バカと戦略と召喚獣   作:トッキ―

7 / 35
第六話

 俺の朝はいつも早い。

 午前五時に起きて自分の弁当と今日の朝ご飯を作るために眠い目をこすりながらキッチンに降りていく。冷蔵庫の中を見て何にするのか考える。今日はメインに鶏の唐揚げにして備え付けにウインナーをボイルしたものと卵焼き、キャベツの千切りにミニトマトをつけることにする。鶏の唐揚げはあらかじめ味付けした鶏肉があるため、それを使うことにする。鶏肉を揚げている間にキャベツを千切りにしていく。それを水につけた後にウインナーをボイルにする。タイミングよくこんがり揚がった唐揚げをキッチンペーパーに乗せ、次は卵焼きに取り掛かる。今日はしょうゆ風味にしようと焼く前に少量のしょうゆを入れる。それに適量の砂糖を入れて溶いた卵をフライパンに流し入れる。火加減を調節しながら焼いた卵焼きをまな板に乗せて一口サイズに切っていく。そのあとにボイルしたウインナーをお湯から引きあげて半分に斜め切りにする。それらを弁当箱に盛り付けた後に仕切りで分けて白いご飯を入れる。これで今日の俺の昼ごはんは完成した。

 

「次は朝飯か……」

 

 次は三人分の朝ご飯を作ろうと鍋を取り出し、味噌汁のお湯を沸かすために水を入れてコンロの火をつける。少し沸騰してきた頃に階段の方から足音が聞こえてきた。見てみると、眠そうにあくびをしながら美香が降りてきた。

 

「おはよう、兄さん……」

「おはよう、美香。今日は早いんだな」

「いつも早い兄さんがそれを言いますか……」

 

 美香があくびをしながら呆れたように言う。だってしょうがないじゃん。自分の弁当と三人の朝飯作らないといけないんだから。

 

「兄さん、私も手伝うわ」

「サンキュ。それじゃあ今日のおかずは美香に任せるよ」

 

 ときどきだが、美香が今日みたいに早く起きてきたときには一緒に朝ご飯を作ったりしている。休日や時間のあるときには料理を教えたりもしているので役割分担も楽にできる。美香におかずを任せて、俺は味噌汁に取り掛かる。今日は豆腐でいいかな。

 冷蔵庫から取り出した豆腐の水をよく切ってから切り分ける。ちょうど沸いたお湯に味噌を溶いて豆腐を入れ、ふたをして少ししたら火を止める。俺の方は終わったので美香の方の様子を見る。どうやら美香は目玉焼きとベーコンにしたらしい。

 時刻は午前七時十五分。ちょうど朝ご飯が出来上がった頃に隼人が起きてきた。

 

「ふぁ~。おはよう仁兄……今日も早いね……」

「おはよう隼人。お前もいつも通りだな」

「ほんと、相変わらずね」

 

 すごい事に隼人はどんな時間になっても朝ご飯が出来上がった頃に必ず起きてくるのだ。それも、隼人の中にセンサーでも内蔵されているんじゃないかってくらい正確に。

 

「それじゃあ、着替えてからご飯にしようか」

 

 それぞれが部屋に戻り着替えを済ませる。俺は文月学園の制服に、美香と隼人は如月中学校の制服に着替えてテーブルに座る。

 

「「「いただきまーす」」」

 

 三人そろっていただきますをして朝食を口に運ぶ。美香が作ったおかずは文句ない味だった。次に自分が作った味噌汁を飲む。

 

「ん、今日はちょっと味が濃かったかもしれない」

「そうかな? 俺はちょうどいいと思うけどな」

「兄さんは昔からの薄味派だもんね」

 

 そんな他愛のない話をしながら朝食を片付けて顔を洗い、学校に行く準備を済ませる。あとはそれぞれが自由に過ごしていると、

 

 ピンポーン

 

 インターホンが鳴った。朝から誰だろうか。

 

「あ、いいよ仁兄。俺が出る」

 

 隼人が急ぎ足で玄関に向かう。玄関のドアが開かれる音がして、開かれたドアから声が聞こえてきた。

 

『あ! おはよう秀兄! 朝からどうしたの?』

『おはようじゃ隼人。仁はおるかの?』

『ちょっと待ってて。今呼んでくるから』

 

 リビングに向かって走ってくる隼人。その表情はとても嬉しそうだった。

 

「仁兄! 秀兄が来たよ!」

「秀吉が? わかった、今行く」

 

 俺は鞄を担いだ後、美香と隼人に先に行くと伝えてから玄関で待っている秀吉のもとに向かう。

 

「おはようじゃ。仁」

「おはよう秀吉。わざわざ家に来たのか?」

「うむ。お主の家がここだと分かってから、一緒に登校しようと思ってのう。迷惑だったかのう?」

「いいや、全然。それじゃあ行こうか」

「そうじゃの」

 

 俺は玄関にあるバットケースも一緒に担ぐ。え、なんで持っていくのかって? 今日は危険な日だと夢のお告げかあったのさ。だから念のためにね。

 にしても、誰かと一緒に学校に行くなんていつ振りだろうか。そう思いながら玄関の扉を閉めて外に出る。

 

「じ、仁君、おはよう!」

「うおっ!」

 

 急に声をかけられた。そこには玄関の陰になっているところに立っている優子がいた。

 

「びっくりした~。何でそんなところに立ってるんだ?」

「そ、それは……ほら、その、仁君を驚かそうと思って……目が覚めた?」

「そりゃもうばっちり覚めましたよ。朝からやってくれるねぇ」

「なら、上手くいったみたいね。ふふふ」

「ははは」

 

 優子は俺の驚いた様子に、俺はいきなり起きた出来事に思わず笑ってしまう。その様子を見た秀吉が、

 

「朝から見せつけてくれるのう、姉上達は」

「なっ!?」

「ひ、秀吉!? 何を言って!?」

 

 なんてことを言っては、動揺している俺たちの反応を見てニヤニヤしていた。何を言ってくれるんだ、こいつは! 

 

「俺らはそんなんじゃないからな!」

「そ、そうよ! アタシ達はそんな関係じゃ……ないんだから」

 

 そう言いながら優子が顔を赤くしてチラチラとこちらを見ている。なんなんだ、この空気。

 

「は、はやく学校に行こうぜ!」

「そ、そうね」

 

 この空気に耐えられなくなった俺は強引に話を切り上げ、早足で歩いていく。優子もそれに便乗するかのようについてくる。

 

「……お互い素直じゃないのう」

 

 後ろで秀吉が何かを言っていたが、はっきり聞こえなかった。

 

 

 

 あの後、気まずい空気を漂わせながら登校した俺たちは途中で優子と別れて秀吉と一緒にFクラスに向かっている。Fクラスに着いて教室の扉を開ける。

 

 サバトの会場がそこにあった。

 

 額にFと書かれた紫の布を被っている集団が一斉にこちらを向く。その目は殺意に満ち溢れていた。

 

「諸君、ここはどこだ」

『『『最後の審判を下す法廷だ』』』

「異端者には」

『『『死の鉄槌を』』』

「よろしい。これより異端審問会を開く」

 

 ……なに、これ。

 

「罪状を読み上げよ」

「は! 被告、神崎仁は昨日の夕方、木下秀吉の姉にしてAクラスの美少女、木下優子と下校を共にしていたとの情報を我が同胞が確保。そのあとには木下姉妹と自宅で夕食を共にしていた模様――」

「待つのじゃ! わしは男じゃぞ!」

「――さらに、今日の朝には木下姉妹と登校してきたのを目撃。これを踏まえて、神崎仁の処置を――」

「御託はいい。結論だけを述べたまえ」

「美少女姉妹と一緒にいられて羨ましいであります!」

「ふむ、実にわかりやすい結論だ」

 

 もうわけわからん。っていうか、なんでお前らが昨日のことを知ってるの!? どこからその情報入ったの!?

 

「被告、言い残すことは?」

「弁護も発言の機会もないのかよ!?」

「有罪、死刑!」

 

 その言葉を合図に謎の集団が襲い掛かってきた。その手には鎌やら包丁などの凶器が握られていた。こいつら本気で俺を殺す気だな? ためらいがない。

 

「こいつ持ってきて正解だった……」

 

 俺は肩に担いでいるバットケースの中から木刀を取り出す。これは中学の頃から削って作ったものであり、ちょっとした細工もしてあるのだが、今はそれを披露している暇はない。木刀だとかなり分が悪いが……。

 

「それじゃ……いきますか!」

 

 登校して早々、クラスメイトとの全面戦争が開戦した。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、こいつらいったいなんなんだ……」

 

 かなりの時間がかかったが、謎の集団を鎮圧することに成功した。こいつらゾンビの如く蘇ってくるんだもんなぁ。しかもすごい連帯感だったし。

 

「お主すごいのう……あれだけの人数を一人で片づけてしまうとは」

「ライトノベルの影響で剣術の練習してたからな。今も護身として毎日練習してるよ」

「剣術とな? 流派とかはあるのかのう?」

「いや、我流だよ。そのほうがしっくりくるし」

「なんと! あのような動きを我流で覚えたのかの!」

 

 あのポーカーフェイスが得意な秀吉が表情を崩して驚いていた。驚くのも無理はない。剣術を我流でやってる奴はそうそういないだろうし。それに木刀で鎌を受け流したり、連中が投げてきたカッターやシャープペンシルを弾き返しながら複数人を相手にして、疲れはしたけど無傷で全滅させたからな。

 

「仁よ。時間があるときでよいから、わしに剣術を教えてはくれんかのう?」

「なぜに?」

「演劇で時代劇をやるときのために覚えておきたいのじゃ」

「なるほど。そういうことなら喜んで教えるよ。俺はいつも夕方にやってるんだが、時間はどうする?」

 

 俺としては朝にやりたいんだが、美香と隼人の朝ご飯を作らないといけないから夕方じゃないと時間が取れないのだ。

 

「わしは部活がある日以外はお主に合わせるぞ?」

「そっか。それなら時間があるときの夕方に俺の家の庭でやるとしよう」

「うむ。了解した」

「おはよ~……うわっ! なにこの死体の山!?」

 

 声のした方を向くとそこには明久がいた。ていうか死体って。まだ死んでないからな。

 

「うい~す。うおっ! なんだこのゴミの山は!?」

 

 こっちの扱いの方が酷かった。クラスメイトをゴミ扱いしてるよ。

 このあといつものメンバーが集まり、気絶した集団を放置して午前中の授業を受けた後、昼ご飯も兼ねて屋上に行くことになった。けれど、まさかああなるとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

 ひと足先に俺、明久、秀吉、康太、瑞希の五人は屋上に到着した。雄二と美波は飲み物を買ってくると言って自販機に向かった。今日は天気がとてもよく、絶好の弁当日和だ。

 

「あまり自信はないんですけど……」

 

 そう言って瑞希が作ってきた弁当のふたを開ける。そこにはとても美味しそうなおかずが綺麗に並んでいた。男子一同はおおと感嘆の声を上げていた。

 

「これはすごいなぁ……」

「それじゃあ、まずはエビフライを――」

「……(すっ)」

 

 明久が取ろうとしていたエビフライを康太が横からかっさらっていった。

 

「あっ、ずるいぞ、ムッツリーニ!」

「……(パクッ)」

 

 明久の訴えに反応せずに康太はそのままエビフライを口に運ぶ。

 

 バタン ゴッ ビクンビクン

 

 康太が震えながら後ろに倒れた。なにがあった!?

 

「つ、土屋君!?」

「……ムクッ(グッ)」

「あ、お口に合いましたか。よかったぁ~」

 

 瑞希が心配そうに康太のもとに駆け寄っていくが、康太はそれに対し、起き上がって親指を立てて答える。とても美味しいと伝えたいんだろうが、かなり足が震えているぞ?

 

「(なあ。あれ、どう思う?)」

「(どう考えても演技には見えん)」

「(だよね。絶対そうだよね!)」

 

 俺は視線を送ってアイコンタクトをとる。明久も俺と同じことを思ったらしく、アイコンタクト会議に参加している。秀吉が言うなら間違いないんだろうな。

 アイコンタクト会議をしていると自販機で飲み物を買ってきた雄二達が戻ってきた。

 

「お、美味そうだな! どれどれ……」

 

 雄二が弁当に手を伸ばす。

 

「あ、雄二! ちょっと――」

 

 パクッ バタン ガシャンガシャン ビクンビクン

 

 あ、雄二も被害者になってしまった。その雄二が目で訴えてくる。

 

「(毒を……盛ったな?)」

「(毒じゃない。瑞希の実力だ)」

 

 雄二ともアイコンタクトで会話を始める。今更だが、なんでこいつらとアイコンタクトできるようになってるんだ?

 

「(……ちょっと聞いてみる)」

「「「(((……コクッ)))」」」

 

 俺は代表して瑞希に向き直り、この料理(?)について聞くことにした。ちなみに美波には康太が日に当たってふらついてるから氷を持ってきてほしいと言ってこの場から退場してもらっている。

 

「瑞希、一つ聞いていいか?」

「はい。なんですか?」

「この料理になんか隠し味でもいれた?」

 

 この質問に対して帰ってきた言葉はとんでもないものだった。

 

「えっと、隠し味に塩酸を少々……」

「「「「塩酸!?」」」」

 

 塩酸って……確か化学薬品だよな? なんでそんなものを料理に入れたんだ!?

 

「な、なんでそんなものを……?」

「えっと、酸味を出そうと……」

 

 塩酸は酸味どころか胃袋溶けるよ!? 明久と秀吉は驚きを通り越して震えていた。仕方ない。ここは俺が何とかするとしよう。そのためにはまず瑞希と二人きりにならなくては。

 

「瑞希、ちょっといいかな」

「あ、はい」

 

 とりあえず瑞希を連れ出して明久達から遠ざける。さて、まずは注意しましょうか。

 

「瑞希、料理に化学薬品を入れたらだめだろう?」

「け、けど美味しくしようと思って」

「化学薬品で美味しくなる料理なんてないよ。化学薬品って普通は食べたりしたら死ぬからね?」

「……」

「もう料理に薬品なんて入れないでね? いい?」

「……わかりました」

 

 よし、説得成功。だが、俺はここでは終わらない。

 

「わかってくれて俺は嬉しいよ。それじゃあ瑞希にはいい事を教えてあげるよ」

「……いい事、ですか?」

「実はな……明久はレシピに載っているような家庭的な料理が好きなんだぞ」

「そ、それ本当ですか!?」

 

 すごい食いつきっぷりだな。これは俗に言う両想いってやつですか。よかったな、明久。

 

「ああ、ほんとだ。明久本人に聞いたから間違いない」

「家庭的な料理……例えばどんな料理でしょう……?」

「肉じゃがとかがいいかもね。家庭的料理のレシピに出てくるくらいの定番だから」

「肉じゃがですか……わかりました。仁君、教えてくれてありがとうございます」

「頑張ってね。応援してるからさ」

「はい!」

 

 これが俺の話術、アメとムチによる説得である。

 最初は相手に発言権を与えないように接し、勢いが落ち切ったところに相手にとって利益のあることを話す。すると相手の機嫌がよくなり、こちらの要求を受けやすくなるのである。

 瑞希との話も終わり、明久達のところに戻るとそこには再び倒れている雄二と、その雄二に合掌している明久と秀吉の姿が。何があったのかを聞こうとしたが、中身がなくなっている弁当箱を見て納得する。雄二、生きて帰って来いよ……。

 

 

 

 

 

 波乱の昼食が終わってFクラス教室。明久がBクラスに宣戦布告し、今回もボロボロになって帰ってきた。その後に復活したFFF団を交えてBクラス戦前の最後のミーティングとして俺と雄二が前に立って作戦の説明をしている。

 

「……というわけで、この作戦で攻めていく。これは俺と仁で話し合って決めた作戦だ。勝利は間違いない!」

 

 今回の話し合いの中で、雄二の頭のキレのよさを痛感した。俺の考えてた作戦と全く同じことを口にしたときにはお互いにニヤついてしまった。なんかもう、単純にすごいと思ったね。

 

「指揮官は姫路に任せる。頼んだぞ!」

「が、頑張ります!」

 

 雄二と瑞希のやりとりの直後に試召戦争の開始を知らせるチャイムが鳴る。

 

「よし野郎ども、きっちり死んで来い!!」

「目指すはシステムデスクだ!!」

『『『おおぉーーーー!!』』』

 

 その言葉を合図にクラスメイトが勢いよく教室から出ていく。それじゃあ、俺も行きますかな。

 




 今回は姫路さんの料理を改善してみました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。