第2話のラストとなります。
◼️11◼️
「しかし、まさか本当に事件を解決するとは……」
溜め息混じりに想定外だったと呟くクロノを前に据えた露伴は「フンッ」と鼻を鳴らして不満を
「オイオイオイオイ、言ってくれるじゃあないか。
事件の情報を僕に与えたのはキミだろう。
なら解決
好奇心と興味に手足が生えて漫画家をやってるような存在が岸辺露伴という男である。下手に放置しておくと何処で何を嗅ぎ回るかをわかったものではない。
そこで適度に大人しくさせるべく与えた『
ただまあ、事件の解決には違いないので感謝の念はある。
実際、喉元までは出掛かってはいたのだ。
露伴のドヤ顔を見るまでは。
「(なんて人をイラつかせるドヤ顔なんだ……!)」
大人が一回り年下の少年に見せていいドヤ顔ではない。
露伴の背後では申し訳なさそうに縮こまる義妹──フェイトの姿があるため、感謝の言葉の代わりに飛び出しそうになった「誰が言うか!」の言葉を何とか飲み込む。
「……その点については確かにお手柄だ。
先生も、フェイトも、良くやってくれた。
感謝する」
クロノは事件を解決へと導いた2人に謝辞を述べると共に、浅くではあるが頭を下げる。
フェイトに関しては後で頭を撫でてやろうと考えながら。
彼女が義理の妹になってから
「それでクロノ、盗んだクジラの骨格標本は見付かったの?」
義兄の手助けができた上に褒められたのが嬉しかったのか、やや弾んだ声で話題を切り替える。
一応、まだ職務中なのだ。
アースラ所属の職員達が気絶した備入に応急処置を施した上で拘束し、連行(転送)していくのを横目に収めながら「ああ」と首肯する。
「ここの更衣室に置かれていた、彼のロッカーの中から発見されたよ。
約30センチほどに縮められた上で、段ボールに入っていた」
気絶したことで能力が即座に解除され、ロッカーの中で元の大きさに戻らなくて良かった──クロノは何度目かになる溜め息を深く吐き出した。
それには同意するがね、と露伴は片方の眉を吊り上げる。
「終わってみれば
そんなに溜め息を
グルリと周囲を見渡しながら露伴は不満を口にする。
そう。
逃走防止のためにフェイトが張ったエリアタイプの封時結界により、破壊された床や展示物なども解除後には元に戻って──というよりも通常空間と結界内の空間は『別物』として扱われるので、結界を解除してしまえば『元から破壊されていない』状態となって──いる。
盗まれた骨格標本も発見され、博物館にとっては「身内から犯罪者が出た」という醜聞が生じた以外の物理的な損失は出ていないのだ。
「博物館に被害が出なかったのは幸いなんだが」
一旦、視線を床へ落とし──フェイトへ移し、すぐに露伴の目線と絡ませる。
「
「……、何だって?」
クロノが発した『問題』について上手く消化できなかった露伴は、一拍を置いてから
露伴がクロノの指摘にピンと来なかったのには理由がある。
露伴にとって、こうした超常的なトラブルの殆どは『スタンド』絡みだった。
なので彼としては「事件にスタンド使いが関わっていること」は当たり前であり、寧ろ「
そうした理由もあってイマイチ理解できていない様子の漫画家に、執務官は真剣な眼差しを向けつつ説明を続けた。
「ここ最近の海鳴市では、これまで観測されたことのない奇妙な事件が、立て続けに何件も発生している。
なのは達が魔術師として覚醒した『魔法絡み』の事件とは様相が異なる、明らかに別種の事件が……だ」
「今回の事件も?」
執務官候補生の質問に、直属の上司は「ああ」と頷く。
「いいか? これまで1度も『スタンド使い』なんて存在を管理局は把握してなかった。
それが露伴先生──『スタンド使い』である貴方が海鳴市に訪れた途端に、同じ『スタンド使い』による事件が発覚した。
他の事件も
ここまで聞かされれば、さすがの露伴もクロノの言いたいことが理解できた。
「いやいやいや、いやいやいやいやいや。
ちょっと待ってくれよクロノ。まさかキミは僕が事件の裏で糸を引いている、なんて思ったりしてるんじゃあないだろうな?」
「えっ! ク、クロノ!?」
頬に手を添えながら首を傾け「とんだ誤解だぜ」と遺憾の意を表明する露伴に追随する形で、フェイトも抗議の意を込めた視線を義兄に送ってくる。
クロノは「確かに能力的にも発生したタイミング的にもそうなんたが」と前置きした上で、
「露伴先生の人となりは理解してるつもりだよ。
性格は本っ当に難ありで『善人』ではないが──決して『悪人』ではない。
むしろ『良い人』だと思う。
……黒幕になれるような人間じゃあない」
「多少気になる表現はあったが、まあいいだろう」
悪い気はしないし、露伴は自身を「心の広い大人」だと自負しているので、そこは黙ってスルーしてやることにした。
義兄の言を聞いていたフェイトも胸を撫で下ろしている。
「だが、タイミング的に『単なる偶然』と片付けるには疑問が幾つか残る」
そもそも、とクロノは人差し指を立てて指摘する。
「
「!」
露伴もクロノ達にスタンドというものを説明する際、スタンド使いとして目覚める原因についても言及していた。
杜王町で起きた事件に端を発しているため詳細は省いたが、スタンド使いになるためには「生まれつきなどの先天的なもの」と「外因による後天的なもの」があると。
露伴とはソリが合わない変な髪型の男子高校生などは前者で、露伴や一番の親友だと思っている少年などは後者だ。
「事件を起こしたタイミングや過去の経歴から、彼は先天的に『スタンド使い』だったわけではないのだろう」
「となると、後天的……外部からのアプローチで……」
「なるほど──そこで『弓と矢』か」
兄妹の言葉を引き継ぎ、露伴が結論を口にした。
それをクロノは「そうだ」と肯定する。
「露伴先生が言っていたスタンド能力を引き出す道具、つまり『弓と矢』のような物を使って、何者かが『スタンド使い』を覚醒させている可能性が高い。
──
フェイトが息を呑む。
露伴も眉間に深いシワを寄せていた。
得体の知れない何者かの足音が聞こえた気がして。
「露伴先生、貴方はこうも説明していたな──」
──スタンド使いは、スタンド使いと引かれ合う。
「!!」
杜王町で身をもって散々味わった教訓を、露伴は一瞬の戦慄という形で思い出した。
「海鳴市で『何か』が起きているのは間違いない」
念を押すようにクロノは繰り返した。
「となれば、露伴先生には今以上に協力をお願いすることになるかもしれない。
非常に遺憾ではあるのだが。物凄く遺憾ではあるのだが」
……念を押すようにクロノは繰り返した。
だが、そんな執務官が内心で抱える忸怩たる葛藤など知ったことではないとばかりに、露伴の表情は一転して喜色にまみれる。
「そうかそうか!
いやあ! そんな風に頼られちゃあ、僕も無下にはできないなあ!
当然ッ、協力の見返りとして、今以上に管理局やなのは君達について取材をさせてもらえるよな~~~!?
ああ、楽しみだなあ! やる気がムンムンと湧いてくるぞッ!」
などとイラッとくる絡み方でクロノの肩に(嬉しさのあまり)気安く手を回し、バンバンと強く叩いた。
そうかと思うと、パッと離れて「こうしちゃあいられないッ いろいろと画材を揃えないとなあ! フェイト君、何処か良い画材店を知らないかい?」とはしゃぎつつ、フェイトを連れて足早に展示スペースから出ていってしまう。
先程までのシリアスな雰囲気は何だったのか。
クロノだけではなく、現場を調べていたアースラのスタッフ達も、茫然と見送るしかなかった。
「(あの人に頼るという判断は早計だったかもしれないな……)」
本日で何度目となるのか分からない、重く深く長い溜め息を吐き出す。
心なしか、飾られている魚類の展示物達から同情と憐憫の視線が向けられたような気がしたクロノであった。
←ーーTo Be Continued……
スマッシング・パンプキンズ(The Smashing Pumpkins)
90年代のオルタナティブ・ロックを代表するアメリカのロックバンド。
基本的にロックなのだが、グランジやドリームポップなど楽曲によって扱うジャンルは多岐にわたる。
スタンド使いとして登場した「備入公巌」の名前は、バンドの中心メンバーである「ビリー・コーガン」から。