バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

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第五話

 優子を待たせている俺は玄関に向かって走っていた。女の子を待たせるのは男としてどうかと思うと自負しているので、なるべく待たせないように急いでいた。

 本音を言えばものすごく楽しみなのである。女の子と帰ることなんて滅多にないから、この機会を大事にしたい。今の俺の心は緊張と嬉しさが入り混じった不思議な感覚となっている。

 

「なんでこんなことになったのかな……」

 

 おもわず呟いてしまうほどに疑問だった。優子と出会ったのだって今日の昼の一回きりだし、ここまで発展するほどのイベントを起こした覚えがない。何かあったとすれば職員室前で起きたあれなんだろうけど、そこからも答えを導き出せなかった。やべ、思い出したら恥ずかしくなってきた。顔が熱い。

 顔の熱を何とかしようと近くにあった水道の水で顔を洗う。熱を無理やりに冷やし、その場で何度か深呼吸を繰り返す。だいぶ落ち着いてきたのを確認すると、俺は再び玄関に向かって走る。あまり待たせてはいけないと自分で自負していることを忘れるところだった。

 玄関に到着すると、優子が外で待っていた。夕日に照らされたその姿はとても絵になっていて、俺は思わず見惚れてしまう。だが、ずっと見入っているわけにもいかないので優子のもとに向かう。

 

「ごめん優子。待たせちゃったかな?」

「い、いえ、大丈夫よ。私もさっき来たところだから」

 

 声をかけると、優子がビクッと反応して早口で答える。驚かしちゃったかな?

 

「そっか。それじゃあ帰ろうか」

「そうね」

 

 俺が歩き始めると、優子も隣に並んでついてくる。女の子が隣にいるだけで緊張してしまっている俺だが、これはまだ我慢できる。問題なのは……。

 

「「……」」

 

 二人とも無言なため、気まずい空気が漂っていることだ。

 俺はなにか話題はないかと必死に脳を回転させる。もしかしたら数学の問題を解いているときよりも脳を使っているかもしれない。

 

「なあ、優子」

「なに?」

「優子の趣味ってなに?」

 

 うん。俺にしては頑張った方だと思う。今までの俺だったら言葉にもなってなかったから。

 

「趣味? そうね……読書かしら」

「そうなんだ。実は俺もそうなんだよ。どんなの読むの?」

「……乙女小説よ」

 

 乙女小説というと、純愛小説みたいなものかな? 一瞬優子が口籠ったけど、どうしたんだろうか?

 

「乙女小説か。俺は主にライトノベルかな。他のも読むけど」

 

 もちろん俺の召喚獣のモデルとなった主人公の小説も持っている。あの作品はとても面白い。見ていて飽きないし、それぞれのキャラにも共感できるから。

 

「……笑わないのね」

「え?」

「アタシがこんなの読んでるなんておかしいって、笑わないのね……」

 

 優子は笑っているが、どこか悲しそうな表情をしながら話している。その表情を見た瞬間、昔の俺と重なった。あの時の俺も自分の趣味をバカにされ、受け入れてもらえなかった。もしかしたら優子もバカにはされていなくても、受け入れてもらえなかったことがあったのかもしれない。

 

「笑わないよ。それにおかしいとも思わない。趣味は人それぞれだし、誰が何を好きであろうと他の人に否定する資格なんてないって、俺は思うよ。それに、どんな趣味を持っていたって優子は優子なんだからさ」

 

 俺は優子に笑みを浮かべながら言う。そう。どんな趣味を持っていたって、その人はその人に変わりはないんだ。もし自分や他の人の趣味を否定してくる奴がいれば、俺はそいつの趣味を否定する。

 

「……ありがとね」

「ん?」

「ありがとねって言ったの。ここまで言ってくれたの、あなたが初めてよ」

 

 優子が微笑みを浮かべていた。その顔は夕日に照らされているせいか、とても赤かった。

 

「それじゃあ、アタシの家はここだから」

 

 話している間に結構歩いていたらしく、優子の家に到着した。その家は落ち着いた雰囲気を持つ立派な二階建て一軒家だった。

 優子の家を見た瞬間、俺は一つ気になることがあった。俺はここが優子の家だと初めて知ったが、この家を何度も見たことがあるのだ。それはなぜか、そう――

 

「え? ここって優子の家だったの?」

「そうよ。それがどうかしたの?」

「いや、ここの通り、学校行くときに通ってるから」

「え? じゃあ、仁君の家ってどこにあるの?」

「ここの二つ右の家だよ」

「……え?」

 

――俺の家がある通りだからだ。

 

 優子もかなり驚いている様子だ。そりゃそうだ。俺と優子はご近所さんだったのだから。

 

「仁君とアタシって……ご近所さんだったんだ……」

 

 優子も同じことを思ったらしく、そんなことを口にしていた。

 

「それじゃ、俺はそろそろ行くよ。また明日ね、優子」

 

 俺は手を振って優子に背中を向ける。

 

「仁君!!」

 

 優子がけっこう大きい声で俺を呼び止める。その声に反応して振り向くと、

 

「今日はありがとね……すごく嬉しかった」

 

 満面の笑みを浮かべている優子の姿があった。

 俺はそんな優子を見て熱く――もしかしたら赤くなっているであろう顔を隠すように背を向ける。すぐに手を上げて、優子と別れた。

 

 

 

 

 家に着くと、俺はすぐに二階にある自分の部屋に飛び込んだ。そしてベットに顔からダイブする。ちなみに家は父と母、俺と弟の隼人と妹の美香の五人暮らしなのだが、父と母は仕事の事情で日本中をまわっているため帰ってくることがほとんどない。なので今は俺と隼人と美香の三人暮らしとなっている。隼人は野球、美香はバレーボールを習っているためいつも帰りが遅かったりする。

 

「なんか……いつもより中身が濃い一日だったな……」

 

 二年生になってすぐにAクラスを目標にDクラスに試召戦争を仕掛けて見事に勝利して、途中のハプニングをきっかけに優子と仲良くなって、そのあとDクラスの相手との初戦闘で俺の召喚獣の装備に驚いたり、戦争が終わった後は優子と一緒に帰ることになって……今までにないほど充実した一日だった。文月学園に入学して本当に良かったと心から思う。

 

「っと、あいつらが帰ってくる前に飯作っておかないとな」

 

 俺はキッチンに向かい、冷蔵庫の中を見ると親子丼の材料が揃っていたので食材を取り出し、さっそく取り掛かろうと――

 

 ピンポーン

 

 ――したところでインターホンが鳴る。隼人か美香か? 無意識に鍵をかけたのかな。

 玄関の扉を開けるとそこには秀吉がいた。

 

「あれ、秀吉。どうしたの? こんな時間に」

「うむ。姉上からお主の家が近くにあると聞いての。それで、今後も付き合いのあるお主にちょっとした挨拶をしに来たのじゃ。姉上も来ておるぞ」

 

 秀吉が視線をおくったその方向から、どこか落ち着かない様子の優子が姿を見せる。

 

「そうじゃ。これ、つまらん物じゃが受け取ってくれ」

「お、サンキュな」

 

 秀吉が袋を渡してくる。それを俺は感謝しつつ受け取る。

 

「そうだ二人とも。飯は食ったのか?」

「いいや、まだじゃ。お主の家に行ってから済ませようと思ってたからのう」

「なら、二人がよかったら一緒にどうだ?」

 

 秀吉が小声で優子と話をしている。どうするのかを相談しているのだろう。

 

「それじゃあ、相伴に預かるとするかの」

「そうね。お言葉に甘えようかしら」

「それじゃあ二人とも、上がってよ」

 

 二人の許可ももらったので家に上がってもらう。今日は腕によりをかけて作らなきゃな。

 

「すぐに準備するから、二人はゆっくりしてて」

「うむ。なにか手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれ」

「あ、アタシにも遠慮なく言ってね!」

「わかったよ。そのときはよろしくね」

 

 さて、あまり待たせるわけにもいかないから、始めるとしますか。

 

 

 

 

 

「おまたせ。出来たよ」

 

 俺は出来上がった親子丼をテーブルに持っていく。二人は感心した表情を見せている。

 

「美味そうじゃのう」

「ほんと……美味しそうね」

 

 秀吉は素直に、優子は自信を無くしたかのように呟いていた。

 

「さて、食べるとしますか」

『ただいま~』

『あれ? 靴が多いね?』

 

 食べようとしたら玄関から声が聞こえてきた。隼人と美香が帰ってきたようだ。

 

「あ……こ、こんばんは」

「すげー。超そっくり!」

 

 二人はリビングに入ってくると、それぞれの反応を見せた。

 

「おかえり、二人とも。ほら、自己紹介だ」

「えっと、中学三年の神崎美香です。バレーボールやってます。よろしくお願いします」

「神崎隼人、中学二年です! 野球やってます!」

「アタシは姉の木下優子。仁君とは友達よ」

「弟の木下秀吉じゃ。仁とは仲良くさせてもらっておる。言っておくが、わしは男じゃぞ」

「「えぇーー!?」」

「そうなると思ってたのじゃ……」

 

 秀吉が露骨に落ち込んでいる。確かに自己紹介するたびに毎回こんな反応されるとつらいものがあるよな。

 

「し、失礼しました!」

「すいませんでした!」

「いいのじゃ、気にしないでほしいのじゃ……」

 

 秀吉、それは無理だ。そんな顔で言われたら余計に気になるだろう。

 

「二人とも、とりあえず着替えといで。飯出来てるから」

「「はーい」」

 

 二人は着替えのために二階にあるそれぞれの部屋に駆け込んでいく。姿が見えなくなったところで秀吉が話しかけてくる。

 

「お主に弟と妹がいたのかのう?」

「そういえば言ってなかったな。その通りだ」

「しっかりしたお兄ちゃんね」

「そんなんでもないよ」

 

 優子のひと言に少し照れくさくなりながら話していると着替え終わった隼人と美香が降りてきた。ちなみに隼人は白いTシャツに紺色の長ズボン、美香は黄色のTシャツに水色のショートパンツだ。

 二人は自分の分をよそってテーブルに持ってきて席に座った。

 

「よし、それじゃ食べますか」

「「「「「いただきまーす」」」」」

 

 みんなが親子丼を口に運ぶ。作った本人としては周りの反応が気になるところだ。

 

「うむ、美味いのう」

「ほんと。卵がとろとろしてて美味しい」

「今日も仁兄の料理は美味い!」

「うん。美味しい!」

 

 それぞれが感想を漏らしている。聞いてる限りだと喜んでもらえているようだ。そう言ってもらえるなら俺も作った甲斐があるってものだ。

 全員が食べ終わったので食器を片付ける。優子と秀吉が手伝ってくれたおかげでいつもより早く終わって、今はそれぞれが自由に過ごしている。秀吉は隼人とゲームをしていて、優子は美香の勉強を見てくれている。俺はその様子を微笑ましく見ていた。

 

「優子に秀吉。時間は大丈夫なのか?」

 

 気が付くと時刻は夜の八時半を指していた。それに気づいた二人は驚いた顔をしていた。

 

「あら、もうそんな時間なの?」

「時間が経つのが早いのう」

 

 二人は帰る準備を始めて玄関に向かう。それに俺と隼人と美香がついていく。

 

「今日はごちそうさま。とても美味しかったわ」

「ありがとうなのじゃ」

「こちらこそ、この二人の相手してくれてありがとな」

「いろいろ教えてくれてありがとうございました」

「またわからないことがあったらいつでも聞いてね、美香ちゃん」

「秀兄、また一緒にやろうね!」

「うむ。了解じゃ」

 

 隼人も美香もこの時間で木下姉弟に懐いていた。その二人も隼人と美香と打ち解けていて楽しそうだった

 

「それじゃあ、お邪魔しました」

「仁よ。また明日なのじゃ」

「ああ、また明日な」

 

 その言葉を最後に秀吉たちは自分の家に帰っていった。

 秀吉たちを見送って玄関の扉を閉める。リビングに向かおうと振り返ると、そこには未だにニコニコした隼人と美香がいた。

 

「いやー、今日は楽しかった!」

「またお会いしたいな……」

「実はな、あの二人とはとても家が近いんだぞ」

「え、そうなの?」

「ああ、この家を出て右に二つ行ったところにある家だ」

「近っ!」

「それじゃあ、今度はこっちから行こうよ、兄さん!」

「そうだな。時間があるときに三人で行こうか」

「「うん!!」」

 

 ほんとにこいつらは木下姉弟に懐いたな。まあ、あいつらもまんざらでもないようだし、今度どこか行くときに誘ってみるかな。

 そのあとは三人で他愛のない話をして、いい時間になったら二人に寝るように言ってそれぞれの部屋に戻る。部屋に戻った俺は明日のBクラス戦の戦略をひと通り見直す。雄二の作戦に支障をきたすわけにはいかないので、入念に確認する。あまり遅くなると明日に影響するので俺はパソコンの電源を落としてBクラスの資料をファイルにしまう。明日の学校の準備を済ませてベットに潜り込む。そしてすぐに眠りについた。

 




新しく出たオリキャラの紹介
 

 神崎隼人
性格……明るく前向き。野球に対して真面目。
容姿……赤みがかった茶髪でくせっ毛混じりのショートヘアに整った顔立ち。少し吊り上がった目をしていて、体は細いがすべて筋肉によって締まっている。
・神崎仁の弟で野球部に所属。チームを代表する三番バッターでメインポジションはショート、サブでセカンドをやっている。ときどき仁には練習に付き合ってもらっている。隼人曰く、仁の実力は「テレビで見た甲子園に出ている選手と大差ない」らしい。


 神崎美香
性格……大人びていておとなしく、少し人見知り。
容姿……黒髪ロングをポニーテールにまとめている。小さい顔でパッチリとした目をしていて誰もが羨むモデル体型の持ち主。
・神崎仁の妹で隼人の姉。バレーボール部に所属している。威力の高いスパイクを武器としている。文武両道を大事にしていて、学校の成績も常に上位に入っている。控えめな胸なのを少し気にしている。
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