本物を求める青年と救いたい少女   作:ばやす

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第14話

 

絵名と遊び終わったあと、俺は直ぐに雪ノ下さんに電話をかけた。今は忙しくなかったのかほんの数コールで出てくれた。

 

「もしもし八幡君?どうしたの?」

 

「実は総武高校と法廷で勝負しようと思いまして。」

 

というと雪ノ下さんは驚いた。

 

「まさか八幡君がそこまでするとは思わなかったよ。」

 

自分自身でも少し驚いている。前までの俺ならもう終わったことだからと誰がどこでどうしていようと気にも止めなかっただろう。

 

しかし、月光を弾いて、今の自分の気持ちがよく分かった。俺はアイツらを心の底から嫌悪し、俺と同じような目に合わせてやりたいと思った。だがしかし暴力に走るのは下策中の下策。もちろん訴えられるからでは無い。そんな一時の苦痛よりも永遠に続く苦痛を見せてやりたいと思ったのだ。

 

「自分に素直になったね。ま、こんなこともあろうかと、証拠は全て押さえてあるよ。」

 

その後直ぐに携帯に写真と動画が届いた。そこには俺が先生や生徒に殴られている写真、教室や部室、至る所での俺に対する誹謗中傷の声を残した音声。そんな物が沢山あった。

 

「戸塚くんや材木座君、川崎さんと隼人が色々集めてくれてたんだよ。流石にこの量には驚いたけど…。」

 

アイツらにはお世話になりっぱなしだな…。裁判が終わったら飯にでも誘おうか。

 

「告訴するのは知ってると思うけど本人が行かないといけないからね。一応私もついて行ってあげるから。」

 

「ありがとうございます。明日告訴して、その後の日程はお伝えします。」

 

というと了解と返事が聞こえたので電話を切った。

 

 

家に帰ると望月さんが来ていた。

 

「あ、八幡さん、おかえりなさい。アップルパイ食べますか?」

 

頂くと返事をして手を洗ってから席に着く。奏は既に食べ始めていた。

 

「八幡さん、この前はありがとうございました。おかげでみんなと蟠りなく遊んだり出来てます。」

 

「気にすんな。俺がいなくたって、いつかはそうなってただろうよ。」

 

口ではそう語るが、本心は打ち震えていた。本当に俺でも人が救えたのだと。たった一言、ありがとうだけでここまで心が踊ったことは無かった。そもそも言われたことがなかった。

 

「そうかもしれませんけど、こんなにも早くみんなと分かり合えたのは八幡さんのおかげですから。」

 

その後は三人で他愛もない話をした。その中で、望月さん達がバンドを始めたことを聞いた。

 

「へぇ、バンドか。望月さんはどの楽器なんだ?」

 

「私はドラムをやってます。イメージと違いましたか?」

 

と聞かれたので、そんなことはないと返す。

 

時間になったので望月さんは帰る準備を始める。すると何かを思い出したのかカバンの中をゴソゴソと漁って、一本の缶を取り出す。それは見慣れた黄色と黒で彩られた、甘い甘いコーヒーだった。

 

「これ、美味しかったので、私も最近よく飲むんです!この前八幡さんがくれたから、八幡さんも気に入ってるんじゃないかと思ったので、お裾分けとお礼です。」

 

と言ってMAXコーヒーを二本くれた。近くではあのスタジオにしか売っていないのですごく嬉しかった。このコーヒーは裁判の前に一本、終わったあとにもう一本飲もうと決めて冷蔵庫に入れる。出来るならば、終わった後に飲むコーヒーがいつもよりも甘くなっていることを願うばかりだ。

 

 

告訴状は無事に受理され、裁判はとうとう明日に迫っていた。裁判は学校全体でのことであまりにも人が多いので、俺を罵ったり殴ったりした主犯格、雪ノ下、由比ヶ浜、校長、教頭、平塚のメンバーが被告人代表という形で裁判することになった。

 

俺が原告ということで俺の方には検察が付くが、総武側の弁護士には葉山の父さんが付くことになった。が、電話で聞いたところ総武の味方をする気は一切無いらしい。弁護士としてどうなのか甚だ疑問に思ったが、葉山さん曰く、弁護士とは正しい人を救う、また、反省している人間の罪を少しでも軽くするための存在だということで、今回は俺に付いてくれることになった。

 

裁判を前日に控えた今日、俺は葉山、戸塚、川崎、材木座、そして雪ノ下さんと会うことになっていた。

 

渋谷駅で待っていると、

 

「はちまーーん!!」

 

と俺を呼ぶ天使の声が聞こえた。

 

「とつかぁ!!」

 

俺は返事をして、飛びついてくる戸塚を抱きとめた。

 

「久しぶりだね、八幡!」

 

おう、と返事をすると、後からバテた様子で残りの四人が走ってくる。

 

「と、戸塚…、早過ぎないかい?」

 

あの葉山もバテていた。戸塚、そんなに俺と会いたがってくれていたのか、と思うと、柄にもなく頬が緩む。

 

挨拶を済ませて検察の方と合流し、近くのスタジオで明日の打ち合わせをする。本来ならもう少しきちんとした場所で打ち合わせをするのだろうが、俺の意向に合わせてここにしてくれた。

 

1時間ほど裁判の流れや証拠写真の確認をしてから検察の方は先にスタジオを出る。

 

「ハポン!ところで八幡よ、何故会議場所をスタジオに選んだのだ?」

 

決まってんだろと返してギターを手に取る。

 

「ギターを引くためだ。お前らに、今の俺を…、今までとは違う俺を音で感じて欲しいと思ったからだ。」

 

全員驚いた顔をしていたが収まったところで深呼吸をして弦に触れる。冬で悴んでいるはずの手が、弦に触れた瞬間春の光に溶かされるように手が、指が動くようになる。

 

その後は思い切りギターをかき鳴らした。今の俺の全てを込めて。

 

 

演奏を終えた頃には、全員が目に涙を浮かべていた。

 

「八幡、すごく…、すごく良かったよ!」

 

「うん、今までのあんたとは別人なんじゃないかってくらい…、情熱に溢れた音だったよ。」

 

「うむ!八幡の魂の叫び、しかと我の心に響いたぞ!」

 

「これは、もう免許皆伝かなぁ…。あっという間に私よりも上達しちゃって…。」

 

「ああ…、本当にその通りだよ。僕のせいで君は居場所をなくしたんじゃないかって、すごく悔やんでいたんだけど…、こんなにも心に響いて…、何だかまた比企谷に救われたような気分だよ。」

 

みんなが俺のために涙を流してくれていた。

 

戸塚のことは会った時から天使だと思っていたが、心のどこかで少し頼りないやつだと思っていた。

 

だがこうして今俺が相手に牙を向けた時、隣に立っていてくれる。ここまで頼りになるやつだと俺は知らなかった。

 

 

川崎のやつはあった時は冷たい奴だと思った。誰にもたよらず、自分一人で何とかしようとする。同族嫌悪だろうか。

 

それが今はどうだ。目の前の仲間たちと協力して、俺を助けようとしてくれた。本当は俺とは違って、人を思いやる心のある出来た人間だった。

 

 

材木座は会ってからずっと面倒くさいやつだと思っていた。事ある毎に俺にしがみつく情けないやつだと思っていた。

 

しかし、そんな考えは即座に吹っ飛んだ。面倒くさい事には変わりないが、俺のために証拠を集め、大一番で逃げ出すことなく、誰かに助けを求めることなく俺を助けようとしてくれた。

 

 

雪ノ下さんのことは、今まで面倒くさい人だと思っていた。どこかで会う度に俺に絡んできて、何かと俺の心を抉るような発言ばかりしてきた。

 

だが今はどうだ?一言一言が俺の心を癒し、そして今、俺の力となってくれている。

 

 

葉山のことは、はっきり言って嫌いだった。欺瞞に満ちた関係を良しとして、自分さえも偽って過ごしていた葉山が気に食わなかった。

 

だが今は、少なくとも嫌いにはなれなかった。俺一人のために今までの関係を全て粉微塵にし、今までの友を全員敵に回し、俺を救おうとしてくれた。

 

 

今まで本当にダメだったのは、俺なのかもしれない。

 

本物を求めたくせに、自分は誰も受け入れようとしない。

 

寄り添ってくれる奴がいたのに、そいつらを遠ざけようとした。俺に近づいたらそいつらまで虐められてしまうからという免罪符を盾に、誰とも関わりを持とうとしなかった。

 

家を出たあの日、俺は納得していたのだ。諦めていたのだ。今までの自分の考えが、矛盾を抱えた行動が、つなぎ止めていたものを全て壊してしまったのだと勝手に考えた。

 

しかしどうだ。今、俺の前には五人の友達がいる。俺の行動を救いに思い、そして今度はそれを返そうとしてくれる仲間がいた。

 

俺は…、今までの俺は、何一つとして間違ってなんか居ない!明日の裁判で勝って、それを証明してやる!

 

この日、人を救い続けた1人の青年が、大きな決意を胸に抱いた。時間は正午。雲ひとつ無い空から照りつける太陽は、冬空の下の凍てついた台地を溶かしていった。

 

ヒロイン別でルート分けた方がいい?

  • 分けろ。色んな人との付き合いが見たい。
  • 分けるな。1本でいけ。
  • その他。この質問にその他ってある?
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