お待たせしました。
つらつらと捕鯨文化と謎の資産家にまつわる海鳴市の捏造歴史を2話分も書いてる途中で「あ、これ必要ないやつだわ」と我に返って消去、書き直していたために時間がかかってしまいました。
あと1話を3000字程度でと書いていましたが。
あれは嘘だ(本当に申し訳ない)。
◼️01◼️
海鳴海洋博物館は『博物館』と銘打ってはいるものの、実際の形態としては『研究施設』の方が正しいだろう。
一部の海洋学者などから、海鳴市の近海は希少な品種が多く生息する生態系として有名であるらしい。
加えて地下資源や海洋深層水といった海洋資源も豊富で、そうした諸々を研究するための施設として月村電工とバニングス・コンサルティングが共同出資して作られたのが海鳴海洋博物館である。
あくまで『博物館』として表に打ち出しているのは、研究成果の一部を公表し社会へ還元する意味で一般向けに解放したいという出資者の強い要望もあったからだという。
「立派なことだね。
金持ち特有の『余裕』ってヤツかなァ~~」
パシャリパシャリと無遠慮に写真を撮りながら、岸辺露伴は心に浮かんだ感想を、そのまま口から放流する。
本人は全く意識していないのだろうが、露骨な皮肉にも取られかねない台詞であった。
博物館エリア内を案内していた男性が、ジロリと漫画家へ視線を送る。まだギリギリ「睨み付ける」という眼ではなかったが、かなり心証を害したのは間違いないだろう。
「露伴さん……!」
ここは釘を刺しておく必要がある。
そう判断したのであろう同行者が、
しかし『同行者』とはいっても親友から紹介されて間もないため、どれぐらいの距離感で注意をしていいのか?という戸惑いも同時に感じ取れる。
「なんだい、フェイト君?」
名前を呼ばれたので普通に返事をする漫画家。
やはり無遠慮で皮肉げな言動を垂れ流している自覚はないらしかった。
フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは口元に拳を縦に運びつつ「オホン」と可愛らしい咳払いをしてみせる。
親友である高町なのはから「岸辺露伴という漫画家と行動を共にするにあたっての
「(いくらなんでも失礼なんじゃあないだろうか?)」
と思っていたのだが、まだまだ短い付き合いながら「まさか説明書に書いてあった事が全て本当だったとは……」とリンカーコアがガリガリと削られるような感覚を
ちなみに説明書には「基本的に自分が間違ってるとは思ってないから、まずそこが根本的な間違いだと説明するの超大変」と繰り返し書かれていたりする。
「……いえ……一応、私の友人達の家が出資してる所なので、あまり揶揄するような言い方をされるのは……」
「ん? ああ、例の『僕の漫画をなのは君やキミに勧めなかったトモダチ』とやらかい。
そうか、そのオトモダチの家が資金を出してるのか。
……だけど、別にバカにしたりするようなことなんて僕は言ってないぜ?」
いきなり意味の分からない難癖をつけられるのは心外だなァ~~と言わんばかりの表情でフェイトを一瞥すると、海鳴市近海のミニチュア生態系と表示された精巧なジオラマにカメラを向ける。
パシャリパシャリ。
「……」
フェイトは言葉もなかった。
自分の漫画をオススメされなかったことを少しばかり根に持っているらしい。
なんて子供っぽい人なんだろうか。
右手で顔の半分を覆って思わず
「(こんな調子で本当に事件の調査なんてできるのかな……)」
義兄であり現上司でもあるクロノから頼まれた仕事を思い出しながら──フェイトは再び深い深い、深い溜め息を
◼️02◼️
「窃盗事件ン~~?」
翠屋のオープンカフェスペース……その端の方にあるテーブルでフルーツパフェを食べながら、岸辺露伴は眉間にシワを寄せた。声から
「露骨に嫌がってるな……」
クロノは取り出したばかりの紙資料の束をテーブルに置きつつ、知己になって間もない漫画家の態度に苦笑で返した。
魔法や時空管理局という存在を露伴が知ってから3日目になる。
と同時に、下手にソコから遠ざけると自分から事件に首を突っ込んできて絶対に面倒な状況へと
クロノと彼の(公私でも)パートナーでもあるエイミィの2人で厳選した「これぐらいなら取材とて渡しても大丈夫なレベルの事件情報」を提示する初日でもある。
「あのだねェ……
せっかく色んな種類がある『魔法』だとか、多種多様な文化や人種が根付いた『次元世界』だとか、その一方で誰も住んでなくて大自然だけが広がる『無人世界』だとか、そういう世界を丸ごと滅ぼしかねない『ロストロギア』だとか、そーゆー面白そうなネタを聞かされたっていうのに……」「やっと提供される『事件』の情報が
敵国に侵入したスパイが情報屋から「この国の将軍が好きな物はイカスミパスタだ」と教えられたら、キミはどう思う?
……と、露伴はパフェを一口しながら喩え話を持ち出す。
「事件に大きいも小さいもありません!」
ところが、クロノの隣から反論の狼煙が上がった。
彼の隣には露伴と初対面となる金髪ツインテールの少女が座っている。
初めて彼女の存在に気付いた風に、露伴は訝しげな視線を不躾に送ると「ええと、キミは?」と(とりあえず控え目に)尋ねた。
「彼女はフェイトちゃん。
私の一番の親友なんですよ!」
口を開きかけた金髪少女の代わりに彼女を紹介したのは、コーヒーをトレイに載せて配膳しに来た高町なのはだった。
「なのは♪」
「なのは君の親友か。
見るからに日本人ではなさそうだし『
「はい。今は海鳴に住んでますが」
「私と同じ学校に通ってるんですよ♪」
露伴の前にコーヒーを置くと、無駄な動きひとつなくフェイトと呼んだ少女の背後に回るなのは。フェイトの両肩に手を添えると、頭を同じ高さまで並べて「ねー!」とはしゃぐ。
フェイトも、テンションの高い親友に柔らかい微笑みで応じる。
「仲が良いねえ」
「ちなみに僕の
何かしらに対して
露伴は無視する。
「ということはフェイト君も時空管理局で仕事を?」
「『執務官候補生』としてクロノの補佐をしています」
「ふうん」
気のない相槌を打つ露伴だが、フェイトから向けられる少し厳しめな視線に気付いていた。そんなものを向けられる理由も、何となく察しはついている。
「誤解がないようにキミに言っておくが──」
普段は人にどう思われていようがお構いなしの漫画家だったが、ここは自分から素直に(?)折れた形だ。
「フェイト君の言う通り、僕も事件に大きいも小さいもないと思っている。
──ただ、同じ事件でも『僕の興味を引くような事件』かどうかって差があるだけだ。
前にチラッと聞いた『
「君は誤解を解く気があるのか?」
クロノから呆れたような声が飛んで来た。
露伴は気にせずパフェを食べ進めている。
フェイトは初めて出会うタイプの人間を前に、どういう感情を表に出していいのか戸惑ってしまう。
「まあまあ露伴先生。
興味を引く事件かもしれないし、聞くだけ聞いてもいいんじゃあないですか?」
苦笑するなのはが仲裁(というよりも仕切り直し)に入ったことで、ようやくクロノ達の準備が報われることとなった。
「窃盗事件とは言ったが、単純な窃盗とは違うようなんだ」
テーブルに出していた紙資料の束を露伴の前へと押し出した。半分まで食べ進めていたパフェから視線を資料へと移し、半瞬だけ考えるそぶりを見せると「そこまで言うなら仕方ないなァ~~」とばかりにパラパラと
「海鳴海洋博物館?
そんなものもあるんだな」
「そこが事件の舞台だ」
漫画の資料を集める上で博物学にも手を出している露伴にとっては、少しばかり興味を引かれる施設である。
「あの博物館から何が盗まれたの、クロノ君?」
露伴のための資料を作成していたことは知っていても、どんな事件の資料を集めていたかまでは知らないなのはがフェイトの背後で首をかしげた。
フェイトも同じように首をひねっている。
彼女達にとって小学校の社会科見学で訪れたこともある場所だが、正直なところ盗むような価値がある展示物に心当たりはなかったのだ。
「その資料にも書いてはいるが──」
「……鯨の骨格標本が1頭ぶんだってェ?」
速読めいた読み取りで資料に目を通していた露伴が、クロノの説明を引き継ぐように声を出す。
なのはとフェイトの視線が漫画家へと向けられる。
「あー、そんなのもあったねえ」
「オスのマッコウクジラの全身骨格標本、だったっけ?」
「オイオイオイオイオイ、骨だけでも全長が14mもあるじゃあないか。
どうやってこんなものを盗んだっていうんだ?」
博物館の目玉展示物でもあるマッコウクジラの全身骨格標本。
資料によると山口県の日本海側にある浜辺へ漂着したマッコウクジラの遺骸を博物館が買い取り、適切な処置を施した上で標本として公開していたらしい。
骨の各部を強化繊維で繋ぎ、床に設置した数十本もの細い鉄の支柱で支え、まるで博物館の中を泳いでいるような演出で展示していたのだとか。
それが丸々すべて盗まれたのだという。
「確かに大きくて凄い標本だったけど、盗むほどの価値があるものなの?」
だって骨だよ?と、なのはは管理局の局員ではなく小学生としては当然の疑問を口にする。
すると即座に露伴が「こいつマジに言ってんのォ~?」という表情の『上から目線』で解説し出す。
「クジラの全身が揃った骨格標本っていうのは全国でも珍しいんだぜ、なのは君。
生物学、海洋学、博物学、いろんな学問における資料的な価値は、かなり高いと思うなァ~」
「露伴先生の言う通りだ。
裏ルートで国内外の好事家に売れば、最低でも数千万円はするんじゃあないかな」
「もし犯人が地球とは別の次元世界から来てたのなら、更に価値がハネ上がると思う」
ハラオウン兄妹の捕捉が入ると、なのはも「ほえ~」と声を上げて驚いた。ただの大きな骨だと思っていたものが、途端に札束の山に思えてくる。
「で? こんなデカブツを、どうやって盗んだんだ?」
「興味が出てきたか?」
からかうようなクロノの問いに、露伴は憮然とした表情を浮かべたまま無言で先を促した。
苦笑いを浮かべながら「すまない」と軽く謝罪を入れながら、クロノは空中に投影スクリーンを表示する。
「実は監視カメラに映ってはいるんだ。
とりあえず見て欲しい」
投影スクリーンには博物館内に設置された監視カメラの静止映像らしき画像が表示されていた。
動画を一時停止しているらしく、映像を操作するアイコンも重ねて表示されている。
クロノはそれをタッチし、動画を再生し始めた。
展示エリア館内の照明が落とされ、非常灯だけが暗闇の中に展示物をぼんやり浮かび上がらせている。
カメラはクジラの骨格標本の前半分がフレームに収まるような位置に設置されているようだった。映像のみで、音声は入っていない。
しばらくすると、どこからともなく男性が歩いてくる姿が写し出された。懐中電灯を持っておらず、非常灯の明かりで照らされる彼の格好を見るに警備員でないのは確かだ。
暗闇と非常灯の逆光に包まれて男の顔はハッキリとは見えない。
彼は迷うことなくクジラの骨格標本へ近付くと、何やら棒状のものを手に取るや振りかぶり──コツンと標本を叩いたように見えた。
その瞬間。
「何ッ!?」
映像に表示してあるタイマーに目をやると、動画の一部が切り取られたわけではないようだった。
ここで再び一時停止がかけられる。
「見てもらった通り、犯人は明らかに地球の技術ではない『何か』を使って標本を盗んだようだ」
これが現在進行形で僕達が捜査してる事件のひとつだ──とクロノは話を締め括り、映像を消す。
許容できる範囲で漫画のネタになりそうな情報を渡したのだから、これで満足してくれるだろう。
この後も滞在最終日まで情報を小出しにすれば……
そんな甘く淡い期待を管理局の若き執務官は抱いていたのだが。
「クロノ、さっき君は『興味が出てきたか?』と僕に尋ねたな?」
嫌な予感がした。
「
興味がグングンッと湧いてくるじゃあないかッ!
犯人を是非とも『取材』したいねッ!」
水を得た魚のように、
クロノは完全に逆効果だったと失敗を悟り、テーブルの上で静かに頭を抱えるのであった。
フェイトが自身を「執務官候補生」と称しているのは、本作を「なのはが大怪我をして復帰した直後」くらいの時期を想定してるからです。
たぶん、露伴先生(から受ける心労)のせいで2回目の試験を落ちます。
2021.10.25 第3話に関する伏線的な部分を加筆。
2025.5.31 露伴の台詞の一部を加筆修正