本物を求める青年と救いたい少女   作:ばやす

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第12話

 

「アンタみたいな才能の塊に!私の何がわかるって言うのよ!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ファミレスから帰った後、今晩もいつも通り25時にナイトコードに集合してそれぞれ作業を始める。変わったことといえば前までよりも全員の間で会話が増えたことだろうか。普段は絵名と瑞希だけで成り立っていた雑談も、今では全員が参加している。とは言っても俺、奏、まふゆは特に話題もなくほとんど聞き手に回っているが。

 

 歌いたくなった時や曲ができたときには、ミクに曲を聴いてもらったり一緒に歌ったりしている。セカイはカラオケと違って金もかからないし、防音どころか自分たち以外いないので何のしがらみもなく歌える。俺は楽器担当だがセカイで歌うときの伴奏はギターを使っている。弾き語りも案外悪くないものだ。ちなみにネットに投稿するときは全てミクに歌ってもらっている。一応身バレは避けたいし、特にまふゆなんかは知り合いも多いからバレやすいだろうということでだ。

 

 コメントでは結構高評価をいただいている。多くの人が心に響いたなどと言ってくれるのでこちらとしても嬉しい限りだ。

 

 

 今日も作業を終えた後、俺はセカイに歌いに来ているが、今まで奏、まふゆ、瑞希とは一緒に歌ったことがあるが、絵名だけは一度も見かけたことがなく、誘っても作業があるからといつも断られていた。それだけなら作業熱心だなと思うだけだが、どうもそれだけじゃないのだ。なんというか、追い込まれているように感じるのだ。

 

 スマホを見て時刻が朝の6時になったころ、満足して歌うのをやめた。今日はミクは散歩でいなくて俺一人で延々と歌っていた。そろそろ帰ろうと思ったときに、セカイに一人やってきた。絵名だった。ただ昨日の昼にあった時とは違って、どこか思いつめた表情をしていた。

 

「よう、絵名。奇遇だな。」

 

「あ、八幡。奇遇だね。何してたの?」

 

「歌ってたんだ。なんかたまにものすごく歌いたくなる時があるんだよ。絵名は?」

 

「私は…、現実逃避かな…。」

 

 どうやらなにかあったらしい。一歩踏み込んで何かあったのかと聞いてみる。何でもないと答えたが、そんなわけがないだろうと食い下がる。すると渋々といった感じで話し出した。

 

「実は、お父さんが画家なんだけど、私に絵は向いてないって言われたんだ…。私には才能がないって。だから逃げてきちゃった…。」

 

 その話を聞いて、俺はほんの少しだけうらやましいと思った。

 

「そうか…。でもな、何かをするのに才能なんて関係ない。」

 

 というと、絵名は、は?というような目でこちらを睨んだ。

 

「なんで?才能は大切でしょ?才能がないとやっていけないんだから!」

 

「そんなことはないな。才能がないからなんていうのは只の言い訳だ。」

 

 そう言うと、絵名は激昂した。

 

「なによそんなの!そんなの、才能があるからそんなことが言えるんでしょ!」

 

 

「アンタみたいな才能の塊に!私の何がわかるって言うのよ!」

 

 

 絵名の本心が見えた瞬間だった。どうやら絵名は才能至上主義らしい。だが、俺は何かをするのに才能が必要だとは絶対に思わない。

 

「俺は絵名じゃないからお前の気持ちなんて一生理解できない。でもな、これだけは言える。お前が絵を描き続けるのに、才能は絶対にいらない。」

 

 俺は絵名を真っ向から否定する。落ち込んでいる相手を慰める。これも相手を思いやる一つの行動だろう。しかし、そんなものは問題の先延ばしにしかならない。真っ向から自分の思いをぶつけて、絵名に前を向かせる。

 

「なぜだか説明してやろうか?それはな、俺が…、俺たちニーゴが、お前の絵が必要だと思っているからだ。」

 

 絵名は茫然と俺の話を聞く。

 

「絵名がいなけりゃニーゴじゃねぇし、絵名の絵がなきゃニーゴとしての作品は完成しない。」

 

「でも!私に才能がないことには変わりないでしょ⁉ 結局は才能がないと大成しないんだから!」

 

 絵名の心からの叫びだった。悲痛な叫びだった。自分が心からそう思っていることで、ひっくり返らない事実。だけどどこか否定してくれることを望んでいる叫びだった。

 

「そうかもしれないな。」

 

 絵名は愕然とした。しかし俺はお構いなく続ける。

 

「アスリートだろうとアーティストだろうと、プロになって輝く人たちは才能を持った人たちの中のほんの一握りだ。世界の第一線に凡人が入り込む余地なんてない。」

 

「なによ!そんなの、私っていう存在の全否定じゃない!」

 

 絵名は叫ぶ。自分を励ましてくれるであろう相手から自分を否定されて。

 

「いや、全否定じゃないな。俺は世界で輝くのなら才能が必要だといったんだ。でもな、」

 

 

「ニーゴというグループで輝けるのは…、絵名以外にはいねぇんだよ。」

 

 

 絵名は絶句した。今まで言われたことのないことを言われたから、理解しきれなかったのかもしれない。だから俺は何度だって想いをぶつける。

 

「たとえ絵のプロが来たって、たとえ世界で活躍する絵師がニーゴに入りたいと言ったって、俺たちニーゴは世界でただ一人、絵名だけを選ぶ。そこに才能なんて一切関係ない。」

 

 絵名は目に涙を浮かべながら俺の言葉をかみしめた。彼女は今日、本当の意味で居場所を手に入れた。

 

「それに俺は、お前が親に恵まれたことがうらやましい。」

 

 絵名は目に涙を浮かべたままきょとんとする。

 

「子への肯定が愛だとするなら、否定もまた愛だと思う。お前の親父は画家としての苦難を知っているからお前にその道を選ばせたくなかったんだろ。俺の親父は、俺には何の興味も示してはくれなかったからな…。」

 

 言い終えるころには、絵名の目に溜まっていた涙は外へと流れだしていた。

 

 今日この日、絵名の限りなく灰色に染まったセカイは色彩にあふれる絶景へと変貌したのだった。

 

 

ヒロイン別でルート分けた方がいい?

  • 分けろ。色んな人との付き合いが見たい。
  • 分けるな。1本でいけ。
  • その他。この質問にその他ってある?
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