漫画家と魔法少女は黄金楽土の夢を見ない   作:砂上八湖

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大変長らくお待たせいたしました(土下座)

まだちょっと調子を取り戻せていないので、長い割には話が進んでないのは本当に申し訳ない……

スローペースになるかとは思いますが、よろしくお願い致します。


第3話「エブリタイム・アイ・ダイ③」

 

◼️06◼️

 

 通報を受けて駆けつけた警察が現場検証を(おこな)い、露伴達は事情聴取を受けた。

 話を一通り聴き終えると「事故として調査はするが、事件性はない」と判断したらしい警官や鑑識達は、氷を片付けると早々に引き上げていってしまった。

 歩道の修繕は役所の方から業者に依頼があるでしょう、と桃子に伝えてはいたが。

 とはいえ穴の空いた歩道を放置する訳にもいかない。歩行者が穴に足をとられてケガをしないためにも、桃子は近所のホームセンターへカラーコーンを購入するべく出掛けていった。

 

「ああ、そこ、穴ボコができてるから気を付けてェーッ」

 

 破壊されたのとは別のテーブルで(くつろ)ぎながら、歩道の穴の傍を通る歩行者に大きな身ぶりで注意を促す露伴。

 翠屋のパティシエが店を空けている間、店番と歩行者への注意喚起を露伴やはやて達が引き受けているのだ。ちなみに店番役がはやて、注意役が露伴とシャマルである。シャマルがはやてと一緒でないのは、もしも歩行者が穴に(つまず)いてケガをしてしまった際の救護役だからである。

(さすがに魔法で治療することはできないが)

 

「でも意外ですね、露伴先生が注意喚起の役を引き受けるなんて」

 

 店から持ってきた救急箱を抱えつつ、ふと浮かんだ疑問をシャマルは口にしてみた。

 意外であると評された漫画家は、片眉を大きく跳ね上げる。

 

「おいおいおい、まるで僕が『知人がボランティア活動している横で手伝いもせずコーヒーを飲んでる奴』みたいな言い方は()めてくれないかなぁ~」

 

 テーブルに肘をついて顎を乗せ、心の底から如何にも心外そうな表情と声色で、不当な評価に是正を求める。

 

「最高に美味いケーキとコーヒーに対する返礼だよ。

 これでも僕は『敬意を払うべき相手』への礼節は完璧にこなすんだぜ?」

 

 仮に桃子が注文とは違う商品──例えば『茹でたトウモロコシ』を出してきても『完璧に正しい作法』で食べる事もできるのだと自信満々に語る露伴。

 

 しかしシャマルにとっては彼の矜持よりも「トウモロコシの食べ方に正しい作法とかあるの!?」という部分ばかりが気になってしまっているようである。

 

「それにしても」

 

 マイナーなマナーについての話題などどうでもいいとばかりに、露伴は思考回路にこびりついて離れない光景を思い浮かべつつ話題の転換を図った。

 先程までとは異なる、真剣味を帯びた短い一節にシャマルは僅かに緊張する。

 

()()は一体なんだったんだろうな」

 

 穴が穿たれた歩道を眺め、少し(ぬる)くなってしまったコーヒーを(すす)りながら、露伴はシャマルへの質問とも単なる独り言とも言えないような台詞をこぼす。

 

 勿論それは少し前に至近距離で体験した「奇妙な死亡事故」のことである。

 単なる幻覚でないのはポッカリと空いた歩道の穴が証明しているし、砕け散った男性の頭部が放っていた猟奇的な「リアルさ」は目蓋の裏に焼き付くほど強烈だったのだ。

 

 そこで露伴は視線を穴から外し、スゥーッとシャマルへスライドさせる。

 好奇心を隠し切れない漫画家が、捜査情報を持っているであろう時空管理局の魔導師を視野に捉えた。

 

 ロックオンされたシャマルの身体がピクリと小さく跳ねてしまう。サッと目を逸らしはしたが、その小さな所作だけで「私は何かを知っています!」と白状しているも同然であった。

 

「も、黙秘します」

 

「ふゥーん」

 

 露伴の能力──ヘブンズドアーを使えば黙秘など全く通用しないのだが、漫画家はジト目で湖の騎士を見やるだけだ。

 

「そういえば」「以前、クロノが『最近起きた事件』について言及した時」「ナンだか気になる事を言ってたっけなァ~~~」

 

「そ、そうでしたっけ?」

 

 ワザと台詞を区切るようにして語りかけてくる露伴のジトーーッとした視線から懸命に逃れようと、シャマルは首を真横に向けて(とぼ)けてみせた。

 今の彼女にできる精一杯の抵抗である。

 

 だが好奇心と探求心に果てがない漫画家は、追求の手を弛めない。

 逃走ルートを塞ぐように「そうだとも」と自身の記憶力の高さを端的に示すと、その内容を(つまび)らかにしていく。

 

「なのは君を助け、クロノと捜査協力の約束を交わした際に、彼が抱えていた事件について簡単な説明を受けたんだよ」

 

 本当に簡単な説明だけで詳細は教えてくれなかったがねと、その時に浮かんだ不満が未だに(くすぶ)っているのか、露伴は拗ねたように口を尖らせる。

 

「クジラの骨格標本盗難事件の調査依頼を受けるまで、その説明の中で一番興味を引いたのが──」

 

 シャマルから視線を外し、再び歩道に穿たれた穴へと戻す。

 先程まで漂っていた湿度の高いジト目は一瞬で消え失せていた。そこには原稿にペンを走らせている時と同じぐらい真剣な眼差しが宿っている。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()って内容の事件だ」

 

 思わずシャマルも破壊された歩道を見遣(みや)る。

 同時に自分達に降りかかった奇妙な現象が、目蓋の裏に甦った。

 

 近付いてきた怪しい男性。

 突如として砕ける頭部。

 壊れて宙を舞うテーブルや食器。

 歩道を(えぐ)った氷塊。

 跡形もなく消えてしまった()()()()()()()

 

「あるはずなのは被害者じゃあない。

 あるはずなのは連続して消えた被害者の()()()だ」

 

 すっかり冷めてしまったコーヒーを、口直しのつもりで口に含む露伴。冷めることで生じる独特で深みのある酸味が、舌や喉をストレスなく潤してくれる。

 考え抜かれて淹れられた1杯を堪能しながら、彼は改めて高町士郎に尊敬の念を覚えた。

 

「シャマルさん、僕達は()()()()()()()()()当事者だ。

 今回はテーブルや食器で済んだが、()()()()()()()()()()()

 

 何処の誰とも知らない男がどんな被害に遭おうと知ったことではない。

 何処の誰とも知らない連中が事故に巻き込まれようと知ったことではない。

 

 だがこの岸辺露伴に純粋な敬意を抱かせるケーキやコーヒーを作る高町夫婦が巻き込まれるのは看過できない。

 この街で一番のネタ元(親友)となった高町なのはが巻き込まれるのは勘弁ならない。

 

 実際ニアミスだったのだ。

 あの氷が男性を狙ったものだったとして、もしも露伴が店内にいたのなら?

 

 世間一般的な正義感で岸辺露伴は動かない。

 しかし『彼』をの生活や興味を満たしてくれる環境を害する行為は、彼独自の行動原理を刺激するのだ。

 

「掴んでるんだろう?」「()()()

 

 その行動原理に則り、漫画家は意図的に台詞を区切りながらシャマルに言葉の圧を与える。

 

()()

 僕は()()を見過ごすことはできない」

 

「ううっ」

 

 シャマルはヴォルケンリッターや時空管理局職員としても、戦闘面や職務面でも後方支援に身を置くことが多い。

 直接的な攻撃手段を持たない訳ではないけれど、自身の有する数多(あまた)の手段が自然と適切な役割へと定まらせていたのだ。

 

 戦場や現場において後方を預かる以上、シャマルは決して『押し』に弱いというタイプではない。

 負傷や支援を軽視して強行しようとする者を諫め抑えて従わせなくてはならない場合もあり、むしろ『押し』は強い方だ。

 

 そのシャマルが武装局員でも執務官でもない、()()()漫画家の言葉と視線だけで圧倒されている。

 それは露伴がスタンド使いという特殊な能力を持っているから云々ではなく、彼の内から湧き上がる強い『覚悟』を感じ取ったが故なのだが──

 

「あんまウチの子をイジメんといてえな、露伴先生」

 

 のんびりとした関西弁が、2人の間に生じた緊張を一瞬で氷解させた。

 

 

◼️07◼️

 

「はやてちゃん!」

 

 自分でも意識してない内に涙目になっていたシャマルは、(あるじ)の登場に思わず安堵の声を上げた。

 アラモ砦の守備隊に援軍がやって来たかの如き笑顔と共に。

 

「イジメとは人聞きが悪いなァ~ッ?

 僕はただ関連してるだろう事件を、捜査協力者として聞き出そうとしてただけだぜ?」

 

 一方メキシコ共和国軍的な扱いをされた漫画家は、悪びれもせずドヤ顔正当性を主張する。

 今の流れの何処に自慢できる要素があったのか、はやてには理解できなかったので溜め息混じりの苦笑いを浮かべるだけで流すことにした。

 

「はやてちゃん、店番は大丈夫なんですか?」

 

「うん、せやからシャマルと選手交替や」

 

 (あるじ)から間接的に「露伴から避難しろ」とアドバイスされたシャマルは、安堵と申し訳なさが混在する複雑な表情を浮かべた。

 この奇人変人の代表格めいた漫画家と、主人であるはやてを単独で対峙させて良いものかどうか一瞬の葛藤があったが……はやての視線に促され、ここは素直に甘える事にした。

 

 翠屋へと逃がしたシャマルの背中を見送ると、はやては露伴に視線を戻すなり溜め息を()く。

 

「まあ……クロノ君が口を滑らす程度やから察せられるんやないかと思うんやけど、調査の優先順位としては低い方の案件やったんよ」

 

 なにせ現場には魔法などが使用された痕跡の無い『普通の事故』を示す状況しか残されていなかったのだから。

 被害者が──正確にはその遺体が──消えたという数々の目撃証言を除けば。

 そう語る時空管理局の特別捜査官は、如何にも持て余していると言わんばかりに眉を八の字に下げた。

 魔法やデバイス等を使用した痕跡が無いのなら、どんなに奇妙な話でも、それは管理局の管轄では無いのだ。

 

「そやけど」

 

 しかし露伴が求めた『共通点』は、その目撃証言の内容にこそある。

 

 

 

 最初の事例と推測されるのは、今から2年ほど前。

 

 とある神社の参道からフラリと出てきたサラリーマン風の男性が自転車に乗った女子高生と衝突した。自転車はよろめいただけで済んだが、男性は仰向けに転倒、鳥居に激しく頭をぶつけたらしい。

 打ち所が悪かったのか男性は見るからに死亡していたそうである。しかし事の重大さに慌てた女子高生が警察へ通報していた数分の間に消えてしまっていたそうだ。

 

 これを起点に、海鳴市では似た風貌の男性が関係していると思われる事故が報告されるようになる。

 

 クロノ達が確認できただけでも11件。

 ここで問題になるのが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だ。

 

 最初こそ自転車との単独事故だったが、後半になると複数台の自動車が絡む玉突き事故や、飲食店でのガス爆発といった事態にまで発展している。

 幸いなのは──重傷者こそ出ているものの、巻き込まれた人間に死亡した者はいないという点だろう。

 

 あまりにも奇妙な出来事が連続しているので、クロノ達はロストロギアによるテロも疑った。しかし魔力的な痕跡が無いのと、管理外世界の地方都市で局所的なテロを引き起こす動機もメリットも見当たらない。

 

 単に「被害者の見間違いか、事故の責任から逃れるための嘘だろう」と言われてしまえば、それまでの事件なのである。

 そのため管理局としては表立った捜査を行えなかったのだ。

(他の優先すべき事件に予算も人手も取られていたのも一因ではあるが)

 

 

 

「なるほど」

 

 はやての説明に、イスの背(もた)れへと深く沈み込んだ露伴が浅く頷いた。

 

「一連の事件を()()()が引き起こしてると、君は考えてる訳か」

 

「まあ……共通しとる登場人物が1人しかおらへんからな」

 

 そんな事件に巻き込まれた。

 露伴の口許が不敵に歪む。

 友達の家で素敵な玩具を発見した男児のように。

 

「いいじゃあないか。実に()()

 なんとも好奇心をくすぐられる事件だ」

 

 僕好みだ、と漫画家は嗤った。

 それを見たはやては「ああ、これかあ」と心の中で納得すると共に嘆息する。

 この高名な漫画家の悪い癖を幼馴染みである親友達から聞かされていたが、いざ目の当たりにすると「これは厄介な事になりそうだ」という予感がストレスに変換されていくのを感じてしまう。

 

「(せやけど、なのはちゃんとフェイトちゃんの事件を立て続けに解決しとるからなあ……)」 

 

 下手に実績があるのが、この岸辺露伴という男の困りどころなのである。

 

「で、だ」

 

 奇妙な事件に関わる事ができて一頻(ひとしき)り満足感を得られたのか、露伴は話の軌道を自ら修正しにきた。

 

「この事件の最大の疑問点は、何故あの男が奇妙な事件を引き起こすか……()()()()()

 

 イスに(もた)れたまま体を斜めに傾け、はやてに向けて指を突きつけながら本質の前提を自ら否定する。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 魔法やロストロギアの痕跡も認められない。

 そもそも魔法技術という異世界の技術をもってしても、死者蘇生という奇跡は未だ実現不可能と云われる領域だ。

 無論、それは地球の科学技術でも同様である。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 状況を鑑みるに、ジョースター家と因縁のある吸血鬼や屍生人(ゾンビ)とも違うようだ。

 

「そう、それが分からんやった」

 

 せやけど事情が変わったんよ、と管理局の特別捜査官は真っ直ぐに露伴の目を見つめて呟く。

 

「露伴先生が──魔法とは異なる別種の法則、『スタンド能力』を持つ人間が現れた」

 

 これまでは存在すらしていなかった、全く未知のアプローチ。

 それこそが事件の(キー)かもしれない。

 はやてはそう睨んでいた。

 

「──スタンド能力やったら、生き返れるんやないか?」

 

 彼女は確信に満ちた表情で、新たに導き出した推測を目の前のスタンド使いに披露した。

 

 それに対し露伴は──

 

 

 

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