漫画家と魔法少女は黄金楽土の夢を見ない   作:砂上八湖

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申し訳ありません、お待たせいたしました。


この時期における「なのはの階級」ですが、原作『StS』や『Vivid 』では「一尉」だったので、現時点ではこのぐらいかなあ……という独自解釈に基づいています。
御了承ください。
 


第4話「アリス・イン・チェイン②」

 

■03■

 

 思わず同席を許可してしまったが、何故わざわざ自分が利用しているテーブルに来たのだろうという疑問が後から遅れてなのはの頭に浮かんでくる。

 それが強く顔に出てしまっていたのだろう、紳士的な優雅さで席に着いた中年男性が苦笑を浮かべた。

 

「申し訳ない、今日は意外に混んでいたものでね」

 

 言われて周囲を見渡すと、なるほど全てのテーブルに客が1人ずつ利用しており、各々が軽食やドリンクを楽しんでいた。

 考え事に集中し過ぎていたからか、(まわ)りの状況を把握できていなかったようである。

 

「あっ、すみません」と、わずかに頬を紅潮させつつ謝罪するなのは。

「こちらこそ、すまない」と、今度は自身に向けたであろう苦笑を浮かべる男性。

 

「こんなオジさんが相席を申し出たら、女性は警戒してしまうのも無理はない。

 少しでも話し掛けやすそうな子のテーブルを選らばせてもらったんだが、本当にすまないね」

 

 再び謝る男性に、なのはは慌てて首を横に振った。

 

「いえ、そんな」

 

 気まずさを誤魔化すように、グラスの中で氷が泳ぐアイスコーヒーへ小さく口をつける。

 チビチビとストローで吸い上げつつ、なのはは同席している男性にチラリと目を向けた。

 

 確かに自身を「オジさん」と称するだけはあり、多少の年齢を重ねてはいるようだ。しかし卑下するほどの老け方はしてないように見える。紳士的な雰囲気も(あい)まって、綺麗な歳の取り方と呼べるのではないだろうか。

 ファッション性を重視した独特のデザインのスーツも、そうした印象もあってか見事に着こなしている。もしかしたらオーダーメイドなのかもしれない。

 

「(……でも、どこかで見覚えのあるような?)」

 

 もしかして俳優だったりするのだろうか。

 それとも雑誌などで顔出ししている文化人だったり?

 小学校中学年から魔法の訓練と任務に明け暮れてきたなのはにとって、そうしたエンタメ系やサブカル系への知識には疎かった。親友であるアリサからも「ゲームだけは及第点」と言われてしまうほどである。

 時空管理局の魔導師としては優秀だが、年頃の女子小学生としては「残念」と評されても本人は反論はできなさそうだ。

 

 思考が横に逸れたことで魔法少女に想定外の精神的自爆ダメージが入っている間に、男性は注文を終えていた。

 

「相席の御詫びに、なにかスイーツでも奢ろう」

 

「えっ」

 

 初対面の男性に対して失礼を働いたという意識が強かったなのはにとって、その相手から「相席の詫び」に奢られるというのは「ラッキー!」と喜ぶより「また迷惑を掛けてしまった!」と感じてしまう申し出だった。

 むしろ先に「私が御詫びとして奢るべきでは?」と提案すべき立場ではなかったかと猛省してしまう。

 

「いえ」「悪いですよ、そんな」「それなら私に──」

 

「ははは。大人が相席した子供に奢らせた、なんて格好悪いじゃあないか?」

 

 両手をフルフルと振りながら遠慮し、逆に奢ることを提案しかけた少女に、男性は「だから気にしなくて良いよ」と柔らかく微笑んだ。

 そこまで言われてしまうと、これ以上固辞するのも失礼になってしまうと悟ったなのはは「ふう」と降参するように軽く小さな溜め息を吐く。

 

「……じゃあバニラアイスをお願いします」

 

「ああ」

 

 高過ぎもしなければ安過ぎもしない注文に、男性は苦笑いで応えた。

 

 

 2つ。

 

 そんな空気に溶け込むかのような囁きは

 カフェテラスの喧騒に呑まれ砕けて消えた。

 

■04■

 

 男性が注文した軽食(ホットコーヒーと卵サンドのセット)と、なのはへの御詫びの品がテーブルに並び食事が始まると、しばらく2人の席に静かな時間が流れた。

 周囲の音を結界で遮断しているのではないかと錯覚するほどに。

 

「(きっ……気まずい……っ!)」

 

 男性は笑って許してくれたものの、こちらは礼を失した上に奢ってもらっているのだ。もう少し社交術の経験を積めていれば、会話を積み重ねて華やかで洒落た茶会めいた雰囲気にもできただろうが、小学生を脱してもいない年齢の少女にそれを求めるのは酷というものだった。

 おまけに直前まで考えに耽っていたのは凄惨な殺人事件についてである。街中のお洒落なオープンカフェという場所も手伝い、なんだか自分が酷く場違いなような気がしてきて更に気まずくなってしまう。

 なので少女は、自らが作り出した静寂という針の(むしろ)に一方的な精神的苦悶を覚えるのであった。

 

「なにか……」「悩んでいたようだが」

 

 そこへ。

 2つあった卵サンドの片方を食べ終えた男性が、言葉を句切りながら声を掛けてきた。

 前置きもなく唐突に尋ねられたため、なのはも「ひゃぅっ!?」と変な声が出てしまう。自分の喉の奥から出たとは思えないほどヘンテコな声だったからか、なのはの顔が瞬時に紅潮する。

 

「すまない、また驚かせてしまったようだ」

 

 他人が聞いてもおかしな声だったのだろう。男性は苦笑しながらも謝意の言葉を口にした。

 

「君ぐらいの年頃の子がアイスに全く手を付けず難しい顔をしているとなると──相当の悩み事なんじゃあないかと思ってね」

 

「あ、いえ……そんな顔してましたか?」

 

「相席を申し出る時から眉間にシワが寄っていたよ。

 しかし──」

 

 唇に潤いを求めてコーヒーを飲み、男性は間を挟む。

 

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 ぶわり。

 

 なのはの全身に霜が降りたような震えが走る。

 レイジングハートが警戒を促す念話を無言で受け止めつつ、彼女自身も改めて気を張り直す。表層に浮かんだ一瞬の動揺を気取られまいと、幼い身体に平静さを強いる。

 しかしそれでも指先に緊張が伝わり強張(こわば)ったのだろう、(かす)かな震えがデザートスプーンを通じ、アイスが乗る皿をカチカチと鳴らしてしまった。

 

「君は」「もう少し自分が『有名人』なのだと」「自覚した方が良い」

 

 様々な経験を積んできた年長者故か、僅かな機微から少女の動揺を察知し、それが意味する所を理解したらしい。

 コーヒー用のソーサーにカップを置きながら微笑む。

 そこにコーヒーのような苦味はない。

 咎めるような口調ではあるが、若輩の至らなさにアドバイスする柔らかさもあった。

 

「え」

 

「時空管理局の若きエース『高町なのは』といったら、私みたいな『おじさん』でも顔ぐらいは知っているよ」

 

 実力主義という考え方が根強い時空管理局において、それほど年齢の低さ(あるいは高さ)は重視されない傾向にある。そんな中でも「高町なのは」という存在は一際目立っていた。

 

 幼いと称しても過度ではない年齢、莫大な保有魔力量、魔砲少女とも揶揄される程に高い砲撃魔法への適正、天才的ともいうべき空間把握能力、不屈の勇気と清廉な精神、そして数々の重大事件を解決に導いてきた揺るぎ無い実績。

 

 そんな人材をマスコミは放っておかなかったし、管理局の広報もイメージ戦略に活用しない訳がなかった。

 管理外世界出身の未成年女児ということもあって、過剰に取り上げたり、プライベートが暴かれる様なレベルの報道はなかったものの──その辺は局やマスコミの良識派が暗躍したようであるが──「高町なのは」の知名度はそれなりに高いのだ。

 

「あ……なるほど」

 

 自身の知名度については無頓着だったので、要らぬ警戒をしてしまった。再び顔が赤くなる。

 

「すいませんっ! 私ったら、さっきから何度も失礼な態度を……!」

 

「いやいや」「面識の無いおじさんから急に名前呼びされたら警戒しても仕方ないさ」

 

「うう……っ」

 

 大人な対応が余計に少女の恐縮を進行させてしまう。

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「ははは」「実を言うと」「こうして同席させてもらったのも『あの高町なのはと一緒に食事をしたんだぞッ!』と自慢できる……という打算も少しはあったからね」

 

 勿論『お詫び』の気持ちは本当だよ、と紳士的に柔らかく微笑む男性。

 

「……でもスイーツまで御馳走になっておいて、本当に申し訳ないです……

 いくら仕事の件で考え事をしてたとはいっても……」

 

 実務経験豊富とはいえ、そこは()だ幼い管理局員である。向けられた誠実さには純粋に(こた)えようとする、彼女の実直な性格が頭をもたげ始めた。

 

「私に何かできる事があればいいんですが──」

 

 だからこそ……『人助け』を可能とする能力(ちから)を身に付けられたからこそ、そんな言葉が()いて出る。

 

「なら」

 

 だからこそ、男性は紳士的で親しみ深い笑みを浮かべたまま、少女の受動的な要請に便乗できた。

 

「死が2人を()かつまで」

 

 紳士的に、真摯に、邪悪に便乗できたのだ。

 

「私と『結婚』しよう」

 

「──え?」

 

 提案の真意を問い(ただ)すよりも早く。

 

カッシィィーーンッ!

 

 突如として出現した『純白の手錠』が、なのはの右手首に掛けられた。

 

 

 




 
実は「なのは×ジョジョ」を構想していた時、エピソードの順番とか関係なく、このスタンドバトルが一番最初に思い付いたヤツなんですよね。
10年以上の歳月を経て、ようやく形にできました。
 
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