漫画家と魔法少女は黄金楽土の夢を見ない   作:砂上八湖

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ゲス野郎は書いてて楽しいですね。
その後のインガオホーを書くチャンスがあるとなると尚更。
 
 


第4話「アリス・イン・チェイン③」

 

「そんなッ、これは……ッ!?」

 

《Master!?》

 

 魔力が発動する兆候も、手錠が出現する直前まで空間の揺らぎすら探知できなかった。なのはは勿論、感知(サーチ)系にも秀でている筈のレイジングハートですら一切の反応が出来なかったのだ。

 魔導師の世界において、それは有り得ないこと。

 だからこそ、驚くよりも先に少女は身体を強張らせ言葉を詰まらせた。

 

「君の故郷である地球には」

「人が結ばれる『運命』を

 『赤い糸』

 に喩える風習があるらしいな」

 

 ゆっくりと、相手かパニックに陥らないよう優しい口調で、文節を区切りながら男は語り掛ける。

 見れば白亜の手錠は彼の左手首にも掛けられており、やはり白い鎖が蛇の様にテーブル上を這ってなのはの手錠とつながっていた。

 

 金属的な質感を持ったモノではない。

 滑らかで、見ようによっては女性の肢体を思わせる曲線と突起で構成された純白それは、しかし象牙の彫刻めいた妖艶さとは程遠い印象を与えている。

 

「(骨……?)」

 

 愕然となる頭の片隅で、なのはの中の冷静な部分が辛うじて機能する。そこで最初に浮かんだ言葉が、その一言だった。

 

 骨。

 骨の手錠。

 骨を繊細に彫刻した狂気の産物。

 しかもその骨は()()()()──()()()()()()()()()。 

 直感的になのはは悟る。

 

「人と人との運命的なつながりを『糸』なんて細くて頼りない存在に喩えるなんて、まるで最初から『運命』を信じていないみたいじゃあないか」

 

 自由なままの状態である右手で残るサンドイッチを掴み、一口だけ齧った。

 ゆっくり、咀嚼する。

 

「私とつながる『運命』とは、千切れる事なく頑丈で、それでいて()()()()な柔軟さを持つ……『鎖』の姿が相応しいと信じている」

 

 手錠でつながれた左手を「赤くはないがね」と掲げて見せる。

 しゃらり、と鎖が(かぼそ)い声を漏らす。

 何故かはのはには、それが悲鳴の様にも聴こえた。

 

「これで君は私と『運命』がつながった。

 君は私の伴侶となったわけだ。

 ──死が2人を分かつまで」

 

「あッ、貴方はッ! いったい何者なんですかァーーーッ!?」

 

 その瞬間、脳髄から沸き上がる氷点下の恐怖がなのはの声帯を強く刺激した。身体が反射的に反応し、椅子から勢いよく立ち上がりながら眼前を指し誰何(すいか)を叫ぶ。

 

 その鬼気迫る剣幕に、周囲の客や店員が何事かと視線を向けてきた。平時のなのはなら赤面して席に着く場面である。しかし周囲の反応を気にしたり、恥じ入る余裕など今はない。

 未知の手段による拘束。

 偶然を装っていたようだが、明らかに「高町なのは」と認知し、狙ってきたのは明白だ。

 しかしその目的が分からない。

 何を考えているのか分からない。

 そんな人間が、テーブル1つを隔てて眼前に(たたず)んでいる。 

 そんな人間の接近を許してしまった。

 心底恐ろしかった。

 それを誤魔化したかったのか、無意識に身体が動き、大声を上げてしまったのだ。

 

「……そうだね、そういえば自己紹介がまだだった」

「私が君の事さえ認識(あい)していれば、別に君が私を知っている必要なんて無いんだが」

「君にも『運命の相手』の名前くらいは知っておく権利はあるだろう」

 

 男は、教師のように優しい傲慢さに満ちた声で理解を示す。

 なのはが抱いた心情の半分すら汲み取ってはいなかったが。

 

「私はレイン・ステイリー。

 君と同じ時空管理局の職員だよ」

 

 レイン・ステイリー。

 個人を示すその文字列に、聞き覚えがあった。

 つい最近、目や耳にした人物名である。数分前に感じた既知感と似た感覚。恐慌の極致にある少女の脳ではあったが、僅かに残っていた温度の低い部分が冷静に『答』となる記憶を拾い上げ、意識の上へ──舌の上へと浮上させる。

 それは『特別捜査官連続殺害事件』の中にあって、ただ1人「行方不明」とされていた人物の氏名と同一のものであった。

 

「ステイリー特別捜査官……ッ!?」

 

 道理で何処かで見たことがあると感じた筈である。

 目を通した捜査資料に、彼の写真が添付されていたのたから。

 だとしたら尚更わからない。

 致命傷を与えられて行方知れずとなっていたハズの彼が、何故いまここに?

 同じ管理局員である自分に、何故こんな真似を?

 殺害事件の犯人に洗脳されているのか、それとも彼が真犯人なのか?

 動機も目的も、何もかもが不明だった。

 

「どうして……ッ!?」

 

 そうした疑問が圧縮され、なのはの小さな口から押し出されたのは、そんな短くも漠然とした糾弾だった。そこに攻撃的な「圧」を意思に反して込めてしまったのも、状況的に仕方がない。

 

 周囲にいた客や店員達も、ようやく「これはただ事じゃあないぞ」と感じたようで、小波(さざなみ)のような喧騒と共に2人のいるテーブルから距離を取り始めている。

 

 一方のステイリーといえば、魔力とは異なるプレッシャーを浴びつつも、落ち着いた様子でコーヒーカップを手に取り悠然と飲み干した。

 そしてカラになったカップを天へ捧げるように掲げながら、濡れた唇を静かに動かす。

 

「『天国』へ行くためだ」

 

「『天国』……?」

 

 全く予想していなかった回答に、思わず鸚鵡返しに単語を呟いてしまうなのは。

 

「しかし私は弱い人間だ」「その自覚はある」「情けないことだが」

 

 カラの供物を捧げるのにも飽きたのか、カップをソーサーに戻したステイリーは、頬に右手を添えて語り出す。

 

()()()パートナーを必要としているんだ」

「一緒に『天国』への道程(たび)を歩んでくれる『運命』で結ばれた人を」「私と共に『天国』へ向かう『努力』をしてくれる理想の人を」

「その人を探すために管理局へ入ったんだ」

 

 運命の人(なのは)に向けてステイリーは優しい視線を送る。

 

「何回か失敗はしたけれど、ようやく見付けたよ」

 

 そして極めて清廉に、とてつもなく邪悪に微笑んだ。

 

「これであの人よりも先に『天国』へ行ける」

 

 

■05■

 

 報告会を終え、ミッドチルダでやらなければならなかった諸々の手続きや書類提出といった事務仕事を済ませたクロノ達が「地球」へ戻るべく準備(家族や友人、そして何より露伴への御機嫌取りという名の土産選びが一番の困難を極めた)を進めていた時だった。

 

《クロノ君ッ!!》

 

 なのはからの緊急チャンネルを用いた念話が、クロノのリンカーコアを通じて頭に飛び込んできたのだ。

 

「なのは?」

 

《行方不明だった特別捜査官が目の前にいるの!

 その人か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!》

 

 青天の霹靂とは、正にこの瞬間のことだろう。

 アースラに入力する地球への次元航路をチェックしていた手が止まり、数瞬だけ呆けてしまうが、すぐさま意識を切り替えた。突風のようにもたらされた情報を素早く再構築して把握に努める。

 

「……レイン・ステイリー特別捜査官に間違いないんだな?」

 

《自分で名乗ってるし、報告書に付いてた写真と同じだよ!》

 

「拘束されたと言ったな? まさか『攻撃』を受けたのか?」

 

 周りにいたアースラスタッフや搬入物資のチェックをしていたエイミィも、ただならぬクロノの様子に気が付いたようだ。

 

《ううん、今のところ手錠みたいな鎖で拘束されただけ!

 これを攻撃と呼ぶなら攻撃なんじゃあないかな》

 

 クロノと連絡が取れて少しは落ち着いたのだろう。

 なのはの念話に余裕めいた部分も含まれるようになってきた。

 即座に念話のチャンネルをエイミィ達にもオープンにして情報の共有を図りつつ、クロノは「ダメージが入るような攻撃を受けていないこと」「なのはに冷静さが戻りつつあること」に対し安堵する。

 

《ただ、さっきからよく分からないことばかり言ってるの!

『運命の糸』だとか『天国』へ行くだとか!》

 

「『()()()()()?」

 

 しかし抱いた安堵はクロノの腕の中から飛び出していってしまった。

 それは一見すると「死」を連想する単語である。

 宗教的な言い回しでもある。

 なのはが置かれている現状を(かんが)みれば、とても意味不明な──錯乱した言説だろう。

 だがクロノにとっては違う。

 聞き覚えがあった。心の何かに『天国』というキーワードが引っ掛かった。壁をペンキで塗った時に、端っこのちょっとした()()が気になるように。

 

 懸念はあるが、今は対処が先だ。

 クロノは意識を切り替えると、スタッフやエイミィに視線で指示を送りながら、なのはにも指示を飛ばす。

 

「なのは、すぐに僕達もそちらへ向かうッ!

 レイジングハートに現場の座標を送るよう伝えてくれッ!」

 

 それと、と前置きした。

 

「彼を拘束……いや、無力化できるか?」

 

 相対(あいたい)した管理局員に『保護』ではなく敵対行為を働いたのなら、もはや彼は重要参考人……一連する事件の容疑者だ。

 言動からも錯乱している可能性は高い。

 早期に身柄を抑える必要があった。

 

《……やってみる》

 

「腐っても特別捜査官だ。気を付けろ!」

 

 念のためアドバイスしつつ、クロノは自身のデバイスである『デュランダル』を手に取る。アースラ内の転送装置を緊急準備しているスタッフの(もと)へ駆けながらバリアジャケットを展開。

 間を置かずエイミィの端末がレイジングハートからの位置情報を受信した──その時。

 

《あああああああああッ!?》

 

 つないだままにしていた念話のオープン回線に、なのはの痛々しい悲鳴が轟いた。

 

 




 
ミッドチルダではともかく、現実の日本で女子小学生にオジサンが相席を申し込んだ時点で通報されちゃいかねないですよね(都会キッズに対する偏見)
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