お待たせ致しました(4回転ジャンプ土下座)。
父親の介護で睡眠時間が削られ体調を崩したり、話自体が難産だったりで約1ヶ月ぶりの更新となります。
『ガンダムビルドダイバーズ』の二次創作と交互に書いてるので、次回はもうちょっと御待ちください。
■07■
「──これ以上、貴方にはついていけないの。
だから離婚しましょう」
レイン・ステイリーは幼少期に父親から虐待を受けていた。
といっても肉体的なものではなく、思想的な虐待である。
より具体的に言及するなら「極端に偏った男女観に基づく教育」を物心ついた頃から受けていた、というものだが。
「貴方の言う『幸せな夫婦生活』って、実際は貴方による支配的な抑圧と従順なのよ」
レインの父親は極度の女性蔑視主義者だった。しかし同性愛者であったり男性尊重主義者であるという訳ではない。極めて一方的で厳格的な『男女(夫婦)の役割を明確にし、遵守させる』妄念に囚われていただけである。
なので、男性(夫)としての役割を果たしていない者に対しても苛烈であった。
父親がそうなってしまった理由はレインにも分からない。
ただ大人しく(父親が理想とする通りに!)母親が従っていたので、父親の思想こそが『正しい父親像』なのだと強くイコールで結ばれたのは確かである。
「貴方との生活には『自由』がないの」
レインは父親が望む『男性の役割』を
父親や彼の生き方は、そうした人物を遠ざけてしまうものだったからだ。
「それが何より苦痛なのよ」
レインの人生に転機が訪れたのは学校の高等科に入った頃だった。
父親が病気で死んだのだ。
あれだけ理想とする役割に忠実で、厳格で、屈強で、正しかったはずの父親があっさりと。
父親が死んだ瞬間、それまで粛々と従い小鳥のように生きてきた母親が豹変した。それまで禁止されていた人付き合いや仕事を始め、生活必需品以外の──嗜好品や家電製品などの商品を買い求めたりしたのだ。
母親は我慢していたのだ。夫から受ける恐怖と抑圧から解放され、渇望していた『自由』を謳歌できると歓喜したのである。
それ故、一番身近にいた『夫そっくりの思想に染まった息子』は嫌悪の対象となってしまった。身を痛めて産んだ実の息子だが、その中身が夫と同じ(もはや矯正も不可能なほど)グロテスクな怪物になってしまっていると理解し……諦めたからである。
「ただ単に、貴方は『王様』になりたいだけなのよ」
理想的な女性としての役割を完全に放棄し、更には理想的な男性たらんと努力する自分を全否定する母親。
それはレインにとっても嫌悪の対象となり──
排除の対象になった。
周囲には今も
「時空管理局の仕事してるからって私生活にも厳正さを求めるのは理解できるわ。最大限、好意的に見積もって『インスタントのカップ麺に入ってるネギの量』ぐらいで、だけど」
成人し、魔法の素養があったので時空管理局に就職したレインは、今度こそ理想的で幸せな家族を……運命の相手を探そうとした。
そんな彼が見初めたのが、テーブルを挟み目の前に座っている女性であった。
学歴も高く、理知的かつ論理的に物事を考えられ、だからこそレインの理想を理解してくれると信じていた女性。
「連続無差別爆破テロの捜査中に呼び出してきたと思ったら……そういうことか」
ミッドチルダの中心街にあるカフェ、そのオープンテラス。
注文したコーヒーに口をつけながら、レインは胸の中で強い失望を感じていた。
この女は自分の求める『運命の相手』ではなかった。
それどころか女性としての役割を無責任に放棄する、軽蔑すべき存在だったとは。
あの母親と同じような。
これまで
「そういうこと。
だからこの離婚届にサインして頂戴」
「(役割を放り出した彼女にも罰を与えなくては)」
ソーサーにカップを置くと、レインは「この後どうやって彼女を人気のない居場所に連れていくか?」を考え、ふと「あること」に思い当たる。
「(はて、この女の名前はなんだっただろうか)」
彼女に対する興味を失った瞬間、不必要な情報を記憶が手放してしまった。
その疑問を音にしようと、レインが口を開きかける。
確実に激怒させる質問ではあるのだろうが、女性が男性に対して怒る行為を殆ど想定していない彼にとって考慮の一端にもならない配慮だった。
しかし質問は音になることもなく、彼女を怒らせることもなかった。
レインの口が開いた瞬間。
彼らがいるオープンカフェの中央付近で爆弾が炸裂したのだ。
「─────ッッッ!?」
衝撃。爆炎。鋭い痛み。熱風。肌が焦げる感覚。
巻き込まれた人間達の悲鳴と身体が粉微塵に砕けていく。
そしてレインの頭部を──脳を物理的に貫く、これまで味わったことの無い灼熱。
「ガハッ、ゴボッ、ゲホッ……!」
大規模な爆風で、レインはカフェの店内奥まで吹き飛ばされていた。その割に彼の四肢は欠損することも
おまけにテーブルや陶器などの破片が身体の至る所に突き刺さったままだ。
粉塵の中で咳き込む度に吐血してしまう。
それでも自身が置かれた状況を、管理局員として冷静に把握しようと、
どうやら妻のすぐ背後で爆発したらしく、彼女自身が偶然にも
「(例の無差別爆破テロか……?)」
「(しかし、まさか見限った彼女のおかげで助かるとは)」
「(偶然だろうが……身を挺して夫を庇うとは、私が求める妻の役割を見事に果たしてくれたわけだ)」
生きているのなら、その点は褒めてやらねば。
そう考えて女性の姿を探すものの見当たらない。
こういう時は名前を叫んで安否を確認するのだろうが……
「(……名前を思い出せんな)」
その時。
どろり、と。
レインは頭から大量に出血していることに初めて気が付き──
そこで意識を失った。
□
ベッドの上でレインは意識を取り戻した。
病院の個室──医療機器が所狭しと並ぶ集中治療室らしき部屋で、全身をギブスや包帯で固められている状態であった。
特に頭部辺りがガチガチに保護されている。
「(頭部の負傷が一番酷かったみたいだな)」
幸運な生還というヤツだろうか。
そう考えていると、やや慌てた様子の看護師や医師が駆けつけてきた。レインにつながれている医療機器が、検出した数値から意識の覚醒を報せたようだ。
そこから慌ただしく様々な検査や複数の医師からの診察を経て、ようやく彼は自身の現状について説明を受けることとなった。
「──ステイリーさん」「貴方は現在、全身に十数ヵ所の打撲や裂傷、骨折を負われています」「複数回にわたる手術と魔法により、そちらの方は後遺症もなく回復できる状態です」
ですが、と主治医は言葉を切る。
切った……というより「淀んだ」というのが正確だろうか。
「問題は、頭部に受けた傷です」
「……治療不可能、あるいは重篤な後遺症が残る……ということですか」
ある程度は予想できていた返答に、レインは諦めの混じった声で事実の確認を促す。
ところが、返ってきたのは全く予想していなかった事実だった。
「いえ」「治療自体は既に終わっており、頭部に負った傷口の回復も順調ですし」「我々も驚くほど状態は非常に安定しています」
「?」
「……問題というのは、頭部の内側の方です」
「内側?」
「爆発で生じた『破片』の1つが貴方の頭部に突き刺さったんです」「その『破片』は頭蓋骨を──額を貫通し、脳の奥にまで達しました」「脳の一部が傷付きましたが、驚くべきことに最小限度の損傷で──しかも後遺症が残らない範囲で済んでいます」
医師の唇が躊躇で僅かに震えたが、半瞬の間を置いて事実を紡ぐ。
「……しかし『破片』そのものは脳の奥に侵入し過ぎており……摘出は不可能です」
そう。
大袈裟な表現ではなく、脳の『奥』というのが本当に最深部と呼ぶべき箇所だったのである。『破片』は脳幹に極めて近い繊細な位置で止まっていたのだ。
しかも非常に安定した状態で。
これを物理的あるいは魔法的に排除しようとすると、脳の機能を著しく損なう深刻なリスクが生じるのだという。
頭の中に除去不能な異物を抱えている。
それを認識した途端、レインは、軽い吐き気を覚えた。
レントゲン写真で示しながら説明してきた医師は、一拍の沈黙を挟むと、困惑と感嘆が絡み合う複雑な表情をレインに向けてきた。
「医者として安易に使いたくない言葉なのですが……正に『奇跡』というより他ないでしょうなあ」
「……異物が脳に食い込んでいるのに、後遺症が残らないことがですか?」
奇跡を
「いえ」
医師の眉が八の字に下がる。
「確かに『破片』を取り除けないのは不幸なことではあるのですが──」「頭部や脳への傷が後遺症を残さず最小限で済み、脳幹の直前で止まって一命を留めた『破片』のことを考えると……ね」
「……」
「そういえば」
「一体……何の『破片』が私の脳の奥まで刺さったんです?」
導かれるように、その問いをレインは口にした。
自然と質問に湿気が帯びて重くなる。
嫌な予感と不思議な高揚感が渾然と混ざり合う奇妙な感覚が、まるで脳の奥から這い出てくるかのようで──
「亡くなった奥様の頭蓋骨……その
□
自分の頭の奥に、妻の一部が埋まっている。
それを知ったレインが、まず最初に思い浮かべたのは
「そうまでして私と一緒にいたかったのか」
というものだった。
夫婦としての経緯はどうあれ、最期は夫の盾となり、永遠の繋がりを文字通りレインの身体に刻み込むほどの『自己犠牲』と『愛』……そしてそれを結実してみせた『奇跡』。
それはレインを激しく深い感動で震えさせるに足る、理想の到達点であった。
やはり彼女は自分にとって運命の人だったのだ。
「死が2人を別つまで、私達は一緒なのだな」
病院の個室に移され、レインは独り静かに笑う。
これぞ正に『運命』というヤツではないのか。
ならばそれに従うのは自然であるし、それこそがこの『奇跡』に導いた神の
つまりそれほど強い『運命』とつながれるということは『祝福された幸せ』であり、その『幸せ』を積み重ねれば、きっと『天国』に到達できるに違いない。
「ならば、もっともっと『運命』で結ばれなければ」
理想とする『運命』の女性を更に見付けなければ。
レイン・ステイリーは決意を固めた。
歪んだまま、堅牢に固まってしまった。
しばらくして時空管理局に復帰したレインは、連続爆破テロの犯人を逮捕した。
上司や同僚達に「妻をテロで失った悲劇の捜査官」「悲劇に屈することのない勇敢な人物」として気遣われ畏敬されながらも、これまで通り表向きは誠実に、堅実に、
新たにパートナーとなった女性捜査官を、そうと知られないよう、ゆっくりと洗脳しながら。
小学生が芽吹いたばかりのアサガオへ慎重に水をやり育てるように、じっくりと『理想の女性』へと作り変えながら。
運命という欲望を満たしながら。
そうして、あるロストロギアの強奪事件を捜査していた末に、レインは出会う。
自身を『天国』へ行く
求める『運命』を逃がさぬよう確実に拘束する
「まだ幼いが、高町なのはといあ少女を巡る『運命』の
その存在が囁く。
「そのメロディは、君の
高町なのは。
不思議と心に染み込んでくる名前に思えた。
ならば私の『運命』と結ばれている。
ならば私の『運命』に従えなくては。
「さあ」「君の理想と野心の音階を奏でるといい」
「『
その荘厳に弾む声に送り出されながら、
レイン・ステイリーはスタンド《アリス・イン・チェイン》と共に、ミッドチルダにあるカフェテリアへと向かったのである。
敵キャラのバックボーンだけで1話まるまる使うのは読者的にどうなのかなあ……と思ったりもしたのですが、本家ジョジョでも1エピソードを敵キャラの過去に使ったりすることもあるので、まあそういうオマージュと考えていただければ……