漫画家と魔法少女は黄金楽土の夢を見ない   作:砂上八湖

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お待たせいたしました。
幕間です。

クロノ君が杉田ボイスになる前の少年声が残ってるぐらいの時間軸だと考えてもらえれば……


天国への階段

 

■01■

 

 海鳴市に設置された時空管理局・第97管理外世界(地球)支部にて、ソファに浅く座った岸辺露伴は興味深いといった態度を隠しもせず、前のめりの状態でスケッチブックに鉛筆を走らせていた。

 

「『時空管理局』かァ~~~~

 スゴいなあ! アイデアが次々と湧いてくるぞッ!

 いやあ、貴重な体験だなあッ!」

 

 それを正面から目の当たりにしている支部長のクロノ・ハラオウンは、困惑以外に選択肢がないといった表情を浮かべていた。

 

 丸々一棟借り上げているとはいえ、次元航行艦1隻を預かるチームスタッフが働いている割には小規模なビルを拠点とした支部である。

 会社のオフィスのようなレイアウトの事務所、しかもその一角に設けられた応接スペース──衝立に囲まれたソファと灰皿が置かれた低いテーブルという編集部でもよく見掛ける空間だ──に案内された露伴は、あからさまに激しく落胆していたものだったが……

 

 映像記録と共に基本的な説明を受けると、一転してテンションが最高潮に達した。

 鉛筆が立ててはいけないスタイリッシュな音と連動して、漫画家の興奮と喜色に満ちた声が事務所に響き渡る。

 

 説明のために空中に投影してた映像は既に消されているが、露伴は記憶力だけで正確かつ精密にスケッチとして次々と紙上に描き起こしていく。

 1枚あたり10秒も掛けられていないにもかかわらず。

 スケッチブックは3冊目に突入している。

 

「さすが一流の漫画家さんだなあ……」

 

 支部へと案内した高町なのはは、驚きと困惑がこじれて相当にズレた感嘆を漏らしていたりする。

 クロノは「ちがう、そうじゃない」と内心で友人にツッコミを入れつつも、その凄まじい技量に魅せられ始めていた。

 同時に、さきほど聴取した内容を思い返しながら今後について思考を巡らせる。

 

「『スタンド能力』か……」

 

 漫画家のテンションとは対称的に、呟かれた支部長の言葉はやや温度が低く重い。

 地球には管理局が定める『魔法』というものは存在しないとされてきた。

 しかし代替のように(発現の条件が魔術師のそれと比べて厳しいとはいえ)スタンド能力という特殊能力があるとは予想外である。

 

「(なのはやグレアム提督のように、地球人にもリンカーコアを持つ人間はいるが、生命エネルギーを(みなもと)とした『ビジョンを有する超能力』が存在するとはなあ……)」

 

 露伴から説明を受けた時は半信半疑だった。

 しかし「ヘブンズ・ドアー」の能力でミッドチルダ式言語を読み書きできるようになったのを見せられてしまえば、その特異性を信じるしかなかったのだ。

 しかも聞くところによるとスタンド能力とは別に、彼は奇妙な体験を何度も経験しているらしい。

 

 まだまだ世界は未知に満ちているとクロノは痛感する。

 

「ものは頼みなんだが」

 

 ひと通りスケッチを終えて満足したのか、出されていた紅茶を一口(すす)ると、露伴は(おもむろ)に切り出した。

 

「僕を第1管理世界……ミッドチルダとやらに連れていってもらうことはできるかい?

 是非とも取材したいなあ!!」

 

「現地の一般人に渡航許可が降りるわけがないだろう!」

 

 図々しい嘆願に、思わずクロノも大きな声で反応してしまう。

 現時点で露伴は『支部が置かれている海鳴市で発生した奇妙な死亡・昏睡事件の解決と職員救助に尽力してくれた一般人(および事情聴取の対象者)』という立場でしかない。

 月村すずかやアリサ・バニングスのように、現地協力者──この2人にはスポンサー的な意味合いも含まれているが──でもないのだから当然の反応である。

 

「オイオイオイ、オイオイオイオイオイ」

 

 断られるなんて心外だなァ~~とばかりに露伴は首を傾け、片眉を跳ね上げながら頬に右手を添える。

 

「僕は君の部下の命を救った恩人であるばかりか、事件に巻き込まれた被害者なんだぜ?

 それぐらいの便宜は図ってもいいんじゃあないか?」

 

「その件については感謝しているし、いずれ何らかの形で謝礼はしたいと思っている。

 だがそれとこれとは別問題だ。

 そもそも僕の一存で決められるような話じゃあない」

 

「ハァァ~~~~

 なのは君、キミの上司は随分と融通が利かないなァ~

 さぞかし苦労してるんだろう?」

 

「あはははは」

 

「そこは嘘でも否定の言葉を使ってくれないか、なのは……」

 

 立場が立場なだけに管理局の方針を「お役所仕事」的な判断を下さなければならないクロノとしては、現場の判断と称して命令を無視するなのは達の『管理局にとって最良でなく、当事者たちにとって最善な選択』を黙認する場合もある。

 管理局の上司として厳しい態度をとらねばならないが、1人の人間としてはそれに救われる部分があるのも確かなのだ。

 クロノも自身が頑固な人間だというのは自覚してるが、やはりそこはフォローしてほしかった。

 

「まあ最近のクロノ君は特に忙しいからねえ」

 

「今回の事件も原因が判明したから、多少は肩の荷も下りるが……

 まだまだ頭を悩ませる事件が幾つも起きているからな」

 

 なのはの言葉に深い溜め息で返事をする。

 

「ふうん?」

 

『半年ほど依頼がなくて暇をもて余して街をブラついていたら、偶々(たまたま)完全犯罪の計画を立てている犯人の独り言を耳にしてしまった名探偵』のような声が耳に届き、クロノは己が失言したことに気がついた。

 

「やはり魔法が絡んだ事件かい?」

 

「それは」

 

 貴方には関係ない話だ──と言いかけたが、露伴のスタンド「ヘブンズ・ドアー」の能力を思い出す。

 下手に事件について隠したりすると、能力を使って無理矢理にでも暴かれそうな予感がしたのだ。

 

 さすがにそんな強行手段に出てくることは無いと信じたいが、漫画を描くことへの異常とも呼べる執着の一片を垣間見た後では「絶対に無い」とは言い切れない嫌な信頼感が生まれていた。

 その場合は管理局員として対処せざるを得ないが、友人の命を救ってくれた恩人に手荒な真似はしたくない。

 穏便に帰したとしても、好奇心優先で独自に動くことは目に見えている。

 

 手綱も付けずに、この漫画家を野放しにしてはならないと、クロノの直感が囁いた。

 

「……まあ、そういうのもある」

 

「えっ、クロノ君?」

 

 渋々ながらも認めたクロノに、なのはは驚きを伴う視線を投げる。

 それを視界の端で受け止めながら、クロノは長い溜め息を吐き出した。

 

「さすがに詳細な捜査情報は話せないが──」

 

 

■02■

 

 淡く爽やかな朝の日差しが部屋の中へと降りかかる。

 よく整頓され、掃除が行き届いた部屋である。

 質素だが(おもむき)のあるデザインの家具が生活する動線上に配置されているが、その数は少ない。

 その必要最低限に置かれている家具、ロッキングチェアに男性が座っていた。

 

 陽光に背を向けているせいか、その顔には影が射し込んで判別できない。

 

 ユラユラと椅子を(わず)かに揺らしつつ、手にはグラスが握られている。

 中には乱雑に砕いた氷と、適度な量を注いだ炭酸水。

 

「良い、朝だ」

 

 男性が呟きを洩らす。

 

「健康的に迎える朝は素晴らしく、何物にも代えがたい。

 そのためには酒を(たしな)むべきではないし、煙草など論外だ」

 

 言い含めるように。

 言い聞かせるように。

 

「何の不安もなく、何事もなく、平穏に、淡々と私が望んだ未来が成就し到来するのを眺める……

 そういう毎日を私は明日も、これからも……『永遠』に迎えたい。

『天国』のような毎日を、だ。

 わかるだろう?」

 

 足下に転がる人間へ言い含めるように。

 目の前に(うずくま)る人間へ言い聞かせるように。

 

「だが『天国』のような毎日を迎えるためには、実現するための努力に毎日を費やさなくてはならない」

 

 足下に転がる女性の頭部には『矢』が突き刺さっていた。

 (おびただ)しい量の赤い血が、床に広がっている。

 見開かれた眼には生気がなく、だらんと口からこぼれる舌が死を強く印象付けていた。

 

「『音階』はわかるか?」

 

 ふいに、ロッキングチェアの男性が質問を投げ掛ける。

 全身に傷を負って踞っていた男性は、荒い息と敵意を込めた視線で応じるものの、急な問い掛けに戸惑いを隠しきれてはいない。

 

「音楽の授業で習っただろう?

 ドレミファソラシドだよ」

 

 炭酸水を口に含む。

 舌の上で冷たさと発泡の刺激を堪能してから、ゆっくり飲み込んだ。

 

「『天国』へ向かうというのは、この音階に似ている。

 ドレミファソラシドレミファソラシドレミファソラシド……

 音の高さを変えながら、音階は階段を昇っていくかの如く、永遠に続いていく。

『天国』への『階段』。

 だがいつまでたっても、どれだけ努力(おと)を重ねても『天国』はやって来ない。

 ドレミファソラシド、ドレミファソラシド……」

 

 まるでマエストロのように、グラスを持っていない方の手で見えないオーケストラを指揮して見せる。

 

「逆に考えると」

 

 指揮を中断する。

 グラスの中の氷が、()んだ衝突音を奏でた。

 

「その『階段』を制することができれば──昇り詰める手段さえ見つけることができれば……

『天国』への道筋が(ひら)かれるのではないだろうか?」

 

「まさか」

 

 敵意から正気を疑うような視線へと入れ換え、踞ったままの男が声を絞り出す。

 

「そのためだけに……!?」

 

「そうとも」

 

 椅子を「キィキィ」と小さく揺らしなから男は答える。

 

「私は『天国』へ行くためにこんなこと(努力)をしている」

 

 女の頭部に刺さっていた『矢』を手に取る。

 

「そのために彼女にも協力(努力)してもらったんだが」

 

 そのまま何の躊躇(ためら)いもなく抜く。

 ゴボリ、ゴボリと穴のような傷口から血が吹き出すが、まるで気にした様子もない。

 

「彼女は『階段』を踏み外したようだ」

 

 影に遮られて見えない視線が、床の上の男性へと注がれる。

 

「時空管理局の捜査官であるキミなら──

『魔法』なんていう別の法則を知るキミなら──

 私を『天国』へ導く音階になってくれるのかな……?」

 

 男性の背後にビジョンが現れる。

 ビジョンが男の手から『矢』を受け取った。

 しかし傷付いて動けない男からすると『矢が勝手に空中に浮かんで制止した』ようにしか見えていない。

 しかし、これから起きる『未来』は先見できた。

 

「よ、よせ……!」

 

「やめるとも。

 成功したら」

 

 弱々しい懇願に、力強い頷きで返す。

 間を置かず『矢』が放たれ、

 そして──

 

 

←To Be Continued…

 




天国への階段(Stairway to Heaven)

レッド・ツェッペリンの有名すぎる楽曲。
半世紀前の曲だが、そのサウンドは鮮烈。


次回から第2話が始まります。
これからもよろしくお願い致します!
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