バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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自分の好きな場面で、描いているうちに文章が長くなっていた作者です。
それでは本編をどうぞ!



第二十八話

「はぁ……」

 

 予約していたお客さんを全員捌くとちょうどいい時間となったのでAクラスまで優子を迎えに行き、召喚大会の会場へと足を運んだのだが、その勝負はすぐに決着がついた。なんか拍子抜けである。

 俺はため息を吐き、ボソッと呟く。

 

「不戦勝とかマジで勘弁してくれや……」

 

 そう。準決勝の相手が明久達の時と同じ食中毒で棄権したのだ。対戦相手が来ないのをさすがにおかしいと思った司会役の先生が確認しにいったところ、二人して保健室のベットで唸っていたそうだ。というかこの学園食中毒が頻繁に起きすぎではないだろうか。そして今まで研ぎ澄ませてきた神経と脳細胞を返してほしいと頭の中で一人愚痴る。 

 ちなみに本来なら俺と一緒に歩いているはずの優子は愛子に呼ばれているからと言って先に走っていってしまった。

 

「時間も余っちゃったし、店でも手伝うか……ん?」

 

 これからどうしようか考えていると、こちらに走って向かってくる人物がいた。その人物は目の前で止まると、膝に手を置いて息を切らしていた。

 

「白井さん? どうしたの? そんなに急いで」

「神崎君! すみれ見なかった?」

 

 どうやらすみれを捜していたようだ。さっきCクラスに行った時は出口で出迎えてたし、白井さんが戻ってくれば次は自分の休みだとも言っていたのを思い出す。

 

「白井さんが戻ってきているということは、すみれは今休みだよな? どこかのクラスに遊びに行ってるとか……」

「お客さんの入場数の関係もあってCクラスは一回の休憩は一時間と決まってるの。時間になっても戻ってこないから、捜しに来たんだけど……」

 

 白井さんがCクラスのタイムテーブルを含めて説明してくれる。だが俺にはすみれが時間を守らずに遊んでいるような子には思えない。だが、時間を忘れて学園祭を楽しんでいるという可能性もあるし……。

 考えを巡らせていると、さっきと同じような足音がこちらに向かってきていることに気づく。そちらに目を向けると、今度は康太が膝に手をついていた。

 

「康太までそんなに急いで、どうしたんだ?」

「……大変だ。うちのウエイトレスを含めた女性陣が誘拐された」

 

 康太の口から出た不穏な言葉に息を詰まらせた。隣にいる白井さんも同じような反応を示している。

 

「誘拐された人数は!?」

「……姫路に島田に秀吉……それとFクラスに来ていた霧島、木下、工藤。あとはCクラスの新野。全部で七人」

「っ! すみれも!?」

 

 康太の言った誘拐された人の中にすみれも入っていることを知った白井さんは目に涙を浮かべ、その場で泣き崩れてしまった。だとしたら、あのあと優子は愛子と翔子とAクラスで合流した後、Fクラスへ行ったのだろう。そしてすみれは白井さんが戻ってきてすぐにFクラスへ……。

 

「……場所の特定は出来てるのか?」

「……体育倉庫。明久と雄二には現地で落ち合うように言ってある」

「わかった。俺はFクラスに戻って木刀を持ってくる。あとで向かうよ」

「……その必要はない」

 

 そう言って康太は肩に下げている棒状の筒を取り出して俺に差し出してくる。康太の手にあったのは、俺が護身用として愛用している木刀だった。

 

「準備がいいな。よし、じゃあ行こうか」

「私は先生にこの事を伝えて――」

「……それはやめた方がいい」

 

 白井さんの言ったことを遮って康太が発言する。それに関しては俺も同感である。白井さんは信じられないといった顔で抗議する。

 

「どうして!? このままだとみんなが!」

「わかってる。だけど、これを先生に伝えたら学園の生徒や一般の人が楽しみにしていた学園祭がなくなる。それだけは絶対に避けたい。だから、俺らで助けにいく」

「無茶だよ! 相手が誰なのかもわからないのに!」

「大丈夫。必ず全員助けて、俺も戻ってくるから。じゃあ、いくよ康太!」

 

 康太の顔を見ては同時に頷き、廊下を駆ける。白井さんが後ろで何かを言っていたが、友達を誘拐した奴らへの怒りで聞こえなかった。

 

「そうだ康太。ボイスレコーダーって持ってる?」

 

 走りながら話しかけた俺に康太は無言でポケットから黒い機械を取り出し、差し出した。いつも持っているのだろうかという疑問が頭をよぎったが、それを意識の外へ放り投げる。

 

「サンキューな」

 

 差し出されたそれを受け取り、ポケットにしまう。そして女子たちが囚われている体育倉庫へと向けて全速力で走った。

 

 

 

 

 

 

 全速力で走ったから予想より早く到着した俺達は、明久達が待機している倉庫の扉前の林に身を潜めた。

 

「お待たせ、二人とも」

「……待たせた」

「ホントだよ。このまま来なかったら僕達だけでも突撃するつもりだったのに」

「まったくだ」

 

 明久はいつもの調子で言っているが、拳は爪が食い込むほど握られていて、雄二の声からは誘拐したやつらに対する怒りの感情がにじみ出ていた。

 

「どうやって突撃するの?」

「それは今考えてる。仁は何かあるか?」

「中の状況にもよるな……康太。ちょっと中の様子を見てきてくれないか? 出来ればそこから脱出経路も確保できるかどうかも」

「……わかった」

 

 康太は目に見えない速さで目の前から姿を消した。ときどき、あいつは本当に人間なのだろうかと思う時がある。

 康太を見届けていた雄二が俺の方を向いて質問してくる。

 

「仁。お前の頭に何個の作戦が浮かんでいる?」

「今のところ一つだけ。康太の報告によっては使えなくなるがな」

 

 作戦会議をしていると康太が戻ってきた。全神経を注いで見てきたのだろう。息が少し切れていた。

 

「……中には女子七名、女子の周りに五人、扉前に二人、散らばって座っているのが十三人」

「合計で二十人か……脱出経路は?」

「……裏口がひとつあった。その近くに女子たちがいる」

 

 何かあったときに人質を盾にして逃げやすくするためだろう。裏口のカギも締まっているはずだ。だがこちらには康太がいる。避難経路は問題なさそうだ。

 

「よし、俺の考えた作戦を発表する。役割分担としては俺が陽動、康太が脱出経路の確保、後に救出。明久と雄二は女子付近にいる五人の殲滅と女子の護衛だ」

「無茶だよ、仁! 一人で大人数を引きつけるなんて!」

「それなら俺も陽動として戦った方がいいんじゃないか?」

 

 明久は感情任せに、雄二は冷静な対応で作戦の変更を指摘してくる。それに対して俺は首を横に振って否定する。

 

「Bクラス戦前にFFF団を殲滅させたのは誰だと思っている? それと雄二の方なんだが、この作戦で最優先するのは女子の身の安全だ。脱出を確認し次第、俺も適当に逃げるさ」

「……わかったよ。仁がそう言うなら」

「俺達は仁を信じるぜ」

「……女子は任せろ」

 

 三人の同意に力強く頷くと、三人も頷き返してくれる。なんとも心強い味方を得たものだ。

 

「よし。それじゃあそれぞれの配置へいこうか。俺が敵を引きつけている間、どのタイミングで女子を救出するかは雄二に任せた」

「了解。しくじるなよ?」

「そっちこそ」

 

 そのやりとりを最後に雄二達と別れて単独行動をとり、足音を潜めて表のドアへ向かう。背中に背負っているバットケースから木刀を取り出し、ケースを投げ捨てる。

 目を閉じ、深呼吸を数回する。あくまで冷静に、内側に溜めていたものを徐々に開放していく。自然と木刀を握っている方の腕に力が入る。

 そして、怒りや憎しみが頂点に達したとき。

 俺は目の前の扉を勢いよく開いた。

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「……仁がもう少しで倉庫に入る」

 

 ムッツリーニが仁に取り付けていた盗聴器で状況を説明してくれる。それを聞いた瞬間、僕は体を強張らせた。緊張しているせいか、手は汗でべとべとである。

 

「大丈夫か? 明久。顔が引きつってるぞ?」

「そういう雄二こそ、手が震えてるよ?」

 

 隣にいる悪友とそんなやりとりを交わしながら、相手の様子を窓から覗き見る。康太の言った通り、人質となっている女子が五人の男に囲まれている。

 

『なあ。この子達、ヤっちゃっていいの?』

『それなら俺はこっちの巨乳ちゃんがいいな』

『ずりー! それなら俺二番ね!』

『それじゃあ俺は気の強そうなこの子で』

『じゃあ俺はこっちで!』

「アナタ達! こんなことしていいと思ってるの!?」

「ボク達をここから出して!」

『それは姉ちゃん達の頑張り次第だな』

 

 中から女子達が男達に抗議しているが、どうやら聞く耳を持ってもらえないようだ。

 

「落ち着け明久。気持ちはわかるが、今は我慢しろ」

「……わかってるよ」

 

 雄二が落ち着いた様子で注意してくるが、その手は強く握りしめられていて、小刻みに震えていた。

 

『いいから、ここから出しなさいよ!』

『あーもう! うるさい女だな!』

 

 美波の発言で気分を悪くしたのか、男が声を荒らげて何かを落ちた大きな物音をたてた。それに反応したのか、女子の悲鳴が倉庫内に響いた。

 

「っ!」

「おい明久!」

 

 その瞬間、僕は走り出した。女子達を怖がらせた奴らを、本気でぶっ潰すために。

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 倉庫の扉を勢いよく開けた俺を出迎えてくれたのは二人の見張りらしき人物だった。そいつらは一瞬驚いた顔をするがすぐに調子を取り戻し、睨みを利かせながら近づいてくる。

 

「あん? 誰だこいつ?」

「坂本でも吉井でもないな。だが、これを見られちゃあ黙って帰すわけにはいかねえ、なっ!」

 

 二人が拳を振りかぶり、俺に目がけて突き出してくる。それを冷静に屈んでかわし、右の男に木刀の柄頭を、左の男には拳を鳩尾に叩き込む。

 

「「ぐふぅ!」」

 

 呻き声をあげてうずくまる二人の首筋に手刀を入れて気絶させる。俺はゆっくりと立ち上がり、目の前にいる敵を睨みつける。今の俺から何を感じ取ったのか、全員が一歩後ずさる。

 

「あ、相手は一人なんだ。怯えることはねぇ!」

「そ、そうだ! やっちまえ、お前ら!」

 

 親玉的存在だろう男二人の掛け声で散らばっていた十一人が俺を囲むように迫ってくる。

 

「……優子達をこんな目にあわせた罪は重いぞ」

 

 目の前にいる敵の腹に木刀を振り強打する。それによって一瞬怯んだやつの顔に膝蹴りを入れる。その足をそのまま後ろへと突き出し、後方から拳を振るってきたやつを吹き飛ばす。すぐに突き出した足を引き戻して屈みこみ、低い体勢のままで周りにいる敵の足を木刀で叩きつける。

 

「調子に乗るなよクソガキがあぁ!」

 

 頭上から怒りに満ちた声が耳に響いた。かすかに見えたその手には鉄の棒が握られている。それを俺の頭へと振り下ろそうとしたその瞬間、

 

「詰めが甘い」

 

 ありったけの怒気を込めて言い放つと同時、俺は空いている方の手で木刀の刃の付け根を握り、柄の方を一気に引き抜く。すると、

 

「なっ! こいつ、どこからもう一本出しやがった!?」

 

 木刀の中から少し短めの木刀が姿を現した。

 この木刀の刃の部分は鞘の役割も果たしており、柄の下部分を強く握って引き抜くと、もう一本の木刀が出てくる仕組みになっているのだ。

 振り落とされた鉄の棒を二本の木刀で受け流し、すれ違い様で身体を回転させてがら空きの顔に二本同時の水平切りを叩きこむ。

 

「お邪魔しまーす!」

 

 俺が他のやつを相手をしている最中、女子のいる方向、脱出経路の方から聞こえてきた。振り向くとそこには単独で乗り込んでいる明久の姿があった。これじゃあ俺の陽動していた意味がない!

 

「あのバカ!」

「よそ見してる余裕があるのかよっ!」

 

 声がした方を向くと男が俺の顔目がけてナイフを突き出してきた。顔をずらして避けようとするが間に合わずに頬を掠めていった。切れたところに手を触れると血が付着し、そこから一筋の線が流れていく。

 ナイフの男に木刀を叩きこんでから明久の方を見ると、複数を相手にしていて、がら空きとなっている後頭部が敵の一人に殴られるところだった。

 

「まったく。少しは頭を使えっての!」

 

 そいつを右ストレートで阻止したのが突撃のタイミングを任せた雄二だ。雄二の痛烈な一撃によって相手は他のやつも巻き込んでぶっ飛んでいった。

 それを好機と見たのか、康太がすかさず女子のもとへと縄を解きに向かう。

 

「そうはさせるかよ!」

「……っ!」

 

 秀吉の縄を解いたまではよかったが、仲間の一人に気づかれてしまったために康太の救出作業が中断されてしまう。そしてそいつは人質の一人であるすみれの腕を掴み、引っ張り上げた。

 

「いや! やめて!」

「動くなよ。動けばこいつにひでぇ傷を負わせるぞ?」

 

 そう言って男はポケットからナイフを取り出してすみれの白くて細い首に突き付ける。それに恐怖したすみれの顔は涙で濡れていた。

 

「すみれ!」

 

 俺は目の前の敵を相手にしているし、他の参院も苦戦していて助けにいけそうにない。

 くそっ! どうすることも出来ないのかよ! 目の前で女の子が危険な目にあっているっていうのに!

 俺は何も出来ないまま終わるのか。俺らだけでやろうというのは無謀だったのか。最初から西村先生辺りに頼っていれば、こんなことにはならなかったのかな……そう思うと、自分がとても惨めに感じてしまい、目尻が熱くなってくる。今の自分がたまらなく悔しかった。

 

「……その手を離すのじゃ」

 

 俺が弱気になっていると、鋭く相手を睨みつけている秀吉の姿が目に入った。

 

「ああ? なんだって? よく聞こえないなぁ」

 

 男が余裕の表情で秀吉と向かい合う。だが、その余裕は次の瞬間に一瞬で消し飛ぶことになる。

 

「その手を離すのじゃと、言うておろうがぁ!!」

『『っ!!』』

 

 今までに聞いたことのない秀吉の怒声が倉庫内に響き渡る。それにびっくりした相手は顔を引き攣らせて沈黙した。

 

「秀吉!」

 

 相手が怯んだ隙に秀吉に向かって片方の木刀を放り投げる。カランカランと音をたてながら秀吉の足元に転がっていく。

 

「それを持ってFFF団を殲滅したときの俺を演じろ! 出来なければ明久の召喚獣でもいい! お前なら出来る! そうだろ、演劇部のホープ!」

 

 俺は先程まであった弱気を払うように秀吉に問いかけた。あいつなら出来るはずだ。いや、絶対出来る。俺の剣技を間近で見ていたのは、木下秀吉という男ただ一人なのだから。

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 まったく。仁も無茶な事を言ってくれるのう。

 今も遠くで戦っている仁の我流の剣技を、たった一度しか見ていないのに演じろというのだ。これを無茶と言わずに何といえばいい。

 だが、なぜじゃろうか。今の儂なら出来る気がするのじゃ。

 仁の言葉には不思議な力がある。その言葉には、無理そうなことでも出来るんじゃないかと思わせる魅力が感じられる。

 わしは足元に落ちている木刀を拾い上げ、目を閉じる。頭の中で、仁がFFF団相手に無傷で勝利した日のことを思い出す。あのときの仁は勇猛果敢で、それでいて華麗な剣さばきで敵を一掃した。蝶のように舞い、蜂のように刺す。この言葉ほど似合うものはないだろう。

 そして静かに目を開け、目の前の相手を見据える。それを見た相手は顔を歪め、一歩後ずさる。仁が敵を睨みつけたときと同じように。

 鋭く息を吸い込み、右足を引き、姿勢を低く構える。

 

「……いざ参らん!」

 

 右足に力を入れて瞬発的に地面を蹴り、わしは敵の懐に潜り込んだ。

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「はは、すげぇな……」

 

 俺は驚きを隠せず、戦いの最中に乾いた笑みを浮かべていた。それもそうだ。秀吉が低く構えたと思えば、一瞬で敵の懐に潜り込んで木刀を振るったのだ。それだけではない。今の秀吉からはとてつもない気迫を感じる。

 

「俺も負けてられないな……!」

 

 秀吉の活躍に後押しされ、自然と気合が入る。残りも少なくなってきたし、ラストスパートをかける。

 

「明久! 仁の方にいくぞ!」

「了解!」

 

 雄二達の方は終わったらしく、こっちに来てくれる。康太は秀吉と一緒に再び女子の救援に向かう。

 

「二人とも、まだいけるよな?」

「当たり前だろ」

「僕達を誰だと思ってるのさ?」

 

 背中合わせになっている二人の余裕の返事に顔を綻ばせる。そしてまだ立ち上がる敵を睨みつける。

 

「俺の背中、お前らに預けた!」

「「おうよ!」」

 

 三人同時に地面を蹴り、目の前の敵を同じタイミングで吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふう。さすがにもう立てないだろう」

 

 辺りには男達が気絶している。ようやく敵の殲滅が完了したのだ。ほっと息を吐いた瞬間、疲労感が押し寄せてきて、木刀を地面に突き立ててその場に座り込む。背後にいる二人の方を見てみると、腕や顔にあざを残し、その場に倒れて呼吸を乱していた。服の中にだが、俺の身体にもあざが残っていることだろう。

 

「疲れた……」

「まったくだ……」

「お主らはすごいのう。あの人数を相手にしたのじゃから」

「……お疲れ」

「そういう、二人も、な」

 

 呼吸が追い付かず、みんなとの会話も成り立たない。俺は倒れているもう一人の方に視線を移し、途切れ途切れに言葉を投げる。

 

「明久、お前……なんであのタイミングで、単独行動なんてやった?」

 

 今こうして無事に終わったからあまり深くは追及しないが、それによって最悪の事態が起きる可能性もなくはないのだ。俺は明久の真意を知りたい。

 

「あの男達が何かを叩きつけたような音がして、そのあとに女子の悲鳴が聞こえてきたから、いてもたってもいられなくなって……」

 

 明久が申し訳なさそうに理由を話す。明久の気持ちは痛いほど理解できる。すぐ近くで誰かが酷い目にあっているというのに、それをおとなしく見ているなんてこいつはもちろん、俺にもできない。

 

「お前らしいといえばお前らしいか……」

「ただ単にバカなだけじゃないか?」

「どうやらここで決着をつけた方がいいようだね、雄二?」

「上等だ! 受けて立ってやるぜ!」

 

 息を切らしながらも立ち上がって喧嘩腰の二人を見て思わず笑ってしまう。どこからそんな力が出てくるんだよ。

 笑っている俺の腹部に突如鈍い衝撃が訪れる。視線を送るとそこには俺の胸に顔をうずめている優子がいた。雄二には翔子が、康太には愛子が、秀吉にはすみれが、葉月ちゃんが美波に飛びついていて、同じような状況が出来上がっている。

 

「吉井君!」

 

 そして明久の方には瑞希が駆け寄っていく。それを両手を広げて待ち構えていると、

 

「吉井! ヤスオをよくも!」

 

 男の拳が飛んできた。明久は千載一遇のチャンスを逃したとでも言いたそうに相手を睨みつけ、血の涙を流している。

 

「明久! そいつを捕まえといてくれ!」

 

 俺は康太にアイコンタクトを送り、明久に向かって拘束用の縄を投げさせる。それを受け取った明久はすぐに男に巻き付けた。

 

「そいつにはあとで俺から個人的な話があるから、棒かなんかで固定しといて。転がって逃げられたらたまったもんじゃないからな」

 

 言われたとおりに明久が赤と白の棒を縄に固定した。これであいつはどうあがいても逃げられない。

 

「さて、このあとは翔子達をそれぞれのクラスに送りにいって、それから自分の店に戻るわけだが、お前はどうする?」

「俺はお前らと違ってそんなに体力がないからまだ動けそうにないや。それに今はこの状況だしな。それと雄二。頼みがあるんだが……」

「わかってる。しばらく動けそうにないから店の方は任せたって言いたいんだろ?」

「頭の回転が速くて助かる」

 

 そんなやりとりをしながら、目線をいまだに顔をうずめている優子の方に落とす。雄二はそれを見て何を思ったのか、少しニヤついた笑みを浮かべてその場を去っていった。

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「……雄二。怖かった」

「わかったからあまりくっつくな」

 

 いまだに腕にくっついている翔子に注意をしてみるが、離れようとはしなかった。他のみんなは先に行ってしまい、俺と翔子は二人並んで歩いていた。

 

「……でも、来てくれるって信じてた」

「お礼なら俺だけにじゃなくてあいつらにも言え。今回は間違いなく仁がMVPだ」

 

 今回俺は女子の救出だけで敵の殲滅は仁がほとんどやったことだ。だから女子を無事に救出できた。それに、あのとき仁が言った言葉で、俺は自分に少しだけ素直になれた。

 

『雄二はたぶん、あんまり人に相談とかしないで、一人で何でも抱えるでしょ。それはダメだよ。人間、一人じゃいつか潰れるから。雄二はもっとまわりを使って、自分の負担を減らさなきゃ。それくらいしても、罰は当たらないよ?』

 

 だから俺はあのとき自分の背中をあいつらに任せた。仁と明久の二人に。そのときの安心感は、今までに感じたことのなかったもので、とても変な感じだった。

 だが、わるくないと思った。これは俺の素直な気持ちである。

 

「……ふふっ」

「どうした。いきなり笑ったりして」

「……だって、雄二が嬉しそうに笑ってる」

 

 翔子にそう言われて自分の顔に手を持っていく。確かに頬の筋肉が緩んでいる。

 

「ほら、早くいくぞ」

 

 俺は照れ臭くなり、歩くスピードを速くする。それに文句を言わずについてくる幼馴染を横目に見ながら一人決意する。

 次はこんなことにならないよう、俺がこいつを守ってみせると。

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 倉庫に残された俺と優子は先程の状態のまま動いていなかった。優子はそのまま動こうとせず、俺は抜ける気配のない疲労によって動けずにいた。

 

「……怖かった。仁君達が来てくれなかったら、アタシ達は何をされていたか……」

 

 俺の胸に顔をうずめたまま発した声はとても小さく、身体も震えていた。怖い思いをさせたことを申し訳なく思う。

 俺は優子の頭に手を持っていき、優しく撫でた。

 

「ごめんな……。怖い思いさせちゃって」

「……いいの。こうして仁君が助けに来てくれたから……」

 

 優子が胸元で服を掴む手に力を込める。本当ならここからすぐに出るのだが、俺にはまだやることがある。

 

「優子。一度離れてくれるかな? このままだと動けないから」

 

 優しく諭すと優子は素直に従って立ち上がる。それに続いて俺も疲れている身体に鞭を打って立ち上がる。するとすぐに優子が腕にしがみついてくる。まあいいかと思いながら俺は先程明久によって縄で拘束された男のもとへ向かう。相変わらず男は脱出しようともがいていた。

 

「優子。今から話すことは聞かなかったことにしてほしい。これ以上、みんなを危険な目にあわすわけにはいかない」

 

 顔は腕にうずめたまま袖を強く引っ張る。まるでそれを引き留めるかのように。だがその力はすぐに緩み、コクッと頷いてくれた。俺はそれに頭を撫でて返すと、目の前の男に向き直る。

 ポケットに手を突っ込み、ボイスレコーダーのボタンに指を這わせる。

 

「さて、洗いざらい吐いてもらおうか。誰がこんなことをさせたのか。そしてお前らがこんなことをした理由を。あと、こっちには被害者と目撃者がいるんだ。やろうと思えばすぐに警察に突き出すことも可能だ」

 

 俺の言ったことに男の表情が青ざめていく。

 

「素直に協力してくれれば、俺はこれ以上アンタを咎めるつもりはない。だが断られたときは……どうしようかな?」

「わ、わかった! 話す! 全部話すから!」

 

 普段はしない脅迫まがいな事をしてみると、男は焦った表情で肯定してきた。その反応に思わずニヤついてしまう。

 

「それじゃあ、今から俺がする質問に答えてくれ。そんなに時間はとらせない」

 

 男から情報を入手するため、そして事件の黒幕を確実に仕留めるため、ボイスレコーダーのスイッチを入れた。

 




作者が力尽きたため、『神崎兄弟のほのぼの談義』はお休みします。
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