漫画家と魔法少女は黄金楽土の夢を見ない   作:砂上八湖

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大変お待たせいたしました……!
(4回転サルコウからのスライディング土下座)

相変わらず不定期にはなるかと思いますが、ボチボチやっていけたらと思います。


第3話「エブリタイム・アイ・ダイ④」

 

「できない」

 

 即答。

 間髪を入れず、スタンド使いである漫画家は短い否定で魔法少女の推測を切って捨てた。

 いつもの人を小馬鹿にするような口調でも態度でもない。真剣な表情で、言葉に重みを持たせて岸辺露伴は言い切った。

 

「は」

 

 まさか即座に否認されるとは思っていなかったのだろう、はやては思わず目を真ん丸にして呆けてしまう。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()表情で。

 

 少女のそんな様子を前にしても表情や態度を崩さず、露伴は真剣な眼差しを向けたままだ。

 その露伴が語りだす。

 

「スタンド能力は本体の精神に起因する形で顕現する異能だ。

 だがその根源は()()()()()()()()()()()()なんだよ。

 近距離で絶大なパワーを振るおうと、長大な射程距離を持とうとも──

 時間を停めれようと、触った物を爆弾にできようと、鏡の中の世界を作りだせようと、全世界の二次元キャラを具現化できようと──

 超常的に見えるそれらも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ロストロギアも真っ青な能力例の羅列に疑心を抱くはやてだったが、続く露伴の言葉に聞き入ってしまう。

 

(うしな)われてしまった他者の生命エネルギーを再び満たすということは、生命エネルギーの限界を超えるということだ」

 

 それはスタンド能力を……というよりも、世の(ことわり)を──『生命』の範疇(はんちゅう)を超えた傲慢な願望の否定である。

 

 だからこそ、常人は吸血鬼や屍生人(ゾンビ)を忌まわしく、不死の究極生命体などには孤独な虚しさを感じてしまう。

 

「普段は言葉に出さないが、僕達スタンド使い──生命エネルギーで魂のビジョンを(うつ)す者は、どこか本能的に『失われた生命はスタンド能力でも戻すことはできない』と、程度の差こそあれ理解はしているハズだ」

 

 露伴は知り合いの──実に不本意ながら知り合ってしまった年下のスタンド使いを思い浮かべる。

 かつて祖父を凶悪なスタンド使いに殺され、生き返らせようと必死でキズを治し──己の無力さに膝を折った、あの心優しい少年を。

 

 

「だから、はやて君」「残念ながらキミの推測は」「ハズレだ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 スタンド使いの本能を根拠に、ヘブンズ・ドアーというスタンドの本体である岸辺露伴という男は断言した。

 

 はやては古代ベルカ式の魔術師であってスタンド使いではない。だから露伴が提唱した「スタンド使いの本能」という表現にはピンと来なかったが、魔術とは別系統の異能でも「死者の蘇生」は叶わないのだと妙に納得もしてしまっていた。

 期待していた回答を得られず、ガーデンチェアの背もたれへ倒れるように沈み込むと、大きな大きな溜め息を吐き出す。

 

「ほんなら尚のこと分からんなぁ」

 

 本来ならば氷塊なぞ降ってくるはずのない澄み切った青空を見上げつつ、はやては理解不能な現象に嘆く。

 

「魔法がある世界でも死人(しにん)を生き返らす魔法っちゅーんは伝説や詐欺でしか語られとらん。

 反則級な性質を持っとるロストロギアですら、んな効果がある代物(シロモノ)は噂レベルでも報告に上がってへんし……」

 

 自分は関与することができなかったが、幼馴染みである親友の母親が引き起こしたという事件の顛末が頭をよぎる。

 Sランクの大魔導師が次元震を引き起こすほどのロストロギアを用いても、死者の蘇生は虚数空間の奥底にあるかどうかも定かではない伝説に望みを託すより他なかったのだ。

 

 そんな偉業──いや奇跡とも呼ぶべき現象を、管理外世界である地球の……しかも一般人であるサラリーマン風の男性が何度も繰り返し引き起こせるものなのだろうか?

 

 テーブルに肩肘を付いて顎を乗せていた露伴は、悩める捜査官少女へ言葉を投げ掛けた。

 力を抜いた投球フォームのように弛く。

 

「不可能な事と分かりきってるモノに、それが実現可能かどうか考えるのは無駄無駄ってヤツだぜ~~?」

 

 思わずムッとした視線を青空から視線を漫画家へと大上段に構えた剣を振り下ろすように向けてしまうが、生憎と子供に軽く睨まれたかといって怯むような人生経験を漫画家は積んでいなかった。

 

 逆に「ニヤリッ」と返しながら言葉を続ける。

 

「だとすれば考え方を──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 人を生き返らせることは不可能だ。

 ならばあの現象は、報告されている一連の現象は何なのか?

 

「と、言うと?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 言葉の真意を探るように聞き返してみると、逆に確認を取るように問いかけられる形で返された。

 これが国語の授業中であれば低評価を付けられていたであろう返答。

 

「は?」

 

 だからはやては会話のキャッチボールとして、露伴の言葉を掴み損ねてしまう。

 確かに「前提条件を変えよう」と言われたが、それは前提条件そのものの否定ではないのか。

 テニスの試合をしていたら、こちらが打ち返したボールを隠し持っていたバットで場外ホームランを打たれた感覚だ。

 

「いやいや、いやいやいやいやいや」

 

 はやては自身の顔の前で右手を何度も振りつつ、その(にわか)には受け入れ(がた)いアクロバティックな方向転換に異を唱えた。

 実際に何度も同じ死亡した被害者が現れとるやないですか、と調査報告に則した事実で反論する。

 

「そうだ。

 だが誰も彼が『生き返っている瞬間』を見た者はいない」

 

 そうだろ? と露伴は視線だけで無言の確認してくる。

 

 それは確かにそうだった。

 いつの間にか現れ、被害に遭い、いつの間にか遺体が消失しているの流れはその都度確認されているが、被害者の男性が遺体の状態から生き返っている場面を目撃した証言や報告は現状で皆無である。

 

「……まさか、同じ顔にさせられた全く別の人間が被害に()うとる……?」

 

「その可能性も考えたんだが……」

 

 はやての(それが事実とするならば最高に胸糞が悪くなる)推理に、露伴は懐疑的な言葉の濁し方をした。

 

「個人的であれ組織的であれ、この短期間に大勢の人間を誘拐して顔を整形し、わざわざ事故に偽装して殺すメリットが分からない」

 

 人的・時間的・金銭的なコストは勿論、行為が露見して警察(あるいは時空管理局のような逮捕権を持つ組織)に捕まるリスクを背負ってまで、この一連の事件で得られるものがあったとは考えづらい。

 

 はやては数時間前に起きたショッキングな瞬間の直前を思い起こし「むう」と小狸のように唸る。

 

「ほんなら露伴先生は『アレ』が何やと考えとるんですか?」

 

 幼い捜査官の不明の正体を問いに、若い漫画家は1つの仮説を提示する。

 

「──アレは最初から『生きてはいない』んじゃあないかな?」

 

「……それは『幽霊』……っちゅうことですか?」

 

 思わず胡散臭いモノを見る目をしてしまうはやて。

 

「いや、あの質感は『幽霊』って感じじゃあなかったなァ~」

 

 なんや実際に『幽霊』を見たことがある様な口振りやなあ……とはやては思わなくもなかったが、いざ尋ねてみて「あるよ」と真顔で(こた)えられたら震えるほど恐ろしい想像をしてしまう自信があるので、そこは追求しないことにした。

 

「確かに最大の【疑問点】である『どうやって生き返ってるか』という部分に普通は目が行きがちだが、真に注目すべきは『生き返る(そこ)』じゃあなく──」

 

 そんなはやての小さな恐怖など知る(よし)もなく、露伴は推論を続けていく。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という【本質】の部分だ」

 

 乾いた唇を潤すためコーヒーを口にする。

 

「スタンド能力でもない、君達の知ってる魔法でもない、だけど神の奇跡でもないとするなら──残された可能性は1つだ」

 

 オッカムの剃刀を(なた)のように振るいながら、露伴ははやてに視線を合わせる。

 『それ』は君達も知ってるはずだよ、という言葉と共に。

 

「わたしらも知っとる……?

 それはどういう……」

 

 既に知識として存在すると指摘され困惑する魔導師は、その真意を質そうと口を開きかけるが──それは達成されなかった。

 

「どうしてェ」

 

 青空の(もと)で行われていた2人の会話に、割り込んでくるモノが現れたからである。

 

 それは目の前にいる露伴ではない、別の男性の声。

 そして少し前に聞いた(おぼ)えのある男の声。

 糾弾と憤怒と悲愴が複雑に入り雑じった他責の声。

 そんな絶叫が、はやての背後から噴き上げる。

 

「どうしてェェェ オマエらァァァッ、オレを助けてくれないんだよオオオオォォォォォォッ!?」

 

 頭部を破壊された直後に消え失せていた『草臥(くたび)れたサラリーマン風の男性』が、いつの間にか接近しており、露伴達を凄まじい形相で睨み付けてきていた。

 

「なんやてェ━━━━━ッ!?」

 

 はやては男の他責を問う叫びを聞き、初めて彼の接近に気が付いた。

 小学生の身ではあるが、時空管理局の捜査官として様々な修羅場や鉄火場を潜り抜けてきた経験から、周囲の気配には気を使っているつもりであった。

 だからこそ、男の気配が()()()()()()()()()ように感じられたことに驚愕してしまう。

 

 そして驚いたのは露伴も同様である。

 しかしその驚きは、もしかするとはやて以上かもしれない。

 なにせ(くだん)の男性が少女捜査官の背後から幽霊のように「ゆらり」と出現したのだから。それでもこの漫画家ははやて以上に様々な事件に遭遇し、切り抜けてきた『経験』がある。

 

「ッ、意外に再会が早かったなッ!」

 

 だからこそ冷静さを取り戻すのも、少女よりも早かった。

 テーブルを横に押し退け、右手の人差し指と中指を男へと突きつける。その瞬間、姿を現すシルクハット姿の白い少年のビジョン──岸辺露伴のスタンド。

 

「ヘブンズ・ドアーッッッ!!」

 

(これが露伴先生の『スタンド』……ッ!)

 

 初めて目撃するスタンドの姿に重ねて驚くはやてを脇に、対象の記憶を『本として読み取る』という能力の矛先が男へと向けられた。

 

 男の体が本となって意識を失う。

 そこから情報を読み取って事件は解決。

 そういう流れ。

 

 ──本来ならば。

 

「クソッ、やはり『本』にはならないか……ッ!」

 

 予想はしていたのか、それでも眼前の現実に対して露伴は小さく悪態を()いてしまう。

 

 スタンドの射程圏内に捉え、確実に能力が発動した感覚はあった。だが男は『本』になることなく──幽鬼めいて2人を睥睨していたのである。

  

  

    

    




2/17 加筆修正
3/9 男のセリフを修正
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