バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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ちょっと早めの投稿です


第三十一話

「さすがに決勝ともなると緊張してくるわね……」

「だな……」

「大丈夫だよ。兄さんと優子さんなら絶対勝てるから!」

 

 俺達は現在会場前にいる。いよいよ召喚大会決勝が行われようとしているのだ。扉越しからはざわめきが聞こえてきて、それがさらに緊張を煽る。

 ここにいるのは出場する俺と優子、それと美香の三人だ。隼人は喫茶店で俺にひと言コメントを残してはすぐに明久達の方へと行ってしまった。気持ちは分からなくもないが、そこは兄弟である俺のところに来るのが普通なのではないかと心の中で愚痴る。

 

「しかし、まさか決勝戦の相手があの二人だとは思わなかったわ」

「明久と雄二は誰よりも息ぴったりだからな。普段はあんなだけど」

 

 かという俺はあいつらが勝ち上がってくることは確信していた。

雄二は言わずもがな、明久は学園長に言われた件と瑞希の転校阻止のこともあってやる気に満ちている。今回眠そうだったのも遅くまで勉強してきたからだろう。それも雄二に付き合ってもらって。

 それをわかっている俺は何もしていないわけじゃない。決勝戦の科目である日本史の勉強を昨日と今日の空いている時間にやっていたのだ。腕輪が使えるようにまではなっていなくても、テストの出来はいつもより良かった自信がある。パートナーである優子は全教科バランスよく取ることが出来るので心配する必要がない。

 

『お待たせしました。ただいまより召喚大会決勝戦を始めたいと思います』

「始まったみたいだな」

「そうね。気を引き締めていきましょ」

『見事決勝までコマを進めた二つのペアに入場してもらいましょう!』

 

 熱の入った司会の声に合わせて歓声が巻き起こる。身体が強張り、胸が締め付けられるような緊張感に襲われる。

 

『まずは赤コーナー! 最上位と最下位の異種コンビ。立ちはだかる敵を数多の姿で迎え撃つ男子生徒と、その背中を西洋武具で守る女子生徒。二人の乱舞をご覧あれ! Aクラス木下優子・Fクラス神崎仁ペア!』

「よし。いこうか、優子」

「ええ!」

 

 司会の紹介が終わり、それに合わせて会場入りする。俺たちの姿が確認できたのか、会場全体が湧き上がった。鼓膜を刺激するほどの歓声に不覚にも驚いてしまった。

 

『対する青コーナーも同じく二年生! 姦計を巡らし、上位クラスに臆することなく勝ち上がってきた最下級クラス。下剋上達成なるか! Fクラス吉井明久・坂本雄二ペア!』

 

 同じように紹介された決勝相手の明久と雄二も入場してくる。またも歓声が沸き起こり、会場全体を震わせた。

 

『司会は私、放送部に所属している二年Cクラスの新野すみれと』

『学年主任の高橋でお送りします』

 

 どこかで聞いたことがある声だと思ったら、すみれが司会者として会場を盛り上げていた。こちらの視線に気づいたのか、すみれがマイクを片手に立ち上がって手を振ってきたので笑顔で振り返した。すると満足した顔で着席した。

 

『いや~それにしても決勝に残っているペアの中の三人がFクラスとは予想外でしたね~』

『今後はFクラスへの認識を改める必要がありますね』

 

 司会者席では非常に嬉しい事を言ってくれていた。これなら見に来ているはずの瑞希の父さんにも良い印象を与えることが出来る。

 司会者同士のフリートークが行われている中、観客には聞こえない程度の小声で、目の前で仁王立ちしている雄二達が話しかけてくる。

 

「どうした仁。いつも冷静なお前が緊張してるなんて」

「俺だって人間だ。緊張くらいするさ」

「この観客の人数だもの。しょうがないわよ」

「だよね。僕も緊張しっぱなしだもん」

 

 会話を交わしているこの間にも俺は作戦を考えていた。こいつらだったら操作能力が高い明久を俺が相手し、点数が互角と思われる雄二を優子に任せるか、それとも明久を引きつけてもらってその間に俺が雄二を始末するか。確実に勝てる算段がつかない以上博打打ちになるが、何とかやるしかないだろう。さて、どうしたものか……。

 俺が唸っていると、左手に柔らかい感触が生まれた。とても滑らかな肌触りで、か細い指が自分の手を確かな暖かさで包んでくれて、不思議と力が抜けていく。そこに目を向けると、優子が右手を俺の手をギュッと握っていた。

 

「……仁君はいついかなる時も、その頭脳でアタシを勝利へと導いてくれた。アタシは仁君を信じる。例えそれが負けって結果になっても責めたりしない。するわけがない。だから、仁君の思うがままに指示を出して。アタシもそれに合わせるから」

 

 手に残っている感触と同じく、柔らかい微笑みを浮かべながら語りかけてくる優子の表情を見ていると、早くなっていた鼓動が収まっていくのが分かった。強張っていた頬の筋肉も緩くなり、自然な笑みを浮かべることが出来るようになった。

 

「ありがとよ優子。だいぶ楽になった」

「アタシ達パートナーでしょ? これくらい当然よ」

 

 頼りになるパートナーを横目に見てから、対戦相手に向き直る。二人はただ不敵な笑みを浮かべて俺達を見つめていた。それに対して落ち着いた調子で返す。

 

『それではさっそく召喚してもらいましょう!』

『教科は日本史です。召喚を開始してください』

「「「「試獣召喚!!」」」」

 

 日本史

 Fクラス 吉井明久  166点

 Fクラス 坂本雄二  215点

          VS

 Aクラス 木下優子  362点

 Fクラス 神崎仁   193点

 

 会場ディスプレイには四人の顔写真、横には点数が表示され、高橋先生が展開したフィールドにはお馴染みの召喚獣が姿を現す。その瞬間を目にした観客席からは大歓声が上がり、会場を震わせた。

 

「なに、あの点数。Cクラス上位……坂本君なんてAクラスレベルじゃない!」

「眠そうな二人を見たときから予想はしていたが、ここまで上げてくるとはな」

「そういう仁だって、かなりの点数じゃないか」

「ああ。最初の点数とは大違いだ」

 

 明久の点数は普段だったら考えられない点数になっていたが、雄二の方は過去に神童と呼ばれるほどの頭脳の持ち主だ。少しずつだが、確実に点数を上げてきている。それに相手は俺と同じ、召喚獣の操作に慣れているFクラスのメンバーだ。これまでとは段違いに強い。

 

「先手必勝! いくぜ明久!」

「おっけー!」

 

 黒い改造学ランに木刀を持った明久の召喚獣と、白い改造学ランにメリケンサックの雄二が俺に向かって突撃してきた。集中攻撃で一気に終わらせる算段だろうか。

 背中の剣を引き抜き、腰を沈めた状態で迎撃態勢をとってから召喚獣を走らせる。俺の狙いはもちろん明久だ。

 

「優子は雄二を頼む! 点数は互角だと思って戦ってくれ!」

 

 優子は俺の目をしっかり見てから頷き、俺に迫っている雄二の召喚獣の攻撃を受け止めた。あっちは優子に任せて、俺は長けた操作能力を持つ明久に集中する。

 

「僕の相手は仁か。これは面白くなりそうだ」

「観察処分者だからって手加減するつもりはないからな!」

「もちろん! 全力でかかってきなよ!」

 

 そんな会話を交わしながらも俺と明久の召喚獣は激しい攻防を繰り広げていた。それを見てか会場全体から感嘆の声が絶え間なく流れてきた。

 木刀が振られたところに片方の剣を構えて受け止め、もう片方の剣を薙ぎ払う。それを明久は予想していたかのように屈んで避け、懐に潜り込んですぐに頭突きをかましてくる。まともにくらった俺の召喚獣が後方へ飛ばされてしまった。

 

「さすが観察処分者。一筋縄にはいかないな」

「そりゃどうもっと!」

 

 素早い動きで距離を詰めてくる明久の召喚獣に対して俺は召喚獣をゆらりと構えさせた。身体全体の力が脱力したような様子で攻撃を待ち構える。最小限のモーションで木刀が繰り出される瞬間、

 

「そこっ!」

 

 剣に緑のライトエフェクトを纏わせ、左足を軸に回転して右の剣から斬り払い、間髪入れずに左でも斬り払う。二刀流スキル『エンド・リボルバー』だ。

 最初の斬り払いを右にステップして避けた明久だが、二連撃は予想できなかったのか遠くで驚いた顔をしていた。斬り払われた剣はそのまま明久の召喚獣の腹部を深く斬り裂いた。

 

「まだまだぁぁ!」

 

 技の硬直を最小限に抑え、次のスキルを発動させる。剣のエフェクトを緑から深紅に変えて連続突きを放ち、順番に左右に斬り払ってから最後同時に薙ぎ払う。同じく二刀流スキル『クリムゾン・スプラッシュ』で明久の召喚獣を吹き飛ばした。

 

「……っ!」

 

 明久が苦痛の表情を浮かべて倒れそうになる。無理もない。召喚獣が受けた剣戟のダメージをフィードバックとして自分の身に受けているのだ。ショックで気絶してもおかしくない。胸の内で心配になりながらその光景を見ていると、

 

「明久! てめぇ根性見せろやぁぁ!!」

 

 雄二の激が会場全体に響き渡り、一瞬の沈黙が辺りを包む。その沈黙の間にダンと地面を踏みしめる音が聞こえてきた。気絶寸前だった明久は堪えることが出来たようだ。

 それを見た雄二が真面目な顔をして明久に何かを話しているのを見て、俺は独り言のようにポツリと呟いた。

 

「良いコンビだな。あいつら」

「そうね。ちょっと羨ましいわ」

 

 隣で腕組みをしている優子が微笑ましいものを見ているかのような表情で目の前の光景を見据えながら言葉を発する。俺も短い間眺めた後、あることを決意して優子の方へ身体を向けた。

 

「……なあ優子」

「なに?」

「清涼祭が終わった後、打ち上げがあるだろ? そのときに話したいことがある」

 

 今の今まで正面を見ていた優子が驚いた顔でこちらに振り向いた。それを少し不安を感じながら返事を待っていると、優子が何かを考えた後、決意したように頷いてこちらに向き直る。

 

「……アタシも、仁君に話したいことがあるの。アタシのも聞いてくれる?」

「もちろんだ。だが、その前にやらなきゃない事があるから、それまで噴水前のベンチで待っててくれるか?」

「ええ。いつまでも待ってるわ」

 

 お互いにある事の決意表明をし、二人で微笑み合う。この瞬間、俺は彼女との時間が特別なものへと変化していった。正確には一緒に下校したあの日から……。

 

「さて、お互いの目的のために……」

「目の前のことを終わらせましょ」

 

 もう一度互いに頷き合ってから召喚獣を走らせる。明久と雄二の方もそれに応えるように迫ってきた。狙いはさっきと同じである。

 俺は明久が迫ってきたのと同時、右の剣を引き絞り、左の剣を突き出した。二刀流最上位スキル『ジ・イクリプス』の予備動作だ。予感を感じ取ったのか、明久が戻ろうとするが勢いがついていて止まれずに突っ込んできた。ちょうどいい間合いに入ってきたところで技が発動する。荒ぶる怒涛の二十七連撃が繰り出され、目の前の敵を圧倒していく。

 だが、明久もただ技を受けているだけじゃなかった。いくつか傷を残しながらも攻撃を受け流していた。目の前の光景を見て俺は戦慄した。一発当たれば大ダメージの技に対して避けようとせず、最小限で抑えようと抵抗を試みているのだ。今日ほど観察処分者のメリットを恨んだことはない。

 

「今だよ、雄二!」

「っ!」

 

 この瞬間、俺は驚くことしか出来なかった。今の今まで連撃を防ぐことしか出来ていなかった明久が絶妙なタイミングで後ろに飛び、最後の一撃に入る前の突きを避けてみせたのだ。もちろん標的のいない剣は空を切る。

 

「これで終わりだ、仁!」

 

 真上から雄二の召喚獣が飛びかかってきているが、大技故の長い硬直時間で動けない俺の召喚獣は勢いを乗せた拳の一撃をどうすることも出来ず、なすがままに殴り飛ばされた。

 

 日本史

 Fクラス 吉井明久   46点

 Fクラス 坂本雄二  121点

          VS

 Aクラス 木下優子  184点

 Fクラス 神崎仁     0点

 

 俺が戦闘不能になったことで歓声と同時に会場のディスプレイに現在の点数が表示される。優子も善戦はしているが、相手は数多くの試召戦争を仕掛けてきたFクラスの代表。最初は開いていた点数差が僅差となっていた。

 

「仁君!」

「わるい優子……負けちまった」

「よそ見してていいの? 木下さん」

 

 優子がこっちに振り向いた隙に明久が木刀を振るってきたが、寸前で気づいて避ける。しかしその方向には雄二が待ち構えており、優子の召喚獣を捕らえた。

 

「今だ! やれ、明久!」

 

 雄二の掛け声が響き渡ったとき、斬りかかっていた明久がその場で切り返し、木刀を引き絞った体制で駆け出していた。優子の召喚獣は逃げようともがいているが雄二がそれを許さない。どんどん明久が距離を縮めていき、

 

 日本史

 Fクラス 吉井明久  46点

 Fクラス 坂本雄二   0点

          VS

 Aクラス 木下優子   0点

 Fクラス 神崎仁    0点

 

 優子の点数を味方ごと消し飛ばした。

 

『ただいま勝負が決しました! 栄えある優勝ペアはFクラス二人組! 吉井明久・坂本雄二ペアです!』

 

 かくして、この召喚大会は明久達の優勝で、俺と優子は準優勝で幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園長。無事優勝しましたよ」

「わかってるさね。誰が優勝賞品を渡したと思っているんだい」

 

 召喚大会が終わって優子をAクラスまで送った後、優勝の影響もあって大繁盛していたFクラスの喫茶店でウエイターの仕事をし、疲れている身体に鞭を打って学園長室にやってきていた。ここにいるのは俺と明久と雄二、それに秀吉と康太も来ている。

 

「それで、この腕輪はすぐに返却した方がいいですか?」

「いや、不具合はすぐには直せないから後ででもいいさね」

 

 明久が着々と話を進めていく中、後ろで立っている雄二がブツブツ何かを呟いていて、康太は心なしかときどき後ろを気にしているように見えた。

 それらを横目で見ていると、秀吉が疑問の顔を浮かべて何かを訪ねていた。それに明久が返答している。

 

「だから、教室の改修と交換条件で僕と雄二がこれをゲットするって取引を――」

「待て明久! その話はまずい!」

「……盗聴の気配」

 

 雄二が焦った様子でドアを開く。少しだが誰かがどこかへ走っていく音が聞こえてきた。そのまま走っていってしまったので慌てて後を追いかける。

 

「どうした!?」

「盗聴だ! あいつら今の話を盗聴していやがった!」

「バカな! 盗聴器は破壊したはず!」

 

 俺が目の前で破壊したのを学園長と一緒に見ていたはずだ。それなのにどうして盗聴されているなんて。

 

「優秀な生徒が勉強方法の一つとして持っているとしたら!?」

「っ! 高音質ボイスレコーダー!」

 

 それを使ってドアの向こうから今までの話を聞いていたのか。だとしたら教室の改修を条件に学園長と交渉していたなんてばれて、それが放送なんてされたらこの学園は終わり。全員が転校することになる。

 

「雄二! 向こうは常夏コンビでしょ!?」

「ああ! 髪型からして間違いない!」

「そやつらの特徴は!?」

「坊主頭と小さなモヒカンだよ! 見たらすぐにわかるはず!」

「なら秀吉と康太は外を探して出口をふさげ! 明久と雄二は放送器具を抑えるんだ! そして俺は――」

 

 一瞬言うのを躊躇ってしまったが奥歯を噛みしめて覚悟を決める。少しだけ息を吸い込んで走りながら告げる。

 

「この騒動の黒幕をとっちめに行く」

 




「神崎兄弟の」
「「ほのぼの談義~!!」
「今回のゲストは新野すみれだ」
「二年Cクラス新野すみれです。今日はよろしくね!」
「ああ。こちらこそ」
「あれ? この人召喚大会で司会やってた……」
「あ、見ててくれたんだ。嬉しいな~」
「にしてもあの紹介文はなんだったんだ? 数多の姿で迎え撃つって」
「仁君の召喚獣をそのまま紹介したんだけど……気に入らなかった?」
「いや、なんというか……少し恥ずかしかったな」
「あはは。それで、この二人は仁君の兄弟さん?」
「神崎美香です。中学三年生です」
「中学一年生の神崎隼人です」
「そうなんだ。ところで隼人君。声の性質がいいね。野球かなんかやってるの?」
「はい! 野球部に入ってます!」
「そうなんだ。どこの中学?」
「如月中学です」
「そうなの! あそこ私も通ってたの。そこで後輩に頼まれちゃってさ。野球部のウグイス嬢やることになっちゃって」
「お? これは負けられないな、隼人」
「気を張って頑張りなさいよ」
「俺頑張る!」
「私も応援してるよ、隼人君」
「ありがとうございます!」
「と、こんな感じに話してたらいい時間になったな」
「なんか今日は一番ほのぼのしてた気がする」
「そこは気にしない方向で。それじゃあ終わろうか」
「読んでくださる全ての人に感謝を込めて……」
「「「またね~!!」」」
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