漫画家と魔法少女は黄金楽土の夢を見ない   作:砂上八湖

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明けましておめでとうございます(2週間遅れ)

今年もよろしくお願いいたします!

……すいません、大変長らくお待たせいたしました(4回転トループ土下座)
新作書きたい欲が働いたり、他作品の続きを書いてたり、まあ色々ありまして……

今年も頑張りますです……


第4話「アリス・イン・チェイン➀」

 

■01■

 

「露伴先生へのお土産、何が良いかなあ……」

 

 腕を組み、頭を右に左に捻りながら喉の奥から絞り出された言葉は、心の底から真剣に悩んでいる色合いが濃かった。

 

「ミッドでは一般的な生活用魔導具であっても、管理外世界への持ち出し──ましてやそれを現地の一般人へ譲渡する……なんて流石に許可されないだろうしな」

 

「物凄く不貞腐(ふてくさ)れてたから、生半可(なまはんか)なモノじゃあ納得しないかもね~」

 

 なのはの苦悩に、次元航行艦アースラの艦長クロノは管理局の定める規律がハードルになることを示し、その補佐官であるエイミィは課せられたミッションの難易度がべらぼうに高いことを示してみせる。

 

「ううう~~っ!?」

 

 これは所謂(いわゆる)「無理ゲー」という奴なのではなかろうか。

 なのはが頭を抱えて唸り始めてしまった。

 

 2人にその気は無いのだが、アドバイスしたつもりで自然となのはを追い込んでしまっている。

 あのヘソ曲がりな漫画家のネジ曲がった機嫌を直す未来の苦労を考えると彼女の苦悩も理解できるのだが、如何(いかん)せん「管理外世界・地球」というハードルが高過ぎる上、自身の立場もあって「見て見ぬフリ」をすることもできない。

 

 結局、なのはの「お土産センス」が試されるのだ。

 

「……もういっそのこと露伴先生本人を連れて行って説明させれば簡単なんだけどなあ」

 

「その連れて来ても良いかどうかの判断をしてもらうために、一度本部へ直接報告しに行くんじゃあないか」

 

 忘れたのか、と呆れたようなクロノの指摘に「分かってますぅ、言ってみただけですぅ」と頬を膨らませる漫画家の親友。

 

 苦笑しあう友人達を視界の端に収めながら、なのははつい今しがた耳にしたワードを頭の中で反芻してみる。

 

 本部への直接報告。

 

 岸辺露伴──スタンド能力者という魔法とは異なるチカラを有した人間達の存在についての報告(そして彼が絡んだ怪事件の内容と解決の報告)、現在取り扱っている捜査についての経過報告、地球で逮捕した犯罪者の護送などが、今回ミッドチルダにある時空管理局本部へ向かう理由である。

 

 諸々の報告に関しては、本来だと次元間通信や報告書の提出で済むのだが、ことが「スタンド使い」という未知の存在に関することもあり、機密性を考えて直接出頭して報告するようにとの通達が来たのだ。

 

 上層部は「スタンド」という特殊能力(レアスキル)に強い関心を示しており、自分達の陣営に引き込めるかどうかの判断をするため──露伴から再三に渡って申請されているミッドへの渡航許可を出すか否かの判断も兼ねて──現場関係者から(おそらく第三者の目や耳が介在しない場所で)話を聞きたいのだろう。

 

「(漫画のネタになるようなら協力することもあるかもしれないけど……

 あのプライドの高い……ものすっっごく高い露伴先生が、誰かの命令を聞かなくちゃあならない『上下関係のある組織』に入るなんて思えないの……)」

 

 透けて見える上層部の思惑に、少女は実体験に基づく素直な感想を抱く。

 偉ぶって命令してくる管理局の高官に「だが断る」と『ヘブンズ・ドアー』を叩き込んで無力化する未来図が易々と思い描ける。

 いや、下手をするとブチキレて「岸辺露伴の要求を一生叶え続ける」なんて恐ろしい命令をスタンド能力を使って書き込むかもしれない。

 

「(いやいや、いくら露伴先生でも流石に──)」

 

 無い……とは言い切れない辺り、()()()()部分への信頼は相当に低い──ある意味で高いとも言える──のがネックになるだろう。

 

「(『悪い人』じゃあ無いんだけど……)」

 

 そう心の中でフォローするが、仕事でミッドチルダに行くから少し留守にすると露伴に伝えた際の不貞腐れっぷりを思い出す。

 

 ────

 

「いいなあ!」

 

「なのは君、なのは君にとってはすっかり見慣れた珍しくもない世界なんだろうが」

 

「君にとっての『当たり前』が、僕にとっての『黄金』なんだ」

 

「い~~いなあ~~~~ッ! いい加減、僕も『黄金』を体験してみたいなあ~~ッ!」

 

「いいさ、いいさ! 親友の僕を置いて、君は君の『当たり前』を謳歌してくるがいいさ!」

 

 ────

 

 ……『いい大人』でも無いかなあ。

 

 なのははフォローを少しだけ下方修正することにした。

 

 

■02■

 

 

 報告自体は驚くほどスムーズに終わった。

 

 出席した上級職員にとって予想外だったのは、報告の大半が「(他のスタンド使いは兎も角)岸辺露伴という人物が如何に宮仕えに適さない性格の持ち主であるか」というプレゼンテーションになっていた事だろうか。

 意図した訳でもなく、そもそも用意していた原稿にも『性格に難あり』程度しか書いていなかったのだが、事件の報告をするにつれクロノの弁舌に変な(そして説得力のある)熱がこもり始めたのだ。

 まるで今まで溜め込んできた胃の痛みに形を与えて吐き出すかのように。

 

 同席していたなのはが要所で補足説明を入れつつ、要約すれば「アイツを管理局に所属させたら、好奇心の向くままに動くから内務的にも対外的にもヤバい」という身も蓋もない説得へと議論を自然に誘導し、その流れで「(さすがに無制限とはいかないが)渡航および短期滞在の許可を与え、適度に好奇心を満たす事で行動をコントロールした方が合理的」という方向に持って行く事ができた。

 当初の「上層部に渡航許可等の判断を委ねる為の報告」とは違うものにはなったが、結果オーライであろう。

 

 すぐに許可が下りる訳ではないが、これであの大人気ない不貞腐れ方をした漫画家の機嫌も少しは回復してくれるかもしれない。

 

 スタンド使い自体の存在に対しては、それが「地球」固有のレアスキルなのか、それともどの世界の住人であっても発現し得るものなのか──(いま)だ不明な部分の多い異能力であるため、クロノ達に調査を継続させるという事となった。

 結論としては「一旦保留」という形である。

 

 平時であれば上層部も「スタンド能力」という美味(つかえ)そうな情報(エサ)から一時(いっとき)でも主導権を離したりはしなかっただろう。

 

 しかし現在進行形で管理局の頭を痛ませている問題が発生しているとあっては別である。

 

「(──まさか、また捜査官に被害が出たなんて……)」

 

 ミッドチルダの中心部、時空管理局地上本部の近くにあるカフェテラス。

 歩道側に設置されたテーブルで注文したアイスコーヒーを飲みながら、高町なのは は「スタンド使い案件」の次に挙がった報告の内容を思い出していた。

 

 地上本部に所属する特別捜査官が2名。

 親友である八神はやての同僚ではあるが、彼女とは担当部署も違うし、報告書に載っていた顔写真や名前に見覚えはなかった。

 顔見知りではないという事で、そこまで精神的なショックは受けなかったが、同僚が亡くなったという事実に動揺が無い訳ではない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「一応、未成年だからって事で現場写真は添付されてなかったけど……」

 

 ガムシロップを2つ入れたアイスコーヒーをストローで「ジューッ」と小さく吸い上げながら、なのはは呟く言葉の先頭に僅かな不満を滲ませる。

 配られた報告資料には、客観的な事実のみを羅列した現場の状況説明と遺留物のリスト等が記載されていた。それを読んだだけで、現場が如何に異様で凄惨だったかが窺えた。

 殺人事件も幾つか担当した事もあるであろうクロノやエイミィでさえ顔をしかめていたのだから、現物は余程のものだったのだろう。

 

 手口は異なるが、少し前に発生した女性捜査官の殺人事件と相棒の行方不明事件も今回と関係しているのではないか──と上層部は考えているらしい。

 そして、その犯人が「管理外世界:地球」に渡った疑いがあるとも。

 

 地球支部側も本格的な捜査協力──現時点では「逮捕」ではなく、あくまで犯人が渡航してきた痕跡の捜索──を改めて伝達されたが、恐らくこれが今回の報告会の主な目的だったのだろう。

 

「特別捜査官連続殺害事件、かあ……」

 

 周囲には一般客も多いので、意識的に独り言も小さく低く抑える。

 それはなのは自身が初めて「殺人事件の捜査に関わる」という体験に緊張しているからかもしれない。

 テレビドラマやニュース、あるいはフェイトやはやて達から聞かされる体験談といった間接的な(というよりもどこか他人事な)空気でしか受容していなかった物が、急に現実的で直近の問題として降りかかって来たのだ。

 これまで関わってきた事件で人的被害が出なかった訳ではない。事実、フェイトと出会う切っ掛けとなった「PT事件」では、主犯のプレシアが虚数空間へと落下し死亡扱いとなっている。

 ただ「明確な殺意をもって人を害してくる」事件と邂逅する機会が無かったのだ。それが幸運が重なった偶然だったのか、クロノやリンディといった大人達の配慮によるものだったのか、局員として経験を積めない不運であったのか──なのは本人にも判断しかねるところではあるが。

 

「それにしても……」

 

 なのはは呟きながら再び脳内で報告資料を思い出す。

 連続殺人事件という情報の中で一際(ひときわ)目立つ別の事件。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 最初に発覚した女性捜査官の殺害事件。殺される直前まで一緒に行動していたであろう相棒の男性捜査官の行方は未だに判明していない。

 事件当初は「男性捜査官が犯人ではないか?」と疑う者もいたが、彼のDNAが検出された血液が現場に残されており、しかもそれが致死量に匹敵するものだったことから直ぐに否定された。

 おそらく男性捜査官に致命的なダメージを与えた後、何らかの目的で連れ去ったのだろうと推測される。

 

「(検死の結果、女性捜査官は即死状態で、遺体は放置されてた)」

 

「(なのに男性捜査官だけは連れ去っていってるの。遺体の状況から所持していたものを持ち去られた形跡はなかったらしいし……

 ということは最初っから彼だけが目的……?)」

 

「(……ううん、もしかして女性捜査官が亡くなったのは想定外のことで、2人には『何か』を試したかった……?)」

 

「(その試したかった『何か』は下手をすると死んじゃうことで……? うう~ん……)」

 

 なのはの思考が深く静かに加速していく。

 マルチタスク併用なので、アイスコーヒーと軽食を交互に口にしながらではあったが。

 

《Master》

 

 捜査官ではなく一介の空戦魔導師にすぎない少女が慣れない推理の沼にハマって四苦八苦していると、レイジングハートに呼び掛けられたため、瞬間的に意識を現実へと引き揚げる。

 

 それとほぼ同じタイミングで、前方に人の気配が近付いてきた。

 

「失礼」「ここ……」「よろしいかな?」

 

 丁寧に、ゆっくりと、柔らかくセンテンスを区切りながら相席を求められる。

 聞く者が聞けば『渋い』と表現するであろう、中年男性の低い声。

 

「え、あ、はい」

 

 (いま)だ小学生という身なれど時空管理局の局員という立場から、日常生活でも油断して隙を突かれないよう(さすがに『常在戦場』という訳にはいかないが、父や兄姉から受けた鍛練もあり)努めていたのだが、予想外な「イケボ」へ反射的に返事をしてしまう。

 

 いつの間にか下へ向いていた視線を声の主の方へと向けると、そこには有名ブランド物らしいデザイン性を優先したスーツを着込んだ男性が優しい笑顔を浮かべて佇んでいた。

 

「ありがとう」

 

 耳にする者を安心させるような謝辞の言葉。

 なのはも「いえいえ」と思わず笑顔で返す。

 

 ──その直前に呟かれた「()()()()()()」という極めて小さな声は少女には届かなかったし、相棒のデバイス(レイジングハート)にも察知されることもなかった。

 

 




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