バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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第二十九話

 倉庫で男を尋問し、証拠となる音声を取り終わった俺は優子を連れて、さっきまでの賑わいが嘘のように静まりかえっている廊下を歩いてAクラスへ行き、それぞれの着替えを済ませた。倉庫の入り口近くにビニールに包まれた二人の制服が置かれているのを見たときは苦笑いしか出てこなかった。

 優子が荷物をまとめるのを待ってから、自分の荷物を取りに行くのを理由に一度Fクラスへと戻ることにした。だがこれには、このまま別れてなにも起こらないとは限らないという理由も含まれている。

 Fクラスのドアを開けると、先程まで一緒にいた女子を含める明久達と頭を下げている学園長の姿が飛び込んできた。他のFクラス生徒は先に帰ったらしい。

 

「学園長。全部話したんですか?」

「神崎か。いや、今から話そうと思っていたところさ」

 

 公言しないでほしいと前置きして、学園長は俺と話したことをすべて明かした。目的はチケットではなく腕輪の方だったこと。その欠陥の内容。なぜ明久達にこのような要求をしたのかを順を追って種明かししていく。

 

「なるほど。点数が高すぎると暴走するから、『優勝する確率の高い低得点者』の方が都合がいい」

「デモンストレーションで暴走なんてされたら堪ったもんじゃないからな」

「そういうことさね」

 

 俺と雄二のセリフに学園長が肯定の意を示す。傍らでは明久が何かを思いついたような顔をしている。

 

「でもさ、決勝に残ってるのって……」

「俺と明久。それに仁と木下姉のペアだ」

「だったら問題なく回収できるんじゃ……」

「それは難しいな。俺ならともかく、優子の点数で暴走しないわけがない。それに予定となっているデモンストレーションが急に無くなれば、観客だけじゃなく、スポンサーとかも不自然に思うだろう。それとな二人とも――」

 

 俺は決勝相手の二人を交互に睨みつけ、気合を込めて言い放つ。

 

「事情を知っているからわざと負ける、なんてことはしないからな?」

 

 俺の放った言葉に学園長が驚きの表情を浮かべる。他のみんなも俺らが優勝すれば暴走が観衆の目に晒されるというのをさっき自分で言ったばかりなのにと言いたげな顔で見ている。だが目の前にいるこの二人は違った。

 

「当たり前だろ? そんなことされて勝っても嬉しくねぇよ」

「だよね。決勝なんだもの。全力で戦いたいよね」

「そうこなくっちゃ」

 

 まるでこの展開を予想していたかのように――自ら望んでいたかのように睨み返してくる明久と雄二。俺と同じで、やるなら全力でやる。明日が待ち遠しくなって、決勝戦の相手である二人に向かって笑みを浮かべる。

 

「はぁ……お互いに言う事を聞きそうにないね。わかったよ。責任はアタシが持つから、明日は後悔しないように戦いな」

「「「はいっ!」」」

 

 目の前で明久と雄二が嬉々とした表情を浮かべている。おそらく俺も同じ表情をしているだろう。学園長の了承も得たことだし、これで心置きなくこいつらと戦える。

 

「さて、話はこれで終わりだ。女子は念のため男子が家まで送ろう。家の方向的に明久が姫路と島田、俺が翔子、仁が木下姉妹、ムッツリーニが工藤、新野は……家どこなんだ?」

「雄二にまで言われてはいけないことを言われた気がするのじゃが……」

「気のせいだとは言わないけど気にするな」

「そうだよ。木下君は木下君なんだからさ」

 

 秀吉が肩を落としているところに俺とすみれが慰める。雄二の場合は本音なのか冗談なのかわからない時があるからな。今回は冗談みたいだけど。

 

「私の家はここからそんなに遠くないよ」

「なら、すみれは秀吉にお願いしよう。何かあったときのために俺の木刀を貸すからさ」

「何言ってるのさ仁! 女の子にそんなことさせるなんて!」

「明久よ。何度も言っておるがワシは男じゃ!」

「お前はさっき倉庫で何を見ていたんだ? 秀吉は不良相手に勇猛果敢に戦ってたじゃねぇか。だから大丈夫だ」

「それじゃあ……お願いしてもいいかな? 木下君」

「承知した。任せておくのじゃ」

「そういうことで、ほい、木刀」

 

 短い方を差し出し、秀吉がそれを受け取る。感触を確かめるようにブンと縦振りしてから鞄に差し込んだ。ケースが一つしかないので今回は我慢してもらおう。

 

「もう遅いし、俺達は帰るわ。いくぞ、翔子」

「……うん」

「……いくぞ、工藤愛子」

「待ってよ~ムッツリーニ君。それじゃあね、みんな! また明日!」

「新野よ。ワシらも行くとするかの」

「うん!」

「僕達も帰ろっか」

「そうね」

「それでは仁君、木下さん。召喚大会、頑張ってくださいね」

 

 雄二に続くように他のみんなも談笑を交えながら出ていく。これで教室には俺と優子と学園長のみとなった。

 

「さて、アンタ達もさっさと帰るさね。下校時間になるよ」

「その前にいいですか? 学園長。今回の件について話があります」

 

 今回の件で話の内容を察したのか、学園長の顔が険しくなる。だが優子を一瞥しては微かに首を動かし、退場させるように促す。俺は首肯し、後ろにいる優子の方へ首だけを動かし、肩ごしに告げる。

 

「わるいけど優子、教室の外で待っててくれるか? 学園長も俺に話があるらしい」

「なるべく早く済ませてよね」

「善処するよ」

 

 少し申し訳ないと思いながら、教室を出ていく優子を見届ける。ドアが締められたのを視界に納め、学園長に向き直る。

 

「お前としたことが珍しいね。無関係の人間がいる中で話をしようとするなんて」

「ちょっといろいろありまして……優子にはこの事件の真相が伝わってしまいました」

 

 その事実に学園長は驚きを隠せないようだが、深くは追及してこなかった。なぜそうなってしまったのかは言わない。というか言えない。俺からしたわけではないとはわかっていても、生涯体験できない事をしていたのではないかと思う。

 

「優子には聞かなかったことにしてもらっていますが、内心どう思っているか……」

「そこはアンタがフォローしておきな。それで、なにかわかったかい?」

「それに関してはこれを……」

 

 ポケットから康太に借りたままのボイスレコーダーを取り出して再生する。中身はもちろん不良の男から聞き出した情報である。

 

「……他の学校にも顔を出しているという話もあるから、この証言に偽りはなさそうだね」

「間近で話を聞いていても、嘘をついているようには見えませんでした」

「本当だったら学校で対処しないといけないんだろうけど……残念ながらこっちからは下手に手は出せないんだよ」

「それに関しては俺が何とかします。ここまで知ってしまった以上、最後まで協力させてください」

「……部活の件といい今回の件といい、アンタには面倒をかけるね」

 

 申し訳なさそうな表情で学園長が頭を下げてくる。一瞬この行動にどうやって返していいかわからなくなるが、目をギュッと瞑ってから再度学園長に視線を向ける。

 

「俺だってこの学園がなくなるのは嫌ですもん。だから全力で阻止します」

「今回の件は全部アンタに任せるさね。こっちからも出来るだけのサポートをしようじゃないか」

 

 学園の存亡は俺の手にかかっている。これほど緊張する展開が予想できるだろうか。だが、学園長は可能な限りの支援をしてくれると言ってくれた。周りからのサポートがある。これがあるのとないのでは心の余裕が違う。

 

「この話は終わりさね。早く木下のところに行ってやりな」

「そうですね。貴重な時間ありがとうございます」

 

 教室を出ようとしている学園長の背中に礼をして見届けた後、ミカン箱で出来たテーブルの上に置いてある鞄を肩にかけて教室を出る。窓から外を眺めていた優子を見つけ、近づいていく。

 

「わるい。待たせたな」

「ふぇ!? だ、大丈夫よ!」

 

 後ろから声をかけたせいか優子が肩をビクつかせてからこちらに振り向く。なんか悪い事をしてしまった気分だ。

 優子の呼吸が整うのを待ってから玄関を出て帰路へ着く。しばらく無言の時間が続くが、優子がそれを打ち破った。

 

「……ねぇ仁君」

「どうした?」

「危険な事はしないでしょうね?」

 

 心配してくれているその言葉に俺は無言にならざるを得なかった。それだけはどうすることも出来ない故、避けられない道だったから。しかも優子は倉庫での話を聞いているため、こうなることはある程度予想していたのかもしれない。

 

「……」

「仁君達が助けに来てくれたとき、アタシすごく嬉しかった。他のみんなもそう思っている。でもそれ以上に、危険なことはしてほしくない」

 

 隣で自分の意見を淡々と話されるたび、心臓が締め付けられるような錯覚が襲う。ついには優子の顔を見ることが出来なくなって視線を逸らしてしまう。

 そんなことはお構いなしと言いたげに、優子は構わず続ける。

 

「仁君には普通に清涼祭を楽しんでもらいたいし、アタシも仁君と楽しみたい。だからね……」

 

 優子はためらうように俯き、なにかを決心したかのように頷いてからタタッと駆け出し、俺の目の前に立ち止まって正面に向き直る。まじまじと見つめられて目を逸らしたくなるが、ここは聞かなければならないと思いとどまる。

 

「一度引き受けたものは、きっちり解決してきなさい」

 

 かすかな微笑みを浮かべ、すぐ空気に溶け消えそうなほど優しい声色で告げたその言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

 普通の人なら命にかかわるようなことは阻止する。それが家族や友達だったら尚更だ。

 だが優子は引き受けたことに責任を持てと。危険な事だろうと、引き受けたからには最後まできっちり終わらせてこいと。そう言っているのだ。少なくとも俺にはそう聞こえた。

 

「送ってくれてありがと。明日の召喚大会決勝、絶対勝ちましょうね」

 

 軽快な足取りで一軒家に走っていく優子をただただ黙って見ていることしか出来なかった。それどころか立ち止まったところが優子の家だということにすら気づいていなかった。

 バタンと扉が締められる音に同調して自分の家へと足を動かす。距離は近いはずなのに、そこまでの道のりが遠く感じた。

 

「……ありがとう優子。必ず解決してくるから。そしたら、俺は……」

 

 引き留めるどころか背中を押してくれた優子に感謝の気持ちを、そして自分の中にある決意を抱きながら、静かに玄関のドアを開けた。

 




「神崎兄弟の」
「ほのぼの談義~!!」
「前回は作者が力尽きたからってこのコーナーやらなかったけど……」
「その間すごく暇だったよね」
「それに関してはトッキ―から伝言を預かっている。『それに関しては申し訳ございませんでした』だそうだ」
「まあ……私達もお休み貰っていたわけだしね……」
「これでおあいこってここで」
「それじゃあさっそく始めようか。今回のゲストは白井さんだ」
「白井雅美です。よろしくお願いします……」
「妹の神崎美香です。今日はよろしくお願いします」
「その弟の神崎隼人です!」
「そんなに緊張することはないよ白井さん。ここは題名通りほのぼのと談義するコーナーだからさ」
「う、うん。大丈夫だよ神崎君」
「ところで、兄さんと白井さんはどういう経緯で知り合ったの?」
「中学の頃、玄関で探し物をしていた白井さんに俺が声をかけたんだ」
「神崎君が捜してくれるって言ってくれたときは嬉しかったな」
「無事に見つかって本当によかったよ。穏便にはいかなかったけどな」
「? なにかあったの?」
「それは……」
「同級生だった俺達二人だけの秘密ってことで」
「「えぇ~っ」」
「ふふふっ。ごめんね二人とも。そういうことだから」
「人には言えることと言えないことがあるんだよ」
「ううっ……しょうがないか」
「こうなったら絶対に聞けないからね……仁兄。そろそろ時間」
「あいよ。それじゃあ今回は終わりだな」
「うん」
「読んでくださる全ての人に感謝を込めて……」
「「「またね~!!」」」










「……ふぅ。今回も逃げ切れた」
「お疲れ様、神崎君。はいこれ飲み物」
「お、ありがと。……うん、美味い」
「……あの子達には話してないんだね」
「美香と隼人には心配かけたくなかったからな」
「神崎君。他にもあの子達に隠してることがあるんじゃないの?」
「……」
「全部を吐き出せとは言わないけど、自分が苦しくなった時には素直になってもいいんじゃない? 友達には言えなくても兄妹には言えるってことあるでしょ?」
「確かにそうだが……それでも俺はあいつらに余計な負担をかけるわけには――」
「それで自分が追い詰められたら元も子もないよ! 神崎君はただでさえ一人で抱え込むことが多いんだから!」
「……俺のことよくわかってるじゃん」
「伊達に近くで過ごしていないよ。何かあったなら私も聞くから、遠慮したらダメだよ?」
「ありがと、白井さん。今度からは気を付けるよ」
「いいよいいよ。大好きな神崎君のためだもの……」
「ん? 最後の方が聞こえなかったんだけど」
「な、何でもないよ! それじゃあね神崎君!」


 タタタッ……






「……なんだったんだ?」
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