漫画家と魔法少女は黄金楽土の夢を見ない   作:砂上八湖

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第3話のラストです。

想定してたより長くなってしまいました……
短くまとめるって難しいなあ……


第3話「エブリタイム・アイ・ダイ⑦」

 

◼️10◼️

 

 地球とは異なり、時空管理局によってナンバリングもされていない真の意味での「管理外世界」。

 

 かつて「『闇の書』の呪い」に蝕まれていたはやてを助けるべく、シャマル達ヴォルケン・リッターが魔力蒐集を試みた次元世界のひとつ。

  

 広大な世界だが人間は存在しない。

 かつて存在していたと言う痕跡すらない。

 ただただ大陸規模の密林と岩山に覆われた世界。

 いわゆる『無人世界』のひとつである。

 

 しかし数多(あまた)ある『無人世界』でも、ここは別格だった。

 何故なら、この世界はとても人間が住める環境ではなかったのだ。大気の成分こそ地球やミッドチルダに近いものの、高純度の有害物質が広範囲にわたり大地から自然発生し続けているためである。

 そんな苛烈な環境であっても、(たくま)しく順応できた動植物は存在し、それらのみで生態系が占められていた。

 

 だからこそ、シャマルは「この厳しい環境を生き抜く生命体であれば保有する魔力も多いのではないか?」と予想して、持続的に解毒魔法と回復魔法を自身に掛けながら蒐集しようとしたのだ。

 

 しかし結果は期待外れに終わる。

 

 彼女が獲物に選んだ巨大生物──全長10メートルはあろうかという飛蝗(バッタ)と狼と樹木が組合わさったような複雑怪奇な生物──は、確かに膨大な魔力を有していた。

 ところが、この世界特有の有害物質に適応した身体から生じる魔力には、猛毒に近い性質が含まれていた。

 それは過去の改造によって性質を歪められ呪物(じゅぶつ)に近い存在となっていた『闇の書』にとっても受け入れられない悪性を伴うものだったのだ。

 

 自らを解毒・回復させながら散々に苦労して目標を無力化、拘束、魔力蒐集しようとしたのに、肝心の『闇の書』からまさかの「蒐集拒否」である。

 シャマルが感じた徒労感がどれ程のものであったかは想像するに(かた)くない。

 なんのリターンもなく、虚無を抱えたままシャマルはこの次元世界から退去した。

 

 記憶から消したいほど強く記憶に残る『無人世界』。

 

 露伴によって書き込まれた【命令】によって男を『無人世界』へ飛ばす時、シャマルの経験と記憶が無意識に選定したのは、苦々しい思い出しかない場所だった。

 

 

 そんな世界の適当な座標……赤道直下のジャングルにも似た場所の上空に、男は強制転移させられていた。

 一瞬の空中浮遊に驚いた直後、地球より少し強い重力に引かれ、厚い枝葉を突き破りながら地面へと落下する。

 

「ぐええっ」

 

 アヒルの首を捻ったかのような声が喉の奥から漏れ出す。幸か不幸か首が折れなかった男だが、冷静に「何だ、ここは何処(どこ)だ」と考える暇もなく、上から()()が次々に押し掛けてきた。

 男と共に『運悪く』送り込まれる形となったガスボンベ8本である。

 その初弾が男の背中へと着弾して背骨を砕いた。2発、3発、男の手足を砕き、衝撃で変形しながら近くに転がっていく。男の体に重なったボンベと落下してきたボンベが衝突し、鈍い金属音と共に両者が破損する。

 

「あが」

 

 最後の1本が落下して、破損したボンベに激突した。

 男の暗くなりかけていた視界に、金属同士が擦れあって生じた火花が見えた。

 その瞬間、漏れでて周囲に満ちていたガスに引火し、大爆発が起きる。

 爆発による熱と、衝撃波と、砕けた金属片によって男は粉々となって死んだ。

 

 しかし男は《死ぬ度に周囲の被害を拡大させて生き返る現象》へと作り替えられた存在である。

 はやてや露伴達と対峙していた時と同様に、すぐに復活していく。

 

「ここは」

 

 ようやく自分の置かれている状況が変化していると認識できた男は、露伴達を探そうと周囲を見渡そうと首を動かかす。

 

 次に視界が捉えたのは、馬に似た生物が大きく開けた(くち)だった。

 生き返ったばかりの男は頭部を(かじ)り取られて再び死んだ。

 ちなみに男に噛み付いた馬モドキは、爆発によって周囲を舞っていた「燃える枯れ葉」が体毛に『偶然』燃え移り焼け死んでしまっている。

 

 爆発で乱暴に切り開かれた森の中で復活した男は、今度こそ現状を把握しようとするも、自然発生している高濃度の有害物質が即座に健康障害を引き起こした。

 平衡感覚が失われ、やや焦げた大地に倒れ込む。

 体内の臓器という臓器から出血し、身体の穴という穴から流血し、苦痛に悶えながら男は死亡した。

 

 復活した。

 蜘蛛みたいな多足生物に生きたまま体液を吸われて死んだ。

 蜘蛛は男の魔力に反応した自身の胃酸が『運悪く』強化され、自らも溶かしてしまって共に果てた。 

 

 復活した。

 やはり有害物質の影響を受けながらも、少しだけ移動ができた。

 貝のような肉食植物に捕獲され、葉内で溶かされながら死んだ。

 人間の血液を摂取するのが初めてだった肉食植物は、その血液成分が毒だったのか根まで枯れて朽ちた。

 

 復活した。

 死んだ。

 

 復活した。

 死んだ。

 

 復活した。

 死んだ。

 

 復活した。

 死んだ。

 

 ……。

 それを何回繰り返しただろう。

 

 やがてこの世界の動植物達は、この男を「近付けば命を失う危険な存在」だと本能で理解したらしく、もう補食しようとするモノはいなくなっていた。

 

 ある程度意識を長らえさせることが出来るようになったものの、別に耐性が付く訳でもないため、生き返る度に大量の血を吐きながら、男は転移した場所から然程(さほど)も移動できないでいる。

 

「た゛れ゛か゛ぁ゛ッ !」

「た゛れ゛か゛い゛な゛い゛の゛か゛よ゛オ゛ォ ォ ォ ォ ッ!」

 

 ゴボゴボと血の泡を吹き出しながら、男は血涙を流す。

 

「た゛れ゛て゛も゛い゛い゛か゛ら゛、オ゛レ゛を゛た゛す゛け゛て゛く゛れ゛よ゛ォ ォ ォ ォ ォ ォ ッ」

 

 地面を両手で()(むし)りながら、地面を這い、円状に吹き飛ばされて覗けるようになった空へ虚しく叫ぶ。

 

 蒼かった空が暗く滲んでいく。

 1日の終わりが来たのだ。

 たった独りの夜が来るのだ

 

「孤゛独゛た゛よ゛オ゛ォ ォ ォ ~~~~ッ!!!」

 

 文字通り血を吐くような男の叫びは、無情に夜天に響いて散った。

 

 

 そうして──

 何十日、何百日と同じように死んでは復活を繰り返し、

 最初の地点から少しも進むことも出来ず、

 あまりに過酷で、

 あまりに徒労で

 あまりに孤独で、

 誰も助けてくれそうもないので、

 

 やがて

 男は考えるのを

 ()めた。

 

 

◼️11◼️

 

 封時結界を展開していたこともあり、衝撃波などで破損した家屋や街路樹も結界解除後は元に戻っていた。

 

 ただ別次元世界へ勝手に送り届けてしまったガスボンベだけは現実世界に戻ることはできず、ガス会社の配達員が「ガスボンベ泥棒だァ~~ッ!?」と大騒ぎすることになったのだが。

 

 そんな多少のトラブルは残ったが、発端ともいえる氷塊落下事故は「稀によくある」海鳴市の珍事の1つとして日常の経過へと溶けていった。

 壊れた歩道も早急に補修され元通り。

 そうして表面上は何事もなかったかのように、2日ほどが経過した。

 

「美味い……」

 

 露伴は、今日も翠屋のオープンテラスでコーヒーを嗜んでいる。

 親友(なのは)の父であり、店でコーヒーを担当している士郎によると「豆の配合と焙煎の時間を変えてみた試供品」とのことだったが、これもまた偏屈な漫画家の舌を唸らせる見事な味であった。

 

「究極のコーヒーを淹れる男の漫画とか描いてみても面白そうだなあァ」

 

 ふと思い付いた構想が思わず口を()いて出た。

 足元に置いていた鞄からスケッチブックを取り出し、さっそく浮かんだイメージをスケッチに残そうとして──

 ピタリと手が止まる。

 

「……とっても親切な僕が『眼鏡屋に行って視力を矯正する手間』を省いてやるけどなァ~~?

 他にも空いてる席があるんだぜ?」

 

 少し前にも似たような忠告をした気もするが、その時とは異なり口調から遠慮というものが消え失せている。

 そしてそれに応える側は、以前と同じような(にこ)やかさを返してきた。

 

「まぁまぁ、ええやないですか」

 

 ただこちらも前回と違うのは、露伴と同席しているのがはやてひとりだけという点だろう。

 テーブルの上にあるのはパティシエ桃子特製のバナナミルクケーキと無糖のアイスティーだ。

 

「……食事はみんなで食べた方が美味い、だったか?」

 

 左の眉を大きく跳ね上げながら、露伴はソコから続くであろうセリフを先回りして置きに来る。

 

「そうやでー。露伴先生も分かってきたやないですか♪」

 

「繰り返すが、親切な僕が手間を省いてやっただけだ」

 

 フンッ、と漫画家は不服そうに鼻を鳴らす。

 ニコニコ顔の特別捜査官を無視することにしたのか、スケッチブックに鉛筆を走らせようとして……再びその手が止まった。

 顔の角度を僅かに動かして、チラリとはやてへ視線を向ける。

 

「……どうかしたのか?」

 

「ひえッ!?」

 

 まさか岸辺露伴という人間から気を遣うようなセリフが飛んでくるとは想像してなかったため、どこか悲鳴に近い驚嘆が幼い唇から(つむ)ぎ出されてしまう。

 真昼の路地裏で幽霊と遭遇した場合であれば、同じような声が出てしまうのではないか。

 それほど予想外な質問だった。

 

 さすがにその反応に思うところがあったのだろう、露伴は明らかに不機嫌そうな表情をはやてに向けてみせる。

 

「オイオイオイオイオイ」「何だァ、その態度は?」「せっかく人が親切心で気に掛けてやったってーのに」「傷付くなァ~~ッ」

 

 テーブルに右肘をつき、その手に自身の顎を乗せながら不満を並び立て始めた。

 こうなると非常に面倒臭い。

 

「ひえええ、ごめんて露伴先生!」

 

 慌てた風におちゃらけて弁明するはやてだったが、ヘソを曲げた漫画家の視線から「機嫌の悪さ」以外の物が含まれているのに気が付いた。

 お巫山戯(ふざけ)の雰囲気を引っ込めると、視線をテーブルの上に鎮座したケーキへと落とす。

 

「そない顔に出とった?」

 

 露伴とはやてとの付き合いは短い。

 そんな露伴にも気取られるほど隙を見せてしまっていたということだろうか。はやては不安そうに呟いた。

 

「ふん」

「ただでさえ美味い桃子さんのケーキを……それも誰かと一緒に食べる食事は美味いと()()()()で語っていたキミが、さっきから一口も食べてないからな」

 

 言われて見てみると、確かにケーキは手付かずだ。

 なんならフォークすら入れていない。

 

「なるほど、気付かん内にサインを出してしまっとったみたいやなあ」

 

 降参、とばかりにはやては両手を挙げた。

 

「で、一体どうしたんだ……というか、まァ、この間のことか」

 

 改めて尋ねてはみたものの、直近の心当たりといえば『死ぬ度に被害を大きくしていく男』のことしか無い。

 はやても苦笑しながら「せやね」と首肯した。

 

「……露伴先生が機転を利かせてへんやったら、今ごろわたしらは──海鳴市がどうなっとったか分からん」

 

 けどな、とはやては言葉を区切る。

 

「理由までは分からんやったけど、あの男の人も自分から()()なった訳とは違うと思うんよ。

 明らかに自我が……対話も可能やったし……助けを求めとった」「ホンマに、ホンマに助ける方法は無かったんやろうか? わたしは、わたしは……」

 

「はやて君……」

 

「……露伴先生も見抜いとったけど……

 あの時、わたしは『本当にこの人を助けるべきなのか?』『そもそも生き物と呼べるのか?』と考えてしもうとったんよ」

 

 声に湿り気が滲み始める。

 

「わたしは時空管理局の特別捜査官や。その責任がある。

 助けを求めとる人を、見捨てたら、アカン、のに……わた、しは……」

 

 ケーキに注がれていた視線が、更に下方へ沈んでいく。

 角度的に、もう露伴から少女の表情を窺い知ることはできない。

 いくら女性の機微に疎い露伴であっても、影の奥にある表情は想像できた。

 だからこそ彼は言う。

 

「下らない」

 

「へ」

 

 再び予想外な声が掛けられ、はやては思わず呆けた顔で視線を上げてしまう。

 

「く、下らないって」

 

「ああ」「何度だって言ってやるぞ、はやて君」「()()()()()()()

 

 管理局の職員としての責任などない人間から好き放題に言われ、はやての心の底から沸騰する感情が噴き上がりかける。そのタイミングを見計らったように、露伴は続く言葉を畳み掛けた。

 ピシィッと、左手ではやてを指差す。

 

「いいか」「まず勘違いしてるようだから、親切な僕が手間を省いてやるがな」

「まず君は時空管理局の人間である前に」「そもそも未成年の、しかも小学生の女の子だ」

 

 なのはとフェイトの顔を思い浮かべながら、大人は語る。

 

「そんなガキに人間ひとりの生命(いのち)に責任を負えって?」

()()()()()()()()

「そんなものは大人が負うべきものだ。僕から言わせてもらえば君もなのは君達も()()()()()()()()()()()()()

「だから『下らない』と言ったんだ」

 

 君が国を背負う王様なら分からなくもないがねと、そう放つ露伴の声には苛立ちにも似た怒りのようなものが含まれていた。

 子供らしからぬ責任感に悩むはやてに苛立っているのかもしれないし、子供に庇われ続けた自分を思い出しているのかもしれない。

 

「……露伴先生」

 

「大体」「()()の命の責任と言うがね、はやて君」

 

 露伴は視線をスケッチブックに戻すと、アイデアスケッチのために両手を動かしていく。

 

「あの時は言いそびれてしまったが、奴は『人の形をした災害』のような存在になってしまっているんじゃあないかな。

 少なくとも2回目に死んで以降からはそうだろう」

 

 だから。

 

「台風を爆弾で吹き飛ばすことができないように。

 地震をパンチで止めることができないように。

 僕達と会った段階で、人の手では『救いようがない』存在だったんだよ」

 

 言い含めるように。

 言い聞かせるかのように。

 

「そうやろうか……そうなんかもなぁ……」

 

 どうしようもなかったのだと(さと)され、はやては迷いながらも受け入れた。

 それでも、その目には寂しさが浮かんでいた。

 

 それを横目で見た露伴は、ワザとらしく、重く大きな溜め息を吐いた。

 

「『今の』はやて君には救えなかったかもしれないが、『未来の』君はどうか分からないだろ?」

 

「え?」

 

「噂に聞くロストロギアには、変質した人間を戻せるのがあるかもしれない」

 

 再び視線を外し、独り言のように想像上の未来を語り描く漫画家。

 

「幸いなことに奴は『死なない』んだ。救うチャンスは残ってるんじゃあないか?」

 

「未来の……そうか、そやな。そうや!」

 

 少し逡巡した後、はやての声に張りが戻る。

 目にも活力が復活していた。

 それは吹っ切れたというより、道を見付けたというより、進む方向が分かったという感じではあったが。

 それでもはやてにとって、自身のやるべきことのひとつが明確に定まったと感じた瞬間ではあった。

 

「露伴先生、わたしは諦めんで!」

 

 あの男の人を助けてみせるで!とガッツポーズを作り、だったひとりを相手に意気込みを表明してみせる。

 

 将来的にロストロギアを扱う部署を立ち上げ、人の手に余る状態に苦しむ……あの男のような人達を救う活動を目指すのも良いのではないか。

 管理局が(救助目的とはいえ)ロストロギアを使用するのは難しそうだが、やるだけのことはやってみよう。

 

 はやては氷が溶けて少し薄くなったアイスティーをゴクリと飲むと、張り切ってバナナミルクケーキを口に運んでいく。

 

「ああそう」

 

 一方、そんな少女の決意表明には淡白な反応だけで済まし、漫画家はスケッチを続ける。

 

 だがその口許はほんの少し、安心したかのように、

 僅かに緩んでいるように見えた。

 

 

 

 

 

←─To Be Continued……




「EVERY TIME I DIE(エヴリ・タイム・アイ・ダイ))」

ニューヨーク州バッファロー出身のサザンロックハードコアバンド。
通称「ETID」
攻撃的なギターリフと疾走感あふれるロックサウンドが特徴的。
メンバーにイラストレーターやプロレスラーがいたりしたのも特徴的。
20年以上活動していたが、残念なから2021年末に解散を発表。
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