漫画家と魔法少女は黄金楽土の夢を見ない   作:砂上八湖

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話の展開上、他のエピソードに追加描写や伏線っぽい情報とかを色々と加筆修正してたりしてます。

書きながらプロットを修正しているせいです。
読みにくい作品になってしまって申し訳ないです……




第3話「エブリタイム・アイ・ダイ⑥」

 

 

「はやて君! シャマルさん!」

 

 空中に無数の赤い飛沫(しぶき)が吹き上がる。

 思わず露伴が2人の名を叫ぶ。

 はやてとシャマルの2人が肉の壁となったため(幸運なことに)暴発した魔力糸の斬擊から露伴を護ってもらった結果になったのだ。

 それに気が付いたからこそ、この漫画家は腹が立った。

 はやて達にではない。

 あのコマ斬れになった男にでもない。

 

「(なんというザマだッ! この岸辺露伴がッ、どんな形ではあれ何度も『子供』に護ってもらうとはッ)」

 

 謎の球体に襲われ命を失いかけていたにも関わらず、露伴を現場から遠ざけようとした少女。

 

 スタンド能力によって肥大化した飛礫(ひれき)から、身を呈して露伴を護ろうとした少女。

 

 位置とタイミングの問題とはいえ、暴発した魔力の刃から露伴を護ったのもまた小学生の少女だ。

 

「(情けないッ、それでも『大人』か岸辺露伴ッ!!)」

 

 腹を立てたのは、自分自身に。

 気が付けば「いつの間にか護られる対象にされてしまっている」自分の不甲斐なさにである。

 

「冗談じゃあないぞッ!

 この岸辺露伴が、子供相手に『借り』を作ったままでいられるかァーーッ!」

 

 臨戦態勢で足を踏み出す。

 確かに男は『不幸な事故』で切り裂かれバラバラとなった。しかしあの男は少し前に目の前で頭を砕かれても、ああして再び現れたのだ。

 ()()()()()()()は、赤黒い大量の液体と共に地面へブチ()けられていたものの、油断はできない。

 

 倒れかかる2人の背を露伴はガッシリと受け止めた。

 返り血に汚れてしまうが、彼は気にも留めない。

 

「ろ、露伴、せんせ……」

 

 負傷によるショックによるものだろう、2人の意識はやや朦朧としていた。

 抱き止めた漫画家の名を呼ぶ少女の声は、震えてか細い。

 その幼い魔法使いとその従者には胴体や手足だけでなく、顔にまで深い裂傷が認められた。

 露伴の顔が思わず歪む。

 

「無理に喋るんじゃあない。ヘブンズ・ドアー!」

 

 呼び出した白き少年のビジョンが虚空に絵を描いた。

 露伴の予想通り男には通用しなかったが、はやてとシャマルには問題なく効力を発揮する。

 

「少しの辛抱だ、はやて君。先にシャマルさんを動けるようにするぞ……【傷口を筋肉で締め付けて出血を抑える】」

 

 ボクサーを代表として、一部の格闘家は無意識に筋肉の収縮や負傷箇所への血液量をコントロールして出血を抑えることがある。

 それをスタンドによる能力──『本』にした肉体に【命令】を直接書き込むことによって、意図的に引き起こした。

 しかし傷口を完全に塞ぎきることはできない。あくまで「これ以上の出血によって意識を失う」を防ぎ、次の(アクション)を打ってもらわなければならないからだ。

 

「う……ッ」

「動けるかシャマルさん? すまないが、はやて君の治療を頼む」

 

 シャマルがヴォルケンリッターの中でも後方支援、とりわけ回復魔法の使い手だというのは顔合わせの際に自己紹介を受けていた。

 ならば真っ先に回復要員を復帰させて、彼女の主を治療させてやらねばならない。

 

「ッく……ありがとうございます露伴先生……

 大丈夫ですよ、はやてちゃん……すぐ治します……!」

 

 出血は抑えたとはいえ、全身に(ほとばし)る無数の激痛まで引いたわけではない。しかしそれを意識の外に圧し込めて、湖の騎士シャマルは古代ベルカ式の魔法陣を展開させ魔力を練っていく。

 

「早くしてくれよシャマルさん。

 どうやら……よっぽど僕達に『助けて』もらいたいようだ」

 

 頬を伝う汗のように、露伴の言葉に焦りが滲む。

 彼の視線は、地面に散乱していた()()()男の肉片を収めていた。

 いや、それはもはや『肉片』ではない。

 地面へ溶けるように、空中へ(ほど)けるように、バラバラだった男の肉体は薄暗い(もや)の如く変質し、流れ、少し離れた場所に集まり、渦を撒く。

 

 そして靄だった『ナニか』が少しずつ『男』を取り戻していくではないか。

 内臓が、脳が、目玉が、骨が、神経が、筋肉が、皮膚が、体毛と共に服までもが『再生』──いや死ぬ前へと『逆再生』されていく。

 正に「不老不死」と呼んでも差し支えない光景だが、そこに感じ入るべき神秘性も、奇跡の尊さも無かった。

 

 ただただ、ひたすらに生命が冒涜されているという(おぞ)ましさだけが残る。

 

静かなる癒し(ヒール)……!」

 

 震える声で魔法名が唱えられるとクラール・ヴィントがエメラルド色の魔法光を放ち始め、シャマルとはやてを素早く──しかし柔らかく包み込むように膨らんでいく。

 緑の煌めきと暖かな微風が2人の髪を揺らし、服や肌に付着した血が浄化され、凄まじい速度で傷が塞がっていった。

 逆再生しているようにも見えるそれはしかし、男のものとは対照的に清澄(せいちょう)な光景である。

 

「わたしらは勘違いしとったみたいや……」

 

 殆どの傷が(ふさ)がった状態になると、はやては喉の奥から絞り出すように言葉をこぼしはじめた。

 

「『助け』を求めとるから『被害者』やと考えとったけど、こうなってくると話は別や。

 ただただ『悪意』無く被害を拡大させていく『加害者』……ちゃうな、アレはまるで『人の形をした災害』や……!」

 

 こんなんどうやって助けたらええんや……!と幼い特別捜査官は、冒涜的な『再生』を終えつつある男を視界に収めながら嘆く。

 意思はある。会話能力もある。だが今の精神状態では対話も難しい。仮に対話が成立したとしても、偶発的に「自らの死」を呼び込み周囲への被害を拡大させていく『存在』と社会的な共存が可能なのか?

 果たして()()を救うべきなのか?

 ……いや、そもそも()()は『生命体』と呼べるのか?

 その生理的な悍ましさは、かつて仲間達と共に葬った「闇の書」の防衛システムを彷彿とさせ──

 

「……倫理的に迷うのは分かるけどな、はやて君。

 今はちょいと後回しにしてくれないか……?」

 

 スタンド能力を使うまでもなく少女の表情から心情を察した露伴だが、とても看過できない事態が進行しているのも察してしまい、少女を現実へと引き戻そうと声を掛けた。

 

 再生を終え、ゆっくりと顔を上げつつある男性の背後。

 ちょっと離れた場所にあった()()

 ほんの少し傾斜している坂の上に停車する──

 

「あのガスボンベを何本も載せた業者のトラック、さっきの衝撃波で荷台が壊れかけているぞ……ッ!!」

 

 露伴が指摘した通り、「バキンッ」「バキンッ!」と壊れて歪んだ荷台のロックが、負荷に耐えかねてカウントダウンめいた音を上げている。

 家庭用に設置される全長1メートルほどのプロパンガスのボンベを固定していた器具も、衝撃で『偶然一緒に』破損したらしく、荷台の上でグラリグラリと大きく揺れていた。

 

「助けてくれヨォォォ、頼むからアァァァ」

 

 ドス黒い光を携えた瞳が正面へと向き直り、自身を救済してくれるはずの3人を捉えた。

 勿論、背後で起こりかけている「惨劇」の予兆に気付いている節はない。

 シャマルには予言や予知の能力など無いが、転がり落ちたガスボンベの群れが男に衝突し大爆発を起こす「未来」を容易に思い描くことができた。

 

 露伴は大量に冷や汗をかきながら戦慄する。

 近距離の未来にもだが、遥か先の未来に起こりうることを想像して。

 

「(被害を引き起こすペースが急速に早まっている……ッ!!

 しかも引き起こした被害が、次の被害に連鎖しているんじゃあないのか……ッ!?

 まさか『成長』している……?

 僕達という『特殊な能力を持った存在』と出会ったことで……ッ!?)」

 

 もしもこのまま男が存在し続け──成長を続けたのなら。

 彼が死ぬ度に被害はどんどん拡大していき──冗談でもなんでもなく、本当に街ひとつが壊滅する事態になるかもしれない。

 いや、下手をすれば世界が滅びる原因にも……!?

 

「ど、どうするんですかッ

 このままじゃあ、また同じ様なことが……いえ、それ以上のことが……ッ!」

 

「攻撃魔法を撃ち込んでも『生き返る』だけやろうし、多分あのボンベを爆破させてまうだけやろな……」

 

 再生したてで上手く足を動かせないのか、ジリジリと近付いてくることしかできない男を前に、シャマルとはやては焦りを隠せずにいた。

 

 爆発の影響による物的損害は封時結界で防げる。自分達は魔法障壁(シールド)で直撃は避けられるだろう。しかし『被害』の本命が爆発ではなく、そこから派生する副次的なものが──ガス爆発より規模の大きな「被害」が発生したら?

 即座に対処するのは難しいかもしれない。

 つい先日なのは達と観たホラー映画のように、災厄が連鎖的に発生して襲いかかってくるのを連想してしまう。

 

「あかん、もう周囲にあるもんが全部『被害』を引き起こす凶器に思えてきた……!」

 

 思考が堂々巡りに陥り、正解が分からなくなる。

 これでは下手に手が出せない。

 

 その瞬間、バキィッ!と激しい破砕音が響き渡り、ついに荷台のロックが『不幸にも』開放された。この振動がとどめとなり、荷台の上で揺れていた全てのガスボンベが道路へと落下していく。

 落下の勢いは緩やかな傾斜によって留まることを許されず、そればかりか坂を下ることで勢いを異様に増しているではないか。

 

「来たぞオオォォォーーッ!! どうするんだ、はやて君ーーーッ!!」

 

 正常な歩き方を取り戻した男が迫る。

 しかし更にその背後から、ガスボンベの形をした何本もの「災厄」が凄まじい勢いで転がって来ていた。

 

 どうにか対処しなければ。

 まさに一刻の猶予もない。

 

「どうする言うても──!」

 

「はやてちゃん!」

 

「はやて君ッ」

 

「せめて……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ッ!」

 

 ガランガランッ!!とボンベが跳ねながら転がり落ちてくる。

 あと10秒もしない内に男に直撃し、はやて達が想像している通りの惨劇が起き、巻き込まれるだろう。そして恐らく、間を置かずに次の被害の準備が始まるはずだ。

 

 封時結界を解除して逃げることは出来ない。

 そんなことをすれば海鳴市に大損害が出る。

 この男を野放しにはできないのだ。

 

「でもそんなこと言ったって……ッ!」

 

「──いや

 考え方は合ってるぞ、はやて君」

 

 露伴は思い出していた。

 男が再び現れた際、はやてから念話で(しら)せを受けたシャマルが、どうやってここへ現れたのかを。

 

 だからこそ今まで身を炙っていた焦燥感は急速に熱を失い、開いた口から冷静な言葉を紡ぎ出していく。

 

「周りに何もなければ、()()()()──」

 

 3人へと近付きつつある男が、昂り極まった感情と言葉と共に右腕を振り上げた。

 

「イイからさっさっと俺を助けねぇかッ このクズ共がよオオオオーーーッッ!!!!!」

 

「何を急に落ち着いとるんや露伴先生ーーッ!?」

 

「ボンベがッ もう間に合わないッ」

 

 更に(さかのぼ)って露伴は思い出していた。

 この事件に巻き込まれる直前。

 翠屋のオープンテラスで1人静かにコーヒータイムを楽しもうとしていたら、はやて達に同席(邪魔)された時のことを。

 

 その時に思い浮かべていた『とある言葉』を。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 露伴は自らの能力(スタンド)『ヘブンズドアー』を出現させ、その指先を指揮棒(タクト)のように素早く振るう。

 しかし対象とされたのは効果の無かった男でも、無機物で対象外のガスボンベでもなく──

 

「あッ」

 

 ()()()()()()()

 

 パラリと、湖の騎士の顔に『ページ』が開く。

 

「失礼。貴女が焦って『失敗』するかもしれないから、あえて【命令】させてもらう」

 

 そんな「断り」を入れながら、既に露伴は開いたページに【命令】を書き入れている。

 その内容に従って、シャマルの身体が自身の意思に反して強制的に動かされていった。

 

「こッ これはッ」

 

 瞬時に魔力が練り上げられ、愛機(デバイス)である『クラールヴィント』が起動する。緑色の魔力光と共に4つの指輪が振り子形態(ペンダルフォルム)に変形し、紐状となった姿が宙を舞う。

 

「(男の人もボンベも、まとめて拘束して止める気なんかッ!?

 駄目やッ、さっきの二の舞になってしまうッ!)」

 

 はやては露伴の失策だと判断するが、彼女の思考に反してクラールヴィントは男にもボンベにも向かおうとしない。

 書き込まれた【命令】を遂行するため、クラールヴィントは紐状の部位で大きく、大きく輪を作っていた。それははやてもよく知る、ある『魔法』を形成するためのもの。

 

「あン?」

 

 その魔法が完成し、輪の中に魔力的な輝きに満ちた鏡面……『渦』が発生していた。

 しかし男にはそれが何なのか理解できない。

 自身が既に理外の存在であるというのに、なまじ知性と自我があるため、理解できない現象を前に足を止めてしまった。

 

 だから、猛然と転がり下ってきたガスボンベの集団に次々と追突されてしまうこととなる。

 

「あッッ!」

 

 その小さな叫びは男のものであったか、はやてのものであったか。

 全てのガスボンベからクリーンヒットを受けた結果、男は勢いよく『押された』。

 いや、クラールヴィントが作り出した輪の中──異なる空間同士を繋げる魔法《旅の鏡》の入口へと『押し込まれた』。

 

 男を押し込んだガスボンベの団体も、間を置かず続々と《旅の鏡》の中へと殺到していき姿を消していく。

 

「は」

 

 そうして目的を果たしたクラールヴィントが《旅の鏡》を解除して待機状態へと戻ると、先程までの喧騒と焦燥が嘘のように消失しており、一見すると最初から何も起きていなかったかのように思えた。

 

 そう感じてしまうほど、実にあっさりと……いや、キレイさっぱりと事態が収まっていたのだ。

 

「な、なにが……なにがどうなったんや……」

 

 一転して呆然とした面持ちで、はやてが呟く。

 あまりの落差に、つい数秒前まで焦って(わめ)いていた自分が恥ずかしくなってしまうが、未だ顔の『ページ』が開いたままになっているシャマルの姿を視界に収めると、すぐさま思考回路を切り替えた。

 

「死ぬ度に人や周囲への被害を拡大させていくのなら」「『誰もいない場所』に移動させればいい」

 

 歩道に座り込んだ露伴は、セリフを区切りながら空を見上げる。

 

「ただ僕自身は『その場所』の正確な位置を知らないから、そこはシャマルさんの経験に任せたがね」

 

 そして深い溜め息を()くと、子供相手に『借り』は作りたくないくせに子供相手だろうが『貸し』を作るのに躊躇いの無い漫画家は「あ~あ、そろそろ『向こうの世界』が見てみたいなアァ~~?」と、ワザとらしい口調で見返りを要求し始めた。

 

 そのセリフを聞いて、ようやく危機的状況が解決したのだと実感できたはやては、露伴のそれとは異なる種類の溜め息を吐き出しつつ「それは流石に、わたしの一存では決めれんなあ」と大人の対応を返すに留める。

 

 露伴が露骨に顔をしかめて不満を表すと、それ以上に不満そうな声が横から差し込まれた。

 

「あのォ~! 早く元の状態に戻して欲しいんですけどォ~ッ!?」

 

 ヘブンズドアーの効果で身体の動きが固まっているシャマルの、情けないトーンで主張された抗議の声だった。

 

 

 彼女の顔に開いたままの『ページ』には

 【『無人世界』へ転移する魔法を男の目の前に展開する】

 と記入されていた。

 

 

 

 

 




次回、第3話のエピローグです
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