しかけてくるフランケン。彼の性格上、こういう人と接することが多い受付は向いているかもしれない。それにしても……

 

「すごいなその顔。本物にしか見えないぞ。特殊メイクか?」

「ご名答。クラスメイトに演劇部の人がいてね。その人がやってくれたんだ」

 

 演劇部ということは秀吉とも知り合いなのかな。メイク技術もここまでとは、この学園の演劇部は本気だな。

 

「ほい。入場料二人分」

「仁君いいわよ。自分の分は自分で出すから」

「いいっていいって。ここは俺の奢りってことで」

 

 二人分の入場料を出そうとして、予想通り優子に止められたが、それを軽い感じで返してフランケン君に渡す。すると後ろで小さく「……ありがと」という優子の声が聞こえた。

 

「毎度あり。それでは最高の恐怖をお楽しみください……」

 

 フランケンの声を合図に誰もいないはずのドアが開かれる。裏側にいるんだろうなと思いすぐに入ったが、そこにも人はいなかった。細部までこだわっていることが見て取れる。

 入場口が勢いよく閉じられ、バンと大きい音をたてられたことで優子の肩が驚きで大きく震える。

 

「それじゃあ進もうか」

「そ、そうね」

 

 ドアをくぐった段階で声が震えている。まだ進んでもいないのに大丈夫だろうか。

 左右には怪しげに茂っている草や木、それに紛れてお墓や地蔵が設置されていて、いかにも出るぞという雰囲気を醸し出している。このセットを作るのにどれだけの時間がかかったのだろうか。

 

「今のところ何も出てこないな……」

「え、ええ」

「大丈夫か? 優子。声が震えてるぞ?」

「こ、こんなの作り物でしょ? そんなの、怖くなんか――」

『うあぁ~……』

『ぐおぉ~……』

 

 声を震わせて強がっている優子が怖くないと言おうとした瞬間、配置されているお墓から複数の呻き声が聞こえてくる。その瞬間ヒッと悲鳴をあげて体を震わせ、俺の腕にしがみついてきた。

 

「はは。やっぱり怖いんだな」

「しょうがないじゃない! こういうのあまり得意じゃないんだから……」

 

 暗闇に慣れてきた俺の目に、涙目で俯いている優子がはっきりと映る。やばい、可愛い。

 ちょっと驚かしてみたい気持ちを抑えて、怖がる優子の頭を優しくあやすように撫でる。

 

「大丈夫だ。俺が近くにいるから」

 

 恋人でもないのにこんなことをしてもいいのかとも思ったが、目の前で泣いている女の子を放ってはおけないのでそこは許してほしい。

 頭を撫でていると、優子はしがみついている腕の力を強め、さらに密着してくる。それによって女の子特有の柔らかい感触が肌に触れて俺の脳を刺激する。

 それと同じタイミングで、お墓の名前が書かれている部分がバタンと倒れ、その中からぞろぞろとゾンビが出てきて、一斉にこちらを向く。そして少しの間睨み合いが続き……ゾンビたちが襲い掛かってきた。

 

『『『うああぁぁ~……』』』

「「ぎゃあぁーー!!」」

 

 俺達は悲鳴をあげて走り出した。それはもう無我夢中で。こんな仕掛けまでしてあるとは、やるなCクラス!

 

『うああぁ~……』

『うら、やま、しい……』

『爆発しろ~……』

 

 迫力ある呻き声が屋敷内に響き渡る。なかにはこの状況を羨ましがっている声もあった。今にも呪い殺されてしまいそうだ。

 ゾンビたちから逃げること数分。曲がり角を見つけた俺は優子の肩を抱くようにして滑り込み、ゾンビの大群をやり過ごす。ゾンビたちがいなくなったのを確認してから俺は溜めていた息を吐き出し、胸に顔を預けてすすり泣いている優子に声をかける。

 

「もう大丈夫だぞ、優子。ゾンビの大群はいなくなった」

「……グスッ……ほんと……?」

 

 ゆっくりと顔を上げる優子の目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。よっぽど怖かったのだろう。そんな表情で至近距離から、しかも上目遣いで俺のことを見てくるため、自然と心臓の鼓動が早くなっていく。

 

「あ、ああ。本当だ。それより、はやくここから出ようか――とその前に」

「えっ?」

 

 優子の後頭部に手を添えて自分の胸に引き寄せた。優子は何が起きたかわからないといった様子の声をあげ、全身を震わせた。俺がこんな行動をとった理由はただひとつ。俺の正面、優子の背後の壁からろくろ首が逆さの状態でぶら下がっていたのだ。ゾンビの大群のインパクトが強すぎてあまり驚かなかったが、今までの反応を見て、優子が見たら気絶してもおかしくないと判断したのだ。

 

「な、なに!? 何があったの!?」

 

 ろくろ首が壁に引っこんでいくのを見届け、狼狽している優子を開放する。心なしか顔が赤くなっている気がする。

 

「いや、優子の後ろにろくろ首がぶら下がってたから、つい……」

「え? それじゃあ仁君、アタシを守ろうと……」

「さて、だいぶ時間も経っちゃってるだろうし、そろそろ出ようか」

 

 さらに顔を真っ赤にして優子が俯いてしまう。優子から発せられた言葉で照れ臭くなった俺は切り替えをするかのようにここを出ようと足を動かす。それに遅れまいと優子がついてきて横に並び、先程と同じように俺の腕にしがみつく。

 このあとにも提灯お化けや山姥、貞子も出てきたが、ゾンビが強すぎたのか――それとも右腕にずっとしがみついていた優子に緊張していたのかわからないが、そんなに驚くことはなかった。優子は出てくる度にしがみつく腕の力を強めていたが。

 やっと見えてきた出口の強く感じる光に目を細め、お化け屋敷を脱出する。出迎えてくれたのは、お客さんを安心させるためか、制服姿のすみれだった。

 

「お疲れ様でしたー! あっ、仁君!」

「頑張ってるな、すみれ」

「えへへ。召喚大会にも負けちゃったから、店を空けちゃった分、自分のクラスの出し物に貢献出来たらなって」

 

 すみれが先程の敗北を感じさせない顔で語りかけてくる。それを笑顔で返すと、召喚大会の時に一緒にいたもう一人がいないことに気づく。

 

「そういえばすみれ。白井さんは?」

「雅美なら今お休みで、清涼祭を楽しんでるよ」

 

 白井さんからの誘いもあってCクラスに来たのだが、その本人がいないとなると感想を言ってあげられない。

 

「雅美が戻ってきたら、次は私のお休みだから、仁君のクラスへ遊びに行こうかな」

「おう、ぜひ来てくれ。Fクラス一同、心よりお待ちしていますので」

 

 すみれのような可愛らしい女の子をFクラスは心から歓迎するだろう。それも行き過ぎるくらいに。

 

「仁君。そろそろ時間よ」

「了解。それじゃあね、すみれ」

「うん! 仁君も頑張って決勝まで勝ち進んでね!」

 

 とても眩しい笑顔で手を振って見送ってくれるすみれに手を振り返し、刻一刻と迫っている召喚大会四回戦へと向かう。道中優子の機嫌が悪かったのはどうしてだろうかと考えながら。

 それよりも作戦だ。相手にもよるが、勝ち上がってきている以上かなりの強者だ。気は抜けない。

 

「仁君。今回はどうやって勝ちにいくの?」

「ここからは相手を見てからじゃないと難しいな。ぶっつけ本番になるけど、うまく合わせてもらえるかな?」

「わかったわ」

 

 ここまでくると作戦なしで勝ち上がることは簡単な事ではない。だから作戦は相手の特徴を見てから考えないと返り討ちにされる可能性が高い。難しいところである。

 悩んでいても仕方ないと独自で判断し、四回戦も隣にいるパートナーと一緒に勝ってみせると意気込みながら、会場へと歩を進めていく。

 




「神崎兄弟の」
「「ほのぼの談義~!!」」
「今回のゲストは久保利光だ」
「よろしくお願いするよ、神崎君」
「おう、よろしくな利光」
「兄さん。この人は?」
「二人にはまだ紹介したことがなかったな」
「トッキ―がなかなか二人との出会いの場面を書いてくれないからね」
「本当なら二人と出会ってからやるつもりだったんだが、それだとこのコーナーが滞ってしまうんだ」
「だから趣向を変えて、ここで二人に紹介しようってことになったんだよ」
「それに今まで出番という出番もなかったし」
「さて、メタ発言もここまでにして、自己紹介よろしく」
「わかったよ。初めまして、二人とも。僕は久保利光。よろしく」
「神崎美香です。中学三年です」
「神崎隼人! 中学二年生です!」
「中学三年生か。美香さん。進路はどこにするのか決まっているのかい?」
「あ、はい。今のところは兄さんと同じ文月学園にしようかと」
「ちょうどいい機会だから受験勉強見てもらえよ。学年次席だからとても頭いいぞ」
「「学年次席!?」」
「まあ、利光が良ければの話だけどな」
「僕で良ければ喜んで教えるよ。どうかな美香さん?」
「はい。よろしくお願いします!」
「よかったじゃないか美香」
「そうだね。こんな機会滅多にないし」
「それじゃあ近いうちに学校で家の住所教えるわ」
「わかったよ。それと神崎君。このあと時間あるかな? ちょっと相談に乗ってほしい事があるんだ」
「ん? 俺で良ければいつでも聞くぞ?」
「助かるよ」
「仁兄。そろそろ時間だよ」
「もうそんな時間か。それじゃあ終わるか。読んでくださる全ての人に感謝を込めて……」
「「またね~!!」」




「それで、利光。相談というのは?」
「ああ、実はね……僕には好きな人がいるんだ」
「マジで!? どんな子なんだ?」
「とても愛らしい人でね。態度、行動、仕草、すべてが愛おしんだ……」
「ほうほう」
「その人を見ると胸が締め付けられるし、他の人と話をしてると嫉妬してしまうんだ」
「それは間違いなく恋だな。その子の名前を聞いても?」
「……吉井君だよ」
「……は?」
「吉井明久君。彼を見るたびに僕の胸は高鳴ってしまう! 彼を思うたびに夜も眠れなくなってしまう! この気持ちをどうしたらいいんだ!? 教えてくれ神崎君」
「……そうだな。当たって砕けろ。これが無難かな……」
「そうか。思い切って言う事も大事ってことか……ありがとう神崎君。相談に乗ってもらって」
「……いや、これくらいどうってことない」
「よし、そうと決まればさっそく今からでも……」
「……頑張れよ」
「ありがとう。それじゃあ、僕はこれで失礼するよ。また学校で会おう、神崎君」










 そのあと、仁の携帯に久保利光が明久にフラれたという連絡がきたのは言うまでもない。
(この話から久保君は同性愛者ではなくなります。byトッキ―)
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